ドル円は、6月の日米欧中央銀行の政策決定会合や欧州の政治イベントを無難にこなし、ここ数週間は狭いレンジで動いています。6月後半に至っては、さらに動かなくなり、6月23日の値幅は23銭と今年最少の値幅となりました。欧米中央銀行の出口戦略が材料となり、英仏の選挙に絡む政治リスクが材料となりましたが、あまりにも無難に終わったため、相場は様子見ムードが漂っている状況です。このまま夏休みモードに入る気配さえあります。チャートのろうそく足で見ると、6月の月足は下ヒゲの長い陽線(ドル高)、5月は上ヒゲの長い陰線(ドル安)となっており、2カ月合わせると十字形となります。まさにチャート上でもくっきりと相場の気迷い状態を表している形となっています。

年間の値動きで見てみても、昨年は20円強ありましたが、今年は10.47円(高値118.60円、安値108.13円)と昨年の半分の値幅となっています。

特に年始の118円台から急落の後は、一時110円割れもありましたが、主なレンジは110円から115円のレンジに収まっています。今年が終わるまで後半年ありますが、後半に動いて20円の値幅になるのか、その時は118円を上にブレイクするのか、あるいは108円を下にブレイクするのか、また、このまま動かず10円の値幅を上下どちらにもブレイクせず、同じようなレンジで動くのか気になるところです。

※「高値」、「安値」はドルを基本とした言い方です。高値は「ドルの高値」、安値は「ドルの安値」となります。為替マーケットではこの言い方が常識となっています。早朝や夜に放映されているマーケット専門番組でプロの為替ディーラーなどが話している言い方はこの言い方です。また、上に動く・上向きなどはドル高(円安)を示し、下に行く・下向きなどはドル安(円高)を示します。

ドル円の年間値幅10円は、2010年以降で見ても、下表のように値幅の少ない年ではありますが、珍しい年ではないということがわかります。8年間で10円台の値幅は、4回と半分あります。

2010年以降のドル円の年間値幅 (2017年は6月まで)

年間値幅 10円を超える変動要因
2010 14.78 欧州債務危機(ギリシア・ショック)
2011 10.22  
2012 10.76  
2013 18.88 アベノミクス、異次元金融緩和
2014 21.10 異次元緩和第2弾(ハロウィーン緩和)
2015 10.01  
2016 22.70 Brexitとトランプ政策への期待
2017 10.47 米国利上げ、欧州政治リスク(選挙)

逆に10円以上値動きする時は、かなり大きな政治リスクや経済リスクが起こっていることがわかります。今年は、10円以上動いた年に匹敵する材料がありましたが、動きが鈍いことがわかります。すなわち、年後半に動くとすれば、今年前半以上の政治・経済イベントが起こらなければ大変動にならないのではないかというシナリオを描くことが出来ます。秋にはドイツの総選挙、場合によってはイタリアも選挙があります。また、金融面では米国の利上げ回数と資産縮小の開始、ユーロ圏の出口戦略などが想定されます。政治リスクは、英仏が無難に終わったことから、現時点ではドイツも無難に終わるだろうとの見方となっています。となると、焦点はやはり米国の金融政策となります。そして金融政策を左右する物価と景気動向となりそうです。イエレン議長も先日のFOMC後の記者会見で、「(利上げや資産縮小は)経済情勢が想定通りなら」という前提発言をしています。

6月27日、IMFは米国の経済成長見通しについて下方修正を公表しました。IMFは、IMF世界経済見通し(WEOWorldEconomicOutlook)として年4回(1月、4月、7月、10月)世界各国の経済見通しを発表しています。今回の公表は、この世界経済見通し(WEO)の発表によるものではなく(来月7月に発表されます)、IMF協定第4条に基づき、年1回加盟各国の経済政策を審査し、助言を行う業務に基づくものです。「サーベイランス」と呼ばれています。

今年の年次審査では米国の経済成長見通しについて、2017年の成長率を2.1%と4月時点の見通し2.3%から下方修正し、2018年も2.5%から2.1%に下方修正しています。4月時点では、トランプ大統領が公約に掲げた減税や財政出動によって景気が一段と上向くと予測していましたが、この見方を取り下げました。そして年率3%超の安定的な成長を目指すトランプ政権の目標は達成し難いだろうと指摘しています。ドルについても「やや割高になっている」ことも今後の不安要因として挙げています。また、FRBの金融政策については、「経済指標に基づいて、緩やかに利上げを続けるべきだ」と指摘しています。2016年10月以降のIMFの米国成長率見通しは下表の通りです。これに前々回で触れたOECDと世界銀行の見通し(2017年6月時点)を合わせました。

IMF見通し(%) 2017年予測 2018年予測
2016/10 2.2 2.1
2017/1 2.3 2.5
2017/4 2.3 2.5
2017/6 2.1(▲0.2) 2.1(▲0.4)
2017/6 OECD 2.1 (▲0.2) 2.4 (▲0.6)
2017/6 世界銀行 2.1 (▲0.1) 2.2 (+0.1)

結局、国際機関はトランプ効果(期待)が剥げ落ちたことから、軒並み2017年の見通しを下方修正しました。FRBの2017年見通しも+2.1%となっています。下方修正しても2%超の成長水準ですが、足元の実質成長率は2016/7-9月期+3.5%→2016/10-12月期+2.1%→2017年1-3月期+1.2%と四半期毎に鈍化してきています。

最近の米国経済指標は、強弱まだら模様の指標となっていますが、消費の柱のひとつである自動車販売は5カ月連続で前年を下回っている状況です。加えて自動車ローンの貸倒率が増加していることから、金融機関も融資を絞り始めています。自動車ローンの金利は期間が短いため、政策金利の影響を受けやすく、この利上げ局面で自動車ローン金利が上昇し、焦げ付きが更に増加すれば、金融機関は更に融資審査に厳格となり、自動車販売へ影響し、景気の足を引っ張る可能性があります。

米景気が2%に届かず、物価が上がらなければ、つまり、イエレン議長のいう経済情勢が想定通りとならなかった場合には、利上げペースや資産縮小プログラムは後退する可能性があります。その場合、108円下限をブレイクする動きになるのか、そもそもマーケットは、利上げや資産縮小のペースを前のめりで見ていなかったため、ドル上昇がない程度の反応であり、108円はブレイクせず、年内もレンジ内で動くことになるのか注目です。下方圧力がかかるとすれば、物価が上がり切らないことが要因として影響しそうです。その意味で原油の動きにも注目しておく必要があります。