毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:アップル(AAPL、NASDAQ)、アルファベット(GOOGL、GOOG、NYSE)
アップル
1.2024年9月期1Qは、2.1%増収、12.1%営業増益
アップルの2024年9月期1Q(2023年10-12月期、以下今1Q)は、売上高1,195.75億ドル(前年比2.1%増)、営業利益403.73億ドル(同12.1%増)となりました。増収率は低かったですが、主に昨年9月に発売したiPhone15シリーズの採算向上によって、営業利益率が前1Q30.7%から今1Q33.8%と上昇したことが二桁営業増益につながりました。
なお、アップルの四半期では、前1Qは2022年9月25日から12月31日までの14週間、今1Qは2023年10月1日から12月30日までの13週間です。単純に今1Q売上高÷13週間×14週間として今1Qを14週間に単純補正すると、今1Qの増収率は9.9%となります。今1Qは高くはありませんが、悪くもない増収率だったと思われます。もっとも、iPhone15シリーズが発売された翌四半期としては勢いがない四半期だったことは否めないと思われます。
表1 アップルの業績
2.カテゴリー別、地域別売上動向
カテゴリー別売上高を見ると、iPhoneは今1Q697.02億ドル(同6.0%増)と一桁増に止まりました。ただし、前述のように今1Qの13週間を14週間に単純補正すると、14.1%増となり、初めて5ナノチップを搭載したiPhone12シリーズが発売された2021年9月期1Q(2020年10-12月期)の前年比17.2%増以来の二桁増収となりました。中国でのiPhone売上高が前年比一桁台半ばの減少率とマイナス要因になりました。ただし、1年前は新型コロナによる工場ロックダウンの影響で人気の上位機種「iPhonePro」「同ProMAX」の供給が十分できなかったことを考えると、今1QのiPhoneの勢いのなさは否定できないと思われます。
Macは77.80億ドル(前年比0.6%増)となりました。これも補正すると8.3%増となります。今1QはM3チップ搭載の「MacBookPro」を発売しましたが、これも大きなインパクトとは言えない状況と思われます。
また、iPadは70.23億ドル(同25.3%減)、ウェアラブル・ホーム&アクセサリーは119.53億ドル(同11.3%減)となりました。ウェアラブル・ホーム&アクセサリーは新製品待ちの状態ですが、iPadが製品寿命がなくなった可能性があり、今後も減収が続く可能性があります。
サービスは、231.17億ドル(同11.3%増)となりました。補正すると19.9%増となり好調でした。広告、クラウド サービス、決済サービス、ビデオ、App Store、AppleCareなどが好調でした。
地域別売上高を見ると、南北アメリカ向けが504.30億ドル(同2.3%増)でした。補正後は10.2%増ですが、新型iPhone発売直後としては大人しい伸び方でした。一方で、欧州向けが同9.8%増、日本向け15.0%増、アジア太平洋その他向け6.6%増と順調に伸びている地域もありました。
表2 アップル:カテゴリー別売上高(四半期ベース)
表3 アップル:地域別売上高(四半期ベース)
3.楽天証券の2024年9月期、2025年9月期業績予想を下方修正する
1)今2Qの会社側ガイダンスが弱い
会社側が今1Q決算電話会議中に示した今2Qガイダンスは、iPhoneと全社売上高は前年並み(前2Q全社売上高は948.36億ドル)、売上総利益率46~47%(前2Qは44.3%)、販管費143~144億ドル、営業外収支約5,000万ドルのプラス、税率約16%です。ここから今2Qガイダンスのレンジ平均値を計算すると、売上高950億ドル(前年比0.2%増)、営業利益298億ドル(同5.2%増)となります。
前1Qに新型コロナの影響で中国の「iPhone14Pro」「同ProMAX」組立工場が閉鎖されましたが、前2Qに在庫補充を含む生産出荷増加が約50億ドルあったというのが会社側の見方です。そのため、今2QはiPhone売上高は前年並みになる見込みです。前述のとおり今1Qは単純補正後14.1%増、今2Qは横ばいの見通しですから、iPhoneには勢いがありません。これは中国における減収と今2Qに予想される中国での値引き販売の影響が含まれると思われますが、北米での勢いもないようなので、iPhoneに関して今期は強気な見方はできないと思われます。
また、Mac、iPad、ウェアラブル・ホーム&アクセサリーも振るわない展開が続くと思われます。ただし、サービスは引き続き順調な伸びが予想されます。
今年9~10月発売が予想される新型iPhoneについては、全て3ナノチップ搭載になると予想されます。これによって、今期よりは来期のほうがiPhoneの増収率が上昇すると予想されます。また、会社側は2月28日開催の株主総会において年内に生成AIに関する具体的な戦略を公表すると表明しました。
2)2025年9月期は業績回復が予想されるが、生成AI戦略を確認する必要がある
もっとも、アップルの生成AIでの遅れは明らかであり、最近のアルファベットの「Gemini」の性能問題(後述)などを見ると、出遅れた会社がまともな生成AIを完成させるにはかなりの困難が伴うと思われます。
アップル製品で直接生成AIの影響を受けるのはMacだと思われます。Macはクリエイティブ関係のユーザーの強い支持を受けてきましたが、広告ではすでに画像生成AIを実務に取り入れる動きが活発です。現在のMacの性能では、生成AIを使うのに不都合はないと思われますが、Macはメモリ増強、ストレージ交換が難しく、外付けGPUの使用はインテル製CPU搭載Macのみ可能という制約があります。将来のことを考え、MacからWindowsPCに乗り換えるクリエーターが今後増えないとは限りません。
また、生成AI処理能力強化型のチップセットを搭載していることを売りにしているパソコン、スマートフォンも出てきました。
これらのことを考えると、当面予想されるiPhone、Macを含む全社売上高の伸びは大きくはないと思われます。実際にアップルの生成AI戦略がどのようなものかを確認しないまでは、iPhoneとMacの伸びが今後大きくなることは見通せないと思われます。
また、iPhoneが低成長になってしまったのではないかという疑問も今1Q決算を分析すると出てきます。
このような見方から、楽天証券ではアップルの2024年9月期業績を売上高4,000億ドル(前年比4.4%増)、営業利益1,300億ドル(同13.7%増)、2025年9月期を売上高4,400億ドル(同10.0%増)、営業利益1,480億ドル(同13.8%増)と予想します。
表4 アップル:カテゴリー別売上高(年度ベース)
4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の230ドルから190ドルに引き下げる
アップルの今後6~12カ月間の目標株価を前回の230ドルから190ドルに引き下げます。
楽天証券の2025年9月期予想EPS(1株当たり利益)7.98ドルに、今年9~10月に発売される予定の新型iPhone全機種に3ナノチップセットが搭載されると予想されること、アップルの生成AI戦略のインパクトに期待して、想定PER(株価収益率)20~25倍を当てはめました。
3ナノチップセットと生成AIに期待したとしても、今後予想される株価の上昇率は約10%であり、投資妙味は乏しいと思われます。
アルファベット
1.2023年12月期4Qは、13.5%増収、30.5%営業増益
アルファベットの2023年12月期4Q(2023年10-12月期、以下前4Q)は、売上高863.10億ドル(前年比13.5%増)、営業利益236.97億ドル(同30.5%増)となりました。広告売上高が回復したこと、1年前の2022年12月期4Qが営業減益だったことから大幅営業増益となりました。
表5 アルファベットの業績
2.セグメント別動向
セグメント別に見ると、広告売上高、各種のサブスクリプションサービス、スマートフォンのグーグル・ピクセルなどが入るグーグルサービスは売上高763.11億ドル(前年比12.5%増)、営業利益267.30億ドル(同32.2%増)となりました。このセグメントで最も売上高が大きい「グーグル検索他」(検索広告)が、売上高480.27億ドル(同12.7%増)となり、増収率が前1Q1.9%増、前2Q4.8%増、前3Q11.3%増、前4Q12.7%増と順次回復してきたことが、業績回復に結びついたと思われます。ユーチューブ広告も同様に前年比が回復してきました。検索エンジンでは今もグーグル検索がパソコン、スマートフォン等の全プラットフォームで90%以上のシェアを占めています。
また、「グーグル・サブスクリプション、プラットフォーム&デバイス」が好調で、前4Qは107.94億ドル(同22.7%増)となりました。この中でサブスクリプションサービス(月額定額サービス)が好調で、YouTube Premium、YouTube Music、YouTube TV、Google One(オンラインストレージサービス)が牽引しました。また、スマートフォンのグーグル・ピクセルも四半期ごとの変動がある模様ですが、傾向的に伸びたと思われます。
グーグル・クラウド(世界第3位のクラウド・サービス)は、売上高91.92億ドル(同25.7%増)、営業利益8.64億ドル(前年同期は1.86億ドルの赤字)となりました。前3Q比でも15.7%増収、営業利益3.25倍と大幅増収増益になりました。エヌビディアのAI半導体「H100」が品不足になっているため、アルファベットの自社製AI半導体「TPU」を使ったAI開発がAI開発会社の間で活発になっています。また、生成AI アプリケーションを構築する開発者向けに、企業向けAI プラットフォームである「Vertex AI」(大規模言語モデルをカスタマイズする機械学習プラットフォーム)が人気となっています。
その他のベッツ(自動運転等の研究開発プログラムが含まれる)は、売上高6.57億ドル(同2.91倍)、営業損失8.63億ドル(前年同期は12.37億ドルの赤字)と赤字が縮小しました。
また、配賦不能営業費用は30.34億ドルと増加しましたが、この中に人員削減に伴う退職金とオフィススペース縮小のための費用12.03億ドル(前4Qはこのほとんどがオフィススペース削減費用)が計上されています。
表6 アルファベットのセグメント別業績(四半期)
表7 アルファベットの地域別売上高
3.2024年12月期も業績順調が予想されるが、懸念材料がある
検索広告とグーグル・クラウドの前4Qまでの実績から、楽天証券ではアルファベットの2024年12月期業績を売上高3,520億ドル(前年比14.5%増)、営業利益1,050億ドル(同24.6%増)、2025年12月期を売上高4,020億ドル(同14.2%増)、営業利益1,260億ドル(同20.0%増)と予想します。
今のところ2024年12月期は順調な業績が予想されますが、懸念材料があります。グーグル広告の主力である検索広告(グーグル検索他)の2023年10-12月期の前年比12.7%増が、同じ2023年10-12月期のメタ・プラットフォームズの広告売上高の同23.8%増、アマゾン・ドット・コムの広告サービスの同26.8%増と比べ低いことです。メタとアマゾンに広告出稿を奪われているのではないかという見方もあります。このまま広告売上高の伸びが低い状態が続けば、営業増益率も鈍化すると思われます。
また、アルファベットの新型生成AI「Gemini(ジェミナイ)」は文書生成、画像生成など各分野で使える優秀な生成AIという触れ込みでしたが、画像生成において白人の歴史上の人物を黒人と表すなど、不適切な表現をしたと話題になっております。これは開発を急ぎすぎたため、ディープラーニングが十分でなかったためと思われますが、生成AIについて、マイクロソフトなど先行他社との差が明らかになりました。
今後の業績を見る場合に、検索広告の動きと、生成AIがアルファベットの事業と株価の評価に与える影響について注意が必要と思われます。
表8 アルファベットのセグメント別業績(年度)
4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の150ドルから160ドルに引き上げる
アルファベットの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の150ドルから160ドルに引き上げます。楽天証券の2024年12月期予想EPS7.29ドルに成長性とリスクの両方を考慮し想定PER20~25倍を当てはめました。
当面は大きなパフォーマンスは期待しにくいと思われます。
注:アルファベットの株式は3種類あり、クラスA(議決権付き、ティッカーはGOOGL)、クラスC(議決権なし、GOOG)の2種類の株式がNASDAQに上場されている。これ以外にクラスAの10倍の議決権を付与された非上場のクラスBがある。クラスBは、創業者であるラリー・ペイジ氏、セルゲイ・ブリン氏と、元CEOのエリック・シュミット氏のみが保有している。クラスBの議決権数がクラスAを上回っているため、クラスAを買い占めてもアルファベットを買収することはできない。自社株買いは、クラスA、クラスCともに対象となる。クラスA、クラスCともに過去の株価パフォーマンスは概ね同じである。
本レポートに掲載した銘柄:アップル(AAPL、NASDAQ)、アルファベット(GOOGL、GOOG、NYSE)
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。