米大統領選は再び、バイデン・トランプ対決へ
米国の元国連大使ニッキー・ヘイリー氏は6日、今年の大統領選に向けた、共和党の候補者指名争いから撤退すると発表しました。これで、前大統領のドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に指名されることがほぼ確実となりました。
一方、民主党の大統領候補は、現職のジョー・バイデン氏となることがほぼ確実です。11月の大統領選は、2020年と同じ「バイデン対トランプ」対決となる見込みです。
ささやかれる「もしトラ」リスク
大統領選に向けた米国の各種世論調査で、トランプ氏支持がバイデン氏支持を上回っています。株式市場では、早くもトランプ氏再選を織り込んだ分析が盛んです。
とはいえ、誰が次の米大統領選で勝利するか断じるのは早計です。世論調査と選挙結果が異なることはよくあるからです。「どちらも支持しない」浮動票がどちらかに傾くと、世論調査と全く異なる選挙結果につながることがあります。
年後半の米景気がどう推移するかも、大統領選に影響を及ぼします。年後半にかけて「米景気は好調、インフレは収束」ならば、現職(バイデン氏)に有利に働きます。前回(2020年)も今回(2024年)も、米大統領選は僅差で勝敗が決まりそうで、最後の最後まで勝敗について明確な見通しは出ないかもしれません。
そうは言っても、トランプ氏再選も十分にあり得る状況になりました。金融市場は早くも、「もしもトランプ氏が米大統領選でまた当選したら」を意味する「もしトラ」に身構えています。トランプ氏は、前回の大統領時代に「米国第一主義」を打ち出して米中関係を悪化させ、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱し、保護主義を強化して世界経済や金融に混乱を与えたイメージがあるからです。
今も、「米国第一主義」を旗印に、米国で熱烈な支持者を集めています。そのトランプ氏が再選すれば、株が売られるのではないかという不安がささやかれています。
トランプ氏の政策は、株式市場にフレンドリー?
トランプ氏の政策について、私の見解をお伝えします。あくまでも個人的見解で、人によって見方は大きく変わります。
結論から言うと、私は、トランプ氏の経済政策は、大企業・株式市場にフレンドリーと分析しています。それは、トランプ氏が、2016年の大統領選のさなかに出していたイメージと大きく異なります。
トランプ氏は、2016年の大統領選のさなかに「労働者・低所得層の味方、大企業に厳しい」というイメージを強烈に打ち出していました。共和党の大統領候補として極めて異例と言われました。
というのは、伝統的な共和党は大企業優位の政策を展開していて、労働者にフレンドリーな政策を展開するのは民主党だったからです。共和党の大統領候補でありながら、民主党の支持基盤を奪う、強烈なイメージ戦略でした。
ところが、トランプ氏が大統領になってから実施した政策は、伝統的な共和党の政策と大きく異なりませんでした。つまり、大企業、富裕層、株式市場にフレンドリーな政策でした。具体的に説明しましょう。
【1】最大の株価支援策は「大型減税」
トランプ氏の経済政策の最大の目玉は、大型減税です。大型減税は、納税額の大きい大企業や富裕層ほどメリットが大きく、納税額の小さい低所得層へのメリットはあまりありません。伝統的な共和党の経済政策と同じ流れをくむもので、米国の株価上昇に大きく貢献しました。
【2】中国からの輸入品に「制裁関税」
トランプ氏の経済政策の、もう一つの柱は、保護主義です。中国からの輸入品に制裁関税をかけました。これは、米国の低所得層の生活を直撃しました。
中国からの輸入品には、安価な生活雑貨がたくさんあります。米国民の生活に欠かせない生活雑貨に関税をかけることによって、米国内の消費者物価を上昇させました。
これは、見方を変えると、中国からの輸入品である安価な生活雑貨だけに集中的に消費税をかけたのと同じです。ぜいたく品ではなく、安価な中国からの輸入品を集中攻撃したため、所得の低い層の生活を直撃しました。
このように目玉政策の二つ、「大型減税」と「中国からの輸入品への制裁関税」を見ると、明確に、「大企業・富裕層に優位」「低所得層に不利」な政策であることが分かります。
他にもオバマ政権が進めた医療保険制度改革「オバマケア」の廃止など含めて、低所得層に不利な政策が多かったと私は分析しています。
トランプ氏の公約をチェック
トランプ氏は、伝統的な共和党の政策を採りながら、選挙戦で「労働者・弱者の味方」を打ち出し、伝統的な民主党支持者を取り込むのに巧みだと分析しています。
今打ち出している経済政策もそうです。大型減税の継続と、中国からの輸入品にさらなる関税をかける方針を示しています。中国にかかわらず、外国からの全ての輸入品に10%の関税をかける可能性も示しています。
これは、トランプ氏が前回大統領であったときに実行した政策を、さらに強化するものです。大企業に有利な半面、消費者物価を押し上げ、低所得者の生活を直撃する内容だと思います。株式市場にはフレンドリーな政策といえます。
トランプ氏が公約に掲げているインフラ政策にも注目できます。生活水準を向上させる自由都市の建設、交通大革命などを盛り込んでいます。株式市場に好感される内容だと思います。
一方、バイデン大統領の民主党の政策は、必ずしも大企業や株式市場にフレンドリーとは言えません。バイデン氏が勝利した場合、トランプ氏が大統領時代に始めた大型減税は終了し、代わって大企業・富裕層に対する増税を行う可能性があります。もしそうなると、株式市場にとって極めてネガティブです。
パリ協定再離脱となれば、環境対策は後退
今日は、株式市場にとってトランプ氏の政策はマイナスではなく、バイデン氏の政策よりも株式市場にはフレンドリーだとお話ししました。
ただし、トランプ氏再選となると、株式市場への影響以外のところで、さまざまな懸念があります。最大の懸念は、米国の環境政策が後退することです。
トランプ氏は、前回大統領となった2017年に、地球温暖化対策を進めるパリ協定からの米国の離脱を決めました。バイデン氏が大統領になった2021年に、米国はパリ協定に復帰しました。
トランプ氏が再び大統領になると、パリ協定から再び離脱し、自動車排ガス規制を撤廃、石油産業などへの支援を行うと公約しています。バイデン政権下で進んだ米国の環境対策が逆戻りします。これは、地球市民にとってネガティブなことと思います。
トランプ氏再選のリスクは他にもあります。米中対立が一段と激化する可能性があります。これは、中国でのビジネスが大きい、アップルやテスラなどの米国企業にとって厳しい結果につながります。中国でのビジネスが大きい日本企業にとっても、試練となります。
ただ、バイデン政権が継続しても、米中対立は激化の道をたどる可能性があります。米中関係の変化は、米大統領が誰になったとしても、消えることのないリスクと認識しておく必要があります。
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2024年2月6日:「もしトラ」リスク分析、トランプ政権が株式市場に与えた影響を検証(窪田真之)
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