執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 日本株を動かしているのは外国人投資家である。外国人が買うと上がり、売ると下がる傾向が20年以上続いている。
  • 日本の景気回復が徐々に鮮明になる中、自民党の支持率が大きく低下して政治混迷のリスクが出ている。そうした背景から現在、外国人は日本株に対し「様子見」となっている。

(1)外国人の売買で動く日本株

日本株の動きを決めているのは、外国人投資家です。本レポートで繰り返し述べていますが、外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売ってくる傾向があります。結果として、外国人が買い越すと日経平均が上がり、売り越すと日経平均が下がる傾向が、20年以上続いています。

私は、日本株ファンドマネージャーをやっていた25年間、外国人の売買動向をしっかり見続けてきました。外国人ががんがん買ってくる時、がんがん売ってくる時は、原則として逆らわずに、ついていった方がいいものです。私がファンドマネージャーとして25年間、大負けせずにやってこられたのは、外国人の動きをよく見ていたことと、企業取材をたくさんしたことによると思っています。

さて、今の外国人売買ですが、売り買いに明確なトレンドがありません。外国人投資家も、様子見に入っているようです。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):
2016年1月4日―2017年7月5日(外国人売買動向は6月23日まで)

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成)
(注:上のグラフの外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは買越、
下(マイナス方向)に伸びているのは売越を示す)

ご覧いただくとわかる通り、外国人が大幅に売り越す時、日経平均は下がり、大幅に買い越す時、日経平均は上がっています。外国人の売買が減少する時、あるいは、売り越し・買い越しが短期間に入れ替わる時は、日経平均はボックス圏で推移し、トレンドが出なくなります。

今年の5月以降は、外国人が売ったり買ったりしているために、日経平均は2万円前後で、大きくは動かなくなっています。

外国人から見ると、日本株は「世界景気敏感株」で「世界の政治不安敏感株」です。今、日本および世界の景気は順調に回復していますが、日本や米国で政治不安が高まってきていることから、外国人の売買に方向感がなくなっています。

(2)裁定買い残高は中立水準

東京証券取引所が発表した6月30日現在の裁定買い残高は1兆9,593億円でした。詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残高の変化は、主に、外国人投資家の投機的な日経平均先物の売買動向を表します。外国人の先物買いが増えると、裁定買い残高が増加し、外国人の先物売りが増えると、裁定買い残高が減少します。

日経平均と裁定買い残高の推移:2007年1月4日―2017年6月30日

(出所:東証データから楽天証券経済研究所が作成)

裁定買い残高の変化は、私がファンドマネージャーで先物売買をやっていた時に見ていた、重要な需給指標です。以下の点に注目しました。

  • 裁定買い残高が継続して増加する局面は、先物は「買い」で攻める
  • 裁定買い残高が継続して減少する局面は、先物は「売り」で攻める
  • 裁定買い残高が上限にちかづいている時は、売りのタイミングをはかる
  • 裁定買い残高が下限にちかづいている時は、買いのタイミングをはかる

現在、裁定買い残高は、1.9兆円前後で、過去5年のレンジ(0.4―4兆円)の真ん中にあり、今年に入ってからは、増加トレンドも減少トレンドも出ていません。現時点で、裁定買い残高から得られる投資のインプリケーションは、「中立」です。

以下、裁定買い残高の意味について解説しますが、やや難解になりますので、専門的な説明にご興味のある方だけお読みください。

【ご参考】裁定買い残高の意味

裁定買い残高の変化は、主に外国人投資家による、日経平均先物の投機的な売買動向を表しています。外国人投資家が先物を買うと、先物が現物に対し一時的に割高になるので、裁定業者(主に証券会社)が、先物売り・現物買いの裁定取引を実行します。すると、裁定買い残高が増えます。

一方、外国人投資家が日経平均先物を売ると、先物が現物に対し一時的に割安になるので、裁定業者が先物買い・現物売りを実行し、裁定取引を解消します。すると、裁定買い残高が減少します。

今の日本株の短期的な動きを決めているのは、外国人です。とりわけ、足の速いヘッジファンドなどによる先物売買が、短期的な急騰急落に大きく影響しています。したがって、裁定買い残が増加するとき日経平均は上昇し、裁定買い残が減少するとき日経平均が下落する傾向が鮮明です。