資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。

お悩み

株式相場が高値更新!今からでも買いをするべきタイミングなのか?

中間浩二さん(仮名)会社員・50歳(既婚、配偶者はパート勤務、子どもは3人)

 中間さんはこれまで5年間ほど積立投資を行っていました。去年子どもの教育費のためにお金が必要になったので一度全ての投資信託を売却して投資をやめてしまいましたが、十分な利益がでていたのでまたタイミングをみて投資を再開したいと考えていました。

 いつから再開しようかなと株式相場を見ていましたが、あれよあれよと株価が上昇してきてなかなか再開するきっかけがつかめずにいました。

 以前はあまり相場を気にせずに資産形成のために必要だと考えて積立投資を始めましたが、しばらく相場の動きを見て投資経験を積むにつれて、逆に買い付けするタイミングが分からなくなってきました。

 そうしているうちに、日本も米国も株式指数が高値を更新して余計に手を出しづらくなってきました。もうここまできたら、株価が調整してから投資を再開しようかなと考え始めていましたが、そうしている間にまた株価が上がっていき、投資機会を失ったらどうしようという不安も付きまとっています。

 中間さんが相場とうまく付き合って投資を再開するにはどうしたらいいのでしょうか?

高値更新をチャンスと捉えるのか?買い場を逃したと考えるのか?

 2024年2月22日に日経平均株価が34年ぶりにバブル後の最高値を超えました。日本の主要株価が高値を超えるというのはとても大きなインパクトを与える出来事になったと思います。

 日経平均は主要な225社の株価で動きますから、みなさんが保有の株式や投資信託などが値上がりしているとは限りませんが、そもそも日本人に日本株式への投資について話を聞くと、日本への悲観的な意見が多いのが現状です。

 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の資産形成で投資されているそのほとんどが、米国株式や全世界株式など、日本ではなく海外の成長を期待した投資ばかりとなっています。

 確かに米国の主要株式指数などは、高値を更新することが珍しいわけではありませんので、日本株よりも期待値が高いのは、仕方ないのかもしれません。株価も上昇と下落を繰り返して調整しつつ、時代によって市場をけん引する銘柄が代わりながらも、右肩上がりに上昇しています。

 過去にないほど株価が上昇している中では、なかなか投資をしづらいという投資家心理があります。実際に過去の東京証券取引所の投資部門別売買状況で過去の推移を見ると、日本の個人投資家が買っているときに海外投資家は売っているなど、逆の動きが目立ち、買いそびれや高値つかみをしてしまう個人投資家が後を立ちません。

 特に日本の個人投資家は高値付近よりもやや下落してきたタイミングで逆張りをしやすい傾向にあるようです。そうして高値つかみをしたり、投資した株式が塩漬けとなったりしてしまう方もいます。

 そこで今回は投資初心者が、株価が高値を更新しているようなときに、どんなことに気をつけながら投資をすればいいのか、そのポイントを3点お伝えしたいと思います。

株式相場が高値を更新したときにやってはいけないこと1:天井だと決めつけてはいけない

 株式投資をする際に、過去の株価推移は、投資判断をするときにも参考になります。しかし、高値更新時に過去の株価を参考にすると、当たり前ですが天井付近にあるように見えます。実際に天井かどうかは結果論ですが、この「視覚効果」はとても大きなインパクトがあります。

 ここで注意するべきは二つの視点です。一つは高すぎて買えないと思い込んでしまうことです。株価が高値を更新することは、企業が利益をあげ続けているなら健全なことです。しかし、過去にない高値と聞くと、それだけを理由に、「もう少し様子見しよう」となってしまう方が一定数います。

 もう一つは買った後に株価が下がってくると、「買ったタイミングが悪かった」とすぐに投資をやめてしまうケースです。これはどちらも企業や市場の分析ではなく、心理的な影響を受けて、合理的とはいえない判断をしてしまっているケースです。

 こうした心理状態の一つは「参照点依存性」と呼ばれています。参照点依存性とは、物事の価値(この場合は株価)を、絶対的な評価に基づいて測るのではなく、ある特定の基準(参照点、この場合は購入時の株価)との比較で相対的に測る心理的現象を言います。

 投資初心者ほど基準とする株価だけで高い安いを判断してしまいがちなので、注意しておきましょう。今後も上昇が期待できると考えた株式なら、多少の株価変動を気にせずに長期で保有しておけばよいのです。

株式相場が高値を更新したときにやってはいけないこと2:目を瞑って買ってはいけない

 株価が大きく変動しているときには、上昇時も下落時も、どのタイミングで売買するかを悩んだ経験がある人も多いのではないでしょうか? 日々価格が変動することでタイミングを逸してしまうことは珍しくありません。特に初心者ほど投資で正常な判断ができなくなる「認知バイアス」に陥りがちです。

 株価の上昇トレンドに乗る順張りは、投資初心者にとってもおすすめの投資スタイルですし、長期投資を前提に考えるなら、株価が上昇していくことで利益を得るべきでしょう。

 だからといって、目を瞑って買えばいいかというと、具体的な根拠もなく、とにかく自信があるからと、株価のことも考えずに「自信過剰バイアス」の状態に陥ってしまうことも危険です。購入時に自分なりの根拠がないために、今度は売却時の判断も、なんとなくになってしまいがちです。

 投資判断があっているかは結果論です。しかし、投資判断を磨くためにも、投資で買う理由や売る理由を考えてから売買することはとても重要です。常に正しい投資家なんていません。

 そもそも本当に気になる銘柄であるなら、買うとしても一回で全額投資するのではなく、数カ月かけて少しずつ買い付けして本来投資したい金額に持っていくことで投資する株価の平均購入価額をならす、ということを検討するべきでしょう。

株式相場が高値を更新したときにやってはいけないこと3:株価が調整してから買おうとしてはいけない

 少しでも安いところで株式を買いたいという判断は当然ですが、現時点から見て過去の株価を見すぎていつまでも買えないのでは意味がありません。特に株価が急上昇しているときほど、買い意欲は高まっているのにいつまでも買えない状況が続いてしまい、結果的に高値つかみをしてしまう方もいます。

 しかし、上昇していく株価の中で、買いのタイミングをうまくつかむというのは意外と難しく、株価を日々追っていくと、いつ買っていいのか分からなくなってきます「過去の株価で買っておけばよかった」という心理が買い判断を邪魔してしまいます。こうした安値覚え(高値覚え)のことは「アンカリング」という認知バイアスの一種と言われています。

 また「株価がある程度調整してから買おう」として様子を見ているうちにどんどん上昇していくと、そのうちどこかで調整が入ります。その時に買い付けしても、それまでの上昇トレンドがいったん終了している可能性もあります。本当に調整局面に入っていたなら、むしろ中途半端なタイミングで買うことで、しばらくは含み損を抱え続けることになります。

 もし調整したタイミングで買いたいと考えているなら、それ相応の調整を待つことも考慮するべきです。よくある失敗は、調整したと思って思い切って買ったはいいが、その後なかなか上昇しなくて大した利益が出ない、もしくは含み損を抱えて売却してしまうことです。

 こうした人の特徴は、一番いいタイミングで買いたいという意識が強過ぎることです。そうではなく、先ほどもお伝えしましたが買い付けするタイミングを分散するなどして買いたいと考えている株式なら、短期勝負のように一点買いするのではなく、長期的な目線で購入することを検討していくべきでしょう。

相場を予想する投資をするのか、相場に乗る投資をするのか

自分の投資判断を冷静に保つことを心がけて投資をしよう!

 投資初心者のうちに陥りがちな失敗は、株価の変動に翻弄(ほんろう)されて、心理的な面で投資判断を間違ってしまうことがあげられます。こうした失敗を避けるためには、二つのポイントがあります。

 一つは、投資をしているときにどんな心理状況になるのかを知っておくことです。知っているからといって必ず防げるわけではありませんが、そうした投資家心理があることを知っているだけでも、客観的に判断をしやすくなります。

 そしてもう一つ、こちらの方が重要です。それは、投資する金額を自分で律することができる範囲にとどめておくことです。それが100万円なのか1,000万円なのか1億円なのかは、人それぞれですし、投資する対象によっても金額は変わるでしょう。極端な話ですが、預金と株式では安心できる金額は違うはずです。

 投資をするということは大切なお金を動かすということです。自分にとっての適切な範囲で投資をしなければ、心理的なプレッシャーに襲われて適切な判断ができなくなってしまいます。だからこそ、自分の心理と向き合いながら投資経験を積むことが大切なのです。

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