パラジウムの代わりにプラチナを自動車触媒に使った代替需要は、2023年は19.3トンと推定されているが、2024年には21.8トンに達する予測だ。我々の分析によると、この代替の逆(プラチナの代わりにパラジウム)には経済的な利点がない上にリスクも伴い、たとえ起こるとしても、それが広がるスピードは遅いと思われる。従って中期的な視点から見たプラチナの代替需要は、今の自動車需要の中にほぼ組み込まれていると考えて良いだろう。
プラチナとパラジウムはほぼ1対1の割合で代替できるため、ガソリン車で代替が始まったのは単純な経済的理由で、2017年以来パラジウム市場は供給不足にあったため価格が上昇し、プラチナの方が大幅に割安だったからだ。触媒の代替はほとんど全てが新型車で実施されるが、新型車はどの年でもマーケットの約15%しか占めず、代替需要がプラチナの年間需要に反映されるまでには時間がかかる。一度触媒の代替が行われると、通常はほぼ7年間となるその車種のライフサイクルの中で再び変更されることはない。代替作業にはコストがかかり、既に生産ライン上の仕様の変更にはリスクを伴うからで、これが代替の逆行が起こるにしても、その影響が現れるのはまだ先になるという理由からだ(図1)。
しかしパラジウム市場は近いうちに代替の逆行を促す状況にあるようには見えない。パラジウムとプラチナの価格差は縮まっており(図2)、2025年からはパラジウム市場は供給過剰になると予測されているが(図8)、パラジウム価格はまだプラチナ価格を上回っているため、パラジウムに代える経済的な根拠は弱い。さらに自動車メーカーがパラジウムを代替メタルとして購入し始めるにはいくつかのリスクがある。一つはパラジウム市場が供給過剰になるという推定は、リサイクル供給が約31.1トン増える(図4)予測を根拠にしているが、ライフスタイルの変化や新車が買いづらくなっていることなどから自動車の使用期間が延びており、リサイクルによるPGM供給は予想を下回っている(12月7日付『プラチナ展望』)。そのためパラジウム市場が供給過剰になるのは予測よりも先になる可能性がある。
図1:自動車触媒はプラチナが優勢
図2:2023年のパラジウムとプラチナの価格差は縮小
二つ目はパラジウムを代替として使えば、世界のプラチナの11%、パラジウムの40%を生産するロシア(図5)に対する依存が生じ、それはESGの観点、対ロシア制裁とサプライチェーンの観点からしても望ましくない。最後に見落としがちな点だが、パラジウム市場は2010年以降供給不足が延べで11年あったために地上在庫が161.7トン減っており、その地上在庫関連のリスクがある。2022年と2023年を除けば、供給不足は価格高騰につながり(図6)、供給不足が予測されている2024年にも代替が促されることにはならないだろう。現物の不足、供給リスク、そしてパラジウムのショートポジションの拡大も価格を押し上げる要因だ。昨年12月は1週間で240ドル上がり、ショートスクイーズの様相となった。以上のような市況と経済的、供給上の利点がない現状では、パラジウム代替が起こるには早いといえる。予想通りパラジウム市場が2025年から供給過剰になれば、2026年から少しずつパラジウムによる代替が始まるだろう。
プラチナの代替需要は2024年に約21.8トンに達し、コロナ禍以降のプラチナ需要回復に貢献
現在の経済と供給の状況は自動車触媒の代替逆行を急に促す環境にないが、2025年にパラジウム市場が供給過剰になれば徐々に始まるだろう
投資資産としてのプラチナ
-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は鉱山生産、リサイクル共に問題多い
-自動車のプラチナ需要は2024年もガソリン車の代替需要を主に成長が期待できる
-プラチナは世界の水素経済を支えるエネルギー転換に不可欠な重要鉱物
-プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて大幅に低いまま
図3:コロナ禍以後の自動車のプラチナ需要は代替需要を背景にパラジウム需要を追い抜く
図4:パラジウムのリサイクルは2027年までに31.1トン増える予測
図5:パラジウムの主な鉱山生産国ロシアは溶鉱炉メンテナンスが2024年に計画されており、経済制裁で減産もあり得る
図6:2023年を除き、2010年以降のパラジウム価格の変動は市場の供給不足で上がり、供給過剰で下落
図7:パラジウム市場が供給過剰へ変わる予測で、ネットベースで大きなショートポジション
図8:パラジウム市場は2024年も供給不足、過去10年間同様に地上在庫の引き出し続く
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