マイナス金利解除は3月か4月?円安進行は修正期待で限定的に?

 日本銀行は22~23日、金融政策決定会合を開き、事前に予想された通り大規模緩和の継続を決定しました。また、経済・物価情勢の展望(展望リポート)で2024年度のCPI(消費者物価指数)上昇率の見通しを下方修正し、前回10月の前年度比2.8%から2.4%に引き下げました。

 この発表を受けて、ドル相場は23日の正午過ぎに1ドル=148円台半ばの円安となりましたが、材料出尽くしからほどなく日本株もドルも失速。1ドル=148円を挟んだ動きで様子見となり、午後3時半からの植田和男総裁の記者会見待ちとなりました。

 植田総裁は記者会見で、「物価目標の実現確度、少しずつ高まっていると判断」、「物価見通しに沿って経済が進行していることを確認した」との見解を示すと、出口政策を期待した円買いが強まり、一時1ドル=147円割れとなりました。

 しかし、その後「マイナス金利を解除しても、極めて緩和的な環境が続く」、「物価2%の前に利上げした場合、デフレに戻るリスクも上がる」との考えを示し、1ドル=147円台後半まで円安が進む展開となりました。そしてその後の海外市場では再び148円台に乗せました。

 1月の日銀会合では予想通り緩和維持が決定されましたが、3月か4月の会合での政策修正期待は消えていません。むしろ、日銀は3月に賃上げを見極めた後、3月か4月の会合でマイナス金利を解除するのではないかとの期待は根強く残っています。従って、円安が金融緩和は維持されるとの思惑から再燃しても、勢いは限定的なものになる可能性があります。

 現在、ドル相場は会合前の水準に戻っています。植田総裁は出口政策に向かっているのかとの記者からの質問に対し、出口への距離は「定量的な把握は難しい」と述べるなど政策修正への慎重な姿勢を示したことが影響しているのかもしれません。

 一方で、「物価目標の実現確度、少しずつ高まっていると判断」との見解を示し、賃金と物価がともに上昇する物価上昇が見通せる状況になれば、「マイナス金利を含めた大規模緩和の是非を検討する」と変わらぬ金融正常化へ取り組む姿勢を示しました。

 これらの発言によって政策修正路線を放棄しているわけではないとの趣旨は市場に伝わったのではないかと考えられ、大規模緩和政策の修正時期が近づいていることを示唆していると捉えられます。

 今回の会合が3月会合に向けての地ならしならば、3月が近づくにつれて政策修正期待が再び高まってくると予想されます。植田総裁は3月までに好循環を判断するための賃金や物価に関するデータ、情報がある程度は得られるとの見方を示しました。特に、今後注目するデータとして「サービス価格」を挙げています。

 日銀は展望リポートで2024年度の物価見通しを引き下げた理由として、原油価格の低下を反映したと説明しています。2025年度の見通しは10月の1.7%から1.8%に上方修正しており、2022年度から4年度連続で日銀が物価安定目標とする2%程度で推移する見通しとなっています。

米FRB議長、ハト派かタカ派かどちらの姿勢示すか注目!

 為替相場を動かすもうひとつの材料、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策については、3月の利下げ期待がかなり後退しました。

 そのため、長期金利は上昇し、ドル高を後押ししました。米経済指標は1月に入って強弱まちまちの指標が続いています。米12月雇用統計は予想より良かったものの、12月ISM(全米供給管理協会)非製造業景況指数の雇用指数は前月から大きく低下し、3年5カ月ぶりの低水準となりました。

 また、先週17日の米12月小売売上高が前月比0.6%増と予想(0.4%)を上回る好調な内容になったことでFRBの早期利下げ観測が一段と後退しました。市場の3月利下げの確率は、1月初めには66%でしたが、直近では42%に低下しています。

 一方で、同日公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では雇用や物価の沈静化が報告されました。また、19日の1月ミシガン大学消費者信頼感指数は78.8と予想(70.0)を大きく上回りましたが、1年先期待インフレ率は予想外に低下しました(3.1%→2.9%)。12月中古住宅販売件数は減少(前月比1.0%減)というちぐはぐな経済指標となっています。

 1月30~31日のFOMC(連邦公開市場委員会)では、堅調な消費を反映したタカ派的な見方になるのか、あるいはベージュブックのような景況感を示すのかどうか注目です。また、FRBのパウエル議長は12月のFOMC後の記者会見で「利下げのタイミングを協議した」とハト派的な内容を述べましたが、その後、FRB高官からそれを否定するようなタカ派的な発言が相次ぎました。

 パウエル議長は1月末のFOMCでハト派姿勢を維持するのか、あるいは変えるのかどうか注目です。市場では3月の利下げ観測は後退しましたが、5月利下げ確率は52%と過半数に達しています。

 まずは、25日の米2023年10-12月期GDP(国内総生産)速報値に注目です。7-9月期は前期比4.9%増でしたが10-12月期は2.0%増の予想となっています。また、26日の、FRBが重視する米12月個人消費支出物価指数(PCEコア・デフレーター)にも注目です。11月は前年同月比3.2%上昇でしたが、12月は3.0%上昇の予想となっています。GDPもPCEも予想通りであればハト派色が強まるかもしれません。     

 ドル円に影響を与える材料として、25日のECB(欧州中央銀行)理事会にも注目です。12月の理事会後の記者会見でECBのラガルド総裁は、「利下げについては全く議論しなかった」と述べ、市場の早期利下げ観測をけん制しました。

 しかし、1月17日には、夏場ごろの利下げについて問われると、「あり得る」と発言しています。25日の理事会で6月か7月の利下げを明言すると、予想されていたとはいえ、米国よりも早いタイミングで利下げを示唆したことからユーロ売り・ドル買いとなることが予想されます。

 このドル買いの影響を受けて、ドル円も円安に動きやすくなりますが、ユーロ円のユーロ安・円高によってドル円の円安は抑制的な動きとなりそうです。しかし、それよりも円高の反応の方が強くなる可能性もあります。主要国の中でいち早く利下げ宣言する影響は大きいと思われるからです。

米大統領選共和党指名争いトランプ氏優勢、市場は警戒モードへ

 米大統領選挙の市場への影響も注目です。1月15日のアイオワ州共和党党員集会でトランプ氏が過半数を取り、大差をつけて勝利しました。序盤で大差がついた結果を受けて、2位のデサンティス氏は23日のニューハンプシャー州予備選を前に撤退を表明しました。合わせてトランプ氏を支持することも表明したことから、トランプ氏がますます優勢になってきます。

 23日のニューハンプシャー州予備選ではトランプ氏とヘイリー氏との一騎打ちとなりましたが、トランプ氏の勝利確実と複数の米メディアが伝えています。しかし、アイオワ州ではトランプ氏に30ポイント余りの大差で敗れましたが、ニューハンプシャー州の予備選では大幅に縮めているため、ヘイリー氏は「選挙は終わりにはほど遠い」と強気の姿勢です。次は2月24日の同氏の地元であるサウスカロライナ州の予備選に注目です。

 そして、3月5日の米大統領選予備選が集中するスーパーチューズデーに注目です。スーパーチューズデーでは15州で開票され、1日で36%の代議員が決定されます。ここでトランプ氏が大勝すれば、7月15日から始まる米共和党大会での大統領候補者指名を待つまでもなく、市場はトランプ氏の次期大統領の可能性を警戒し、投資マネーの勢いもなくなってくることが予想されるため警戒する必要がありそうです。

 これまで積み上がった米株高、金利上昇、ドル高のポジション調整が起こりやすくなることも想定されるため注意しなければなりません。