経済評論家で元・楽天証券経済研究所の山崎元(やまざき・はじめ)さんが1月1日、死去した。65歳だった。通夜・葬儀は行わず、近親者のみにて見送った。
■ご遺族から
山崎 元は1月1日に永眠致しました。 ここに謹んでご報告申し上げます。
長い間、「ホンネの投資教室」を楽しみに読んで下さいましてありがとうございました。
生前に山崎が賜りましたご厚情に、遺族より深く感謝申し上げます。
1月5日
妻・山崎 薫、妹・山崎 由愛
■山崎元さんの足跡
1981年に東京大学経済学部を卒業。三菱商事や住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)、メリルリンチ証券(現・BofA証券)など12回の転職を経て、2005年に楽天証券経済研究所客員研究員。2023年3月に退職し、経済評論家として活動。北海道出身。
トウシルの連載「ホンネの投資教室」では、15年間にわたり約500本の記事を執筆。世に出回る情報を疑い、自身が正しいと信じる資産運用の心得やお金との向き合い方を発信してきた。金融の道を歩みながら、業界の不都合な真実に関しても強い信念で警鐘を鳴らした。全ての発信を通じて、多くの人がお金に関する正しい知識を身に付けられるよう力を注いだ。
本連載中で癌について公表し、その経過や治療を通じて考えたことを記した記事は多くの反響を呼んだ。
山崎元、癌になってみて考えた。「どうでもいいこと」と「持ち時間」(2023/1/24)
2023年6月には、読者から寄せられた質問に答える連載「読者の疑問にホンネで回答」を開始。専門分野であるお金の話題だけでなく、趣味の将棋からキャリア相談、人生の悩みまで、痛快な「ヤマゲン節」で答えた。
■楽天証券株式会社
山崎元さんには、楽天証券経済研究所の客員研究員として、長年に渡りご尽力いただきました。
個人投資家、一般消費者に向けて、正しいお金との付き合い方、資産形成の方法論について情報発信いただくと同時に、社員従業員に対しても、個人投資家の資産づくりがどうあるべきかを考える、多くの示唆を頂戴しました。
今日、資産形成の基本となる考え方・制度が、日本に力強く根付き、大きく芽吹かんとしていることは、山崎さんの「すべては個人投資家のため」という深い信念とご尽力の賜物です。
心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。
■楽天証券経済研究所長・窪田真之
山崎元さんは、私の師匠であり目標でした。急なお別れとなり、とても残念です。金融ビジネスの未来について、これからもお教えいただきたいことがたくさんありました。
プライベートでは、将棋でも囲碁でもお酒でも、山崎元さんは私の師匠でした。中でも、一番参考になったのは、山崎さんの生き方です。
山崎さんの筆の力は強烈で、これまでに書いてきた数々のレポートやテレビ・動画出演を通じて、古い体質の金融ビジネスに破壊的な影響力を及ぼしてきました。執筆時間は、深夜が多かったと聞いています。原稿を書き上げて一息ついている山崎さんからは、午前3時や4時にメールが来ることがたくさんありました。
なぜ、そのように集中してたくさん文章が書けるのか聞いた時、山崎さんから「怒りが原動力」とうかがいました。なぜ、こんなひどいことがまかり通るという怒りで文章がどんどん出てくるそうです。
近年、金融ビジネスは、山崎元さんが唱えていた方向に急速に舵を切っています。山崎さんが「不当に高い」と批判していた売買手数料なども大幅に低下しました。
「怒る対象が無くなると、書く意欲も低下する」と山崎さんはおっしゃっていました。ただし、山崎さんの筆の勢いは、亡くなる直前まで鈍ることはありませんでした。「金融業では、1つの問題が無くなると、次々に新しい問題が出てくる。怒る対象は無くならない」とおっしゃっていました。これからも、もっともっと、たくさんの破壊的なメッセージを出し続けていただきたいと願っていました。早過ぎるお別れが残念でなりません。
■トウシル編集長・武田成央
山崎さんには、お金のメディアに関わる者としての問いを、常に(勝手に)投げかけられていたように思う。
「それ、ほんとに正しい?」
元さんは、いまや王道となった「ローコストのインデックス型の投資信託を、NISAを使って、長期で積み立てるのが、効率的である(なんなら、一本でいい!)」という型を強く強く世に広めた。このシンプルさが、未熟な日本には必要だった。どんなにいい制度があっても、どう使えばいいかがなければ機能しない。
投資家、消費者のことしか、考えていない人が元さんだった。正しい情報のみを、正しく伝える。
どれだけの編集者、業界関係者がそれに沿わないことをして、彼の逆鱗に触れたか。そうして消えた企画、本、ページは数知れず。かくいうわたしもその一人。
そんな人が考えた型だから、みんなが信頼して真似できた。同時に、誰もその型を否定できないことが、こと資産運用の世界においては、効果が大きかった。
人はこうも、正しさを貫けるだろか?ヒントは、彼のモットーにある。
「正義の愉快犯でありたい」
酔った勢いで生意気にも「元さんって何を目指されてるんですか?」と聞いたときの答えだ。正しいことを、ちょっとおもしろく。それで、多くの人を巻き込みたい。そんなことだ。
正しいだけだと窮屈。だから、ご機嫌なユーモアを少々。こうありたい。
元さん、元さんの犯行は、ひょっとしたら、ノーベル経済学賞を取るかもしれません。日本人の投資人口を増やす仕掛けを作り、広めた、として。
そのときは、ウイスキーで乾杯しましょう。
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