先週FRB議長「利下げ開始時期協議」、1ドル=140円台後半に

 先週は、日本銀行の植田和男総裁によるチャレンジング発言の余波が残る中で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の利下げタイミングを巡る発言によって、ドル相場は1ドル=147円台から一時140円台へと円高になりました。

 植田総裁のチャレンジング発言とは、7日の参議院財政金融委員会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況となる」と述べたことです。市場ではこの発言を受けて、日銀が年内にマイナス金利解除に動くのではないかとの観測が強まり、7日から8日にかけて、1ドル=147円台から141円台半ばを付け、急速にドル安円高が進みました。

 そして、先週は、パウエル議長が12~13日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で、「政策金利は金融引き締めのサイクルのピークか、その近辺にある可能性が高い」と述べて利上げ局面終了を示唆し、追加利上げの議論ではなく「利下げのタイミングを協議した」と明言したことです。

 また、FOMC参加者による政策金利見通しは、2023年末の5.375%(中央値)から、2024年は4.625%(同)と0.75%低下し、来年は0.25%刻みで3回の利下げがある見通しが示されました(*)。

 9来年の利下げ幅の見通しが9月時点の0.5%より拡大したため、一気に早期利下げ期待が高まり、FOMC前に1ドル=145円台だったドルは142円台半ばに下落しました。翌14日には米10年債利回りは4%割れとなり、一時1ドル=141円を割れ、140円台後半のドル安円高となりました。

* FOMC金利見通し(12月)
2023年末5.375%(中央値、9月時点の見通し5.625%から0.25%の下方修正)
2024年末4.625%(中央値、9月時点の見通し5.125%から0.50%の下方修正)
2023年から2024年の低下幅 0.75%(=5.375~4.625%、0.25%刻みで年3回の利下げ見通し)
9月時点の2024年への低下幅 0.5%(=5.625~5.125%、0.25%刻みで年2回の利下げ見通し)

 そして11日には、日銀が年内にマイナス金利を解除するとの市場観測を関係者の話として否定する報道が流れました。また、15日にはFRBの早期利下げ観測も、ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が「利下げはそれほど議論していない」と発言し、やや後退しました。1ドル=142円台に戻しましたが、日銀会合が控えているため戻りも限定的でした。

植田総裁の慎重姿勢でマイナス金利解除1月の見方も後退

 18~19日の日銀の金融政策決定会合では、事前に報道が流れた通り、現状維持が決定され、19日正午前に発表されました。市場の一部が期待していたマイナス金利の解除はなく、フォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)の変更もありませんでした。この決定で、1ドル=143円台半ばのドル高円安になりました。

 植田総裁の会合後の記者会見が始まり、「基調的な物価上昇率、2%に向け上昇する確度高まっている」との発言が伝わると、瞬間的に1ドル=142.55円付近まで円が急騰したものの、すぐに143円台に戻しました。

 植田総裁は緩和策からの出口戦略については、「もう少し(賃金と物価の)情報を見たい」と述べた上で、「確度の高い姿を示すことは困難だ」と述べました。来年1月会合でのマイナス金利解除の可能性は、「1月後半の決定会合までに入ってくる新しい情報次第。新しいデータはそんなに多くない」と慎重な姿勢を示しました。また、FRBの利下げ前に政策変更を行う可能性については、「米国が動きそうだからといって、焦って政策変更するのは不適切だ」と指摘しました。

 7日のチャレンジング発言については、「今後の仕事の取り組み姿勢について、一段と気を引き締めるつもりで発言した」と明らかにし、市場の早期マイナス金利解除に対する思惑を否定しました。

 植田総裁の発言を受けて、一部で期待されていた1月のマイナス金利解除の期待も後退し、ドルは買い戻され、欧州市場では1ドル=144.95円近辺まで円安が進みました。

 しかし、1ドル=145円付近ではドル売り意欲も強く、米長期金利の低下とともにドルは売られ、1ドル=143円台後半に押し戻されました。

2024年はドル安円高に緩やかに移行か

 日米の金融会合が終わり、1ドル=145~150円のレンジには戻らず、140~145円のレンジで推移しています。年内、このままレンジ内に収まれば、来年は1ドル=140円割れが視野に入ってきそうです。

 日銀の1月の政策修正期待が後退し、春闘の結果が明らかになる4月以降の会合での政策修正期待が高まっています。

 しかし、欧米は3月にも利下げするのではないかとの市場の期待が強まっているため、今後、ドル円を動かす要因としては日銀要因による円高進行よりも欧米要因によるドル安、ユーロ安の方が大きいことが予想されます。ドル安、ユーロ安がどの程度進むのかが注目されます。

 先日のFOMCで利下げ材料が大きくなったことから、今後は、金利低下、ドル安の流れになってくることが予想されます。

 また、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は、利下げは議論していないと発言していますが、ユーロ圏の物価が急低下しており、景気も振るわないとなると、米国よりも早く利下げに転じる可能性があります。利下げ転換によるユーロ安はドル高となり、一時的にドル/円は円安バイアスがかかりますが、日銀の政策修正期待が働くことによって円安バイアスは抑制され、円は対ユーロではユーロ安円高となり、対ドルでの円高を後押しすることが予想されます。

 FRBの利下げについては、15日のNYウィリアムズ連銀総裁の発言やその後のFRB高官の同様の発言に見られるように、FRB内部でも利下げはまだまだ議論中の段階で、市場が期待する来年3月までには、ドル相場も上下に動くことが予想されます。

 ただ、米国は緩和方向、日本は引き締め方向となれば、程度の差はあれ、これまでのバイアス(円安)と逆の方向(円高)に動きやすくなることは十分想定されます。

 2022年、2023年は日米の金融政策の明確な違い(米国引き締め、日本緩和)によって円安が進みましたが、年末にかけては逆の方向の動きが市場で意識され、年末要因もありポジション調整で円高が進みました。2024年はこの流れを引き継ぎドル安、円高地合いが基本となりそうです。

 ただ、絶対的な金利差の開きはあるため、円高も緩やかな円高となりそうです。

 前回のコラムでも触れましたが、12月の日銀短観の想定為替レート(全規模・全産業)は2023年度下期が1ドル=139.97円と前回9月調査の135.88円から円安となっていますが、現在の実勢レート(1ドル=144円)からは4円ほどの余裕しかありません。

 来年に向けて日米の金融政策が変わろうとしている局面では、1ドル=140円以上はしっかりと為替ヘッジ(ドル売り・円買い)をしていくことが予想されます。

 また、これまで円キャリー取引(低金利の円を調達し、円を売って高金利のドルを買う取引)を行っていた投資家も、ドル高円安に戻った時にはポジションを縮めるためにもドルの上値をしっかりと抑えてくることも予想されます(ドル売り・円買い)。これらの動きが起こるのであれば、ドルの上値は重くなり、相場地合いが変わったと判断することができます。