市場利下げ期待高まる、FOMCで金利高続く見通しならドル高も

 先週、米国では中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)でタカ派として知られるウォラー理事がハト派発言をしたことによって、ドル相場は1ドル=146円台に下落しました。

 11月30日には1ドル=148円台まで買い戻されたものの、1日に行われたFRBのパウエル議長の講演で再び1ドル=146円台に下落しました。パウエル議長からは市場が想定したほどタカ派発言はなかったため、安心感から金利低下、株高、ドル安となりました。市場は金融緩和に引き寄せて拡大解釈した印象です。

 ウォラー理事とパウエル議長の講演内容を振り返ってみます。ウォラー理事は、現在の政策は良い位置にあり、金融引き締めの終盤局面に近いとの見方を示し、「インフレ率が低下し続ければ、数カ月先に政策金利を引き下げられる」と利下げの可能性を示唆しました。

 パウエル議長は、利下げ時期について「議論は時期尚早だ」と述べ、ウォラー発言による市場の早期利下げ観測の盛り上がりをけん制しました。「適切だと判断すれば、さらに金融政策を引き締める用意がある」と強調しました。

 一方で、政策金利水準は「かなり引き締め的な領域にある」とも述べ、利上げにより景気が減速し過ぎるリスクとインフレ抑圧のため十分な利上げをしないリスクが「均衡している」との認識を示しました。今後については「慎重に行動する」と述べました。

 市場では想定したほど強いけん制がなかったことから、金融引き締めの長期化懸念は薄らぎ、米長期金利は4.2%近辺に低下し、1ドル=146円台半ばのドル安円高になりました。

 これらの発言を受けて、先行きの政策金利の織り込み度を示す米CME(シカゴ先物取引所)のFEDウオッチでは、来年末までに1.25%の利下げ予想となっています、市場は金融緩和にやや前のめりになっているのではないかと思わせる水準です。

 9月のFOMC(連邦公開市場委員会)後に示された金利見通しでは、2023年末に5.625%、2024年末に5.125%となっており、来年末までは0.50%の利下げにとどまるという見通しです。FOMCの見通しでは0.25%刻みで2回の利下げとなるのに対し、市場予想では5回の利下げとなります。

 FOMCと市場の見方にはかなりのギャップがあることになります。次回の12月12、13日のFOMC後に示される金利見通しで、このギャップが縮まるか変わらないのか注目です。縮小したとしても、縮小幅が1.25%に届かなければ、市場は失望感から金利高とドル高に反応することも予想され、注意が必要です。

 現在の政策金利は5.25~5.50%ですので、もし、12月のFOMCで利上げ見送りとなって、来年1.25%の利下げがあれば来年末に4.0~4.25%になります。これは昨年末の政策金利に近い水準です(4.25~4.50%)。当時の米10年債利回りは3%台後半、為替相場1ドル=130円台でした。こう考えると、米景気がよっぽど悪化しない限り、来年5回の利下げは難しいかもしれません。

 ただ、ISM(米サプライマネジメント協会)が1日発表した11月製造業景況指数が46.7と市場予想(47.6)を下回ったことに反応した感も強く、米景気の動向は気になるところです。5日に発表された11月ISM非製造業景況指数は52.7と前月も予想も上回りましたが、構成要素の雇用指数が予想より弱かったことから、ドル売りとなりました。

 アトランタ連邦準備銀行は1日、速報性で注目される経済予測モデル「GDPナウ」で、2023年10-12月期の予想GDP(国内総生産)成長率を年率換算で1.2%に下方修正しました。先週の1.8%から大幅に引き下げました。

対ユーロと対ポンドで円高に、円高圧力が対ドルに波及も

 12月1日のニューヨーク外国為替市場で1ドル=146円台のドル安円高になったことは、対ユーロや対ポンドのクロス円でも円高になったことも要因と思われます。

 11月29日の最初の146円台の時は、対ユーロで1ユーロ=161円台でしたが、12月1日の2回目の1ドル=146円台になった時は、1ユーロ=159円台でした。対ユーロで2円ほどの円高となり、対ポンドでは1円ほどの円高となりました。このクロス円での円高圧力が対ドルで1ドル=146円台の円高水準にしたようです。

 対ユーロの方が対ポンドよりも円高幅が大きかった背景には、1日にフランス銀行(中央銀行)のビルロワドガロー総裁が来年の利下げに言及したことがユーロ売りに影響したようです。ビルロワドガロー総裁は、ユーロ圏はディスインフレのプロセスが「予想以上に速い」との認識を示し、「何らかの衝撃が起きない限り、利上げはもはや完了した」と発言しています。そして、2024年のある時期が来れば、利下げの問題がでてくるかもしれない。」と述べています。

 また、5日には、ECB(欧州中央銀行)でタカ派のシュナーベル専務理事がユーロ圏のインフレ率が予想より早く縮小しているため、今後、追加で利上げする可能性は低いと発言しました。シュナーベル氏が姿勢を弱めたことから2024年3月にも利下げを始めるとの観測が強まりました。

 14日のECB理事会に向けて一気に利上げ打ち止めから利下げ期待が高まれば、ユーロ安がさらに進むことが予想されます。ユーロ安円高がさらに進めば、ドル相場も1ドル=146円台から1ドル=145円台へと円高圧力が波及してくることが予想されます。ユーロやポンドの買戻しが鈍ければ、ドルの戻りも鈍くなることが予想されるため、クロス円の動きを注視する必要があります。

米雇用統計が市場想定通り改善なら、ドル絶好の売り場か?!

 今週はさまざまな米雇用指数が発表されます。5日の10月雇用動態調査(JOLTS)求人件数、6日の民間調査会社による11月ADP雇用統計、7日には前週分新規失業保険申請件数、そして8日には本命の米11月雇用統計が発表予定です。

 米自動車メーカーのストライキの影響がなくなったことから、11月は前月より改善するとの見方が優勢ですが、この見通し通りなら、早期利下げ期待は後退し、金利は上昇、ドルの買戻しが入りやすくなります。パウエル氏の発言で前のめりになった分だけ反動も大きくなるかもしれません。

 しかし、今回のドル安相場で売りそびれた投資家にとっては、クリスマス休暇や年末も控えていることから、ドル高に反発すれば絶好のドルの売り場となるかもしれません。

 5日に発表された10月雇用動態調査(JOLTS)求人件数は、873.3万件と市場予想の930万件を下回る結果となりました。米10年債利回りは4.1%台に低下して、ドル売りとなりました。引けにかけてドルは1ドル=147円台に買い戻されましたが、ドルの上値は重たい展開が続いています。