ユーロ高とポンド高がドル安円高にブレーキ

 先週の為替相場を振り返ると、1ドル=147円台から150円手前までドル高円安に戻したものの150円には届かず、その後のドルは上値が重たい展開が続いています。米国の金融政策を決める12月のFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げ見送り観測や来年の利下げ期待が影響しているようです。

 米10年債利回りも先行きの景気後退と利下げ期待から4.5%が上限となるような動きをしており、そのため1ドル=150円がドルの上値の重しとなっているようです。

 ただ、円相場は対ユーロや対ポンドのクロス円が円安地合いであるため、対ドルで円高に行きにくい構図がまだ続いている状況となっています。ユーロ高やポンド高のクロス円による円安圧力がドル安円高へのブレーキとなっている状況です。

 しかし、欧州景気は少し回復して来たとはいえ、米国よりも悪いため、早晩、欧州や英国で利下げ観測が浮上し、欧州や英国の要因によるユーロ安、ポンド安が起こる可能性があります。そうなれば、これらクロス円に引っ張られて、素直にドル安円高に行きそうですが、その時までゆっくりとした相場が続きそうです。

12月FOMCで利上げ打ち止め色の反映あるか焦点

 10月のECB(欧州中央銀行)理事会では、ラガルド総裁は追加利上げの可能性を排除しないというタカ派姿勢を維持しましたが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)も同じ姿勢です。

 しかし、12月12~13日のFOMCで利上げ打ち止め色が出てきた場合は、市場では14日のECB理事会でも同じくそうなるのではないかと思惑が強まることが予想され、注意が必要です。欧米の景気格差を勘案すると、FRBよりもECBの方が早く政策姿勢を変えるかもしれません。そのようなシナリオを想定しておく必要もあります。

 12月のFOMCについて、米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)のFEDウオッチャーであるニック・ティミラオス記者は、「(11月に発表された)10月の米雇用統計とCPI(消費者物価指数)は、7月の利上げがFEDの最後の利上げだったとの見方を強く示唆した」とした上で、「12月FOMCでは声明文をどのように修正し、利上げ見送りを反映させるかが大きな議論になりそうだ」と指摘しています。

 市場の期待とほぼ同じ見方ですが、実際にFOMCの声明文でどのような修正があるのか、また、FRBのパウエル議長は記者会見でハト派色を出してくるのかどうか注目です。

 12月のFOMCに先立って、11月28日には、FRBのタカ派であるウォラー理事やボウマン理事からハト派発言が相次ぎました。ウォラー理事は、「経済を減速させインフレ率を2%に戻すため政策は良い位置にあるとの確信が強まっている」と述べ、引き締め局面の終わりが近いことを示唆しました。さらに「インフレ率が低下し続ければ、数カ月先に政策金利を引き下げられる」との見解を示しました。

 ボウマン理事は、「インフレ率低下が停滞した場合には利上げを支持する」とタカ派発言をしたものの、追加利上げは経済データ次第とし、12月の追加利上げについて明確には触れませんでした。

 これらタカ派理事のハト派発言によって米10年債利回りは4.3%台前半に低下し、1ドル=147円台前半へ、翌29日には146円台へと円高が進みました。

米景気後退感強まり、年末1ドル=145円の円高も!?

 11月23日(木)の感謝祭、24日(金)のブラックフライデーから27日(月)のサイバーマンデーまでのインターネット通販での売上高は好調だったようですが、その間に発表された他の経済指標はあまり良い結果ではありませんでした。

 24日に発表された米国11月PMI(購買担当者景気指数)は、製造業PMIが10月の50.0から49.4に低下する一方、サービス業PMIは10月の50.6から50.8に上昇し、強弱混在となった結果、総合PMIは50.7と横ばいになりました。

 しかし、雇用指数が10月の51.3から49.7に低下し、2020年6月以来3年半ぶりに50割れとなり、10-12月期の景気減速予想を裏付ける内容となりました。

 また、27日発表の米10月新築住宅販売件数(前月比5.6%減)や米11月のダラス連銀製造業景況指数は予想を下回りました。新築住宅販売価格(中央値)は前年同月比17.6%減の40万9,300ドルと大きく下落し、1964年の統計開始以来最大の下落率となりました。

 また、ダラス連銀製造業景況指数は前月より19.9ポイント下落し、3カ月連続で悪化しました。マイナスは2022年5月から19カ月連続です。

 これらの指標を受けて米金利が低下し、米10年債利回りは4.4%を割れ、1ドル=148円台半ばの円高となりました。先週、150円には届かず、150円が重たくなったドルは米長期金利の低下とともにじりじりと円高に動き、今週に入って28日には147円台、29日には146円台の円高になりました。

 このように11月後半に発表された指標は弱い数字が続いており、景気後退感が強まれば、「景気減速・インフレ低下→金利低下→株高」といった市場心理が、「景気減速→企業収益悪化→金利低下を伴った株安」に変わり、米株上昇の息切れとともに年末にかけて1ドル=145円に向けてさらに円高に動くかもしれません。

米地区連銀のベージュブックと、PCE価格指数に注目!

 まずは、今週29日(水)に発表されるFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)に注目です。「地区連銀経済報告」とは米国にある12地区の連邦準備銀行が、それぞれ管轄する地区の経済状況をまとめた報告書です。

 表紙の色がベージュ色であるため「ベージュブック」と呼ばれています。年8回開催されるFOMCの2週間前の水曜日に発表され、金融政策を変更するかどうかの判断材料に用いられます。今回のベージュブックは12月のFOMCの判断材料になるため、各地区の景気や物価、労働環境がどのように報告されるのか注目です。FOMCの材料となるだけにFOMC前に一波乱あるかもしれません。

 そして30日にはFRBがインフレ指標として注視している米10月PCE価格指数が発表されます。もし、物価上昇が鈍化した場合、来年の利下げ開始時期が前倒しされるとの期待が高まります。

 ちなみに、先行きの政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のFEDウオッチによるとFRBの12月利上げ見送りは97%、利下げは来年3月から期待が高まり42%、5月では49%となっています。6月から5月利下げ期待へと前倒しになってきていますが、今後、3月にさらに前倒しされるかどうか注目です。