今回のサマリー
●11月の米債券・株式は、FRBや経済指標の後押しで、でき過ぎの明るいラリーに
●目の前の材料を見る「虫の目」、高所からの「鳥の目」で、一筋縄ではいかない状況を捉える
●米債券高は、米株高の一方、ドル安円高を招き、日本株を圧迫するという流れも
●景気・インフレ、金利、株価、為替が相互作用する2024年を360度「魚の目」でチェック
11月のでき過ぎラリー
11月に入った途端、米国では、債券も株式も連動して相場の急回復を見せました(図1)。そのことは、日本株の堅調にもつながっています(図2)。
11月以降の米金利低下の可能性、株価の持ち直しは、およそ想定した流れでした。7~9月には、米景気・インフレ指標が一時的要因で上振れ過ぎ、それが、金利高(債券安)と株安を促した面がありました。9月分の経済データが公表される10月まで、債券と株の暗い地合いは続いたのです。特に10月後半には、米10年国債金利が5%台に達し、株式相場の反落率も弱気相場入りを半分覚悟しなければならないほど、きついものになりました。
一方、11月に公表される景気・インフレ指標は、7~9月指標の上振れからの揺り返しが現われるのではないかという予想は、市場で広く共有されていたところです。ところが、エコノミストなど市場の専門家は、何カ月にもわたって経済指標の予想外の上振れに翻弄(ほんろう)されて、すっかり自信を失っていました。このため、10月の指標の中身もふたを開けるまでは分からないという慎重さがまん延し、相場も織り込めずにいました。
11月は、1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、利上げを見送り、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が会見で、債券金利の上昇を警戒するハト調の配慮を見せました。これが、債券金利低下、株式相場反発のトリガーとなりました。その後、3日の雇用統計、ISM(米サプライマネジメント協会)サービス業景況指数、14日のCPI(消費者物価指数)に至るまで重要指標の軟化が続き、債券金利低下と株高が相乗的に進行しています。
図1:米国の債券金利と株式相場の連動
図2:米国株3指数と日経平均(円建て、ドル建て)
相場チェックの虫の目・鳥の目
しかし、ここでいつも通り筆者の老婆心が頭をもたげてきます。8~9月、10月後半には、ひどい債券安・株安を被ったばかりです。この暗い期間にも、相場が一時的に上向くと、市場はいつも通り、相場追認の楽観に突っ走ろうとしました。相場が大きく動くと、その動きに直接関わったと思えるニュースを誇張的にクローズアップし、相場上昇を追認して、あることないこと都合の良さそうな材料を正当化するのは、市場の情報処理の常です。
しかし、2023年4月以降は、エコノミストやストラテジストなど市場のトッププロも、景気強振れ、インフレぶり返し、追加利上げ、債券金利急騰、そして、株式相場の生成AI(人工知能)ラリーと深い反落調整と、「まさか」という展開に翻弄されてきました。
このことは、足元で相場がからっと明快になったようで、その実、経済情勢も市場動向も、決してシンプルな構図ではないことを意味します。11月相場が明るくなったとはいえ、これをトレンドと考えるのは尚早でしょう。筆者としては、今後あり得るリスクをあらかじめ念頭に置いた上で、相場に臨むのが適切なアプローチと考えます。
そのために、目先で起こったことを見る「虫の目」、少し高いところから俯瞰(ふかん)する「鳥の目」から、状況を整理します。
- 【虫の目】
FOMCのハト調配慮は、債券金利高からの過度な金融引き締まりへの警戒
⇒【鳥の目】
債券金利低下、株高で楽観が強まれば、タカ調に切り返しも。
- 【虫の目】
雇用、ISM、CPIなど指標の陰り
⇒【鳥の目】
9月分(10月公表)までの上振れの反動を含んでおり、このまま一本調子で陰り続けると見るほど楽観的にはなれません。
- 【虫の目】
(1)米政府のつなぎ予算期限切れによる政府機関閉鎖
(2)米国債四半期入札の無難な通過
⇒【鳥の目】
相次ぐ米国債の格付け引き下げ。今後、インフレ鈍化だけでも、税収は減り、財政赤字問題はクローズアップされやすくなります。四半期入札の規模も基調的には増加方向でしょう。
他にも、中東情勢で上昇した原油価格の反落、米中首脳会談による緊張緩和など、相場に都合の良い方向の解釈が出回りがちですが、中長期的に安閑とできる問題かは、はなはだ不確かです。
ただ、突っ走る債券高(金利低下)と株高の「虫の目」材料のうち、景気・インフレ指標については、少なくとも向こう3~6カ月かけて「虫の目」と「鳥の目」で両面チェックしていくというのが、筆者のかねてからの想定であり、いまもこの基本観は変わりません。この過程では、指標にも金利にも浮き沈みの紆余(うよ)曲折があり、それをならして、2024年の大勢を見いだせればという構えでいます。
ドル/円と日本株
米債券金利の低下に伴う株高は、日本株の相場上昇をも促しました。11月当初段階では、米金利低下の割に、ドル/円は下がらず(すなわち、円高にもならず)、日本株は米株高に連動するように上がりました。しかし、ドル/円相場の米金利への感応度の低さは、150円台での為替介入への警戒で一時的に米金利とドル/円の相関が分断されていたためと考えられます。この動かないドル/円を横目に、米金利低下で上昇するユーロや豪ドルなど他通貨に対する円キャリー(円売り)が出て、ドル/円をサポートした面もあります。
しかし、米国債10年金利が4.5%を下回ったあたりからは、投機筋のドル/円自体のキャリー・ポジションも浮き足立ち、11月21日時点で147円台まで反落するに至りました(図3)。その結果、日本株は円高に圧迫され、前日の米株式相場の急上昇を素直に受け継ぐことができませんでした。
実は、ドル/円は米金利、日本株はそのドル/円と米国株の動きで大方説明可能です。両相場に対する日本の「虫の目」は、あることないこと、何でも都合の良さそうな材料で語ろうとする国内論調に表われています。
ドル/円についての「虫の目」は、円安が続くと、貿易赤字、国内に資金還流されない経常黒字の構造、日本衰退といった、理屈として必ずしも間違いでなくても、今の相場を語るには、時間軸が異なり、相場インパクトもない要因が強調されやすいのが、国内論調の特徴(随分と大きな材料が「虫の目」で見るように扱われがち)です。まずは米金利で評価する目を持たないと、相場の潮目をとれません。
日本株についての「虫の目」は、相場が堅調になると、日本経済が世界で見直されている、企業の改革機運がすごい、業績が上向いている、と日本礼賛の話が並ぶことです。しかし、その日本株の動きは、米国株相場と円相場で大半を説明できるのです(図4)。
また、国内事情のすごさが語られるのに、買いにも売りにも方向性を持って相場に関わってくるのは主に外国人で、日本の投資家は外国人の売買の受け皿側に受動的反応を見せることが多いのです。日本の上場企業の業績も、円安によってかさ上げされている部分が大きいことも、忘れてはいけません。
図3:米債券金利連動してドル/円反落
図4:ドル/円と米日株式指数の相対比
「魚の目」で慎重に前向き
筆者は、11月の米債券・株式の明るいラリー、そして円高を受けての日本株相場を、悲観的に捉えているわけではありません。単に、現状を冷静に理解して、各相場の変動メカニズムに忠実に淡々と取り込みたいというだけです。そのためには、相場を追認的に正当化する解説や、自画自賛が過ぎる国内論調に一定の距離を置き、「慎重に前向き」なアプローチを心掛けるのみです。
心していただきたいのは、景気もインフレも、債券・政策金利も、ドル/円もサイクル天井圏をゆっくり下るかどうかの、悩ましいステージにあるということです(図5)。数カ月観察して、簡単には下りそうもないか、程よく下って軟着陸か、(過去に何度もあったように底堅いから大丈夫と思っていたら)急落するか、それぞれに可能性があるのです。
米株式は、金利上昇を嫌って下がる逆金融相場と、その後の景気悪化に伴う逆業績相場の間で、金利上昇の終わりをはやす中間反騰局面にあると見ています。そして、この中間反騰を、生成AIという強烈なテーマが補強する構図になっていると考えています。
したがって、最近の金利低下をはやす相場上昇が、ゆくゆく景気悪化懸念での逆業績相場の様相になるかを、景気・インフレ・金利の陰り具合を観察しながら探るプロセスにあります。その上で、景気サイクルに対して、生成AIテーマがどう耐性を持つかに期待を寄せています。
米国の景気・インフレ、債券・政策金利、米日株式、為替は、この微妙なプロセスを相互に影響しながら進んでいきます。このため、短期的にも中期的にも、それらを関連付ける360度「魚の目」の視界も重要な場面です。うまくすれば、債券やドル/円はしっかりめのトレンドになり得ます。
株式は金利低下に伴う株高が株安に屈折する可能性を見誤らなければ、その後の新たな金融相場というトレンドにも目線を移せるでしょう。情勢が少々複雑だから面白い、そんな相場に「慎重に前向き」に取り組んで、妙味を取り込もうという構えです。
図5:米景気・インフレ、金利、株、為替の基本サイクル
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