米インフレ鈍化でドル安に
先週13日に1ドル=151.90円近辺を付けたドル相場は、14日公表の米10月CPI(消費者物価指数)の上昇率が市場予想を下回った(前年同月比3.2%、9月3.7%からも鈍化)ことからドル安に転じました。
さらに15日の米10月PPI(生産者物価指数)も予想を下回り(前年同月比1.3%、9月2.2%からも上昇率が鈍化)、米国の金融政策を決める次回12月12、13日のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げが見送られるのではないかとの観測が高まりました。これを受け、1ドル=150円割れ寸前まで下落しました。
しかし、15日にPPIと同じ時刻に発表された米10月小売売上高が前月比0.1%減と予想を上回ったことからショートカバーのポジション調整(値下がりを期待して売りの持ち高を取っていたドルを買い戻すこと)が入り、ドルは151円台前半に上昇しました。
ただ、ドルの上値は重く、16日の米新規失業保険申請件数(23.1万件)と米失業保険継続受給者数(186.5万件)がともに予想より悪化し、米労働市場減速の思惑から米金利低下や原油急落によってドルは再び150円台前半に下落しました。その後もドル売りが続き、149円台前半で週をまたぎ、週明け20日には148円台へと円高が進みました。
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)高官から追加利上げの可能性を排除しないといったタカ派発言があったにもかかわらず、市場ではCPI発表後に12月利上げ見送り観測に加え、来年の利下げ前倒し観測も強まったようです。来年3月にも利下げかという見方も浮上し始めています。
クリスマス前の円キャリー取引手じまいで、円高に
このような見方が広がっただけでなく、今回のドル安に拍車をかけたのは11月23日の米国の祝日であるサンクスギビング(感謝祭)を控えていたことも背景の一つという見方もあります。感謝祭は米国民にとって重要な祝日です。この日から米国のクリスマスシーズンが始まると言われており、米国民にとっては仕事納めの準備にかかると言われています。この日は日本の勤労感謝の日でもあります。
今回の円高ドル安も、感謝祭の前にこれまでのドルを買って円を売る円キャリー取引のポジションを手じまったのではないかという見方です。1週間で4円弱の円高が進むのは、ここしばらくなかった大きな動きです。日米の祝日前後には流動性が低下する懸念があることから、流動性リスクを回避するため早めにポジション調整が出た可能性がありそうです。
CFTC(米商品先物取引委員会)によると、14日時点の投機筋(非商業部門)の円の売り越し幅は13万249枚(約1兆6,200億円)と、2017年11月以来の大きさとなりました。1週間で2万6,209枚増え、増加幅は2021年3月以来の高水準となった反動も大きかったようです。円ショート(円売り)が急激に膨らみ、その残高も6年ぶりの大きさだったことから、円ショートの手じまい(円買い)が出やすい地合いだったと想像されます。
対ユーロ、ポンドも円高に振れるも、対ドルの円高より小幅
今週月曜日に1ドル=148円台という10月上旬のドル安円高水準まで戻しました。ただ、対ユーロや対ポンドなどのクロス円では円高になっているものの、対ドルでの円高と比べると値幅は少ない動きとなっています。これはドル売りによってユーロ高、ポンド高が生じているため、これらクロス円での円高にはブレーキがかかっている状況となっています。
そのため、一段のドル安円高にはクロス円のさらなる円高が必要だと思われます。
先週、1ドル=151円90銭台までドル高円安が進み、昨年10月21日に付けた1990年7月以来の高値(ドル高円安)に接近しました。スイスフランは対円で史上最高値、ユーロは対円で15年ぶり、ポンドも対円で8年ぶり、豪ドルも対円で9年ぶりの高値を付けています。その後のポジション調整によって円高に動きましたが、ドル/円と比べると緩やかな動きとなっています。
ちなみに10月上旬の1ドル=148円台の時、1ユーロ=158円台であり、1ポンド=183円台、1豪ドル=95円台でした。
21日には1ドル=147円台前半まで円高ドル安となりましたが、クロス円では1ユーロ=161円台、1ポンド=185円台、1豪ドル=97円台ですので、対円でのドル安に比べまだかなりの開きがあります。1ユーロ=160円割れにならないと、1ドル=145円台のドル安円高水準には行かないかもしれません。感謝祭前のポジション調整だけで終わるのかどうか、今後のクロス円の動きにも注目する必要があります。
ポジション調整一巡後は、依然残る日米金利差から再び円売りも
21日の東京外国為替市場では1ドル=147円台前半までドル安円高に行きましたが、その後はポジション調整が一巡したのか徐々にドルは買い戻され、ニューヨーク外国為替市場では148円台に乗せました。
米国の10年物インフレ連動債(TIPS)の入札が低調だったことで米国債が売られ(長期金利は上昇)、一時4.38%台まで低下していた米10年債利回りは、4.43%台まで上昇しました。1ドル=148円台前半となり、FOMCの議事要旨公表待ちとなりました。
21日に公表されたFOMC議事要旨(10月31日~11月1日分)では、「当局者全員が金利について慎重に進めることに同意」、「インフレの進展が不十分な場合、FRBはさらなる引き締めを検討」するとのタカ派的な内容であったため、1ドル=148.60円近辺まで円安が進みましたが、それ以上の勢いはありませんでした。
ポジション調整一巡後の来週には、再び日米の絶対的金利差が依然残っていることから円売りが再開されるかもしれません。ただ、今年はあと1カ月あり、12月12~13日には今年最後のFOMCが控えているため、投資家は慎重になりそうです。
投資家は、10月31日~11月1日の議事要旨がタカ派的であっても今後はどうなのか、12月のFOMCで今後のFRBの政策姿勢を確認し、また3カ月に一度公表される経済・金利見通しも確認して来年の投資戦略を立てることが予想されるため、円売りに以前ほどの力強さはないかもしれません。1ドル=150円は遠い水準になるかもしれません。
円安地合い終了と判断するのは尚早、米利下げ前倒し観測次第
先週15日に発表された日本の2023年7-9月期GDP(国内総生産)速報値は実質年率2.1%減と予想を大きく下回ったため、市場は日本銀行の緩和姿勢継続を織り込みました。
ただし、24日(金)に発表される日本の10月CPI上昇率が予想を下回ると(生鮮食品を除く総合指数の9月実績は前年同月比2.8%上昇)、緩和継続観測が強まり、円高が進んだ反動で短期的に円売りが大きくなることが予想されるため注意する必要があります。
今回の円高は、米国の景気減速が懸念され、米金融政策が変わるとの思惑によって米長期金利が低下しドル安が進みましたが、相場地合いが変わったと判断するのはまだ早いかもしれません。12月のFOMCや、それまでに発表される米11月雇用統計や11月CPIの指標を見るまでは、相場もふらつきそうです。
相場地合いが変わるとすれば、これらを踏まえて年末・クリスマス商戦を見極め、来年の利下げ前倒し観測が市場で大きく強まることによって米長期金利が一段と低下してからではないでしょうか。
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