日銀政策会合や米FOMCを無難に通過、リバウンドの動き強まる

 直近1カ月(10月16日~11月20日)の東京株式市場の日経平均株価(225種)は終値ベースで5.5%の上昇となりました。10月後半にかけて売りが優勢となりましたが、10月4日の安値3万0,487円は下回らず、11月に入って切り返す展開となりました。

 とりわけ、11月最初の3営業日での上昇率は6.0%でした。11月20日には一時、6月19日に付けた年初来高値3万3,772円89銭を更新しています。なお、この期間(10月13日~11月17日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は3.9%の上昇でした。

 10月後半にかけては、景気の想定以上の底堅さを受けて米長期金利が上昇したことがマイナス材料となりました。

 また、中東情勢の緊迫化など地政学リスクも警戒視されたほか、日本銀行の金融政策決定会合や米FOMC(連邦公開市場委員会)を控えていたことも、10月末にかけての買い手控え要因となったようです。

 ただ、日銀金融政策決定会合が想定の範囲内の政策修正にとどまったほか、FOMCでも2会合連続で政策金利の据え置きを決定し、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長もタカ派姿勢を示さなかったことで、その後の株価上昇につながっていきました。

 FOMC後は米長期金利も低下方向に向かっています。さらに、11月14日には米CPI(消費者物価指数)が発表され、市場コンセンサスを下回る伸びにとどまったことから、米国の利上げ打ち止め期待が一気に高まり、その後も一段高の様相を呈しています。

 この期間は、2023年7-9月期決算発表が本格化したことで、決算内容を受けて株価の明暗が分かれる展開にもなりました。全般的には、米長期金利の低下でグロース株に買い安心感が強まり、半導体関連などで強い動きが目立っています。

 日本マイクロニクス(6871)野村マイクロ・サイエンス(6254)などが70%強の上昇となったほか、TOWA(6315)SCREENホールディングス(7735)も30%前後の上昇となっています。ラクス(3923)Sansan(4443)など中小型グロースの代表銘柄も強い動きが目立ちました。

 ベネッセホールディングス(9783)がMBO(経営人による自社買収)を発表したほか、ベネフィット・ワン(2412)にはエムスリー(2413)のTOB(株式公開買付)実施が発表されました。

 東洋水産(2875)ゼンショーホールディングス(7550)出光興産(5019)などは決算内容を評価する動きが優勢となっています。一方、下げが目立った銘柄は、決算内容が個別で嫌気されたものが多かった印象です。

 ネットワンシステムズ(7518)ニデック(6594)博報堂DYホールディングス(2433)日揮ホールディングス(1963)川崎汽船(9107)資生堂(4911)イビデン(4062)などが10%以上の株価下落となっています。

次の各国金融政策決定会合は無風か、グロース株主導の上昇基調継続想定

 次回の各国の金融政策決定会合は、日本が12月18~19日、米国が12~13日、欧州が14日となります。米国や欧州は利上げの打ち止めが完全に織り込まれつつあり、利下げが意識されるのもまだ先と見られることで、無風に終わる公算が大きいと考えられます。

 日本でも、日銀が大きな政策修正に踏み切るのは、早くても1月と見られます。次回の春闘の状況が多少なりとも明らかになるタイミングと考えられるためです。そのため、各国ともに大きな波乱は想定されないでしょう。

 この時期に注目されるのは、米国のクリスマス・年末商戦の行方となってきます。足元の小売売上高の状況や小売企業決算の先行き見通しなどからは、厳しい状況も想定され始めているようです。

 小幅な悪化でとどまるようであれば、金利の安定化につながるとしてプラス視されそうですが、想定以上に落ち込むケースでは景気の先行きに対する警戒感が急速に台頭することになりそうです。

 当面は、米長期金利の緩やかな低下基調を背景として、グロース株を中心に上値追いの動きが続く可能性が高いと判断します。株式市場の季節性に関しても、10月までの低迷しやすい時期が通過したことはストレートに安心材料と捉えたいところです。

 グロース(成長)株が相対的に優位とは見ますが、バリュー(割安)株に関しても先回り的な買いは妙味になってくると見られます。2024年から新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートすることで、有望な投資対象として高配当利回り銘柄は注目されています。

 3月の権利取りをにらめば、NISAの組み入れは年明けの早い段階になると予想されるので、これを先取りするような動きは注目できます。また、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄に関しても、東京証券取引所では1月からPBR改善要請への対応開示企業を公表する予定です。

 これがプレッシャーになり、低PBR銘柄の株主還元策拡充が活発化する可能性などもあるとみられます。

 現時点での、2024年のセクターごとの見方をまとめます。米長期金利の低下によるグロース株高が想定されることで、情報通信や電機・精密などは堅調推移となりそうです。電機・精密は半導体市況の底打ち確認なども期待材料となるでしょう。

 機械や商社、素材株などは中国景気の回復表面化が期待されます。銀行・保険は日銀の政策変更が中期的な買い材料につながっていくでしょう。電力は原発再稼働の進展期待が高まる余地、食品はインフレの鎮静化による原材料費低下でマージンの拡大が期待できそうです。

 半面、2024年問題による供給力の低下が想定されることで、建設や運輸・物流は業績の悪化が想定されます。不動産は国内金利の上昇が株価にはネガティブに響くでしょう。小売りにはインバウンド期待の一巡が見込まれ、自動車は為替の円高反転が資金流出につながる見通しです。

新NISAスタート接近、高配当利回り大型株に先回り買い妙味

 2024年からの新NISAスタートが間近に迫っています。配当金も非課税になることから、NISAの有望な投資対象として高配当利回り銘柄が挙げられますが、3月期末の配当権利取りを考えれば、年明けの早い段階でNISAへの組み入れが行われるものと見られます。

 こうした動きを想定すれば、年内に高配当利回り銘柄に投資して、NISA投資による買い需要を先取りすることには妙味があると考えられます。NISA投資対象ということだけでなく、短期的観点から見ても、大型の高配当利回り銘柄の投資チャンスといえるでしょう。

 NISA投資の対象となり得る(中長期投資に安心感のある)大型株(時価総額3,000億円以上)の中で、配当利回りが4%台後半の水準以上にある銘柄をスクリーニングしています。

 配当性向が高く、今後の配当水準の維持が難しいとみられるもの、今期減配予想銘柄などは除いています。新NISAによる高配当利回り銘柄への投資対象となるものといえるでしょう。  

(表)高配当利回りの大型株

コード 銘柄名 配当
利回り
(%)
11月17日
終値
(円)
時価総額
(億円)
配当性向
(%)
配当金
(円)
5021 コスモ
エネルギーHD
5.12 5,862.0 4,969 33.6 150→300
5406 神戸製鋼所 5.11 1,762.5 6,985 29.6 40→90
8304 あおぞら銀行 5.08 3,029.0 3,582 75.0 154→154
2914 日本たばこ
産業
4.98 3,775.0 75,500 71.9 188→188
6417 SANKYO 4.94 6,072.0 4,028 40.4 150→300
注:配当金は前期実績→今期計画

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.7%以上(11月17日現在)
  2. 配当性向が75%以下
  3. 時価総額が3,000億円以上
  4. 今期減配予想銘柄除く

厳選・高配当銘柄(5銘柄:コスモエネルギーHD、神戸製鋼、あおぞら銀、JT、SANKYO))

1 コスモエネルギーHD(5021・東証プライム)

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。現有処理能力は1日当たり40万バレル程度で、千葉、堺、四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、エチレンやパラキシレンなどの石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。筆頭株主だったアブダビ政府系会社とは2022年に資本提携を解消しています。

 2024年3月期上半期経常利益は831億円で前年同期比52.2%減となっています。在庫影響を除いたベースでは779億円で同5.0%減でした。石油事業はマージンの改善で実質増益となっていますが、石油化学事業は市況の軟化で、石油開発事業は工事の影響に伴う一時的な数量減でそれぞれ減益となりました。

 2024年3月期通期経常利益は1,550億円で前期比5.8%減の見通しです。従来予想の1,250億円から上方修正しています。在庫の影響に加えて、石油市場のマージン改善が主な上振れ要因となるようです。なお、年間配当金は前期比150円増の300円を計画しています。

 2026年3月期までの中期経営計画では、3カ年累計の総還元性向を60%以上としているほか、下限配当は250円以上と設定しています。石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢と言えるでしょう。

 また、旧村上系ファンドとされるシティインデックスイレブンスが共同保有者分を合わせ議決権で約20%の株式を所有する大株主となっていることも引き続き思惑材料となります。直近では、米国でのリチウム資源開発事業への新規参入をめざし子会社を設立しました。

2 神戸製鋼所(5406・東証プライム)

 国内第3位の高炉メーカーです。事業領域は幅広く、アルミ圧延品、素形材、溶接材、建設機械・産業機械、プラント・電力など、バランスの取れた事業ポートフォリオとなっています。一方、鉄鋼大手の中では相対的に輸出比率は低くなっています。

 兵庫県の高砂製作所で水素ガスの供給に向けた実証施設の稼働を開始しています。また、三井物産とオマーンで、鉄鋼原料の「直接還元鉄」製造事業の具体的な検討に入っています。

 2024年3月期上半期経常利益は916億円で前年同期比2.2倍となっています。原料炭価格の下落と販売価格改善の進展による鉄鋼メタルスプレッドの大幅な改善に加えて、機械・エンジニアリングの売上増加、神戸発電所4号機の稼働などが大幅増益の要因となっています。

 2024年3月期通期見通しは1,450億円で前期比35.7%増の見通しです。機械や電力事業を上方修正する一方で、販売数量減少から鉄鋼アルミ事業は当初見込みを下振れするようです。年間配当金は前期比50円増の90円を計画しています。

 8月に配当性向の見直しを発表しており、これまで15~25%程度を目安としていたものを30%程度目安に変更しています。鉄鋼大手の中では市況変動による業績変動リスクは相対的に低く、中長期的な買い安心感があるといえるでしょう。また、株式持ち合い関係にある日本製鉄との関係強化などへの期待も残るところです。

3 あおぞら銀行(8304・東証プライム)

 経営破綻して公的資金による救済を受けた日本債券信用銀行が前身です。中堅・中小企業との取引、不動産や事業再生案件といった専門性の高い融資を扱う「スペシャルティ・ファイナンス業務」が特徴です。コンパクトな規模で全国・海外において事業展開を行っています。

 インターネット銀行ではGMOと提携しています。配当は四半期ごとに実施しており、個人投資家の保有比率が高いことも特徴です。9月末の自己資本比率は9.63%となっています。

 2024年3月期上半期純利益は120億円で前年同期比21.7%減となっています。あおぞら型投資銀行ビジネスが好調に推移してビジネス利益は大幅増益となっていますが、与信関連費用の増加が重しとなりました。2024年3月期通期計画は240億円で前期比2.8倍の見通しです。

 前期に国債等債券損益で損失が発生しており、これが軽減することが大幅増益の要因となります。上半期で進捗(しんちょく)率は50%と順調に推移しています。年間配当計画は前期比横ばいの154円を計画しています。

 配当性向は50%としていますが、会社側では一時的に配当性向が高くなることも選択肢であるとしています。銀行セクターの中でも配当利回りの水準は高く、四半期配当を実施していることで、権利落ち分が分散されることから、権利落ちによる短期的な株価下落リスクが低いことも安心感につながります。

 目先は日銀の金融政策変更が他の銀行株と同様に期待材料となります。会社側では、円金利が全年限において0.1%上昇した場合の年間資金利益影響額は約24億円のプラスになると試算しているようです。 

4 日本たばこ産業(JT)(2914・東証プライム)

 たばこ事業が売上の9割超を占め、世界的にもトップ3に位置付けられています。現在の利益成長の柱は、2007年のギャラハー社買収をはじめ、相次ぎ大型買収を行って事業基盤を拡大させてきた海外事業となります。

 加熱式たばこ分野にも注力しています。たばこ以外では、医療用医薬品や加工食品事業なども手掛けています。2022年12月期には、調整後営業利益に占めるロシア市場の割合は約22%となっていました。

 2023年12月期第3四半期累計の為替一定ベースでの調整後営業利益は6,755億円で前年同期比5.9%増になっています。たばこや医薬事業が増収となっているほか、全ての事業が増益推移となっています。

 同ベースにおける調整後営業利益の2023年12月期通期計画は7,640億円で従来予想の7,300億円から上方修正しています。キャメルの伸長などによるグローバル・フラッグシップ・ブランドの好調、加熱式たばこの販売エリア拡大など、たばこの販売数量増加のほか、全事業が上振れとなるもようです。なお、年間配当金は前期比横ばいの188円を計画しています。

 会社側の株主還元方針として配当性向は75%を目安としており、利益の拡大は配当水準の引き上げにつながりやすくなっています。高温加熱型の加熱式たばこ「Ploom X」の海外展開本格化が今後の期待材料となります。

 2024年12月期には14カ国で販売を開始し、2024年末には28市場での販売開始を見込んでいます。紙巻きたばこと比較して利幅が大きく、2025年12月期にかけて利益拡大をけん引していくものと考えられます。

5 SANKYO(6417・東証プライム)

 パチンコ・パチスロ機の大手メーカーで、開発力の高さに定評があります。1980年に開発したパチンコ機「フィーバー」が大ヒットしました。パチンコ機では販売台数シェア第2位となっています。

 パチンコ機業界はヒット機種の有無によって業績変動リスクが大きくなりやすいことはリスク要因となります。一方、自己資本比率は約85%の水準で、無借金経営など財務体質は極めて良好です。

 2024年3月期上半期営業利益は455億円で前年同期比72.1%増となっています。パチンコ機は「フィーバー機動戦士ガンダムSEED」などを中心に販売台数が拡大、パチスロ機はタイトルの充実によってスマートパチスロの普及が進展し、売上は急拡大しました。

 2024年3月期通期では595億円、前期比1.7%増の見通しですが、上半期の高い進捗率や下期にも新タイトルの投入が予定されていることなどから、大幅な上振れが期待できるでしょう。年間配当金は前期150円の2倍の水準となる300円を計画しています。

 9月には配当方針の変更を発表しており、連結配当性向40%を目安とした業績連動型配当を行うとしています。これが前期比での大幅増配につながる形です。また、安定配当の要素も取り入れ、年間配当金の下限を100円に設定しています。

 加えて、11月には自己株式の取得実施も発表しました。発行済み株式数の18.56%に当たる1,000万株を取得上限としており、立会外取引で600万株を取得しています。良好な財務体質を背景に今後も機動的な自社株買いが実施されると見られ、1株当たりの価値向上につながっていきそうです。