工業のプラチナ需要が過去10年で世界のGDP成長率の2倍となる5.4%を達成した背景には、世界のガラスとガラス繊維の生産が急増したことがある。ガラスの生産能力増強には定期的なサイクルがあるが、ガラス繊維の需要は再生可能エネルギー産業と自動車の軽量化傾向に支えられて右肩上がりを続け、今後のプラチナ需要に安定した貢献ができるだろう。

 プラチナとロジウムの合金は高価だが、高温と腐食に耐える必要のある加工過程には最も適しており、高品質のガラス繊維とシートの生産に不可欠だ。2020年までガラス産業は工業のプラチナ需要の約12%を占めていたが、今では22%〜30%にまで増えている(下図)。工場の生産設備拡大による需要には周期性があることを考えると、この大きな需要増は、設備投資によるものだけではなく、持続的な需要の成長が背景にあると言えるだろう。

 世界のグラスファイバー生産は2013年以降、年間平均6.9%で成長し続けており、その中心は5割〜7割のシェア(下図)を持つ中国。これを支えているのは家電製品のガラス繊維と高品質スクリーンの需要だが、コロナ禍で急増した家電製品の需要によるガラス需要はいずれ落ち着くだろうし、断熱材の需要によるガラス需要も問題がないわけではないが、ガラス繊維の需要は、特に再生可能エネルギーの分野での利用によって今後も順調に増え続けるだろう。

ガラス産業の伸びでプラチナ需要は新たな段階に

資料:2013年〜2018年はSFA(オックスフォード)、2018年〜2023年予測はメタルズフォーカス、WPIC リサーチ

中国が世界のガラス繊維生産の伸びを牽引

資料:China Glass Fibre Industry Association、WPIC リサーチ

 中国は世界のガラス繊維生産の7割(2023年)を占める最大生産国で、2025年までの大規模な生産拡大計画を進めている。中国のグラスファイバー5社だけで2023年から2025年の間に、世界の現在の生産能力の2割に当たる年間220万トンの増産が計画されており、中国の生産能力は2025年までに32%増える(2023年は80万トン、2024年〜2025年に140万トン、図4)ことになる。生産拡大計画には遅延のリスクもあるが、一方で再生可能エネルギー市場は生産規模拡大が必須だ。特に風力発電能力は2022年〜2030年の年間平均成長率9.5%(図5)が期待されている。風力タービンの製造には従来の建築材よりも優れているグラスファイバー複合材が使われている。

 たとえ不況にあっても政府の再エネ発電支援は停止することはないため、これがガラス産業の成長を支える基盤となって、2027年までに、2020年の水準より8.7トン多い、年間約15.6トンというプラチナ需要を生み出すだろう(図6)。

年平均5.4%という工業のプラチナ需要の成長率は2013年以来、世界のGDP成長率のほぼ2倍

中期的な生産能力拡大計画の存在と、成長著しい風力タービン市場の需要を満たす必要から、ガラス産業のプラチナ需要は今後も持続可能

投資資産としてのプラチナ

- WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続く
- 水電解装置や燃料電池に使われるプラチナを通じて水素経済の発展に投資できる
- 南アフリカの電力問題、対ロシア制裁などでプラチナの供給には問題が多い
- 自動車のプラチナ需要はガソリン車の代替需要を主に今後も成長が期待できる
- プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて大幅に安い

図1:ガラス産業のプラチナ需要は、2013年以来の増加が最速であると同時に、変動の大きい分野でもある

資料:2013年〜2018年はSFA(オックスフォード)、2018年〜2023年予測はメタルズフォーカス、WPIC リサーチ

図2:ガラス繊維はインフラ関連分野を主に様々な利用がある

資料:中国巨石、WPIC リサーチ

図3:過去10年間の世界のグラスファイバー生産能力の増加の大部分は中国

資料:China Glass Fibre Industry Association、WPIC リサーチ

図4:中国の5大ガラス生産企業は3年間で32%の生産能力拡大計画

資料:会社資料、WPIC リサーチ *ビッグファイブとは China Giant Stone, China National Building Group, Chongqing International, Shandong Fiberglass, Chang Hai Corp  

図5:風力タービンをはじめ、再エネ需要の増加を支えているのは送電網の脱炭素化の動き

資料:Bloomberg Intelligence、WPIC リサーチ

図6:ガラス産業のプラチナ需要は今後短期間の生産能力増強と、長期の成長の両方からの需要によって2027年まで堅調予測

資料:2013年〜2018年はSFA(オックスフォード)、2018年〜2023年予測はメタルズフォーカス、2024年以降はWPIC リサーチ

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