日経平均、米利上げ打ち止め期待の高まりで堅調推移に

 直近1カ月(9月11日~10月16日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで2.5%の下落となりました。9月15日にかけては買いが先行し、7月3日以来の水準にまで上昇しました。

 ただ、その後は大きく調整し、10月4日には安値3万0,487円を付けて、5月18日以来の水準にまで下落しました。その後反発となりましたが、75日移動平均線水準では上値を抑えられる形となっています。なお、この期間(9月8日~10月13日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は2.6%の下落となっています。

 前半は、米8月CPI(消費者物価指数)発表を波乱なく通過したこと、ECB(欧州中央銀行)の利上げ打ち止め期待が高まったことなどが買い材料視されました。

 10月前半にかけては大きく下落、米FOMC(連邦公開市場委員会)では予想通り政策金利の据え置きが決定されましたが、追加利上げの可能性が除外されないなど先行き見通しがタカ派な内容だったことで戻り売り圧力が強まりました。

 その後も米長期金利が大幅に上昇し、ハイテク株主導で売り優勢の展開が続きました。9月四半期末にかけては、機関投資家のポジション調整の売りなども下げに拍車をかけたようです。この期間には米政府機関閉鎖の可能性が高まり、リスク要因とされる場面もありました。

 10月前半に米10年債利回りがピークをつけて低下に転じると、半導体関連株主導でリバウンドの動きとなってきています。半導体株に関しては、韓国サムスン電子の決算なども買い安心感につながったようです。ただ、中東情勢の悪化などはリスク要因として残っている状況です。

 この期間は、TOWA(6315)レーザーテック(6920)が20%以上の上昇となるなど、半導体関連の一角が買い優勢となりました。また、特に目立った材料は表面化していませんが、楽天銀行(5838)の強い動きも目立ちました。機関投資家の新規組み入れや売り方の買い戻しなど需給要因が主導したものとみられます。

 ほか、マネックスグループ(8698)はマネックス証券のドコモへの売却を決定し、評価材料視される展開となっています。日本取引所グループ(8697)は業績・配当計画の上方修正で、サイゼリヤ(7581)は好決算の発表がそれぞれ評価材料となっています。

 半面、下落率上位には中小型のグロース株が多く顔をそろえています。米長期金利の上昇がストレートに響く形となりました。中でも、想定以上の下方修正を発表した三井ハイテック(6966)は25%超の下落となりました。

 MonotaRO(3064)は月次増収率の鈍化が売り材料となりました。阪急阪神ホールディングス(9042)エイチ・ツー・オーリテイリンググループ(8242)などの小売り関連株、資生堂(4911)コーセー(4922)ファンケル(4921)など化粧品関連株なども比較的下げが目立ちました。

日本の投資環境改善機運を背景に、海外勢の資金流入も拡大へ

 10月下旬からは2023年7-9月期の決算発表が本格化することとなります。4-6月期は全産業ベースで経常利益は前年同期比35%増程度の増益になったと一部で試算されており、2024年3月期通期では前期比12~13%増程度の増益見通しとなっているようです。

 ただ、足元の円安を考慮すれば、通期コンセンサスはより高まっている印象があり、全般的な7-9月期決算数値自体には大きなサプライズは乏しいとみられます。好決算期待銘柄には出尽くし感、逆の銘柄にはあく抜け感が先行しやすい状況といえるでしょう。

 中では、半導体関連などは決算発表が押し目買いの好機となる可能性が高いと考えます。ほか、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業の株主還元強化策の発表も多くなりそうで、これはバリュー株の下支え要因となりそうです。上振れ要因として注視したいのは中国で、足元の景気回復が強い業績の押し上げ要因につながる銘柄なども出てくる可能性はあるでしょう。

 現状のリスク要因としては中東情勢の悪化が挙げられます。問題が長期化した際には、原油相場の上昇を介してインフレ高進の要因となってきます。また、リスク選好通貨である円相場の急反転へとつながっていく可能性もあるでしょう。

 バイデン米大統領が18日にイスラエルのネタニヤフ首相と会談しました。この訪問直前にはパレスチナ自治区ガザの病院の爆発を受けて、アラブ諸国首脳らとの会談が延期されるなど事態は予断を許さなくなっています。

 今後の金融政策イベントとしては、26日にECB理事会、30~31日に日本銀行金融政策決定会合、31日~11月1日にFOMCが予定されています。

 現状、ECB理事会では利上げ打ち止めの公算が大きく、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)でもインフレ指標の鈍化基調が強まる中で利上げを引き続き見送る可能性が高いとみられます。結果、株式市場には買い安心感が強まり、とりわけ、グロース(成長)株を中心とした上昇相場につながると想定します。一方、日銀に関しては不透明感が残ります。

 今回の政策変更の可能性は低いと考えられますが、何らかの形で早期の政策修正実施が示唆される可能性はあります。その際、さすがに円相場の円高への反転が見込まれることで、株式市場にはマイナスに作用する余地が出てきます。円安メリット銘柄には注意が必要となります。

 東京証券取引所では年明けをめどに、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を開示している企業のリストを公表する方針です。PBR1倍割れ銘柄にとってはプレッシャーとなってくることが想定されます。構造改革の進展、株主還元策の充実など、企業のROE(自己資本利益率)向上に向けた取り組みが一段と強化されていくでしょう。

 また、2024年からは新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)のスタートで、「貯蓄から投資へ」の流れが大きく強まることも想定されます。こうした流れは、世界的に見て割安感が強い日本株の見直しにもつながっていくでしょう。例年、海外投資家の日本株への資金流入は10月以降に拡大していく傾向にありますが、今回は資金流入の拡大ペースが大幅に強まるものと考えられます。

新NISAスタートを控えて、連続増配を続ける銘柄群にも注目

 2024年からの新NISAスタートを控え、今後も年末にかけてNISAの話題が盛り上がることが予想されます。NISAの投資対象としては、もちろん高配当利回り銘柄が挙げられますが、同時に連続増配銘柄なども有望と考えられます。

 今後も年々配当水準が切り上がっていく可能性は高く、仮に株価が一定水準で推移したとしても、将来的な配当利回り妙味は高まることになります。今回は連続増配を続けながら、現段階でも高配当利回りの水準にある銘柄をスクリーニングしています。新NISAの有望な投資対象として、現段階で仕込んでおくことも一考すべきと考えられます。

 連続増配銘柄として、「日経連続増配株指数」構成銘柄に注目しています。これは、国内上場銘柄のうち連続増配を続ける銘柄から構成される時価総額ウエート方式の株価指数です。原則として10年以上連続して増配する企業70銘柄を対象に算出しているようです。

 なお、個別銘柄への投資ということを考慮して、リスクを抑える観点から時価総額3,000億円以上という大型株をスクリーニング算出の対象としています。

(表)連続増配を続ける高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
10月16日
終値
(円)
時価総額
(億円)
PBR
(倍)
株価
騰落率
(%)
8593 三菱HCキャピタル 3.81 970.0 14,229 0.91 49.46
1925 大和ハウス工業 3.44 3,923.0 26,140 1.13 29.09
8418 山口フィナンシャルG 3.34 1,288.0 3,404 0.47 49.59
8424 芙蓉総合リース 3.33 11,710.0 3,546 0.96 35.85
4204 積水化学工業 3.23 2,045.5 9,481 1.25 10.87
注:株価騰落率は年初来

銘柄選定の要件

  1. 日経連続増配株指数構成銘柄
  2. 配当利回りが3.2%以上(10月16日現在)
  3. 今期増配予想銘柄
  4. 時価総額が3,000億円以上

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 三菱HCキャピタル(8593・東証プライム)

 三菱UFJグループでリース業界の最大手企業、営業資産残高は6月末時点で9兆8,902円の水準になっています。2021年4月に三菱UFJリースと日立キャピタルが統合して発足しました。

 リース、割賦・貸付などのカスタマーソリューション事業が主力で、航空事業、不動産事業、ロジスティック事業、環境エネルギー事業など幅広く展開しています。2026年3月期までの中期計画では、ROE10%程度の計数目標、配当性向40%程度などのイメージが示されています。

 2024年3月期第1四半期純利益は351億円で前年同期比9.6%増となっています。海外地域における貸倒関連費用や米子会社再編に伴う経費増などは重しとなりましたが、リース収入の増加など航空事業が好調であったほか、不動産事業におけるセンターポイント・ディベロップメントの完全子会社化に伴う特別利益の計上などが収益の押し上げ要因となりました。

 通期計画は1,200億円、前期比3.2%増の見通しです。第1四半期の進捗(しんちょく)率は29.3%と順調です。年間配当金は前期比4円増配となる37円を計画しています。

 2000年3月期から連続増配を行っており、2024年3月期は25期連続増配の見通しとなっています。会社側では、株主還元は配当によって行うことを基本とし、利益成長を通じて配当総額を持続的に高めていく方針としています。

 再生可能エネルギーの普及拡大など環境エネルギー事業を中心に、業績は当面安定した拡大が続く可能性が高く、高い配当性向目標(40%以上)から、それに伴う配当成長も期待できます。三菱UFJグループの金融関連企業でもあり、長期投資に向けての買い安心感が強い銘柄と捉えられるでしょう。

2 大和ハウス工業(1925・東証プライム)

 大手住宅会社の一角であり、積水ハウス(1928)との比較では、商業施設や事業施設などの構成比が高いほか、住宅でも賃貸住宅の比率が高いことが特徴となっています。海外での不動産投資なども積極的に手掛けているほか、豊富なメニューを要因とした地主への土地活用の提案力が強みとも指摘されています。

 なお、戸建て住宅事業については、近年では米国で国内以上の戸数を販売する状況になっています。

 2024年3月期第1四半期営業利益は930億円で前年同期比55.9%増となっています。物流施設を中心に開発物件売却が順調に推移したほか、ホテル事業もコロナ禍から順調に回復し、米国戸建住宅および中国マンションの引渡しなども順調のようです。通期では3,800億円、前期比18.3%減の予想を据え置いています。

 減益となるのは、前期において退職給付債務に関する一時的な押し上げ要因があり、それが一巡するためです。この影響を除いたベースでは、前期比3.0%増益の見通しです。年間配当金は前期比5円増の135円を計画しています。

 2024年3月期は13期連続での増配実施予定となっています。株主還元策としてはその他、6月から2024年3月末にかけて、上限350億円の自社株買いを実施中でもあります。ROE13%以上を目指す方針であることから、自社株買いは来年度も継続して行われる可能性があるでしょう。

 収益に占める米国事業のウエートが高まってきていることからも、今後は米国での利上げ打ち止めが業績面でもポジティブに働いていくことが想定されます。

3 山口FG(8418・東証プライム)

 山口県を地盤とする山口銀行と、広島県を地盤とするもみじホールディングスが経営統合して、2006年10月に設立された持株会社です。2011年には北九州市に本店を置く唯一の地方銀行として北九州銀行の営業も開始しています。

 中国地方最大の地域金融グループとなっています。2023年3月期には、山口キャピタル、ワイエムリース、やまぎんカード、もみじカードをそれぞれ完全子会社化しています。中期計画では、2025年3月期純利益330億円を目標としています。

 2024年3月期第1四半期純利益は87億円で前年同期比15.0%増となっています。貸出金利息の増加などによって、経常収益が大幅に拡大しています。通期計画は期初計画を据え置いており、240億円で前期比34.1%増を見込んでいます。

 キャピタル収益を中心に有価証券運用収益が大きく拡大することが主因で、与信費用の改善なども見込まれるようです。第1四半期の進捗率は36.6%の水準となっています。なお、年間配当金は前期比12円増の43円を計画しています。

 2012年3月期以降は連続増配を続けており、2024年3月期は13期連続増配の見通しとなっています。配当性向40%程度を目標としている中、中期計画では2025年3月期純利益の大幅増益を見込んでいるため、来期にも大幅な増配が行われる可能性は高いと判断されます。

 日銀の金融緩和政策の修正は遠くない時期に実施されるとみられますが、地銀セクターはその際に最も大きなメリットが得られるものとして注目されます。PBRは0.5倍未満の水準であり、地銀の中でも株価の上昇余地は大きいと考えます。

4 芙蓉総合リース(8424・東証プライム)

 リース業界大手の一角でみずほ系です。6月末の営業資産残高は2兆7,341億円で、うちリース資産残高は1兆6,810億円となっています。物件別リース契約実行高では、建物等、情報・事務用機器、輸送用機器などのセグメントが上位となっています。

 エネルギー環境やモビリティ、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの領域を成長ドライバーと位置付けています。足元では「地域特化型ヘルスケアファンド」運営会社を設立しています。2027年3月期には配当性向30%以上を目指すとしています。

 2024年3月期第1四半期経常利益は138億円で前年同期比6.6%増となりました。成長ドライバーに位置付ける事業が好調に推移してコスト増を吸収、第1四半期としては過去最高を更新しています。通期では640億円で前期比7.2%増の見通しです。

 エネルギー環境事業や不動産事業がけん引して営業資産残高は順調に拡大しており、売上高の増加を見込んでいるようです。年間配当金は前期比47円増配となる390円を計画しています。

 2004年の12月に株式を上場し、2005年3月期に初配当を実施、2024年3月期は19期連続増配の見通しとなっています。全上場企業においても連続増配記録の上位銘柄として位置づけられています。

 会社側では、2027年3月期に配当性向30%以上を目指すとしており、今後も当面は増配基調が継続される見通しです。また、3,000円相当の「カタログギフト」または「図書カード」を贈呈する株主優待も行っています。保有期間が2年以上となれば、5,000円相当のものとなります。

5 積水化学工業(4204・東証プライム)

 高機能プラスチック、住宅、環境・ライフラインが3本柱となっています。高機能プラスチックでは、自動車ガラス向け中間膜、液晶向け素材、塩ビ管など、高機能製品から汎用品まで幅広く手がけており、とりわけ、中間膜では世界シェア40~50%と推定されています。

 住宅はユニット工法を採用した「セキスイハイム」を展開、累積60万棟以上を販売しています。環境・ライフラインでは塩ビ管材などで国内有数のシェアを誇っています。中期計画では、2026年3月期営業利益1,150億円を目標としています。

 2024年3月期第1四半期営業利益は152億円で前年同期比10.4%増となっています。エレクトロニクス分野が低調で高機能プラスチックは減益となりましたが、単価アップによる住宅の伸長、環境・ライフラインの利益率向上がけん引しました。

 政策保有株の売却が進み、純利益は大幅増益となっています。通期営業利益は1,000億円で前期比9.1%増の見通しを据え置き、第1四半期は売上高が下振れながら、利益は計画線での推移となっているようです。年間配当金は前期比7円増の66円を計画しています。

 2011年3月期より増配を続けており、2024年3月期は15期連続での増配となる見通しです。また、2014年3月期以降は毎年自社株買いを実施中でもあります。株主還元に関しては、連結配当性向40%以上、DOE(自己資本配当率)3%以上などを掲げているようです。

 化学セクターの中では数少ない第1四半期営業増益銘柄であるほか、住宅事業の環境も現在は厳しい状況と捉えられます。こうした厳しい環境下で順調な業績推移を示していることから、来期以降の業績には安心感も持てそうです。