時代はレイ・ダリオの指摘する革命と戦争のフェイズにあるようだ

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルへの大規模攻撃を行った。イスラエルのネタニヤフ首相は「ハマスが残酷で邪悪な戦争を仕掛けた」として、強力な報復措置を取ると表明。イスラエル部隊とハマス戦闘員との衝突が続いている。

イスラエルの主要株価指数TA-35CFD(週足)

(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター(マーケットナビゲーターの売買シグナル)

 ポール・チューダー・ジョーンズは、「誰もが巻き込まれる世界大戦の連鎖が起こるかもしれない」という懸念を示し、地政学的な不安定な状況について、ウクライナ戦争、イスラエル戦争、そして中国と台湾という3つの大きな火種があることを指摘した。

 チューダーはCNBCのインタビューで、「再びリスク資産に飛び込む前に、個人的に解決策を待ち、イスラエル・ハマス紛争の潜在的な影響を評価する。核戦争の可能性を排除していない。2024年の第1四半期に景気後退が始まる。米国は第二次世界大戦以来最も財政状態が脆弱である。2025年までに1兆ドルの貯蓄を見つける必要があり、増税と歳出削減を行うべきだ」と述べた。

 債券王のジェフリー・ガンドラックは、「米国政治の分裂は、中東戦争によってついに明らかになった。新秩序を主張しながら旧秩序を永続させることはできない。ドックに片足、カヌーに片足を突っ込めば、海に沈むことは確実だ。米国の国家債務は、欧州での代理戦争の影響もあり、3週間足らずで33兆ドルから33兆5,000億ドル以上に増加した。現在、中東で別の(おそらくより大規模な)軍事作戦が行われている。政治家たちは、勝利まで両戦争を全面的に支援することを誓っているが、その定義は定まっていない」とXにポストした。

 ピーター・シフはポッドキャストで、「週末、ハマスがイスラエルを攻撃し、中東で戦争が勃発した。アメリカには平和を手にする余裕はなく、ましてや戦争をする余裕などない」と語った。

 ウォール・ストリート・ジャーナルが報道しているように、米国は長年、世界の最後の貸し手だった。1990年代の新興国市場のパニック、2007~2009年の世界金融危機、そして2020年の新型コロナウイルス流行による経済活動停止の際、米財務省の比類なき借り入れ能力が救いの手を差し伸べた。

 だが、今の米国にもうそんな余裕はない。米国政府が初めて33兆ドルを超えた後、5,000億ドル以上の債務を追加するのにかかった日数はわずか18日だった。米国の債務は1975年3月には5,000億ドルだった。同じことを18日間でやってのけたのだ。

 ジャネット・イエレン財務長官は(現在の債務水準を考えると)、金利の上昇は実現不可能であることを理解している。税収に占める金利コストの割合を予測した以下のCBOのグラフは、政府が長期金利を引き下げる以外に選択肢がないことを浮き彫りにしている。現在の金利水準は米国を破産させるだろう。

米国の税収に占める金利コストの割合

出所:Bianco Research

 バイデン政権のひたすらカネをばらまくというMMT(現代貨幣理論政策)はパンデミック後の米景気回復を演出したが、同時に過去50年で最悪のスタグフレーションを起こした。そのため、これまでFRB(米連邦準備制度理事会)はドル防衛のためのインフレファイトを続けてきたが、それもいったん限界が来たようだ。

「突然、米国・ウクライナ・ロシア戦争が米国・イスラエル・ハマス(イラン?)戦争に拡大した」と、ジェフリー・ガンドラックも驚いたようだが、イスラエル・ハマス紛争を受けて、米金融当局は「地政学的な分断と大国間の対立という危険な新世界に突入した」という認識を示し、米ミネアポリス地区連邦準備銀行のカシュカリ総裁は10月10日、「最近の長期国債利回りの上昇が、FRBの利上げ幅の縮小を意味する可能性がある」と述べた。

 米金融当局の高官らは、「最近の米国債利回りの急上昇を受けた金融環境の引き締まりが、追加利上げの代わりになり得る」との考えでまとまりつつある。

米10年国債金利(日足)

(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター(マーケットナビゲーターの売買シグナル)

 FRBはこれから「利上げ停止期間」に入る可能性が高くなっている。株式市場はこれで「シーズナルパターンによる10月末買いに動ける」と判断したようだ。過去の経験則では、利上げ停止期間の株式市場は下がらないからである。

S&P500のシーズナルチャート(過去20年の平均)

出所:エクイティクロック

ナスダック100と2年国債金利の推移(1996~2010年)

利下げは株式にとって強気ではない!?それはシステムで何かが壊れたことを意味する。
出所:筆者作成

政策金利の上限値と平坦域(利上げ停止期間)

出所:WOLFSTREET

経済の仕組み

出所:Wall Street Silver

 今後、景気減速と流動性イベントが同程度に起きる可能性がある。投資家にとって一番大切なのは、防御である。すなわち、大きな下げに巻き込まれないこと! それに尽きる。勉強もしないで参加すれば丸裸にされてしまうのが相場だ。大きな損失を出せば、取り戻すのに10年、20年と貴重な年月を要することになる。株式の長期投資を急ぐことはないだろう。

 特に個人投資家は、本当の機会が来るまで現金の上に座っていることに問題はない。現在、世界の政策金利がピークにあるならば、5%超の短期の米国債を持っていればいいのである。忍耐強くあることは、トラブル(大きな下げ)に巻き込まれない方法である。

「私は道にカネがころがり落ちるまで待っている。私はそこに行って、カネを拾い上げるだけだ。今後10年間、バイアンドホールドでリターンが得られるとは思っていない」
(スタンレー・ドラッケンミラー)

コモディティのスーパーサイクル

 ブルームバーグの報道によると、「国際秩序は、第二次世界大戦後の混乱後のどの時期よりも多くの場所で、より大きなストレスにさらされている」という。

 ボブ・エリオットは、「最近、私たちが経験した数十年にわたる平和は、長期的な文脈から見れば極めて異例なことである。600年にわたる紛争チャートは、最近の紛争がいかに極端に少ないかを浮き彫りにしている(13年以降、1.0を下回るまで上昇している)。ほとんどの投資家は、紛争が増加する時期への備えができていない」と、紛争の拡大を懸念している。

1400年以降の世界の紛争による死亡者数

出所:マックスローザー Bob Elliott@BobEUnlimited

 世界経済は主要な成長エンジンが減速し、地政学的緊張、高水準の公的債務、高齢化などの短期要因と長期制約が重なり、勢いを失いつつある。心配されるのは原油価格の動向である。確率は低いが、最も極端なシナリオは、イスラエルがイランの核施設を攻撃することである。この場合、原油価格(WTI)は150ドルを大きく上回る可能性がある。

NY原油CFD(週足)

(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター(マーケットナビゲーターの売買シグナル)

オクシデンタル・ペトロリアム(週足)

バフェットの「インフレ・戦争ヘッジ」銘柄
(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター(マーケットナビゲーターの売買シグナル)

 長期的に見ても上昇傾向にあり、再び100ドルを超えてくることも想定される。

1970年以降の原油価格の動向

出所:セントルイス連銀

 JPモルガンは昨年、コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘している。世界は次のコモディティの「スーパーサイクル」に突入したという予測である。

 過去100年間で、一般的に4回のコモディティスーパーサイクルがあったといわれている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったというものだ。

原油のスーパーサイクルとそのドライバー

出所:JPモルガンの資料より筆者作成

 1996年からのスーパーサイクルをけん引した重要なドライバーは、中国を含む新興国の経済的な台頭であった。当時、米ドルは弱含んでおり、資産運用会社はポートフォリオを分散させるためにコモディティへのエクスポージャーを追加するケースが増えていた。

 その後、2008年の世界的な景気後退は、欧州(2011年)と中国(2015年)のさらなる減速と相まって、コモディティ価格を下押しし、トランプ政権時代の「貿易戦争」やそれに続く世界的な製造業の不況、そして原油価格を史上初めてマイナスの領域に送り込んだ悲惨なパンデミックを経て、12年のダウンサイクル(価格下落サイクル)の終わりを告げたと見ている。

米帝国の背後にある典型的なビッグサイクル

出所:リンクトイン(レイ・ダリオ)

 ロシアによるウクライナ侵攻、ハマスによるイスラエルへの攻撃だけではない。紛争の火種は世界のそこかしこでくすぶっている。イスラエルにとって最悪のシナリオが浮かび上がっている。

 それは、ハマスよりもはるかに手強く、装備の整った準軍事組織であるヒズボラを巻き込んだ恐るべき多面戦争である。まさにレイ・ダリオの指摘する革命と戦争のフェイズにあるようだ。しばらくは中東情勢と原油価格の動きから目が離せない。

10月11日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 10月11日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、紙田智弘さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部)をゲストにお招きして、「ここからの米国株投資の注意点」というテーマで、話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

10月11日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube

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