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本レポートに掲載した銘柄:アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)、アルファベット(GOOGLGOOG、NASDAQ)

アマゾン・ドット・コム

1.2023年12月期2Qは10.8%増収、営業利益2.3倍

 アマゾン・ドット・コム(以下アマゾン)の2023年12月期2Q(2023年4-6月期、以下今2Q)は、売上高1,343.83億ドル(前年比10.8%増)、営業利益76.81億ドル(同2.3倍)となりました。全社営業利益率は5.7%となり、2021年12月期2Q6.8%以来の高い水準となりました。

表1 アマゾン・ドット・コムの業績

株価 125.98ドル(2023年9月28日)
時価総額 1,295,704百万ドル(2023年9月28日)
発行済株数 10,449百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 10,285百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。

2.2023年12月期2Qのセグメント別動向

1)北米事業

 今2Qの北米事業は、売上高825.46億ドル(前年比10.9%増)、営業利益32.11億ドル(前年同期は6.27億ドルの赤字)となりました。売上高が前年比、今1Q比ともに順調に増えたほか、前年比では黒字転換、今1Q比では大幅増益となり、営業利益率も今1Q1.2%から今2Q3.9%へ回復しました。

 北米の物流システムを地方分散し、短期間で配送できる商品を増やしたことによって、従来より値引き率を低くしても商品が順調に売れるようになったこと(配送の速さを重視する顧客が多い模様)、2022年12月期は物流システムに大型投資を実施しましたが、今期は情報システム、ネットワーク投資は増加するものの、物流投資は減少していること、景気が堅調であることなどが大幅増益の要因と思われます。

 また、表3のサービス別売上高をみるとわかりますが、オンラインストアよりも、外部出店者向けサービス(各種手数料、出店料、物流代など)、サブスクリプションサービス(アマゾン・プライムの月会費、デジタル・ミュージック、オーディオブックなど)や、広告サービスの伸びが大きくなっており、これらの業績寄与も大きいと思われます。これは収益多様化努力の成果と言えます。ただし、外部出店者向けサービスは後述のようにアメリカ連邦取引委員会(FTC)に提訴された要因にもなっています。

 北米事業は、今3Q以降も順調な業績が続くと思われます。

表2 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(四半期)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

表3 アマゾン・ドット・コム:サービス別売上高

単位:100万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

2)インターナショナル事業

 インターナショナル事業は、売上高296.97億ドル(前年比9.7%増)、営業損失8.95億ドル(前年同期は17.71億ドルの赤字)となりました。赤字が続いたものの、前年比でも今1Q比でも赤字幅は縮小しました。今1Q比での売上高の伸びは北米事業よりも鈍いですが回復に向かっています。

 インターナショナル事業は、北米以外の地域の景気鈍化とロシア=ウクライナ戦争による主にヨーロッパでの不況が重なったことによって、2021年12月期3Qから赤字転落しました。売上高の伸びが2021年12月期1,2Qの前年比30%以上の伸びに比べまだ鈍いため、当面は赤字が続くと思われますが、赤字縮小によって全社業績に寄与すると思われます。

3)AWS事業

 AWS事業(アマゾン・ウェブ・サービス、クラウドサービス事業)は、売上高221.40億ドル(前年比12.2%増)、営業利益53.65億ドル(同6.1%減)となりました。2022年12月期3Qまで前年比で二桁増収増益が続いていましたが、アメリカ、ヨーロッパでの高金利と景気鈍化に伴ってシステムをダウンサイジングする動きがあったため、前4Qから前年比減益に転じています。

 ただし、2022年年末からの生成AIブームによって、企業の情報システムに生成AIを組み込む動きがはじまっているため、AWSの事業環境は良い方向に向かっています。今2Qは今1Q比では増収増益となり、今3Q以降に対して会社側は強気になっています。

 このような動きの中で、アマゾンはアメリカのAIスタートアップである「アンソロピック」に最大40億ドル(1ドル=149円換算で5,960億円)を投資すると発表しました。まず12.5億ドルを出資し、段階的に拡大する契約です。アマゾンはアンソロピックの技術をAWS中心に幅広く取り入れ、アンソロピックはAWSを使うことになります。これは大規模言語モデルを開発する場合、大きな計算能力が必要になるためです。アンソロピックはアルファベットとも同様の関係にあります(アンソロピックがアルファベットの出資を受け入れ、グーグル・クラウドのユーザーにもなっている)。

 なお、2023年4-6月期の世界クラウドサービス市場のシェアは、アマゾン(AWS)は2023年1-3月期32%からやや上昇し33%となりました。トップシェアを維持しています。マイクロソフト(Azure)は同じく23%から22%へ低下しましたが、2021年1-3月期の20%よりは上昇しています。この中でグーグル(グーグル・クラウド)は同10%から11%へ上昇しています。AWSには、グローバル展開する超大手企業から地域的な中堅企業まで多種多様な企業、公共団体、政府機関等が顧客となっており、これがマイクロソフトの急追を退けてトップシェアを維持している理由と思われます。

グラフ1 クラウド・インフラストラクチャー・サービス市場の世界シェア

出所:Synergy Research groupプレスリリースより楽天証券作成

グラフ2 アマゾン・ドット・コム:北米事業の業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 アマゾン・ドット・コム:インターナショナル事業の業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 アマゾン・ドット・コム:AWS事業の業績推移

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 アマゾン・ドット・コム:セグメント別売上高営業利益率

単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成

3.2023年12月期、2024年12月期とも好業績が予想されるが、FTCの提訴が不透明要因

 前述した各セグメントの業績動向を総合すると、北米、インターナショナル、AWSともに今3Q以降も順調な業績拡大が予想されます。今3Qの会社側ガイダンス(レンジ平均値)は売上高1,405億ドル(前年比10.5%増)、営業利益70億ドル(同2.8倍)ですが、これ以上の業績になる可能性は十分あると思われます。楽天証券では2023年12月期を売上高5,670億ドル(同10.3%増)、営業利益290億ドル(同2.4倍)、2024年12月期を売上高6,440億ドル(同13.6%増)、営業利益420億ドル(同44.8%増)と予想します。前回の楽天証券予想から上方修正します。

 各セグメントの営業利益率は順調に回復中ですが、これは今の経営陣が営業利益率向上に熱心であることも原因の一つです。北米、インターナショナル事業ともに売上高が巨大なので、1%の営業利益率上昇が大きな営業利益増加に結び付く、いわゆるレバレッジが効いた状態にあります(楽天証券の2023年12月期売上高予想は、北米3,490億ドル、インターナショナル1,270億ドル、計4,760億ドル(1ドル=149円換算で70.9兆円)。1%の売上高営業利益率上昇は47.6億ドル(同7,092億円)の営業利益増加となる。これは2022年12月期営業利益122.48億ドルを38.9%増加させることになる)。

 ただし今後を見た場合、不透明要因が2つあります。一つはアメリカとヨーロッパの金利上昇ですが、これは各事業に対してよりも株価に影響すると思われます。金利高による景気の鈍化、悪化はアマゾンのようなネット通販やAWSのように情報システムの規模をある程度調整できる事業では、長期的な事業拡大のきっかけになる場合があります。また、今回は生成AIブームの中であり、AWS事業に対する金利高の影響はあまり考えなくともよいと思われます。

 一方で、FTCによるアマゾンに対する提訴は、訴訟が長引いた場合、アマゾンのネット通販事業拡大の障害あるいは事業拡大スピードが鈍る要因になる可能性があります。

 2023年9月26日、FTCは反トラスト法の疑いでアマゾンを提訴しました。この提訴で焦点になっているのは、アマゾンのマーケットプレイスに出店している外部事業者にアマゾンが様々な圧力をかけているという疑いです。アマゾンの販売価格よりも安い価格を提示しないようにさせたり、アマゾンに広告を出すようにさせたり、アマゾンの物流を使うように圧力をかけたのではないかという疑いです。2023年12月期2Qの外部事業者向け売上高(各種手数料、出店料、物流代など)は323.32億ドル(前年比18.1%増)で全売上高の24.1%を占めています。

 通常、このような提訴は裁判を経て結論が出るまでに時間がかかるため、この提訴の行方には注意が必要と思われます。

表4 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(通期)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の160ドルを維持する

 アマゾン・ドット・コムの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の160ドルを維持します。

 楽天証券では前述のように、2023年12月期、2024年12月期の楽天証券業績予想を上方修正します。また、北米事業、インターナショナル事業の売上高の巨大さと今の経営陣の利益率向上への意欲が強いと思われることから、特に2024年12月期は楽天証券の予想以上に利益がでる可能性もあります。そのため、前回の目標株価160ドルは引き上げてもよい水準と思われます。

 ただし、FTCの提訴が今後アマゾンの積極果敢な経営姿勢を鈍らせることになる可能性があること、アメリカの金利上昇あるいは金利高止まりの状態が続けば、株価上昇の重しになる可能性があることを考慮し、前回の目標株価を維持します。

 長期では引き続き投資妙味を感じる銘柄です。

アルファベット

1.2023年12月期2Qは、7.1%増収、12.3%営業増益

 アルファベットの2023年12月期2Q(2023年4-6月期、以下今2Q)は、売上高746.04億ドル(前年比7.1%増)、営業利益218.38億ドル(同12.3%増)となりました。

 今2Qの営業利益率は29.3%となり、今1Q25.0%より高くなっただけでなく、前期2022年12月期を通じて最も営業利益率が高かった前1Q29.5%に近い水準になりました。今1Qに発表した約1万人の人員削減と現在進行中のオフィス再配置の効果もでていると思われます。これらのリストラ費用の大部分は今1Qに計上されました。

表5 アルファベットの業績

株価(GOOGL) 132.31ドル(2023年9月28日)
時価総額 1,676,103百万ドル(2023年9月28日)
発行済株数 12,764百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 12,668百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

2.セグメント別動向

1)グーグル・サービス

 セグメント別にみると、グーグル・サービス(広告売上高を中心とするセグメント)の中で最も売上高が大きいグーグル検索他(グーグル検索の結果に掲載する広告)売上高が、今2Q426.28億ドル(前年比4.8%増)となり、今1Qの同1.9%増からわずかながら伸びが高くなりました。ユーチューブ広告も今2Qは76.65億ドル(同4.4%増)と今1Qの同2.6%減から回復しました。

 またグーグルその他は今2Q81.42億ドル(同24.2%増)と高い伸びを示しました。この中にはスマホゲームサイトのグーグル・プレイやピクセル等のスマートフォンその他のハードウェアが含まれていますが、ピクセルの売上高が順調だったことが寄与したと思われます。

 その結果、今2Qのグーグル・サービスは売上高662.85億ドル(同5.5%増)、営業利益234.54億ドル(同8.5%増)となりました。アメリカのインフレと金利上昇、ロシア=ウクライナ戦争をきっかけとしたヨーロッパの景気後退等による広告売上高の鈍化によって、前2Qから営業減益となりましたが、今2Qは営業増益に転換しました。

 全社の地域別売上高をみると、最も売上高が大きいアメリカ向けが順調に回復しているだけでなく、今2Qはヨーロッパ、アジア・太平洋向けがアメリカ向け以上の高い伸びとなっています。今3Q以降もグーグル・サービスは業績順調が予想されます。

 なお、検索エンジンの世界シェアを見ると、今もグーグル検索は圧倒的なシェアを持っています。今後は、生成AIによるAI検索が競争相手になると思われますが、アルファベットも今年5月から検索エンジンと生成AIを組み合わせた「検索ジェネレーティブ エクスペリエンス (SGE)」を試験提供しています。ユーザーの反応は良好であるようです。

 生成AIを広告に使う動きも活発になっており(広告制作に生成AIを使うなど)、今後の収益寄与が注目されます。

表6 アルファベットのセグメント別業績(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

表7 アルファベットの地域別売上高

単位:100万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ6 検索エンジンの世界シェア

単位:%、出所:statcounterより楽天証券作成

2)グーグル・クラウド

 クラウドサービスで世界3位のグーグル・クラウドは、今2Qは売上高80.31億ドル(前年比28.0%増)、営業利益3.95億ドル(前年同期は5.90億ドルの赤字)となりました。今1Qに初めて黒字転換しましたが、今2Qは黒字幅が拡大し、営業利益率も今1Q2.6%から今2Q4.9%へ上昇しました。

 もともとアルファベットは現在のピチャイCEOのもと、2015年から「AIファースト」を唱え、完全自動運転、検索AI、翻訳AI、生成AIなど各種のAI開発を行ってきました。生成AIではオープンAI+マイクロソフトに対して出遅れた感がありますが、これはアルファベットやアマゾンが生成AIを本来の用途である文書生成やプログラム生成用AIに重点をおいて開発しているのに対して、オープンAI+マイクロソフトは高精度のアシスタントAIに拡張することを目論んでいるからです。生成AIに対する考え方が各社で違うと言ってよいと思われます。もっともクラウドサービス間の競争があるため、アマゾンもアルファベットも生成AIのアシスタントAIとしての能力拡大に注力しています。アルファベットは対話型生成AI「Bard」を今年3月に公開しています。

 一方で、生成AIを企業システムに組み込む場合、ディープラーニングに使う膨大な学習素材の調達とその著作権管理、企業秘密漏洩をどう防ぐか、継続的な監視とAI開発が必要になることなどから考えて、普通の企業の手におえるものではないと思われます。

 そのため、クラウドサービス大手のビジネスチャンスは生成AIの登場で拡大したと思われます。ちなみに生成AIの開発には大きな計算能力が必要になりますが、会社側によれば主な生成AI開発会社(スタートアップの中でも大手)の70%以上がグーグル・クラウドの顧客です。

 実際に今2Qも生成AIだけでなく、大規模言語モデル等のAIサービスに対する顧客の関心が高く、これがグーグル・クラウドの拡大を牽引しています。

 これらのことを考えると、グーグル・クラウドはアルファベットの2023年12月期、2024年12月期以降の成長事業になると予想されます。楽天証券では、グーグル・クラウドの業績を2023年12月期売上高340億ドル(前年比29.4%増)、営業利益17億ドル(2022年12月期は29.68億ドルの赤字)、2024年12月期売上高440億ドル(同29.4%増)、営業利益50億ドル(同2.9倍)と予想します。

3)その他のベッツセグメント

 医療技術とインターネットサービス関連事業がこのセグメントに入っています。四半期売上高は2億~3億ドルのレンジで推移していますが、営業赤字が続いています。ただし、今期に入って営業赤字は今1Q12.25億ドルから今2Q8.13億ドルに減少しました。この減少が傾向的なものであるならば、全社業績を押し上げる要因になるため注目されます。

3.楽天証券の2023年12月期、2024年12月期業績予想を上方修正する

 楽天証券では、グーグル・サービスの業績回復とグーグル・クラウドの今後の成長性を評価し、アルファベットの2023年12月期、2024年12月期業績予想を上方修正します。2023年12月期は売上高3,090億ドル(前年比9.3%増)、営業利益877億ドル(同17.2%増)、2024年12月期は売上高3,490億ドル(同12.9%増)、営業利益1,090億ドル(同24.3%増)と予想します。前回の2023年12月期売上高2,920億ドル、営業利益780億ドル、2024年12月期売上高3,280億ドル、営業利益950億ドルから上方修正します。

 なお、設備投資については、今1Q62.89億ドルから今2Q68.88億ドルへ増加しましたが、オフィス面積を減らしたことと特定のデータセンタープロジェクトが遅れたことによって会社予想を下回りました。AIサーバーへの投資が大きくなっており、2023年、2024年と設備投資は増加すると予想されます。

表8 アルファベットのセグメント別業績(年度)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の150ドルから170ドルに引き上げる

 アルファベットの今後6~12カ月間の目標株価を前回の150ドルから170ドルに引き上げます。楽天証券の2024年12月期予想EPS(1株当たり利益)7.37ドルに今の予想PER(株価収益率)レンジである20~25倍を当てはめました。

 リスクは金利上昇ですが、好業績と多方面のAI開発に強みを持っていること、2023年4月25日に公表した700億ドルの自社株買いが高評価されていると思われることを考慮しました。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

注:アルファベットの株式は3種類あり、クラスA(議決権付き、ティッカーはGOOGL)、クラスC(議決権なし、GOOG)の2種類の株式がNASDAQに上場されている。これ以外にクラスAの10倍の議決権を付与された非上場のクラスBがある。2023年6月30日時点での発行済み株式数は、クラスA59.34億株、クラスB8.76億株、クラスC58.19億株。クラスBは、創業者であるラリー・ペイジ氏、セルゲイ・ブリン氏と、元CEOのエリック・シュミット氏のみが保有している。クラスBの議決権数がクラスAを上回っているため、クラスAを買い占めてもアルファベットを買収することはできない。自社株買いではクラスA、クラスCともに対象となる。クラスA、クラスCともに過去の株価パフォーマンスは概ね同じである。

本レポートに掲載した銘柄:アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)、アルファベット(GOOGLGOOG、NASDAQ)