米金利高長期化の見通しで、昨年10月以来の円安水準に
先週19~20日の米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)では予想通り利上げ見送りとなりました。ただ、金利見通しで2023年末は前回から据え置きとなりましたが、2024年末と2025年末が前回より0.50%の引き上げられたことから、「Higher for Longer(より高金利で、より長く)」と市場はタカ派的に捉えました。
一方、日本銀行は21、22日の金融政策決定会合で、大規模金融緩和の維持を決めました。植田和男総裁は会合後の記者会見で、9日付の読売新聞のインタビュー記事を打ち消すように、金融政策を修正する時期は「到底決め打ちできない」と述べました。日米金融政策の違いが再確認されたため、外国為替市場でドル高円安が進行し、今週に入って、一時1ドル=149円台の昨年10月以来の円安水準となりました。
為替介入は日米間で既定路線?円安急進に警戒を
一方で、日本政府による為替介入への警戒感も根強いことから円安の進行は緩やかです。ただ、ここ数週間の円安は、値幅も大きくないことからボラティリティ(変動の度合い)が低く推移しているため、この状況では実弾介入は難しいかもしれません。しかし、通貨当局による円安けん制発言はトーンが一段上がっている印象を受けるため注意が必要です。
政府の為替政策の実務を取り仕切る財務省の神田真人財務官は20日、省内で記者団に、円安について「あらゆる手段」を排除せず、適切に対応していく考えを改めて示しました。この言い回しはこれまでのけん制発言と同じですが、米国の通貨当局と緊密に意思疎通を図っていることを明らかにし、米当局との意思疎通を通じて「過度な変動が好ましくないとの認識を共有している」と述べました。
この神田発言に先立ち、米国のイエレン財務長官は19日、日本が再び円買い介入を行った場合、理解を示すかと記者に問われ、「我々は通常、こうした介入について日本側と意思疎通を図り、為替相場の水準に影響を与えようとするのではなく、過度な変動をならす必要性を総じて理解している」と発言し、日本側と協議の状況次第だと述べました。
イエレン氏の発言は、介入自体は否定していないことから、ボラティリティが高くなった時には介入に理解を示すと捉えることもできます。いずれにしろ、イエレン氏のレベルまで日米当局は過度な変動は好ましくないとの認識を共有していることが明らかになりました。
また、岸田文雄首相が25日、円安進行について「為替相場については、引き続き高い緊張感を持って注視したい」と首相官邸で記者団に警戒感を示しました。一連の日米の認識共有発言や首相自らのけん制発言から介入は規定路線かもしれません。
ただ、この水準になったから警戒するというよりも、相場が円安に急変した時により警戒し、臨戦態勢に入った方が良さそうです。
米経済軟着陸を左右する四つの不確実性、FRB利上げ判断影響も
日米の9月の金融政策決定会合後、日米の違いが再確認されたため円安が進んでいますが、年末までこの構図が続くのでしょうか。年末までにはいくつかのハードルが待ち構えているようです。
FOMCでの金利見通しについては、2023年末は6月と同じ5.6%(中央値)でした。FOMCの19人の参加者中12人がこの見通しを示し、現在の政策金利は5.25%~5.50%で据え置かれたので、11月(10/31~11/1)か12月(12/12~12/13)のどちらかの会合で利上げが適切と考えているようです。しかし、この11月か12月の利上げ見通しについては一波乱も二波乱もありそうです。
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は次回の利上げについて、慎重に判断するとして時期に言及しませんでした。また、パウエル氏は経済の軟着陸の成否が「我々のコントロールできない要因によって決まるかもしれない」と、四つの「不確実性」を指摘しました。その影響や可能性とは、
(1)コロナ禍で猶予されていた学生ローンの返済再開によって個人消費が圧迫され米経済に影響する可能性
(2)UAW(全米自動車労組)のストライキが長期化すればGDP(国内総生産)を下押しする可能性や他業種にストライキが波及する可能性
(3)原油高によるインフレ再燃の可能性
(4)米政府閉鎖の長期化により経済指標の公表が遅れ、金融政策に必要なデータの取得困難になる可能性
これらの「不確実性」によって次回利上げ時期の判断に慎重になっているものと推測されます。
例えば、原油高によるインフレ再燃を警戒し、11月会合で利上げをした後に個人消費の低迷やストライキ長期化の影響などによって景気が下押しされれば、11月の利上げは景気をさらに冷やすことになりかねません。
逆に、11月に利上げを見送った場合、その理由によっては一気に金利低下、ドル安に反応することが予想されます。景気後退が鮮明になれば、インフレも低下し、場合によっては12月も見送りというシナリオが浮上してきます。
今月26日に発表された、米個人消費の先行指標とされる9月消費者信頼感指数は103.0と予想を下回り、2カ月連続で悪化しました。特に先行きを示す期待指数は73.7と前月から大きく下がり(前月比9.6ポイント減)、景気後退リスクを示唆する水準80を下回りました。
また、2024年末の金利見通しの中央値が0.50%引き上げられましたが(4.6→5.1%)、メンバーの見通しにかなりのばらつきがあります(4.4~6.1%)。FOMC参加者19人のうち、ほぼ半数の9人は5.1%未満を予想しています。今後の状況次第では見通しも振れることが予想され注意する必要がありそうです。
このように、まだまだ年内は一波乱も二波乱もありそうです。まずは米国の予算を巡る調整が難航し、10月1日から米政府機関が閉鎖されるのかどうか注目です。
日銀の早期修正観測くすぶる、物価見通し引き上げあるか焦点
日銀の植田総裁は今月22日の日銀金融政策決定会合後の記者会見で、金融政策を修正する時期について「到底決め打ちできない」と発言し、市場の早期修正観測をけん制しました。
日銀は「賃金の上昇を伴う形で」持続的・安定的に物価が2%目標を上回る状況を目指しているとしていますが、政策修正の判断を来年春ごろの賃上げ交渉の結果が明らかになるころまで全くしないということでしょうか。その間も物価が日銀の想定以上に動き、円安が続いていても日銀は動かないのでしょうか。
22日に発表された8月CPI(生鮮食品を除く)は前年同月比3.1%の上昇となっています。2022年4月以降2%を超えており、12カ月連続で3%を超えている状況となっています。
日銀が発表した7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2023年度物価見通しを2.5%、2024年度は1.9%としています。12カ月連続で3%を超えている現在の物価環境で、次回10月の展望リポートで2023年度を2.5%から上方修正するかどうか、また2024年度が1.9%から2%超とするかどうか注目です。2024年度が2%超となった場合は、再びマイナス金利解除の思惑が強まり、円高に振れやすくなりそうです。
日銀は原油上昇による物価上昇は一時的とみているようですが、生鮮食品・エネルギーを除く物価指数は5カ月連続で4%を超えている状況となっています。来春を待たずに日銀は政策修正に動くとの観測もくすぶっている中、10月の展望リポートの注目度がますます高まります。
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