NISAで投資デビュー!何を買えばいい?

 岸田政権が引っ提げている「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズは、筆者が証券業界に入った20年以上前から頻繁に使用されている言葉だ。真新しさは全く感じない。

「これからは銀行など間接金融の時代から、証券など直接金融の時代に変わる」と先輩から言われ、その言葉を愚直に信じ続けて20年超。ようやく政府主導による枠組みにおいて、このキャッチフレーズの萌芽(ほうが)となりえそうなのが、ここ最近よく耳にするNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)だと筆者は考えている。今回は、このNISAを取り上げたい。

 NISAで投資を始める初心者の中には、「何をいつ買ったらいいの?教えてよ!」「で、誰に聞けばいいの?」という考える人が多いだろう。そんな方にこそ、読んでもらいたい。投資に正解は存在しないが、正しい投資の考え方を伝えることはできる。

 購入を検討する銘柄は、投資家の考え方次第で十人十色だ。高配当銘柄など価格のボラティリティ(変動率)が低い銘柄を中心に保有する(ポートフォリオを組む)戦略もあるし、株価が10倍以上に上昇する「テンバガー(10倍株)」を期待できそうな銘柄を多く選ぶ戦略もあるだろう。

 大事なのは、自身が背負うことができるリスクを明確に知っておくことだ。NISAという制度を利用するにあたって、筆者は下記2点を重要視している。

銘柄選び、二つのポイント

(1)投資資金の属性を把握する
(2)投資期間の最小・最大パフォーマンスを想定する

(1)は、投資する資金が失っても問題無い資金かどうかがポイントとなる。例えば、5年後のお子さんの教育資金という位置付けであれば、著しく価値が棄損する可能性がある株式投資は止めておいた方がいいだろう。

 株式投資は、投資先の企業が経営破綻した場合、価値がほぼゼロとなってしまうためだ。リスクを背負える資金でない場合は、ETF(上場投資信託)や投資信託、債券などへの投資を選択したほうがいい。

(2)は、どれぐらいのパフォーマンスを期待するかだ。10年後、10倍を目指したいという投資家が、NISAで電力株やガス株を保有していても期待値は低い。決して、電力株やガス株が10年後に10倍にならない、と言っているわけではないが、こうした業種の株は年間の株価のボラティリティ(変動率)が低く、それなりの配当を受け取りたいというニーズに合致する業種だ。

 1980~1990年代の電力自由化などの規制緩和によって、欧米の電力株やガス株が買われたケースもあるので、一概に「絶対無い」と言えないところだが、経験則上、その可能性は低いというのが株式業界の一般的な見方だろう。

 10年後に10倍を目指すのであれば、時価総額1,000億円以下の中小型株が選択肢に入ってくる。高いパフォーマンスを狙いたいのであれば、高い成長性の銘柄に投資する必要がある。ただし、こうした高い成長性を秘めた銘柄は、その時の国の政策や一過性のブームなどに翻弄(ほんろう)され価格が不安定となるリスクが高い。

 こうしたリスク・リターンを明確に設定することで、完全ではないものの、投資のミスマッチを極力防ぐことができる。

2023年NISAで選ぶ:日本を代表する5銘柄

 今回、筆者が注目した5銘柄は、次の通り。

  • ある程度、誰もが知っている(聞いたことがある)銘柄
  • 成長銘柄ではなく、成熟銘柄

 日本を代表する大企業銘柄は、投資デビューの初心者でも安心。主力事業の内容から、幅広い世代において知名度が高いと筆者が考える銘柄を選んでみた。

銘柄名 コード 株価:円
※9/13
終値
2024年
3月期
年間配当
 :円
予想
配当
利回り
:%
鹿島建設 1812 2,503.5 70 2.80
「映える」建物の施工事例が豊富
ENEOSホールディングス 5020 591.5 22 3.72
ガソリン高騰で実は業績上振れ余地有り
ソニーグループ 6758 12,445 未定
誰もが知っている日本を代表する国際企業
デンソー 6902 9916 125
(200)
1.26
(2.02)
トヨタグループで世界第二位の自動車部品メーカー
三菱UFJフィナンシャルグループ 8306 1,317 41 3.11
積極果敢な三菱DNAでデジタル通貨プロジェクトに挑戦中
デンソーは10月1日を効力発生日として株式分割を実施。()内は株式分割を反映しない参考値

鹿島建設(1812)

 東京ミッドタウン日比谷や六本木ヒルズ森タワー、フジテレビ本社ビルなど、東京で一度は訪れたい「映える」施工事例が多いのが特徴だ。日本を代表する強いネットワークを有する企業である。

 2024年4-6月期の建設受注高は、米国における大型工事の受注などから、前年同期比62%増の8,018億円と、4-6月期において過去最高だった。換算為替レートは1ドル133円と実勢よりも円高のため、現状の円安水準が続けば今後は収益の押し上げも期待できる。安定的な国内公共投資と売上増加傾向の海外が業績のけん引役となっている。

 株価は右肩上がりで推移しており、株価上昇に伴い、予想配当利回りは2%台まで低下しているが、好業績を背景とした増配を期待したいところだ。

ENEOSホールディングス(5020)

 この夏、価格高騰が話題となったガソリンを取り扱っている。ENEOSというガソリンスタンドの名称は誰もが聞いたことがあるだろう。エネゴリ君を用いたCMも有名だ。

 2024年4-6月期決算説明資料のトップに「企業価値向上に向けた取り組み」と表し、PBR(株価純資産倍率)が解散価値の1倍を下回る理由とその改善策を明確にしており、企業としてPBR改善に積極的に取り組む姿勢が見える。

 業績は、為替および原油価格に翻弄される運命にある。2024年3月期の為替想定レートは1ドル130円、アジア市場の指標となるドバイ原油)は1バレル(159リットル)80ドルに設定した。現在の為替水準や原油価格(ドバイ原油は90ドル水準)を考慮すると、業績の上振れ期待はある。

 ちなみに、同社は対ドルで5円の円安が営業利益を420億円押し上げる。ドバイ原油1バレルあたり5ドル上昇すると、営業利益を460億円押し上げる。逆に円高ドル安、ドバイ原油価格下落となれば、業績にはネガティブとなる。予想配当利回りは3%台後半と高く、長期投資の魅力と言える。

ソニーグループ(6758)

 誰もが一度は同銘柄の製品を保有したことがあるのではないか? 年配の方ならば、猿がウォークマンを聞いているCMに見覚えがあるだろうし、40代前後ならば「プレイステーション」の鮮烈なイメージが残っているはずだ。若い方は、ソニー生命保険やソニー銀行など金融のイメージが強いかもしれない。どの世代にも知れ渡っている強いブランド力が同銘柄の魅力の一つだ。

 2024年4-6月期の営業利益は、金融や映画事業が伸び悩み、前年同期比30%減の2,530億円。6つある事業全てが好業績であれば最高だが、為替やビジネス展開している国の事情などに左右されることもあり、さすがに6事業全て好業績とはいかないようだ。とはいえ、誰もが知っている国際的な銘柄を押さえておきたい方は、同銘柄に注目してほしい。

デンソー(6902)

 自動車関連を一つ入れたかったが、日本で時価総額、売上高1位のトヨタ自動車だとさすがに芸がないので、トヨタグループに属し、自動車部品業界では世界第2位である(世界トップはドイツのボッシュ)同銘柄をピックアップした。今回の5銘柄の中では知名度がやや劣るかもしれないが、世界屈指の自動車部品メーカーである。

 2024年4-6月期連結決算は、電動化関連製品の販売が増加したほか、7-9月期に自動車の増産が見込まれることや円安による収益の押し上げ効果もあり、通期業績見通しを上方修正。前提となる想定為替レートは、1ドル132円。

 また、10月1日を効力発生日として1株を4株に株式分割するほか、年間配当も前回予想から引き上げるなど、株主還元策に積極的だ。トヨタグループ向けの売上高が全体の5割を占めることから、トヨタを保有しているような疑似体験もできそうだ。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)

 言わずと知れた日本の3大メガバンクの筆頭で、世界で商売をする三菱ブランドの金融グループである。平成の世がスタートした1989年時点に存在した都市銀行(都銀)13行のうち、東京銀行、三菱銀行、三和銀行、東海銀行が長い年月を経て一つとなった。

 ちなみに、経営破綻した北海道拓殖銀行を除くと、三井銀行、住友銀行、太陽銀行、神戸銀行が三井住友銀行に、日本勧業銀行、第一銀行、富士銀行がみずほ銀行に、大和銀行、協和銀行、埼玉銀行がりそなグループとなった。みずほ銀行には日本興業銀行も含まれるが、同行は都銀ではないので都銀13行には入っていない。

 正直、銀行の業績は似たり寄ったりでさほど面白味は無いし、そこまでの差は生じない。ただ、同銘柄が他のメガバンクと異なるのは、デジタル通貨に取り組んでいる点だ。海外送金や振り込みの手数料は、銀行の大事な収益源であるが、ブロックチェーン(分散型台帳)という新しいネットワークを用いると、この手数料は無料もしくは極めて安価となる可能性がある。

 銀行としては死活問題だが、同銘柄は、そのリスクを正面から受け止め、自社のサービスとして活用できないか模索している。顧客が他に流れる前に食い止める姿勢を明確に打ち出している点はさすが積極的な三菱グループだ。

 このプロジェクトが今後マネタイズできるかどうかはわからないが、こうした新しい取り組みを続けることで、他の金融機関より優秀な人材を確保することができると想定する。

 一応、日本銀行による金融緩和終了に伴う利上げ時点でも、同銘柄はメリットを享受できると考えるが、そんな当たり前な話よりも、積極的なデジタル通貨の取り組みを推したい。