米利上げ打ち止め期待の高まりで日経平均は堅調
直近1カ月(8月18日~9月11日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで3.2%の上昇となりました。8月18日を安値に右肩上がりの上昇となり、9月7日には一時3万3,322円まで値を上げました。その後は年初来高値水準を突破し切れず、11日にかけて調整局面となっていますが、11日現在、25日移動平均線は上回る位置にあります。
なお、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は0.5%の上昇にとどまっています。
同期間の株価上昇要因としては、米半導体大手エヌビディアが市場の期待以上の好決算を発表し、ハイテク株の支援材料につながったことが挙げられます。また、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が8月25日に経済シンポジウム・ジャクソンホール会議で講演を行いましたが、想定通りの内容で波乱がなかったことも、買い安心感を高めさせました。
その後も、米8月の雇用統計において、失業率が想定以上に悪化したほか、平均時給も想定以上の伸び悩みとなり、雇用情勢のひっ迫状態が緩和されてきたとの見方が強まる状況となりました。つれて、米国の利上げステージは終了したとの期待にもつながったようです。
加えて、懸念されてきた中国の景気動向でしたが、製造業PMI(購買担当者景気指数)が市場予想を上振れたことで、短期的な底打ち期待も高まる形となりました。期間中後半の株価下落に関しては、中国政府による米アップルのiPhone使用規制が伝わったことで、米中対立の激化が意識される状況となりました。また、日本銀行総裁のインタビュー報道が伝わり、早期の「マイナス金利」政策解除が意識されたことも、マイナス材料視されました。
この期間は2023年4-6月期の決算発表が一巡したタイミングでもあり、物色の手掛かり材料に欠ける状況となりました。主力株の中で強い動きが目立ったのは三菱重工業(7011)でした。原発再稼働や防衛力強化などの政策変更に伴う事業環境の好転を期待視する動きが強まり、アナリストの評価引き上げの動きなども複数で散見されました。
また、原油相場の上昇を受けて、INPEX(1605)、ENEOSホールディングス(5020)など石油関連株も強い動きでした。ネット証券大手のSBI証券や楽天証券が日本株の売買手数料をゼロにすると伝わり、制度信用取引の決済に必要な資金・株券の貸し付けを行う日本証券金融(8511)も大きく上昇しました。
半面、ネクステージ(3186)が急落しました。一部のメディアで、ビッグモーターと同様の不正が横行している疑いがあることが分かったと伝わり、先行きの警戒感が強まったもようです。
年初からの株価上昇率が目立っている円谷フィールズホールディングス(2767)、アドバンテスト(6857)などにも利食い売りが優勢となりました。
なお、日銀総裁インタビューが伝わった11日には、今後の事業環境改善が期待される格好から地方銀行株が全面高となり、一方で、金利上昇がデメリットとなる不動産株などが売られました。
10月以降の株価上昇見据えたい局面、ただ円高反転がリスクに
米長期金利は足元でも高水準での推移が続いていますが、CPI(消費者物価指数)などのインフレ指標が想定以上の伸び鈍化傾向を続けているほか、雇用情勢のひっ迫感も解消方向に向かい始めています。
現在のところ、市場では、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の10月31日~11月1日の会合で追加利上げを実施するとの見方も依然としてあるようですが、徐々にこうした懸念は沈静化していくものと考えられます。早ければ、9月19~20日のFOMCを受けて、利上げ打ち止めへの期待が急速に高まっていく可能性もあるでしょう。
9月は例年、米国株が上昇しにくく、日本株に対する海外投資家からの資金が流入しにくい月であります。10月以降はこうした状況が改善し、日本株の上昇期待も高まりやすいとみられますが、この際には、米国の利上げ打ち止めを意識したグロース(成長)株が主導することになりそうです。
今後の日本株のリスク要因となりそうなのが、為替相場が円高に反転することでしょう。行き過ぎた円安の緩やかな是正で済めばいいのでしょうが、いきおい相場はオーバーシュート(行き過ぎた変動)しがちな面もあります。欧米の利上げステージの終了、それに対する日銀の「マイナス金利」解除思惑から考えて、これから年末にかけて為替市場では円高反転の動きとなる公算が大きいでしょう。自動車などの輸出関連株の上値追いなどは慎重に考えたいところです。
ただ、円相場が最安値でこれから円高に向かうと考えるのならば、海外投資家にとって、現在が日本株の買いチャンスになるとも言うことができます。そして、日銀の「マイナス金利」政策解除のタイミングは想定以上に早まりそうな状況となってきています。住宅ローン金利などにも影響してくるとみられ、短期的に国内景気の減速を織り込む場面も早晩訪れそうです。
2024年1月からは新NISA(ニーサ:少額投資非課税)制度がスタート、年間投資可能額は現行NISAから大幅に増え360万円となり、非課税保有期間も無期限となります。年末にかけてはもう一段、メディアなどで取り上げられるケースも増えるとみられ、注目度は高まっていく方向になると考えられます。配当収入も非課税になることから、知名度の高い大型株で、かつ配当利回りの高い銘柄が主要な投資対象となりそうです。
また、新NISA制度のスタートは新たな投資家層の取り込みにもつながるとみられるので、政策的にも、年末から来年に向けて株式相場の良好な環境は維持しておきたい状況であると考えられます。
政策的な観点で言えば、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄の改善策の表面化がやや遅延していることが懸念されますが、投資ファンドなどの要求を企業が拒否しにくくなっている状況にもあるとみられます。投資ファンドに狙われにくくするためにも、早い段階での企業のアクションが必要となるため、引き続きPBR1倍割れ解消策への期待は高めたいと考えます。
アクティブETF解禁、PBR1倍割れ銘柄の価値向上に根強い期待
アクティブ運用型ETF(上場投資信託)が2023年6月に東京証券取引所で解禁され、9月7日に先陣を切って6銘柄が新規上場しました。6銘柄の中で最も流動性が高まっているのが、PBR1倍割れ解消推進ETF(2080)となっています。
これは、PBR1倍割れ企業をユニバース(投資商品の集合体)として分散投資を行うもので、議決権行使などを通じて割安な企業価値を放置している経営陣に経営の質の改善を促すというものです。PBR1倍割れ銘柄に対する株主価値向上策への期待は根強い状況にあると捉えられます。
下表は、時価総額1,000億円以上の銘柄の中で、PBRが0.7倍を下回っている銘柄群となります。PBR水準是正に向けた各企業のもう一段の取り組み強化などが期待できる銘柄であると判断します。
(表)PBRが1倍を大きく割り込んでいる高配当利回り銘柄
コード | 銘柄名 | 配当利回り(%) | 9月11日終値 (円) |
時価総額 (億円) |
PBR(倍) | 株価騰落率 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
5214 | 日本電気硝子 | 4.60 | 2,608.0 | 2,595 | 0.46 | 11.26 |
5411 | JFEホールディングス | 4.46 | 2,240.0 | 13,763 | 0.61 | 45.83 |
7278 | エクセディ | 4.43 | 2,707.0 | 1,315 | 0.56 | 67.51 |
1941 | 中電工 | 4.26 | 2,442.0 | 1,419 | 0.67 | 16.95 |
6178 | 日本郵政 | 4.15 | 1,204.5 | 45,383 | 0.41 | 8.56 |
8570 | イオンフィナンシャルサービス | 4.14 | 1,281.0 | 2,767 | 0.63 | ▲8.50 |
7182 | ゆうちょ銀行 | 4.03 | 1,242.0 | 46,569 | 0.47 | 10.11 |
注:株価騰落率は昨年末比 表で取り上げた7銘柄のうち、中電工は9月12日現在、PBR1倍割れ解消推進ETFの組み入れ銘柄となっていません |
銘柄選定の要件
- 予想配当利回りが4.0%以上(9月11日終値)
- 時価総額が1,000億円以上
- PBRが0.7倍未満
表内の銘柄のうち配当利回り上位5銘柄についてコメントします。
厳選・高配当銘柄(5銘柄:日本電気硝子、JFEHD、エクセディ、中電工、日本郵政)
1 日本電気硝子(5214・東証プライム)
特殊ガラスメーカーで、ディスプレイ用ガラスや自動車補強材向けのガラスファイバなどで高い市場シェアを誇っています。韓国・台湾・中国メーカー向けが中心で輸出比率は9割弱と高水準です。医療用ガラスなどの生産体制を拡大させるなど収益の多角化を推進しています。全固体ナトリウムイオン二次電池の開発などにも注力しています。
2023年12月期第2四半期営業損益は57億円の赤字で、前年同期比249億円の損益悪化となっています。家電や自動車など幅広い分野で需要回復が遅れているほか、原燃料価格の高騰などコスト負担増に対して、価格改定効果なども遅れているもようです。
事業構造改革費用の計上で、純損益は157億円の赤字となっています。通期営業損益は50億円の赤字見通しで、従来予想100億円の黒字から、上半期決算時に下方修正しています。なお、年間配当金は前期比横ばいの120円を計画しています。
ディスプレイ事業の構造改革を進めており、中国で生産能力を増強する一方、韓国では子会社の解散を決定するなどし、収益性の改善を図っています。この効果によって、2024年12月期には急速な収益改善が期待できるとみられます。
また、先行き不透明感が残るガラスファイバ事業に関しても、今後思い切った構造改革が進められる可能性があり、株価へのポジティブな評価につながりそうです。なお、長期安定配当を志向しており、ここまで20年以上にわたって減配を行っていません。
2 JFEホールディングス(5411・東証プライム)
2002年9月に川崎製鉄とNKKが経営統合して発足した持株会社です。粗鋼生産で国内第2位のJFEスチールを筆頭に、JFEエンジニアリング、JFE商事などを傘下に抱えます。京浜、千葉、倉敷、福山の4製鉄所を主力拠点としています。
国内トップクラスの建造能力を持つジャパンマリンユナイテッドは持分法適用会社です。電動車のモーターに使用される高級電磁鋼板の供給体制拡大などに注力しています。
2024年3月期第1四半期事業利益は848億円で前年同期比27.3%減となっていますが、棚卸資産の評価などが影響したものであり、この影響を除いた事業利益は758億円で前年同期の6億円から大幅に拡大しています。
国内でのスプレッド(鋼材価格と原材料価格の差)改善などが主因となります。通期事業利益は2,900億円で前期比23.0%増、棚卸資産評価益を除いたベースでは2,800億円(前期1,628億円)で、主力の鉄鋼事業の収益拡大が続くと見込んでいます。年間配当金は前期比20円増の100円を計画しています。
9月5日には、公募増資とCB(転換社債)を組み合わせて総額約2,100億円を調達すると発表しています。温暖化ガス排出の少ない電炉への転換や、EV(電気自動車)普及をにらんだ鋼材開発など、大規模な脱炭素関連の投資に振り向ける方針です。
株式価値は希薄化することになりますが、ネガティブな影響はすでに株価には織り込まれたとみられ、今後は調達資金を生かした拡大戦略が期待される局面となります。また、同社など鉄鋼株にとっては、相対的に遅れている中国の景気回復なども今後の注目材料となるでしょう。
3 エクセディ(7278・東証プライム)
マニュアルクラッチやトルクコンバータ(自動変速装置用部品)などを主力とする自動車部品メーカーです。25カ国に工場や営業拠点を有し、世界100カ国以上でビジネスを展開しています。
EV・HEV(ハイブリッド自動車)向けなど脱炭素貢献製品の売上構成比を2030年までに15%に高めることを目標にしています。ドローン用製品、小型風力発電機などの領域にも展開しています。新事業開発のギアアップ、新アイデア継続的創出へ、2022年からベンチャーキャピタルへの投資なども積極化させています。
2024年3月期第1四半期営業利益は24.1億円で前年同期の約2.3倍となっています。主力の自動変速装置関連事業で、受注回復や原材料高に伴う売価転換進展、円安の進行などによって、大きく収益が改善しています。
通期計画は期初計画を据え置いており、130億円で前期比48.4%増を見込んでいます。自動変速装置関連領域における受注の拡大が続くと想定するほか、前期に計上した減損の一巡なども寄与する見通しです。なお、年間配当金は前期比30円増の120円を計画しています。
9月末時点で、1年以上継続保有している100株以上の株主に対して、3,000円相当のWEBカタログギフトを贈呈しています。配当+優待のトータル利回りは年間で5.5%の水準となります。新ビジネス領域での展開積極化も今後注目されます。
2023年8月にはドローン用製品の量産を開始、秋からはスマートロボットの実証実験開始、2024年2月には電動アシスト駆動ユニットを販売開始予定とし、さらに4月には大手ホームセンターでDIYアプリの実店舗検証開始を予定しています。
4 中電工(1941・東証プライム)
中国電力系の電気工事会社です。中国電を主要顧客とする配電線工事、送変電工事のほか、ゼネコンや製造業、ホテルなど向け屋内電気工事、空調管工事、情報通信工事を手掛けています。
地域別では中国地域が9割弱を占め、残りは都市圏で、マレーシアやシンガポールなど東南アジアに子会社を設置と海外にも事業拡大を図っています。都市圏・海外の売上構成比が年々高まっています。電力系設備工事会社の中では、相対的に自己資本比率が高い状況にあります。
2024年3月期第1四半期営業損益は5.9億円の赤字で、前年同期比7.1億円の損益悪化となっています。材料費など売上原価の増加によって、工事採算性が低下したもようです。一方、通期では105億円で前期比25.6%増となる見通しです。
第1四半期受注高は空調管工事の拡大などで前年同期比14.5%増と伸長しており、第2四半期以降の順調な収益拡大につながっていくとみられます。年間配当金は前期比横ばいとなる104円を計画しています。
中国電では島根原発2号機を2024年8月に再稼働すると発表しています。中国電が具体的な再稼働時期を表明するのは初めてとなります。原発再稼働などによって中国電の収益向上が図れることは、同社にとっても追い風となる可能性が高いです。
株主還元の方針としては、株主資本配当率(DOE)2.7%をメドに安定した配当を行うこととしています。結果、配当性向や配当利回りは電力工事業界各社の中でも高水準となっています。また、業績変動による減配リスクが小さい点は妙味になるでしょう。
5 日本郵政(6178・東証プライム)
日本郵政公社の民営化に伴って発足した、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を主要子会社とする持株会社です。日本全国2万4,000の郵便局ネットワークが強みとなっています。政府ではこれまで3度の保有株売出を実施し、2023年末の保有株比率は34.33%となっており、郵政民営化法で定められた下限の3分の1超まで低下しています。
一方、保有しているゆうちょ銀やかんぽ生命の株式は将来的に完全処分を目指していますが、2023年3月末現在では、それぞれ60.6%、49.8%となっています。
2024年3月期第1四半期当期純利益は85億円の赤字となりましたが、保有する楽天グループ株式に係る有価証券評価損850億円が主因です。経常利益は1,730億円で前年同期比6.4%増となっています。日本郵便は郵便・物流事業、窓口事業ともに低迷しましたが、かんぽ生命が大幅増益となってけん引する形になっています。
通期純利益は2,400億円で前期比44.3%減の見通しとなっていますが、ゆうちょ銀の持分割合が89%から60%に低下することが減益見通しの主因です。年間配当金は前期比横ばいの50円を計画しています。
ゆうちょ銀株の売却資金を活用して、5月には上限3,000億円の自社株買い実施を発表していますが、今後もゆうちょ銀、かんぽ生命保有株の段階的な売却に伴う自社株買いの継続が想定されます。
中期的に評価を高めていくには、日本郵便事業の抜本的な構造改革策が必要になるとみられますが、短期的には、日銀の「マイナス金利」政策の解除接近観測が急速にクローズアップされてきていることで、ゆうちょ銀の収益改善期待が同社株の押し上げ要因にもつながっていく公算が大きいとみられます。
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