先週の日本株は1ドル=147円台に達した円安や中国不動産大手のデフォルト(債務不履行)回避のニュースを好感し、週前半はTOPIX(東証株価指数)がバブル経済崩壊後の最高値を更新。日経平均株価(225種)が3万3,000円の大台を回復するなど超楽観ムードに包まれました。

 しかし、9月6日(水)、中国政府が政府機関や国営企業で米アップル(AAPL)のiPhone持ち込み・使用を禁止したことが伝わると、市場の雰囲気が急変。 

 iPhoneに関係が深い電子部品、半導体関連株を中心に世界的に株価が急落しました。

 日経平均株価8日(金)終値は結局、前週末比103円安の3万2,606円で終了。

 6日(水)まで8営業日連続で上昇し、バブル後最高値を更新し続けていたTOPIXも7日(木)以降は下落に転じ、週間では前週末比0.4%高と、辛うじてプラスをキープしました。

 一方、米国株はこの「iPhoneショック」に加え、景気・雇用に関する好調な指標が相次いで金利が上昇したこともあり、終始、軟調に推移。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比マイナス1.29%の下落。

 iPhoneショックが直撃したハイテク株主体のナスダック総合指数は1.93%安となりました。

 今週9月11日(月)~15日(金)は、13日(水)に米国の8月CPI(消費者物価指数)が発表されるなど、米国発の重要経済指標が目白押しです。

 14日(木)にはユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)の理事会が開催され、政策金利が発表されます。

 日本では先週、米国の長期金利が再上昇に転じたことを背景に、円相場が1ドル=146~147円台後半の円安水準が続きました。

 政府の為替政策の実務を取り仕切る財務省の神田真人財務官が6日(水)、「あらゆる可能性を排除しない」とかなり強い口調で、1ドル=148円台に迫る勢いの急速な円安をけん制しました。

「1ドル=148円台が為替介入ライン」という警戒感が台頭しているため、さらに円安が続くようだと、為替介入警戒で株式市場も神経質な動きになるかもしれません。

 週明け11日(月)の東京株式市場の日経平均は米国株高を受け反発して始まりましたが、円高や金利高を受けて半導体関連などが軟調となり、下落に転じました。終値は前週末比139円安の3万2,467円でした。

 背景には日本銀行の植田和男総裁が9日(土)付の読売新聞のインタビューで金融政策の判断に関し年末までに判断材料がそろう可能性に言及し、市場では日銀が早期の金融緩和修正に入るとの見方が広がったことがあります。今週は金利高や円高も加わり、弱含みの相場となりそうです。

先週:TOPIX高値更新の熱狂も一気に冷める、中国iPhone使用禁止で日本株も打撃! 

 先週の株式市場開始早々に飛び込んできたのは、中国の不動産会社大手・碧桂園(カントリー・ガーデン)がすでに支払い期限の過ぎていたドル建て社債の利払いを9月5日(火)に行い、デフォルトをひとまず回避したという朗報でした。

 1日(金)発表の米国の8月雇用統計が強弱まちまちの結果で米国株が上昇していたこともあり、先々週(8月28日~9月1日)に前週比1,086円も上昇した日経平均株価は週明け4日(月)から3連騰。

 6日(水)の終値は前週比530円高に達しました。

 重厚長大産業の影響力が強いTOPIXも6日(水)終値が2,392ポイントと、バブル後最高値を4営業日連続で更新。

 TOPIXの高値更新に貢献したのは、なんといっても1ドル=147円台に達する円安を追い風に上場来高値を更新したトヨタ自動車(7203)ホンダ(7267)など自動車株でした。

 原油高の再開で潤う三菱商事(8058)も上場来高値を更新。著名米国人投資家のウォーレン・バフェット氏が5大商社株の買い増しを表明して日本株全体が大きく上昇した4月から6月中旬にかけての大相場と似た雰囲気になってきました。

 また、そろそろ中央銀行の利上げ局面が終了するという思惑から、金利低下が追い風になる不動産株が世界的に上昇。

 日本でも主力の三菱地所(8802)が見直し買いで9月7日(木)まで16連騰するなど、不動産セクターが週間業種別値上がりランキング2位に入りました。

 一方、米国では、6日(水)発表のISM(全米供給管理協会)の8月非製造業景況指数が予想を上回り、雇用や仕入れ価格の指数も上昇するなど、米国サービス産業の景気過熱ぶりが明らかに。

 7日(木)発表の新規失業保険申請件数は4週連続で減少し、米国の雇用市場が相変わらず活況で、新たにリストラされた人が減り続けていることが判明しました。

「強すぎる景気・雇用指標」の影響で米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りは7日(木)、再び一時的に4.3%を超えるほど上昇し、金利上昇が大敵の米国株は低調な展開が続きました。

 一方、6日(水)、中国政府が機密漏洩防止のため、中央政府や国営企業の職場にアップルのiPhoneなど米国製スマートフォンを持ち込み禁止にしたというニュースが飛び込んできました。

 この報道を受けて、世界一の時価総額を誇るアップル(AAPL)の株価は6日、前日比3.6%下落、翌7日(木)も2.9%安と続落し、たった2日間で時価総額約1,900億ドル(約28兆円)が吹き飛びました。

 米国でも、中国の華為技術(ファーウェイ)の最新スマートフォンに禁止されていた米国製の高性能半導体が使用されていたことで、米国政府が調査に乗り出し、議会ではファーウェイや中国最大の半導体メーカー・SMICへの技術輸出を全面禁止すべきという論調が強くなっています。

 今後は、アップルと同様に中国市場での売上比率の高い電気自動車のテスラ(TSLA)、航空機のボーイング(BA)、建機のキャタピラー(CAT)、中国の消費者に人気の高いナイキ(NKE)スターバックス(SBUX)にも悪影響が及ぶかもしれません。

 日本では7日(木)、8日(金)はiPhoneショックのせいで株価が下落に転じ、TOPIX高値更新をけん引してきた重厚長大産業株の上昇が短命に終わりかねない状況になりました。

 米国以上に中国市場に依存している日本の企業では、中国の売上高比率が全体の50%を超えているTDK(6762)村田製作所(6981)など電子部品メーカーが、最も今回の米中スマートフォン紛争の悪影響を受けそうです。

今週:物価高止まり予想の米8月CPI・小売売上高とECBの政策金利発表で続落も!?

 今週は米中対立激化の新たなニュースが飛び込むリスクに加え、米国発の重要な経済指標が相場を動かす要因になりそうです。

 13日(水)には、物価高に苦しむ米国経済にとって最重要指標である8月CPIが発表。

 市場予想では前年同月比3.6%の上昇と、伸び率が加速する見込みとなっています。

 2023年に入ってからは米CPIの予想以上の低下が確認されると株価が上昇することが多かったので、今回もその再来に期待したいところです。

 14日(木)には、ECBが政策金利を決める理事会を開催。

 前回7月の会合では、ラガルド総裁が「9月に利上げするかどうかは白紙」と述べ、利上げ休止が大方の予想です。

 しかし、もし0.25%の利上げに踏み切った場合、来週19日(火)~20日(水)に米国の政策金利を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が控えていることもあり、欧州株のみならず、世界中の株式市場にとってネガティブといえるでしょう。

 14日には、8月の米国PPI(卸売物価指数)のほか、米国の個人消費の動向を示す8月小売売上高も発表されます。

 日本では8月第5週(8月28日~9月1日)、外国人投資家が3週ぶりに日本の現物株を3,393億円買い越し。日経平均先物など先物も6,287億円買い越したため、現先物の買い越し額の合計は1兆円近くに達しています。

 しかし、先週8日(金)発表の2023年4-6月期の実質GDP(国内総生産)の改定値は、企業の設備投資が前期比マイナスに落ち込み、成長率が速報値の前期比年率換算6.0%増から4.8%増に下方修正されました。

 同じ8日発表の毎月勤労統計調査でも、物価上昇を考慮した7月の実質賃金が前年同月比2.5%減と16カ月連続でマイナスという結果に。

 市場では次の2023年7-9月期の実質GDPが前期比でマイナス成長に落ち込む懸念が強まっています。

 そんな状況では、外国人投資家も積極的に日本株を買い進めることはできないでしょう。

 先週は、原油高で恩恵を受けるINPEX(1605)など石油・石炭製品セクターが業種別値上がり率1位になるなど好調でした。

 しかし原油高は世界的な物価の上昇に直結するため、2023年秋から冬にかけて、再び資源インフレが猛威を振るう可能性も出てきました。

 インフレが再過熱するとなると、米国景気のソフトランディング(軟着陸)期待や生成AI(人工知能)ブームによる株価上昇はさすがに「浮かれすぎ」の面が否めません。

 そこにiPhoneショックが新たに加わったことで今後は、米中の両政府が相手国企業の製品・サービスの禁輸措置を乱発する恐れもあります。

 それは過去、第二次世界大戦につながった大国間の排他的、閉鎖的な「ブロック経済」の再来も予感させる深刻な事態です。

 今週、来週ですぐ結果が分かる問題ではないものの、米中対立の悪影響は今後じわじわと日本をはじめとした株式市場に暗雲を広げていくことになるでしょう。