※この記事は2022年7月29日に掲載されたものです。
資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
為替差益が出ている保有資産の売却提案を受けたが、どう判断したらいいのか?
佐藤春樹さん(仮名)会社員・35歳(既婚、子ども1人)
今年になって円安がすすみ、佐藤さんが保有している金融商品のほとんどが円安のおかげで為替差益が出ている状況でした。
株式・債券・保険商品が想定以上に円安になり、どうしようかと考えていたところに、金融機関の担当者から為替差益を確定させるためにいったん売却して日本円に戻してはどうかと提案がありました。
確かに自分でも想定していないほどの円安となっていたので、気にはなっていました。また円高になっていけばせっかくの為替差益もなくなることを心配になり、一度売却して利益を確定してから次のことを考えようとしていました。
ただ、株式に投資した時は円安よりも株価の上昇を期待して、債券も利息の受け取りを収入の足しに、保険は万が一の保障と考えて契約していました。佐藤さんは為替差益が出ている時に何を注意して売買の判断をすれば良いのでしょうか?
円安時に為替差益を確定させる時の注意点とは?
今年は非常にはやいペースで円安に進んでいて、為替の値動きに驚いている人も多いようですが、ここ数年の投資では海外投資をする人が増えていたので、大半の人は円安の恩恵を受けているのではないでしょうか。
特に米ドルに影響のある商品に投資している人が多く、「ここまで急激な円安だから今のうちに日本円に戻しておいた方がいいのではないか?」という問い合わせが増えてきています。
しかし、為替差益が想定以上に出ているからといって、すぐに売却することが最善とは限りません。売却方法も全部売らずとも少しずつ売却するなどの工夫も検討した方が良いですし、そもそも投資先の資産によっては安易に売却をしない方が良い場合も十分考えられます。
そこで今回は為替差益が出ている商品を売却する際のポイントをお伝えします。
為替差益を確定させる時の要注意点1:外国株式投資では評価の内訳に注目
外国株式へ投資する主な方法は、投資信託か海外ETF(上場投資信託)の利用もしくは外貨で外国株式の銘柄へ投資することです。
一部の投資信託を除き、ほとんどの投資信託は日本円で評価額が表示され、売買も日本円で決済されます。それに対して、海外ETFや外国株式を購入する場合は、日本円で売買する円貨決済(日本円から外貨を購入して投資する)か、外貨で購入する外貨決済を選べます。
投資信託の場合は、売却したときに適用される為替がどの時点のレートが適用されるかを確認しておくことも重要ですが、海外ETFや外国株式で外貨決済をするなら、一度外貨で戻ってきた通貨を相場の推移を見ながら日本円に戻すことも可能です。(金融機関によって取引方法や決済時間、手数料は違います。)
しかし、一度売買をすると利益でも損失でもいったん確定します。よくよく投資の損益を確認すると、為替では利益だけど株式の評価損で思ったより利益がなかったり、損失になったりする可能性もあります。
思い出してほしいのは、投資を始めるときに株式の値上がりを期待して投資をしたのか、為替差益を見込んでいたのか、どちらを重視して投資をしたのかという点です。
企業の将来性に期待しているなら為替の値動きに翻弄(ほんろう)されてはいけませんし、逆に企業が見込みと違ったのなら売却して見切りをつけるべきでしょう。
為替差益を確定させる時の要注意点2:外国債券投資では満期保有した場合を考える
次に外国債券へ投資した場合ですが、投資信託やETFで投資した場合と個別銘柄で売買した場合では大きな違いがあります。
それは個別銘柄の債券であれば、保有中に債券単価が値上がりしていようが値下がりしていようが、満期には額面金額分の投資資金が返ってくる仕組みに対して、投資信託やETFは多くの銘柄に分散投資をしているために満期がありません。
そのため、金利が下落傾向にあれば想定以上に価格が上昇する可能性がある半面、上昇が続けば価格が下がってしまうことで、債券の予定利回りより低いリターンもしくは損失となってしまいます。
もちろん金利だけで価格が決まるわけではありませんし、中長期で見れば予定の利回りに近い単価で推移しやすい傾向にあります。
個別銘柄と比較すると、相場状況に投資判断が影響されやすくなるでしょう。個別銘柄であれば、今年に入って金利が上昇して債券価格が購入時よりも下落していたとしても、慌てず満期まで待てば単価は100円(発行価格)に戻ってきます。
株式投資と違い債券投資では利回りを基準に受取利息を期待して投資をしている方が多いと思います。
今の時価と満期まで保有した場合の比較や、利回りと実際の運用の比較など、株式とは違う目線で売買の判断をする必要があります。
為替差益を確定させる時の要注意点3:外貨建て保険の途中解約はありなのか?
日本の低金利が続く中、貯蓄や運用目的で保険に加入する際に外貨建て保険や変額年金保険などを契約する人が多くいます。そうした人の中で、円安になっているからいったん売却をしてはどうかと提案を受けている方がいるようです。
こうした保険は、通常だと払込保険料合計額と解約返戻金との差額の益が、一時所得などの課税対象となります。
ただし、保険期間が5年以下などの一定条件を満たす場合には金融類似商品として、差益に対して源泉分離課税で20.315%となる場合もあります。
(参考:国税庁HP「金融類似商品と税金」、詳細は保険会社もしくはお住まいの地域の税務署でご確認ください)
保険の解約には、解約控除などがかかる可能性がありますが、それでも税金面を考慮すると一度売却した方が有利になるケースもあるかもしれません。
ただし、そもそもの保険に加入した目的は達成できるのか、さらに売却した後にその資金をどうするかという問題も懸念されます。
保険商品の主な役割は保障です。運用目的も期待して利用されることもあるかもしれませんが、保障が必要なければ証券投資をすればいいはずです。
保険に加入した本来の目的は何だったのか? 途中解約することで利益がでることよりも、その目的のために必要な判断をするようにしましょう。
本来の投資目的を忘れないように判断しましょう
為替差益だけに注目せずに何のために投資したのかを考えよう
投資対象が予想以上に値上がりをした時に、いったん売却を検討する価値はあるでしょう。ただし、為替に限らず株式や債券、保険などそれぞれ単純に資産価値だけをみて売買の判断をしてはいけません。
売買をすることによって、本来の目的が達成しやすくなるのか? それとも目的とは違うがそれでも売買をするべき理由があるのかが重要です。
利益が出ているということは、大切な資産が増えているうれしい状態です。だからといって、いま売却して利益を出すことが最適な判断とは限りません。
自分にとってどんな選択肢があるのかを考えるところまではスピード感を持って行い、実際に売却するかどうかは慌てずに判断するようにしましょう。
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