※この記事は2021年1月29日に掲載されたものです。

 資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

高金利をねらう新興国通貨への投資、安定収入が期待できる?

山崎幸次さん(仮名)会社員・50歳(既婚)

 山崎さんはこれまで株式投資を10年以上続けており、特にここ数年は米国株式への投資で大きく資産を増やすこともできました。子どもも独立したので、自分たちの老後について考える時間が増えていました。

 これまで株式投資で運用もうまくいっていましたが、将来のことを考えると値動きの大きな株式運用をするよりも、安定して運用収入を受け取れるほうがよいだろうと考えるようになってきました。

 高配当株式や投資信託での分散投資、ファンドラップなどさまざまな選択肢を検討していた山崎さんはあるとき、金融機関から届いた新興国通貨での運用の案内を見つけました。

「年間10%程度の金利を数年間受け取れる」という言葉を見て、これほど金利を受け取れるなら、多少の為替変動があっても安心感があるのでは?と検討してみることにしました。

 為替といえば、米ドルにはなじみがありますが、新興国通貨への投資は山崎さんにとって初めてのこと。為替も年間で見ると、値動きが大きくなることがあるとは理解していましたが、高い金利収入があれば、問題ないだろうと考えています。

 高い金利が付くことはとても魅力的に感じますが、この選択肢はうまくいくのでしょうか?

なぜ新興国通貨に投資するのか

 さまざまな投資方法がある中で、「新興国通貨へ投資をしたい」と考える人よりも、国内外の株式や先進国通貨で資産運用をしようとする人が大多数かもしれません。

 とはいえ、新興国通貨へ投資する人もいらっしゃいます。どんな人たちなのでしょうか。

 新興国通貨への投資は大きく分けると、次の3つのやり方があります。

・銀行で外貨預金をする
・証券会社で新興国通貨建ての債券へ投資する
・FX(外国為替証拠金取引)でスワップポイント(金利差調整分)を狙う

 実際に、投資家に話を聞くと「株式の値動きで一喜一憂するよりも、金利を安定して受け取れるほうがよい」と、そのメリットを語ります。

 また、他にも次のような理由で新興国通貨へ投資をしている人がいます。

新興国通貨に投資するワケ1:高い金利を受け取ることができる

 銀行預金金利を見ると、大手銀行では0.001%程度、ネット銀行で一定の条件を満たした場合でも0.1%程度。それに比べて新興国では5~10%の金利が付くことも珍しくありません。

 ただ、金利の高さは各国の経済状況も関係し、実質金利(名目金利-予想物価上昇率)で見ると、金利水準が魅力的とは単純には言えませんが、それでも一定年数で、どのくらいの金利が付くかを分かっていると、投資を決断しやすいようです。

新興国通貨に投資するワケ2:今後も経済成長が期待できる

 新興国がわずかな期間で様変わりしているという話はよく聞くのではないでしょうか。

 2017~2019年の先進国の経済成長率(実質GDP[国内総生産]成長率)は年平均2.07%に対し、新興国は4.10%と約2倍の成長をしました(出所:日本通商白書2020年)。2030年には世界GDPの半分は現在の新興国が占めるとも言われています。

 それだけ経済成長するならば、投資としても期待できるのではと考えている方もいます。

新興国通貨に投資するワケ3:過去の為替水準から、通貨安(円高)に見える

 2008年のリーマン・ショック以降、投資対象とされる主要な新興国通貨のほとんどが、円高・新興国通貨安を更新し続けています。そのため、過去の為替水準から見ると、円高にいき過ぎているように感じ、為替差益を狙って投資をしたり、さすがにこれ以上は円高にはいかないだろうと投資する人が多いようです。

 実際に金融機関からのセールストークで、「過去にないほどの円高水準です」と提案されて購入を決めたという方もいらっしゃいます。

なぜ新興国通貨の投資で損してしまうのか

 新興国という名前の通り、先進国に比べて、政治や経済はもちろん、金融市場もまだ不安定であることは、どなたでもイメージできるでしょう。にもかかわらず、高い金利や魅力的な言葉に惑わされ、リスクを理解しないまま投資。そして、大きな含み損を抱えることになった人と、私はよくお会いしますが、損を抱えることになった事例から、ぜひ学んでいただきたいと思います。 

新興国通貨の投資で損をするワケ1:円高で為替差損が発生

 一番よくある理由は、為替の評価損です。過去の為替の値動きを見ながらも、高い金利を受け取っていれば大丈夫と考えてしまうのです。

 例えば、トルコリラは新興国通貨の中でも金利が高く、10%以上の金利収入(トルコリラベース)が期待できます。しかし、実際に過去10年程度の為替推移を見ると、2010年年初は1トルコリラ=60円台だった為替が、2021年1月現在では14円台まで円高となっています。これでは、高い金利を受け取ったとしても、為替で大きな損失となっていることが分かります。

新興国通貨の投資で損をするワケ2:為替手数料の負担が多大

 銀行や証券会社で、円を新興国通貨へ交換するときの為替手数料は、「○%」ではなく「○円」となっています。

 つまり、「1円」の手数料であっても、米ドルなら約0.8%(米ドル=103円計算)の手数料ですが、トルコリラなら約7.0%(トルコリラ=14円計算)の手数料となります。

 そして、この手数料は片道交換分だけなので、また円に戻す場合は手数料がかかります。ただし、FXの場合、為替手数料に該当する「スプレッド」が100分の1程度の低コストで取引も可能です。

 このように、コスト面もしっかり確認していないと、無意識のうちに損をしているかもしれないのです。

新興国通貨の投資で損をするワケ3:株式投資と為替を同じように考えている

 株式投資であれば、企業が成長することに期待して長期投資することもできますし、そもそも資本主義の理屈で言えば、株式市場は年々成長することが期待できます。

 しかし、国同士の取引で使われる通貨は相対比較のため、影響する要素が株式投資とは異なります。

 株式投資とは全く性質の異なる金融商品にもかかわらず、「いま評価損でも、長期間保有していれば、いつか価格は戻る」と考えてしまう人がいます。要注意です。

家計の救済策

分からないものには手を出さない

 私たちがお会いするご相談者の中で、新興国通貨への投資のリスクをしっかり理解して投資している方は、実は多くありません。高い金利、魅力的な経済成長、将来性などにひかれ、深く考えずに投資していたり、先進国への投資と同じように考えて後悔したりしている人が多いのです。

 もちろんですが、リスクを理解した上でリターンを狙うのであれば、問題はありません。「何となく、よさそうだから」で投資をした結果、仮にうまくいったとしても、それはよい投資とはいえません。

 まずは、身近な金融商品から投資を始めることが、大きな失敗をしないコツです。

 通貨なら旅行でも使う機会の多い米ドル、株式投資ならなじみのある会社や業界など、自分の知識や経験と照らし合わせて、将来をイメージしやすい投資先を選びましょう。

 今もしも、新興国通貨の含み損で困っている人は、思い切って損切りをすることも痛手を大きくしない方策の一つとして、考えるべきかもしれません。

【要チェック】リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。