<指数パフォーマンス比較~バリュー株orグロース株どっち優勢?~>

8月の中小型株ハイライト 8月の中小型株は「バリュー株優位」

 日米金利の上昇に対する警戒感を強める中で、金利上昇をネガティブとする割高株(グロース株)敬遠が加速した8月前半。海外投資家も夏休みに入り、例年「夏枯れ」ムードが広がる8月相場ですが、売買ボリュームは今年も大幅に低下しました。

 東証プライム市場でも、8月18~29日まで8営業日連続で売買代金3兆円割れとなり、8月23日(2.5兆円)には4月25日以来の薄商いも記録しています。

 個人投資家主体の東証グロース市場についても、8月前半は売買代金的にも干上がり、かつ値下がり基調のお手上げモード。閑散に売り無しではなく、「閑散に押し目買い無し、ロスカット有り」みたいな地合いでした。

 とくに、決算発表が8月中旬に集中する関係もあって、その手前の8月3~9日にかけた薄商いは今年最低級。決算発表集中日の14日を通過した後も、アク抜け感を広げるどころか、4営業日後の18日まで泥沼状態…。

 信用買い残も多かった(人気があった=決算への期待もあった)マイクロアド、ヘッドウォーターなど、決算後に急落する銘柄が多かったことで、中小型グロース株を触るタイプの個人投資家に限っては、同時多発的に信用評価損益率を悪化させてしまいます。

 追証などの影響が尾を引いた格好、でしたが…18日辺りをいったん「陰の極」と認識したのか、月後半は自律反発の展開に。下げがきつかった銘柄を漁ったり、マザーズ指数のリバウンド狙いでフリーやJTOWER、弁護士ドットコムなどの主力グロース株をバスケットで買うヘッジファンドも出てきました。

 とはいえ、8月の中小型株市場。月を通じて優位性が発揮されたのは「バリュー株」。プライム市場でも低PBR(株価純資産倍率)や高配当ファクターが有効で、小型バリュー株のTOPIX(東証株価指数)スモールバリュー指数が月間騰落率+2.5%と堅調でした。

 中小型株市場でいえば、バリュー株の多い東証スタンダード指数は+1.0%と辛うじてプラス。一方、月後半に汚名返上のリバウンドこそ見せたものの、東証グロース指数は▲2.1%でした。

新NISAで中小型株!今月の銘柄アイデアは…「バリュー株に持たざるリスク」

 9月も出足から、バリュー株人気がすごいことになっています。時価総額最大のバリュー株、トヨタ自動車が上場来高値を更新。日経平均株価とは異なり、トヨタが指数ウエートで最大のTOPIXは年初来高値を連日更新しています。

 TOPIXが高値を更新している状況で、「地合いが微妙」なんて口が裂けても言えませんよね。月替わりの9月、ヨーイドンで売買を増加させながら、大型バリュー株の上値を買う動きが広がったことを思えば、買いの主体は(順張り型ということもあり)海外の機関投資家と見て間違いなさそうです。

 TOPIXが年初来高値なわけで、低迷している東証グロース銘柄にもおこぼれはあるんじゃないか? なんて淡い期待も広がりそうですが、株価モメンタム(勢い)でいえば、高値圏の強いバリュー株に乗っかった方が効率良さそう…そう割り切って、バリュー株の押し目をすかさず拾う雰囲気になっています。

 まさに、バリュー株に対する「持たざるリスク」。そのシンボルストックになっているのが、文句無し東証プライム上場の神戸製鋼所です。

東証プライム年初来上昇率TOP10(※9月5日時点)

コード 銘柄名 年初来
騰落率
PBR
(倍)
予想配当
利回り
5406 神戸鋼 217% 0.9 4.4%
6430 ダイコク電 188% 2.4 0.9%
6526 ソシオネクスト 182% 5.0 1.3%
7130 ヤマエGHD 179% 1.5 1.2%
6961 エンプラス 177% 1.9 0.6%
5445 東京鉄 174% 0.7 3.9%
3561 力の源HD 167% 9.3 0.6%
7059 コプロHD 166% 3.6 3.0%
3778 さくら 157% 5.3 0.3%
5851 リョービ 148% 0.6 2.5%

 9月5日時点で、今年の上昇分だけで株価スリーバガー(3倍)を達成! 驚異の爆上げでも、いまだPBRは0.9倍、配当利回り4.4%とバリュー株評価の域を脱していません。大型株である神戸製鋼所がこのパフォーマンスを残すと、機関投資家の間で広がる「持たざるリスク」。

 神戸製鋼所を持っていないと持っている他のファンドに負けてしまう…その切迫感から資金が流れ込み、足元では売買代金ランキングTOP10内に入る人気株と化しています。そのほか、年初来で大きく上昇したダイコク電機、ヤマエグループホールディングス、エンプラスは、昨年末時点ではPBR1倍割れの元バリュー株でしたし、東京鉄鋼、リョービは急騰後も今なおPBR1倍割れのバリュー株です。

8月の国内株式型投信 資金流入ランキング

順位 ファンド名 資金流入
(億円)
1 みずほ日本オールキャップ株式ファンド 164
2 日本好配当リバランスオープン 120
3 日経225ノーロードオープン 80
4 ニッセイJPX日経400アクティブF 59
5 アムンディ・ターゲット・ジャパン・ファンド 58
6 ノムラ・ジャパン・オープン 53
7 日本好配当株投信 52
8 ニッポン中小型株ファンド 40
9 たわらノーロード 日経225 39
10 スパークス・企業価値創造日本株ファンド 34
※データ出所:Quick

 バリュー株の爆上げに乗り遅れた感から、個人投資家の間にも「バリュー株に関連した何かを買っておかないと」なる心理は広がっているようです。

 8月の国内株式型投信への資金流入を見てみると、「日本好配当リバランスオープン」「日本好配当株投信」といった高配当株のファンドが人気だったほか、中小型の割安株で組んだ「ニッポン中小型株ファンド」は8月15日をもって新規購入を一時停止するほど人気化したようです。

 海外投資家、そして国内機関投資家、個人投資家…全員参加型で、バリュー株の上昇に乗り遅れるな!ムードを9月も維持する可能性はありそうです。とくに、9月は3月決算企業の中間配当シーズンであること、9月7日に日本初のアクティブETF(上場投資信託)上場が話題化しそうなこと(6本のETFが上場するうち2本が高配当株型のアクティブETF)も背中を押しそう。

 ということで、今月の新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で中小型株!では、「持たざるリスク」を感じさせる割安中小型株をピックアップしてみます。

中小型株の「持たざるリスク」バリュー株
【条件】(1)時価総額100億円以上(2)PBR1倍未満、(3)配当利回り3%以上(4)年初来高値を9月1日以降に形成(5)今期増収増益予想、(6)売買代金25MA0.2億円以上
※上記6条件を備える銘柄を流動性が高い順に列挙

コード 銘柄名 9月5日
終値
PBR
(倍)
予想配当
利回り
7287 日精機 1,129 0.3 3.5%
3242 アーバネット 388 0.9 5.2%
5184 ニチリン 3,130 0.8 3.3%
8737 あかつき 431 0.9 4.4%
8018 三共興 757 0.7 3.3%
3553 共和レザ 664 0.5 3.0%
1828 田辺工 1,488 0.7 3.0%
8076 カノークス 2,139 0.8 4.5%
5388 クニミネ工 1,052 0.6 3.8%
5965 フジマック 759 0.5 3.2%

 かなり厳しい条件(PBR1倍割れのバリュー株で、配当利回りが3%以上あり、今期増収増益予想、かつ9月に年初来高値付ける、など)を課したのですが…東証スタンダード、グロース市場の全1,981銘柄の中から、条件をオールクリアしたバリュー株が10銘柄ほど浮上しました。今回は割安株をピックアップしたため、全て東証スタンダード市場の銘柄です。

 流動性が低いという問題点はあるものの、高値圏で需給良好、その上割安感満載のバリュー株…まだまだ掘り出し物になりそうな割安株が眠っているなと感じますね。

 この中では日本精機、あかつき本社、共和レザー、カノークス、クニミネ工業が9月末の中間配当狙いの観点でも注目できます。かつては、「万年割安」とか「バリュートラップ」とか言われた割安株でしたが、まさか「持たざるリスク」なんて言われる時代がやってくるとは…。