トウシルアンケートにて、「FIRE」(経済的自立&早期退職)したいと思いますか? というアンケートを取ったところ、なんと85%が「YES」と答えました。コロナを経て、働き方の選択肢が増え、生き方を見つめなおした方も多いはず。また、今年の猛暑、通勤電車の中で「FIREしたい!」と痛感した人が、さらに増えたかもしれません。

 このアンケートでは、「FIREした人に聞いてみたいことは?」というフリーアンサーも募集し、実にさまざまな質問が寄せられました。

 そこで、FIREブームの火付け役となった先駆者・穂高唯希(ほたかゆいき)さんにそれらの質問を「FIREの仕方」「FIREの決断」「FIRE後のお金」「FIREの人生」の4つに分類し、回答していただきました!

 まずは初回の「FIREの仕方」から。実際に20代でFIREした穂高さんからのアドバイスは?

▼Profile
穂高唯希さん(34歳)

 14歳で金融に興味を持ち、慶應義塾大学在学中、北京大学に留学。卒業後、大手企業に就職、入社当日セミリタイアを計画。以降、給与の8割を高配当株・連続増配株に投資し、金融資産7,000万円を達成。2019年30歳でFIREを実現した。

 ブログ『三菱サラリーマンが株式投資でセミリタイア目指してみた』を運営。FIREムーブメントの第一人者として新聞・TVなど多数メディアで取り上げられる。会社に縛られない生き方や、社会に貢献する公益投資など、新しい人生観を提唱。著書に『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門 -30歳でセミリタイアした私の高配当・増配株投資法-』『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』がある。

Q:何歳で、いくらくらいの資産でFIREしましたか?

A:2019年に、30歳、資産7,000万円です。

Q:FIREしたいと思ったきっかけは何ですか?

A:幼少期に「人間、いつ死んでもおかしくない」と思うできごとがありました。1度きりの人生、気力も体力もある若いうちに、心に素直に自由に生きたいという思いがまず根底にありました。

 そして家は裕福ではありませんでした。「お金があると選択肢が増えるんだろうな」と幼心に思っていました。

 のちに海外留学を経て、「日本で『当たり前』であり、『普通』とされるサラリーマンという生き方は、百あるうちの一つの生き方でしかない」と感じるようになりました。

 そう感じる一方で、まず就職をして、サラリーマンとしてきちんと社会経験を積もうと思いました。「サラリーマンという生き方を実際にやってみて、しっくり感じるならば続け、違和感を禁じえないならば別の生き方をしよう。そして別の生き方をするためには、経済的自由という基盤を人生の早い段階で作っておくことで選択肢が広がるだろう」。そんな考えを入社前に持っていました。

 実際に入社すると、得難い経験に恵まれた一方で、やはり1度きりの人生、自由な生き方への渇望を感じるようになりました。

 私が通った中学・高校は「普通(ありきたり)ではない」人が多く集う自由な校風だったこと、そして海外留学で「普通」とは国によって千差万別で、異なる価値観に多く触れたことなどが背景にあると思います。元来、根底にあった自由への渇望、そして会社員としての時間的な不自由などもあり、FIREに至りました。

Q:まずは何から始めましたか?

A:中学生の頃から為替市場で儲けようと研究しました。しかし大学生の頃にFXで失敗し、100万円を一瞬で失ったこともありました。

 そこで、しっかりとした収入を得られるように、大学卒業後は、まず待遇のよい企業に入りました。

 さらに、ゲーム感覚で支出を最適化しました。大学生の頃から支払いはクレカに絞り、ポイントを貯めるなど、さまざまな工夫をして支出を減らし、投資に回せる資金を作りました。そして株式投資を主軸にして資金を増やし始めました。

Q:FIREの決め手となった投資手法または金融商品を教えてください

A:主に米国株や日本株で、高配当株・連続増配株を毎月の給与で買い続け、配当を積み上げて、月々の配当が月20万円超に至りました。

Q:FIREしたいけれど、普段の生活で我慢しすぎるのはツライです。投資資金を作るために、どれくらい生活を切り詰めましたか?

A:人生の満足度や経験をそこなう我慢や切り詰めはしない主義でした。あくまで「どうしたら満足度を落とさずに支出を減らせるだろう」と考え、工夫することで、ゲーム感覚で楽しんで資金を作っていきました。

 たとえば、飲み会はタクシーではなくスニーカーに履き替え走って参加、箱根旅行はバスに乗らず歩いて登り、ジムには行かず通勤の階段で下半身を鍛え、週末は登山やプールで体を動かし、彼女とは手作りのお弁当を持ち寄って、自然豊かな場所でピクニックなどして楽しんでいました。

 こうした「支出の最適化」と高収入の両輪で、収入の8割を投資にまわしていました。

Q:FIRE達成の秘訣は何ですか?

A:小事をおろそかにせず、「基本」の徹底とコツコツ積み重ねることです。「基本」とは、収入を増やし、支出を最適化し、資産運用をすることです。

「収入が高いからFIREできた」と言われることがあります。しかし、同じ会社で同じ収入を得ていても、資産額には大差が生まれます。支出・運用・副業・工夫の差です。ここでいう工夫とは、あらゆることの活用です。

 出口戦略を考えた自宅購入、住宅ローン控除、ふるさと納税、クレカのポイント、福利厚生など、資産形成に寄与するあらゆることを積み重ねることです。

 株式投資も、地道に着実に積み重ねることで、FIREに近づくことができます。たとえば、レバレッジをかけた投資商品は、価値が逓減(ていげん)していく性質があります。

 したがって、長期には向かず、短期トレンドを見誤ると大きな損失を抱える、難易度の高い手法です。私もFXで経験しましたが、いったん大きな損失を抱えると、はい上がるには倍の労力がいります。したがって、投資は負けないことがなにより重要です。

 そこで高配当株・連続増配株を買い続け、配当を積み上げることにしました。この手法ならば、株式の購入と増配によって、時を経るごとに配当が増え、「配当>生活費」という経済的自由へ着実に近づくことができます。

(詳しくは拙著『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門 -30歳でセミリタイアした私の高配当・増配株投資法-』『経済・精神の自由を手に入れる主体的思考法 #シンFIRE論』に記載)。

Q:できるだけ早くFIREするコツを知りたいです。

A:自分が心地よいと感じる生活水準を知り、FIRE達成意欲との折り合いをつけることです。経済的自由のハードルは、支出水準に大きく左右されます。代官山の高級マンションで、豪奢な暮らしをしたいなら、FIREのハードルは著しく上がります。

 逆に、郊外で家庭菜園をしながら、自分の好きなことで人の役に立ち、収入が生まれることが目標であれば、FIREのハードルは下がります。

 インターネットがある現代は、無料で楽しめる娯楽があり、気概さえあれば人の役に立つ基盤が整っています。私は都会を離れて関東郊外へ移住したのですが、田舎ではご近所から食べきれないほど農作物をいただくこともあります。

 お金の価値は、都市化された都会ほど高く、互助が強い田舎ほど低くなります。田舎には農作物や井戸水などの「現物」が豊富にあるからです。私が望んでいた、豊かな自然が身近にあるFIRE後のライフスタイルに合っていると思っています。

FIREの仕方を模索している人へ…

 昨今では、FIREという言葉もすっかり世間に流布するようになりました。私の友人にも最近FIREした人が何人かいます。彼らがFIREした過程には共通点があります。

[1]自分で情報をとりにいく
[2]周囲と異なる行動をためらわない
[3]自分に合う方法を模索する。

 つまり、総じて受け身ではなく主体的であるということです。

 FIREに至った手法は人によってさまざまです。たとえば株式投資。なかでもインデックス投資、高配当株投資、連続増配株投資などに分かれます。

 たとえば不動産投資。なかでも区分マンション、アパート経営、築古戸建てなどに分かれます。

 それぞれ特徴があります。株式投資は投資手腕や入金力がモノを言います。また、インデックス投資ならだれでも平均点がとれます。対して不動産投資は入金力がなくとも借入でレバレッジを利かせて資産形成を加速させられる一方で、物件の目利きが肝になります。

 このように、投資手法や投資対象一つとっても、人によってその特徴が合う・合わないがあります。私はとにかく「収入-支出」を最大化して、毎月高配当株や連続増配株を買って、配当を一気に積み上げていく戦略でした。

 今ではすっかり人気となったこの「配当の積み上げ」という手法は、だれかに教えられたり、本で読んだりしたわけでもなく、FXの失敗から試行錯誤して自分で編み出したものです。そしてブログやSNSで発信し、大きな反響がありました。

 背景には、理論より実践を優先した事情があります。配当を出すと、理論的には配当にかかる税金が発生するため、税負担を先送りできず、現行税制の観点からは効率的ではない可能性があります。

 しかし投資はメンタルが何より重要です。私は過去、FXでメンタルの重要性を痛感し、配当という精神的な支えを重視するに至りました。このように、自分なりの失敗談をもとに、FIRE達成に寄与した投資手法を確立したということです。

 今はSNSの発達などで、コンテンツが大量にあります。達成手法や成功談もあふれています。つまり、異なる成功談を目にするたびに気移りし、「自分の軸がブレやすい環境」とも言えるでしょう。

 しかし、他人の成功手法というものは、所詮その時代に、その人に、適した手法にすぎません。それは私の達成手法にもいえることです。個別事例は一般化できないことも往々にしてあります。

 何が言いたいかというと、自分は自分、他人は他人。個性は異なります。FIREを達成するためには、そしてFIREした後も資産を盤石とするためには、主体性を持ち、あふれる情報をうのみにしないことが、本質的に大切な点だと思います。

 株式投資の利益は我慢料と言われます。2023年に日本株で大きな利益を上げた人は、それまでの米国株が人気を博した時期でも目移りせず、日本株をじっと保有した人たちです。

 盛者必衰。過去のリターンがよいからと思考停止せず、君子豹変、柔軟にしなやかに状況の変化に適応していくことが肝要ではないかと思います。