1万円という歴史的水準まで上昇

 2023年8月29日午前、国内大手地金商の金(ゴールド)価格が、歴史的な水準に達しました。初めて、1グラムあたり1万円を超えたのです。以下の図のとおり、1万円は2000年前後の水準のおよそ五倍です。

図:国内大手地金商 金(ゴールド)小売価格推移(月間高値 消費税込) 単位:円/グラム ※2023年8月29日時点

出所:国内大手地金商の公表データをもとに筆者作成

 1980年前後に複数の有事が目立った時よりも、2003年以降に米国がテロとの戦いにまい進した時よりも、2008年のリーマンショックが発生した時よりも、2020年の新型コロナがパンデミック化した時よりも、2022年のウクライナ危機が勃発した時よりも、どこよりも高い水準です(史上最高値であるため、当然である)。

 前人未到の領域に足を踏み入れた国内大手地金商の金(ゴールド)価格。何が背景となり、このような水準に達したのでしょうか。そして今後、どうなりそうなのでしょうか。

1万円到達は三つの要素の合わせ技

 1万円到達は、三つの要因が重なったことで起きたと考えています(一つの要因だけでは到底成し得なかった)。以下が、筆者が考える1万円到達の背景です。

図:歴史的水準到達を支えた三つの要因

出所:筆者作成

 三つの要因とは、ドル建て金(ゴールド)相場が高止まりしていること、円安が加速していること、消費税が上乗せされていること、です。例えば、消費税が含まれていない国内の先物価格は、9,050円近辺です(8月29日時点)。国内大手地金商の金(ゴールド)価格に消費税が含まれている点は、1万円到達の一因だったと言えます。

 次より、値動きに関わる、ドル建て金(ゴールド)相場が高止まりしていることと、円安が加速していることについて、具体的な材料を用いて説明します。

例外的な状況の中、1万円到達

 金(ゴールド)は、世界各地で異なる通貨建てで同時に取引されています。取引量の多さ、歴史・慣習などの理由で、指標(中心的な存在)は「ドル建て金(ゴールド)」です。

 このため、ドル建て以外の金(ゴールド)価格は、指標であるドル建て金(ゴールド)価格に追随する傾向があります。今回1万円に到達した国内大手地金商の金(ゴールド)の価格も、ドル建て金(ゴールド)の価格に追随する傾向があります。

 しかし、しばしば、例外めいた状況が発生する場合があります。為替が大きく動いた場合です。国内大手地金商の金(ゴールド)価格は円建てであるため、ドル/円相場が大きく動くと、例外めいた状況になりやすくなります。今が、その状況に近いと言えます。

 足元、ドル建て金(ゴールド)相場は「高止まり」状態です。今年に入り、長期視点の高水準である1,920ドルをはさんだ、プラスマイナス120ドル程度のレンジ相場で推移しています。国内大手地金商の金(ゴールド)のように、急騰していません。

 指標(ドル建て金)がこうした状態の中で、原則それに従属的な立場である円建て金を急騰させているのが、「円安」方向に推移するドル/円相場の動きです。

 以下の図のとおり、ドル建て金(ゴールド)相場が高止まりしているのは、ドル高(FRB(米連邦準備制度理事会)が引き締め的な金融政策を継続することを示唆したことを受けて)起因の下落圧力と同時に、各種不安(中国の経済不安やウクライナ危機起因の不安が根強いことを受けて)が醸成する有事ムード起因および、代替資産物色(株価指数の乱高下を受けて)起因の上昇圧力が、同時にかかっているためです。

 また、円安が加速しているのは、FRB(米連邦準備制度理事会)による引き締め的な金融政策(相対的な円安要因)と、日本銀行による緩和的な金融政策が、同時進行しているためです(日米金利差拡大)。

図:ドル建て金(ゴールド)相場高止まり、円安加速の影響

出所:筆者作成

 ドル建て金(ゴールド)の高止まりは、国内大手地金商の金(ゴールド)価格を下支えしていると言えますが、急騰要因とまでは言えません。ドル建て商品に比べた割安感を醸成して価格を大きく上昇させている円安こそ、国内大手地金商の金(ゴールド)価格の大台達成に最も貢献した要因だと言えるでしょう。

 今後も、FRBが引き締め的な金融政策を継続することを示唆していることと、日銀が緩和的な措置を続けていることを受けて、さらに円安が進行する可能性があります。これは、引き続き、国内大手地金商の金(ゴールド)価格を押し上げる要因になり得ます。

 ドル建て金(ゴールド)価格が高止まりしていれば(少なくとも急落しない状態が続いていれば)、円安を手掛かりに、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は、1万円台が定着し、次の大台(例えば1万1,000円)を目指す可能性があると、筆者はみています。

FRBの方針が変わっても緩やかに上昇

 FRBの方針が、現在の引き締めから緩和(利上げ打ち止めや利下げ示唆)に変わった場合は、どうなるのでしょうか。以下のとおり、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は、(ドル安の反対側の)円高に抑えられながらも、ドル建て金(ゴールド)価格に追随し、緩やかに上昇すると、筆者は考えています。

図:FRBが緩和的措置に転換した場合の影響

出所:筆者作成

 FRBが緩和的な措置をとったことで発生したドル安の際、ドル建て金(ゴールド)価格が大きく上昇したことがあります。2009年から2013年ごろまで断続的に続いた大規模な金融緩和(QE1~3)の時、「ドル安・ドル建て金高」が目立ちました(ドル建て金は急騰状態)。

 また、コロナショック(2020年)後の大規模な緩和時も、「ドル安・ドル建て金高」が目立ちました(この時、ドル建て金価格は初めて2,000ドルに到達)。

 FRBが緩和的な措置をとると、ドル安・ドル建て金(ゴールド)高が起き得ます。緩和的な措置を好感し、楽観ムードと株高が生じ、有事ムードと代替資産(株の代わり)起因の下落圧力は発生しますが、FRBの緩和的な措置起因のドル安は、そうした下落圧力を上回る上昇圧力を生む場合があります(株高でもドル建て金(ゴールド)高が起き得る)。

 将来的に、FRBが緩和的な方針に移行し、円安という強力な上昇圧力がなくなった場合でも、ドル建て金(ゴールド)高という、基本原則に基づいた本来の上昇圧力に支えられ、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は緩やかな上昇局面を迎える可能性があると、筆者はみています。

(ある意味1万円到達は、円安が急進していることの証でもあるわけですが…)今後も、歴史的な大台に達した国内大手地金商の金(ゴールド)をはじめとした、金(ゴールド)価格全般に、短期、長期、両方の視点で注目していきたいと思います。

[参照]金(ゴールド)関連の投資商品例

長期:

・純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
・投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能)
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

中期:

・関連ETF
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
・関連個別株
バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコネバダ・コーポレーション(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)

短期:

・商品先物
国内商品先物
海外商品先物
・CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム