パウエル議長タカ派転じる観測高まる、米景気や物価上振れ
今週は米国で開かれる経済シンポジウム・ジャクソンホール会議で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の講演(25日(金)日本時間午後11時05分の予定)があるまでは動きづらい相場となりそうです。この講演によって米国の金融政策の方向性が把握できることが多いため市場は注目しています。
昨年はパウエル議長の講演が米株式市場を直撃し、為替相場は円安になりました。パウエル議長がこの直近7月のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で「利上げペースを緩めることが適切となる可能性が高い」と述べたため、ジャクソンホール会議でも同様のハト派的な見通しを示すのではないかと、多くの市場関係者が楽観的に構えてきました。
しかし、パウエル氏はジャクソンホールの講演でインフレ退治のために手綱を緩めないと強い姿勢を示したことから、金利上昇と株価急落を招きました。パウエル氏が金融政策のスタンスをがらりと変えたことに市場は驚きました。
今年はどうでしょうか。
パウエル議長は7月FOMC後の会見で、次回9月FOMCでの利上げは「データ次第」と説明しました。この発言で9月の利上げ見送り観測が高まり、金利は下がり、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は1987年1月以来36年半ぶりの13連騰となりました。FOMC前に発表された6月のCPI(消費者物価指数)、PPI(卸売物価指数)の伸びが鈍化したことが背景にあります。
ところが、7月の米CPIは前年同月と比べた上昇率が3.2%と13カ月ぶりに前月(3.0%)から拡大、失業率は3.5%に低下し、7月の他の経済指標も良かったことから、市場では9月FOMC(19~20日)での追加利上げ観測が高まってきました。
また、FRBが16日に公開した7月FOMCの議事要旨で大半の参加者が「インフレ率が上振れするリスクがかなりあり、その場合はさらなる金融引き締めが必要になるかもしれない」と認識していることが明らかになり、9月利上げの見方を後押ししたようです。
市場関係者の間では、パウエル氏がジャクソンホールで9月の追加利上げに言及するのではないかとの期待が高まっています。パウエル氏が判断の根拠とする「データ次第」ということであれば、9月1日公表の8月米雇用統計、13日の米8月CPIを見極めるまでは慎重姿勢を取ることも考えられますが、7月FOMC後よりタカ派寄りのニュアンスになるかもしれません。
また、景気についてパウエル氏は7月FOMC後の記者会見で「FRBのスタッフはもはや景気後退を予測していない」と述べています。
その後、米景気が予想以上に堅調なことを背景に米長期金利が約16年ぶりの高水準まで上昇していることから、パウエル氏が景気やインフレの上振れリスクを意識して積極的なタカ派姿勢を示すのではないかとの見方が強まっています。
パウエル氏は、年内利下げは否定していますが、利上げ打ち止めも言及せず、高い金利水準が長く続くことに言及することが予想されます。
このように7月FOMC後のハト派寄りの姿勢から、その後発表された経済指標が堅調だったこととや金利上昇を受けてタカ派寄りに転じるとの見方が強まっており、昨年のように市場の想定外の波乱はなさそうです。
一方で、米経済は商業用不動産ローンを抱える金融セクターの動き、中国経済の低迷など不安材料も抱えているため、さらなる金利上昇は銀行業界の経営を悪化させるとの警戒心から、下落基調の債券相場(金利上昇)を落ち着かせるためにハト派寄りの発言を予想する見方もあります。
景気やインフレについて強気ながらも相場を落ち着かせるハト派的ニュアンスを示唆することはシナリオとして注意する必要がありそうです。
「米FRBタカ派、日銀ハト派」なら1ドル=150円越え焦点
ジャクソンホール会議では、日本銀行の植田和男総裁の発言も注目されます。YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)のさらなる修正や撤廃、マイナス金利解除など今後の方針に関心が集まりますが、日本銀行の金融緩和維持の姿勢は変わらないことが予想されます。
そのためジャクソンホールでパウエル議長のタカ派姿勢、植田総裁のハト派姿勢が明確になれば、会議後に再び円安が進む可能性があります。ただ、今のところ円全面安の動きではないため、円安のスピードはゆっくりと進むことが予想されます。
日本政府・日銀が昨年9月に円買いドル売りの為替介入をした為替水準である1ドル=145.90円近辺を超える円安になってきたことから、介入警戒感が強まってくることが予想されます。
しかし、足元の円安進行のスピードは昨年より鈍く、急激な変動を伴わないことから、日本の当局も水準をにらみながら「注視する」との発言は繰り返しても、実弾介入はやりづらい相場展開が続きそうです。
まずは1ドル=148円狙い、そして150円を突破し、二番天井もしくは高値顔合わせを狙いにいくのかどうか注目です。
円安要因に人民元安との見方も
円安の要因として、中国の人民元安が関係しているとの見方があります。米長期金利上昇の要因の一つに中国が人民元安防衛のためにドル資金を確保する目的で米国債を売却している、あるいは売却するのではないかとの予測です。
米長期金利が上昇してドル高・人民元安になると、中国は人民元安を防衛するためドルを売って人民元を買いますが、売るためのドル資金を調達するために保有している米国債を売却してドルを調達するという話です。
そして米国債売却によって米長期金利は上昇し、ますますドル高、人民元安、つられて円安になるという見方です。つまり、米長期金利上昇→ドル高→人民元安→米債売り→米長期金利上昇→ドル高という円安を誘発する負のループが続くという見方です。
一方、中国当局が人民元の急激な変動を防ぐため国有銀行に為替介入の強化を指示したとの報道(17日)もあり、介入警戒感(ドル売り・人民元買い)からドルが売られると、つられてドル売り円買いの動きもみられますが、米長期金利の上昇による円売りの方が勝っているようです。
この1週間で、中国の為替介入強化指示、中国不動産大手の恒大集団の米連邦破産法適用申請、追加利下げと中国発の相場を揺るがしかねない要因が相次いで報道されています。
17日には、経営再建中の恒大集団が米国で連邦破産法15条の適用を申請しました。6,000億元(約12兆円)を超える恒大の有利子負債のうち、米ドル建てと香港ドル建ては27%(1,620億元 約3.2兆円)とのことです。
日本経済新聞の集計によると、不動産販売上位10社に恒大集団を加えた11社の負債総額は2022年末時点で10兆元(約200兆円)を超え、中国GDP(国内総生産)の1割近くに上るとのことです。今のところ、市場に大きな影響は与えていませんが、先行きの不安材料になることも予想されるため警戒する必要がありそうです。
21日、中国は6月に続き追加利下げをしました。1年物最優遇貸出金利を0.1%引き下げ、3.45%としました。この決定を受けて中国経済の先行き懸念からドル高人民元安となり、円もつられ、ドル高円安にもなりました。
このように中国の政策や経済の動きによって円も影響を受けやすくなってきており、今後も中国動向や人民元動向に注視する必要がありそうです。
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