米長期金利上昇や中国景気懸念で下げ幅広げる動きに
直近1カ月(7月14日~8月18日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで2.9%の下落となりました。8月1日にかけ一時は高値3万3,488円まで上昇しましたが、期間を通して、ほぼ3万2,000~3万3,000円のレンジ内の動きと、方向感の定まらない状況が続きました。
ただ、先週末(8月18日)にかけてはレンジ下限水準を割り込み、6月2日以来の安値水準にまで下落しています。なお、この期間のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は下落幅が9ドル(3万4,509ドル→3万4,500ドル)と横ばいでした。
7月末から8月初めにかけ一時上昇した場面は、個人消費支出(PCE)コア価格指数の伸びが予想を下回ったことで、米国の利上げ打ち止め期待が高まる形となったようです。
また、7月27、28日に開催された日本銀行金融政策決定会合では、市場予想に反して長短金利操作(YCC)を修正し、長期金利の変動許容幅の上限を従来の「0.5%程度」から事実上1%まで引き上げましたが、その後の為替市場では円高の流れに向かわず、安心感なども強まる状況となりました。
ドル/円相場は7月27日の138.7円台から8月16日には146.3円台にまで上昇基調となり、その間の株式市場の下支え役ともなりました。期間後半にかけての株安要因ですが、まずは、卸売物価指数(PPI)や小売売上高が市場予想を上振れたことで、米国の長期金利が上昇したことが挙げられます。
10年債利回りは一時4.3%台にまで上昇し、2022年10月の水準にまで到達しています。また、中国の景気再減速に対する警戒感も強まりました。7月の経済指標が軒並み市場予想を下回ったほか、不動産開発最大手の碧桂園が公募債でデフォルト(債務不履行)に近づきつつあるとの見方なども台頭してきています。
この期間は4-6月期の決算発表が本格化したことで、物色の手掛かり材料は主に決算内容となっています。エンプラス(6961)は1カ月で株価がほぼ倍化する状況となりましたが、ChatGPT関連製品の販売が拡大していることが材料視されたようです。日東紡(3110)、山崎製パン(2212)、アシックス(7936)なども決算が好感されて大きく上昇しました。
神戸製鋼所(5406)は業績上方修正とともに増配(年間配当金は前期の40円から90円)も発表し、利回り妙味も高まる形になっています。川崎汽船(9107)も上方修正とともに自社株買いの実施を発表しました。伊藤忠商事(8001)による伊藤忠テクノソリューションズ(4739)のTOBなども発表されました。
半面、日本M&Aセンターホールディングス(2127)、住友ファーマ(4506)、フューチャー(4722)、オムロン(6645)、シスメックス(6869)、オリンパス(7733)などは決算が悪材料視されて急落となりました。また、米長期金利上昇で中小型グロース株には売り圧力が強まり、JMDC(4483)、Sansan(4443)、ANYCOLOR(5032)なども軟調でした。
米国株8、9月下落しやすく上値重いか、中国の景気再減速と不動産問題が影差す
目先の注目点は、米国で開かれる国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会合」において、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の講演が25日に予定されていることです。毎年、ここでのFRB議長の発言が米金融政策の方向性を示す格好となるケースが多く、今回も追加利上げの有無などを占うものとなるでしょう。
CPI(消費者物価指数)伸びの鈍化傾向が続いていること、足元の米国株が高値から調整しつつあることなどを背景に、タカ派的な姿勢は強まらない可能性が高いとみられますので、足元で上昇基調にある米長期金利の反転材料につながっていく余地は大きいと考えます。
ただ、米国株は季節性が比較的強く、8月と9月は下落しやすい月となっています。米国株が本格的な上昇に転じるには今少し時間が必要となるかもしれません。
株式市場の大きなリスク要因は中国の景気再減速であると考えます。ここにきて、株価下支えに向けた当局の動き(指導)が伝わってきており、中国株の下げ止まりには寄与する可能性もありますが、景気の減速や不動産問題を解消するには程遠いと考えられます。
ファナック(6954)やキーエンス(6861)など4-6月期の国内企業の決算においても、中国市場の想定以上の回復の鈍さが意識される状況となりましたが、目先はさらなる悪化リスクも警戒しておくべきでしょう。構造的な不動産問題のほころびが大きく表面化した際には、世界的な景気の悪化へとつながる可能性も高いと考えられます。
ただ、中国関連においても、インバウンド(訪日外国人)には期待感が続く公算です。8月中旬には団体旅行解禁第1弾が日本に到着しており、8月から9月にかけての訪日客数増加、インバウンド消費の一段の拡大につながりそうです。インバウンド関連には最後の買い場が到来していると判断します。
海外投資家の日本株買いが膨らんだ要因としては、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄への改善要請が挙げられています。ただ、2023年4-6月期の決算発表においては、東証の要請への対応があまり進んでいない印象も受けます。日本株は中国市場からの資金の受け皿にもなり得るだけに、今後の積極的な対応策の発表が待たれるところです。
また、当面の注目テーマとしては、先のインバウンド関連のほか、再度、原発を含めた脱炭素、防衛などに関心が向かうものと判断します。また、中国に代わる市場として、2023年に人口が世界最大となるインド関連銘柄などにも注目度を高めておきたいところです。
米国のインフレ懸念が大きく後退するまでは、日本政府・日銀による円買いの為替介入もしにくいとみられるため、円安メリット銘柄の上値追いも注目されますが、景気敏感株などは中国リスクが当面の上値抑制要因となりそうです。
ほか、短期的には米長期金利の一服をにらんだグロース(成長)株が優位でしょうが、年後半にかけては、来年の新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)をにらんで、再度高配当利回り銘柄への関心が高まりそうです。
2024年の新NISAスタートにらみ、成長力ある高配当利回り銘柄(川崎汽船、シチズン時計、ジャックス、日本特殊陶業、大同特殊鋼)
FRBやECB(欧州中央銀行)理事会の利上げ打ち止めタイミングが接近していると考えられ、目先はグロース株が優位の状況になっていくと考えられます。ただし一方で、2024年の株式市場のテーマの一つに新NISA制度のスタートも挙げられます。2023年後半に向けては、市場の関心も高まっていく方向に向かうと考えられます。
NISA投資においては配当金も非課税となるため、高配当利回り銘柄が投資対象になりやすいと判断されます。とりわけ、グロース株への注目度が高まりそうな状況下、配当性向を配当金の目安とする企業が増えていることで、収益成長は配当金の増加につながりやすいことから、利益成長力の高い高配当利回り銘柄に注目したいタイミングです。
下表は、新型コロナウイルス感染拡大前(2020年3月期決算)との比較で、営業利益が大きく拡大している高配当利回り銘柄となります。今後も安定して高い収益成長が期待できそうな銘柄と位置付けられ、それに伴って配当金の水準も高まっていくとみられます。長期安定投資が基本となるNISA投資における有望な投資対象といえるでしょう。
(表)コロナ前比較で営業利益が大幅に拡大した高配当利回り銘柄
コード | 銘柄名 | 配当利回り (%) |
8月18日終値 (円) |
時価総額 (億円) |
今年度予想 営業利益 (百万円) |
4年間 変化率 (倍) |
---|---|---|---|---|---|---|
9107 | 川崎汽船 | 4.16 | 4,809.0 | 13,669 | 89,000 | 13.01 |
7762 | シチズン時計 | 4.68 | 854.0 | 2,100 | 25,000 | 4.07 |
8584 | ジャックス | 4.11 | 4,865.0 | 1,706 | 33,500 | 2.30 |
5334 | 日本特殊陶業 | 4.11 | 3,237.0 | 6,609 | 96,500 | 1.99 |
5471 | 大同特殊鋼 | 4.02 | 5,727.0 | 2,488 | 47,000 | 1.90 |
注:4年間変化率は今期予想含めた4年間での営業利益の増加率 |
銘柄選定の要件
- 予想配当利回りが4.0%以上(8月18日終値)
- 時価総額が1,000億円以上
- 今期予想含めた4年間での営業利益変化率が1.5倍以上
- 前期実績・今期見通しともに営業増益
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 川崎汽船(9107・東証プライム)
国内海運大手3社の一角です。2023年6月30日現在の運航船腹数は430隻、ドライバルク船、自動車船、LNG(液化天然ガス)船などが隻数上位となっています。
もともとはコンテナ船のウエートが相対的に高い状況でしたが、2017年に海運大手3社がおのおののコンテナ船事業と海外におけるコンテナターミナル事業をスピンオフし、それを統合した新会社「Ocean Network Express(ONE)」を設立しています。統合会社は持分法適用会社になっており、足元での収益急拡大のけん引役になっています。
2024年3月期第1四半期の経常利益は491億円で前年同期比81.6%の大幅減益となりました。急騰してきたコンテナ市況のピークアウトによってONE社の収益が減少し、持分法投資損益が減少しました。2024年3月期通期予想は従来の1,300億円から1,350億円に上方修正していますが、コンテナ市況の調整が続くことで、前期比80.5%の大幅減益見通しです。
一方、通期営業利益は850億円から890億円に上方修正し、前期比12.9%増となる見通しです。自動車船事業が想定以上に堅調に推移する見通しです。年間配当金は200円を計画し、前期比では実質400円の減配となります。
コンテナ船市況は2020年からの急騰前の水準にまですでに調整しています。今後一段の収益悪化要因にはつながらない見通しであり、現状の4.2%の配当利回り水準には十分に利回り妙味があると考えられます。
また、現在、自己株式の取得を実施中ですが、今後も機動的な還元策を実施していく方針です。還元総額は2022年度の2,000億円に対して、2023年度以降は2,500億円以上を計画しているようです。今後もバリュー(割安)株の代表銘柄の一つとして高く位置付けられる見通しです。
2 シチズン時計(7762・東証プライム)
「CITIZEN」ブランドの腕時計大手企業です。部品から完成品まで自社で一貫製造し、世界シェア3割を占める時計事業を主力に、工作機械事業、デバイス事業なども手掛けています。工作機械では、CNC自動旋盤で世界トップクラスのシェアを誇っています。
デバイスではLED(発光ダイオード)分野が主軸製品で、水晶デバイスなども扱っています。売上高の約7割が海外売上となっています。現在の中期経営計画では、2025年3月期売上高3,200億円、営業利益率8.0%を目指しています。
2024年3月期第1四半期営業利益は55.4億円で前年同期比0.9%減となっています。主力の時計事業は増収増益となりましたが、工作機械事業が国内、海外ともに伸び悩み、収益の足を引っ張る形となっています。2024年3月期通期では250億円、前期比5.4%増となる見通しです。
工作機械事業に関しては下振れ余地もありそうですが、為替レートの前提は1ドル=130円と保守的であり、こちらは上振れ要因につながりそうです。年間配当金は40円を計画し、前期比6円の増配予想となっています。
対ドルでは1円の円安で2.5億円、対ユーロでは1円の円安で2億円の営業利益増加要因となるようです。現在(8月21日現在)の円安状況を前提とすれば、トータルで78億円(ドル40億円・ユーロ38億円)の利益上振れ要因につながる計算です。
また、国内時計事業はインバウンド需要への期待が高まる方向でしょう。中国から日本への団体旅行が解禁となったことで、買い控えが続いた中国人の日本製品買いが一気に膨らむ可能性は高いと考えられます。
3 ジャックス(8584・東証プライム)
三菱UFJグループの大手信販会社です。いち早くキャッシングの上限金利を利息制限法内の18%以下に引き下げるなど堅実経営で知られています。
ショッピングクレジットやオートローンなどのクレジット事業、クレジットカードや決済・家賃保証サービスなどのカード・ペイメント事業、住宅ローンなどのファイナンス事業、ASEAN4カ国で展開する海外事業を行っています。投資用マンション向け住宅ローン保証が成長、業界トップシェアとなっています。
2024年3月期第1四半期営業利益は111億円で前年同期比24.7%増となっています。オートローンや住宅ローンの取扱高が拡大してけん引役となったほか、債権流動化に伴う債権譲渡益によって金融収益も増加しました。2024年3月期通期では335億円で前期比5.7%増の見込みであり、期初計画を据え置いています。
取扱高の順調な成長を見込んでいますが、第1四半期の営業利益進捗(しんちょく)率(33.3%)からは上振れが見込めると考えられます。年間配当金は200円で前期比10円増を計画しています。5期連続での増配となります。
足元では、海外事業の取扱高は拡大していますが、利益は伸び悩む状況となっています。各国の政策金利引き上げによる金融費用の増加が響く形のようです。ただ、世界的なインフレ鎮静化の兆しが見られている中、今後は米国や欧州などでも利上げ打ち止めが視野に入ってきています。
同社にとっては懸念要因の後退につながるものとみられます。同社の配当性向はここ数年、30%台で安定推移となっていますが、今後は一段の還元姿勢の向上なども期待したいところです。
4 日本特殊陶業(5334・東証プライム)
世界最大のセラミックス企業グループと位置付けられる森村グループの一員です。自動車部品では、スパークプラグで世界シェア45%、センサで同40%のシェアを占めています。
ほか、半導体用のセラミック製品なども手掛けていますが、自動車部品が利益の大半を占めます。輸出比率が8割超ありますが、相対的に中国依存度は低く、欧州構成比が高くなっています。スパークプラグは補修用のウエートが高いため、比較的収益水準は安定しています。
2024年3月期第1四半期の営業利益は284億円で前年同期比3.0%増となりました。自動車生産の回復に伴って、プラグやセンサなど主力の自動車関連事業が伸長し、為替の円安進展もプラスに寄与しました。2024年3月期通期では965億円で前期比8.2%増を見込んでいます。半導体製造装置用部品も年度後半にかけて徐々に回復すると見込んでいるようです。
会社側の上半期営業利益は前年同期比2ケタ減益の計画であり、上半期中心に上振れ余地は大きいと考えられます。会社側では配当性向40%を基本方針としており、年間配当金は133円を計画、前期比33円の減配となりますが、業績上振れはストレートに増配につながることになります。
第1四半期営業利益実績は市場コンセンサスを50億円程度上回るものとなっており、足元の業績は想定以上の推移と捉えられます。また、第1四半期決算発表時には、発行済み株式数の4.7%を上限とする自己株式の取得実施も発表しています。
7月にはデンソー(6902)からスパークプラグ事業、および排ガス用酸素センサに係る事業を譲受することで基本合意と発表しています。同分野ではもともと世界トップシェアを誇っていますが、一段の基盤強化でさらなるスケールメリット拡大が期待されます。水素関連技術の高さなども注目点となります。
5 大同特殊鋼(5471・東証プライム)
世界最大級の特殊鋼専業メーカーであり、大株主である日本製鉄と親密な関係にあります。自動車部品・ベアリング向けの型鍛造品、エンジンバルブやターボ関連製品を主力とする精密鋳造品、発電機、大型輸送機、プラント向けの自由鍛造品などが主力製品となっています。
知多工場は世界最大級の特殊鋼量産工場となっています。2020年以降は事業の選択と集中を実践し、不採算事業の撤退なども活発に行っています。
2024年3月期第1四半期営業利益は79.7億円で前年同期比21.7%減となりました。販売価格の改善で売上高は増加したものの、ステンレス鋼の在庫調整継続などにより、減益となっています。会社予想に対してはおおむね計画通りの推移のようです。2024年3月期通期では470億円、前期比横ばいとなる見通しです。
ステンレス鋼の在庫調整は上半期で一巡する見込みのほか、第2四半期以降は自動車部品・産業機械部品の利益進捗も改善見通しとしています。年間配当金も前期比横ばいの230円を計画しています。
半導体製造装置用の特殊ステンレス、航空機用のエンジンシャフト材、船舶用のエンジンバルブなど世界シェア首位製品も数多いもようです。特に、市場が回復している航空機関連の一角として関心が高まる局面も想定されるほか、年度後半からの半導体市況回復をにらむ場面でも注目される余地があるでしょう。
第1四半期低進捗を受けて株価は調整、PBRは0.6倍台にあり、押し目買い妙味もあります。業界再編への思惑なども今後折に触れて高まる余地があります。
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