7月の米雇用者数下振れ嫌気され、ドル売りに

 先週4日に発表された米7月雇用統計は強弱まちまちの内容となりました。農業部門以外の雇用者数は前年から18.7万人の増加と市場予想(20.0万人)を下回ったものの、失業率は3.5%と6月の3.6%から改善し、平均時給は前年同月比で4.4%と横ばいとなり、予想(4.2%)も上回りました。

 6月分の農業部門以外の雇用者数が下方修正され(▲2.4万人)、2カ月連続で20万人割れ(6月18.5万人、7月18.7万人)となりました。

 マーケットの反応は、雇用者数の伸び低下が嫌気され、長期金利は下落し、ドルが売られました。

 米大手格付け会社が8月1日に米国債の格付けを最上級のAAA(トリプル・エー)から1段階引き下げたことで(米国債格下げショック)、債券が売られ(金利上昇)、ドルが買われましたが、その影響が一巡しただけでポジション調整の域を出ていないとの見方もあります。

米利上げ年内どうなるか、ジャクソンホールのFRB議長講演注目

 今月は、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されません。米西部で開かれる国際経済フォーラムのジャクソンホール会議(24~26日)で予定されるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の講演が焦点となります。

 ジャクソンホール会議は年後半の金融政策の方針が示唆されることがよくあるため注目度が高い会議です。パウエル議長が9月以降の利上げ方針についてどのような示唆をするか見どころになります。

 FOMCの9月会合では利上げを見送るのか、見送っても次の11月会合以降に利上げするのか、あるいは利上げしなくても物価上昇率が目標の2%近辺になるまでどの程度の期間、政策金利が高い状態を維持するのか大事なポイントとなります。

 7月の米雇用統計では雇用者数の伸びが低下したものの、失業率が改善し、平均時給が堅調でした。労働市場の堅調さは確認されましたが、米国の物価の鎮静化が続くのか、それとも底打ちし、反転するのか、10日に発表される米7月CPI(消費者物価指数)で確認することになります。

 7月CPIの市場予想は前年同月と比べた上昇率が3.3%と、6月の3.0%から再上昇する見立てとなっています。市場は9月会合での金利据え置きを視野に入れつつありますが、CPIの伸びが予想以上であると、年内再利上げ(11月か12月)があるのではないか、今回の利上げ局面はまだ終わっていないのではないかという見方が急速に盛り返す可能性があります。

 そしてジャクソンホールでのパウエル議長のタカ派発言が期待され、為替相場もドルが対円で底堅く推移することが予想されます。CPIの結果によってはタカ派色への期待が高まる可能性に留意したいと思います。

米7月CPI上振れなら、景気の軟着陸シナリオ後退も

 米CPIの再上昇は米国経済のソフトランディングシナリオにも影響を与えるかもしれません。米国経済のソフトランディング(軟着陸)期待の高まりは6月CPI上昇率の急激な下振れ(5月4.0%→6月3.0%)がトリガーとなりました。

 しかし、もし10日発表の7月CPI の伸びが鈍化傾向を示さないのであれば、「景気後退を回避しながらインフレを沈静化する」というソフトランディングシナリオへの期待も後退することが予想されます。

 パウエル議長は、前回7月のFOMC後の記者会見で「FRBスタッフはもはや景気後退を予測していない」と述べました。米国経済の軟着陸に自信を示していたFRBの見方が、CPIが再上昇した時に変わるかどうか注目したいと思います。

 米国では、アトランタ連邦準備銀行が公表するGDPナウと同じように、「CPIナウ(CPI Now)」と呼ばれる現時点の物価予測をクリーブランド連邦準備銀行が毎日公表しています。

 その8日時点の予測では、前年同月と比べた7月CPIの上昇率は3.42%、8月は4.07%としています。7月の市場予測3.3%より高くなっています。

 8月もさらに上昇する予測となっているため、底打ち局面での一時的な上昇ではなく、再上昇が始まる可能性を示唆しているかもしれません。CPIナウは毎日変わるため、あくまで現時点での参考数値ですが、留意しておきたいと思います。

日銀、長期金利と物価の上昇続けばさらなる政策修正も

 一方で、いったん後退した日本銀行の材料が米CPIの上昇によって、またざわめいてくるシナリオも想定されます。

 米CPIの再上昇によって、米長期金利が上昇すれば、日本の長期金利にも影響することが予想されます。日本の長期金利がじわじわ上昇し、日銀が臨時の国債買い入れオペで金利抑制をしても円安の反応は徐々に鈍くなっていくことも予想されます。

 それよりも長期金利は、日銀が事実上の上限としている1%まで高まるとの思惑が強まり、1%に近づくにつれて、日銀の次の一手への期待が高まります。円高感応度が強まることがシナリオの一つとして想定され、ドルの上値は限定的になるかもしれません。

 日銀材料はひとまず後退していますが、米国CPIが再上昇すれば、米金利が上昇し、日本の金利や物価も上昇するとの思惑が広がり、日銀の政策修正への期待が再び高まることが予想されます。

 日銀は7日に、7月27~28日に開かれた金融政策決定会合の政策委員の主要発言をまとめた「主な意見」を公表しました。

 日銀が目標とする「2%の持続的・安定的な物価上昇」については「はっきりと視界に捉えられる状況になっている」、「賃上げとサービス価格の上昇が続く新たな局面が見込まれる」など、2%の物価目標の実現に向かいつつあるとの認識が複数示されました。

 日銀内部でも物価の見方がかなり変わってきていることを示す内容であり、市場だけでなく日銀も今後の物価動向により敏感になってくることが予想されます。

 10日の米CPI発表後、ジャクソンホール会議までに15日には日本の4-6月期実質GDP(国内総生産)速報値、18日には日本の7月CPIが発表されます。日本の材料にも関心を向けたいです。

 前回お話しましたように、8月は、6月(1ドル=138.44~145.07円 筆者推計)、7月(137.25~144.91円 筆者推計)の月間レンジの中をさまよい、次の方向を探る展開が続きそうです。米CPI、日本CPI、日本GDP、ジャクソンホール会議によってレンジをブレイクするのかどうか注目です。