日経平均伸び悩む、ETF分配金捻出売りと円高反転をマイナス視

 直近1カ月(6月16日~7月14日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで3.9%の下落となりました。6月下旬にかけての調整場面では25日移動平均線が下支えとなり、7月3日には終値ベースでの高値3万3,753円を付けました。

 ただ、その後は軟化して、7月6日には終値ベースで4月10日以来の25日線割れとなり、7月12日には一時、6月9日(取引時間中)以来の3万2,000円割れとなっています。なお、この期間のニューヨークダウ工業株30種平均の騰落率は0.6%の上昇でした。

 期間中前半の調整場面は、高値警戒感から上値の重さが意識され始めた中で、米国の利上げ長期化懸念が強まったことが要因になりました。また、2023年上半期末の接近に伴う機関投資家のポートフォリオリバランス(資産配分の変更)の動きなど、需給不安も警戒されたようです。

 その後は、先高期待の強さから一時的な調整局面を狙う押し目買いの動きが優勢となり、米国経済指標の改善、ドル高円安の進行なども支援材料とされました。

 ただ、7月に入ると再度売りが優勢になりました。ETF(上場投資信託)運用会社が投資家に分配金を捻出するため、売り需要が7日と10日に発生するとの見方から、売り需要を見越した先回りの売り圧力などが強まる展開になりました。ちなみに、両日合わせて1兆円規模の売り需要が発生したもようです。

 需給イベント通過後はリバウンドを見込む向きも多かったようですが、インフレ懸念の後退に伴う米長期金利の低下で、為替相場が一転してドル安円高に反転したため、その後の戻りも限定的になっています。米国ではCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)がともに市場予想を下回る伸びにとどまりました。

 この期間の物色ですが、コンテナ船市況の底打ち期待なども手掛かりに、日本郵船(9101)商船三井(9104)川崎汽船(9107)など海運株の強い動きが目立ちました。

 また、官民ファンドの産業革新投資機構による買収が発表されたJSR(4185)も買収価格にサヤ寄せする形で大きく上昇しました。ネクステージ(3186)良品計画(7453)サイゼリヤ(7581)タマホーム(1419)SHIFT(3697)などは3-5月期の決算が好感されました。

 半面、医薬品・バイオ関連の一角で下げが目立ちました。そーせいグループ(4565)は研究開発提携を行っていた新薬の開発を中止すると米ファイザーが発表したことが嫌気されました。第一三共(4568)は英アストラゼネカと共同開発中薬の試験結果がネガティブ視されました。

 一方、エーザイ(4523)は認知症治療薬を米国が正式承認しましたが、出尽くし感につながる形となりました。ソシオネクスト(6526)は株式の売出発表による需給懸念で急落し、個人投資家のマインド低下につながる場面がありました。

7月後半は日米金融政策や決算発表が焦点に、PBR1倍割れ銘柄の施策も注目

 目先は米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が7月25、26日に、日本銀行の金融政策決定会合が27、28日にそれぞれあり、注目イベントとなります。米国に関しては、0.25%の追加利上げ実施の可能性は高いと考えられますが、足元でのインフレ指標の落ち着きからみても、そこで利上げ打ち止めの可能性が高いといえるでしょう。

 年内の利下げ転換に至る可能性は低いと考えますが、グロース(成長)株にとっては買い安心感につながるものとなりそうです。

 一方、7月の日銀決定会合におけるYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)修正の観測が足元では高まりつつあります。7月の展望リポートにおいて2023年度のインフレ見通しの引き上げが想定されること、欧米の利上げステージが続いていることなどが要因として考えられます。

 ただし、足元で急ピッチに円高が進みつつあることは、一段の円高進行を促すYCC修正にとっては逆風といえるでしょう。直前の為替動向などに左右される面が強いとみられますが、いずれにせよ、短期的に輸出関連株には手控え要因となります。

 国内では、7月20日のニデック(6594)ディスコ(6146)などを皮切りに、2023年4-6月期の決算発表がスタートし、7月27日以降に発表企業数が急増する予定となっています。

 中国景気の回復ペースが想定以上に鈍いこと、足元でドル/円相場が急反転していることなどから、4-6月期決算での業績上方修正などは限られそうです。総じて大きなサプライズはなさそうですが、既に想定通りに決算を発表した安川電機(6506)ファーストリテイリング(9983)などのその後の動きから見て、決算発表後の主力株のポジティブ反応にはハードルがやや高いようにも感じています。

 ただ、こうした状況だからこそ、決算サプライズのあった銘柄には、従来以上に関心が強まる可能性もあるでしょう。ちなみに、全体相場の方向性を左右するのは、国内主力企業よりもむしろ、海外主力企業の決算発表後の動向となります。

 とりわけ、ハイテクセクターはその傾向が強いでしょう。その意味では、7月19日のオランダのASMLホールディング(ASML)、7月20日の半導体受託製造の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)の決算が最注目と言えます。

 今回の国内4-6月期決算発表で決算内容以上に注目されるのは、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄の改善施策であると考えられます。東京証券取引所の要請が3月末であったことからも、時間的な猶予を含めて、タイミングは今回になりやすいとみられます。

 配当方針の変更など株主還元策の充実などが最も多くアナウンスされる政策となるでしょうが、ほかに注目されるのはグループ再編の動きとなります。先に、ホンダ(7267)が子会社の自動車部品メーカー八千代工業(7298)の売却を発表していますが、このような再編がPBR1倍割れの上場子会社を保有している親会社主導で進む可能性があると考えています。

 今回のタイミングで、批判が多い親子上場の解消も一気に進めようとする企業は多くなりそうです。一方で、今回の決算では、最上位のプライム市場での上場維持を断念して、スタンダード市場への移行を発表する銘柄も多くなるとみられます。

単元未満株取引を活用、一般NISAでも買える高配当利回り銘柄(大東建託、芙蓉総合リース、NIPPON EXPRESSHD、SOMPO HD、三井住友FG)

 2024年からは新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)制度がスタートし、制限が大幅に緩和されることになりますが、今年までは一般NISAにおける年間購入額は上限120万円となっています。このため、高株価銘柄はNISAでの購入が不可能になるものもあり、ほかの銘柄と組み合わせて買うバリエーションも大幅に制限されてしまいます。

 この観点で言うと、楽天証券で取り扱っており、NISAでも取引ができる「かぶミニ」(単元未満株取引)を利用する格好のタイミングとも言うことができるでしょう。通常100株単位の企業の株式を1株から売買できるため、株価水準による制約を考える必要性は薄まることになります。

 そこで今回は、株価水準が高い高配当利回り銘柄をスクリーニングしています。「かぶミニ」における投資対象銘柄と位置付けられます。

 なお、これら高株価銘柄はこれまでのNISAでは対応しにくかったため、新NISAになって新たにNISA投資対象となり得ることで、来年以降はNISAへの組み入れが増える可能性も高まると考えられます。

(表)株価の水準が高い高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 7月14日終値(円) 時価総額 (億円) PBR (倍) 株価騰落率 (%)
1878 大東建託 3.80 14,070.0 9,696 2.37 6.67
8424 芙蓉総合リース 3.56 10,960.0 3,319 0.90 21.78
9147 NIPPON EXPRESS 3.72 8,075.0 7,315 0.95 1.32
8630 SOMPOHD 4.69 6,392.0 22,224 1.15 21.71
8316 三井住友フィナンシャル 3.98 6,275.0 86,261 0.67 18.44
8154 加賀電子 3.57 6,170.0 1,770 1.25 23.15
5444 大和工業 4.91 6,107.0 3,969 0.88 14.36
(注)株価騰落率は3月31日終値比

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(7月14日終値)
  2. 株価が6,000円以上
  3. 楽天証券の「かぶミニ」取引対象銘柄

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 大東建託(1878・東証プライム)

 賃貸建物の設計・施工を行う建設事業、建設し賃貸建物の賃貸建物の管理・運営代行などを行う不動産事業を展開しています。賃貸住宅仲介件数は年間約29.9万件、賃貸建物管理戸数は122万戸(ともに2023年3月末時点)です。

 家賃ベース入居率は98%程度と、業界トップクラスの高水準となっています。また、住宅供給戸数、賃貸仲介件数、賃貸住宅管理戸数ともに市場シェアトップの位置付けです。貸家着工戸数のシェアは11%強の水準にあります。配当性向は50%に設定しています。

 2023年3月期営業利益は前期比0.4%増の1,000億円となりました。資材価格高騰に伴う完成工事利益率悪化などで建設事業は減益となりましたが、不動産仲介事業や海外ホテル事業などが下支えとなる形でした。年間配当金は前期比5円増の516円でした。

 一方、2024年3月期は3.0%増の1,030億円を予想しています。不動産事業の着実な拡大を見込むほか、建設事業も価格改定効果による増益転換を想定しています。配当性向50%に沿って、年間配当金は前期比19円増の535円を計画しています。

 配当利回りが3%以上の銘柄の中では唯一、株価が1万2,000円を超える水準にあり、一般的なNISAでは投資対象とならない銘柄です。配当性向が50%と高いことから業績変動リスクには注意が必要となり、月次動向が株価の変動につながるケースも多いです。

 6月は建設受注が大きく落ち込みましたが、これは値上げ前の駆け込み需要が前年に発生した影響であり、今後は改善が期待できるでしょう。また、2024年6月には創業50周年を迎えるため、来年にかけてはこれを記念した株主還元策なども期待できそうです。

2 芙蓉総合リース(8424・東証プライム)

 リース業界大手の一角でみずほ系です。2023年3月末の営業資産残高は2兆7,045億円で、うちリース資産残高は1兆6,882億円となっています。物件別リース契約実行高では、建物等、情報・事務用機器、輸送用機器、医療機器などのセグメントが上位となっています。

 エネルギー環境やモビリティなどの領域を成長ドライバーと位置付けています。再生エネルギー発電容量は、2023年3月の515メガワット(MW)から2027年3月期には1,000MWを目指しています。2027年3月期には配当性向30%以上を目指すとしています。

 2023年3月期経常利益は前期比13.2%増の597億円となりました。6期連続での過去最高益更新となっています。航空機や不動産の伸長でリース事業が着地に拡大し、エネルギー環境などのビジネスが寄与してファイナンス事業も伸長しました。年間配当金は前期の285円から343円に引き上げています。

 2024年3月期経常利益は前期比7.2%増の640億円を計画しています。営業資産残高の順調な拡大による売上高の増加を見込んでいるようです。年間配当金は前期比47円増配となる390円を計画しています。

 2004年12月に株式を上場し、2005年3月期に初配当を実施、その後2023年3月期まで18期連続での増配を行っています。

 連続増配記録の上位銘柄として位置付けられていますが、会社側では、2027年3月期に配当性向30%以上を目指すとしており、今後も当面は増配基調が継続される見通しです。連続増配記録の上位銘柄は、比較的配当利回り水準が低い状況にありますが、同社は相対的に利回り水準も高く、NISA投資では非常に有望な銘柄とも言えるでしょう。

3 NIPPON EXPRESSホールディングス(9147・東証プライム)

 日本通運が主軸で2022年1月にホールディングス体制に移行しました。総合物流大手で世界第7位の位置付けとなっています。

 日本全国を網羅する195社のグループ会社からなる国内ネットワーク、49カ国・地域、312都市739拠点(ともに2022年12月31日時点)に広がる海外ネットワークなど、世界最大規模のネットワークが強みとなります。事業別売上構成比では最大の航空事業が25%程度、ほかに海運事業、自動車事業、倉庫・保管庫事業など事業構成は多彩です。

 2023年12月期第1四半期営業利益は前年同期比10.7%減の243億円となっています。運賃単価の下落、旺盛な値動きであった前年同期からの反動による数量減少が要因です。東アジア、南アジア・オセアニアを中心とする海外事業の減収減益幅が大きくなっています。

 通期計画は前期比32.5%減の1,050億円の見通しで、期初予想を据え置いています。エレクトロニクスの需要調整の影響が大きく、航空貨物が伸び悩むとみられます。年間配当金は前期比100円減の300円の計画ですが、前期には150円の記念配当金を含んでいます。

 配当性向は30%以上を掲げていますが、2023年12月期までの5年間で総還元性向50%以上の方針としています。

 注目されるのは海外展開が他社と比較して進んでいることであり、世界景気回復に伴う国内製造業の輸出回復時には大きなメリットも期待できるでしょう。競争が激しい宅配便事業からの撤退や人員削減など収益力向上に向けた取り組みをいち早く進めていることも評価ポイントとなります。

4 SOMPOホールディングス(8630・東証プライム)

 国内三大保険会社の一角です。2010年4月に損保ジャパンと日本興亜損害保険が経営統合して発足しました。28カ国・地域に展開するなど、海外保険事業が最大の収益柱となっています。国内生保事業も順調に拡大し、2023年3月期で保有契約数は471万件に達しています。

 生命保険会社では第一生命と、自動車メーカーでは日産やスバルなどと親密な関係にあります。ワタミの介護を買収して介護関連事業にも進出しています。

 2023年3月期純利益は912億円で前期比59.5%減となっています。国内・海外で正味保険料収入が順調に拡大しましたが、自然災害や新型コロナ(みなし入院給付による支払増)などの一過性要因が約730億円発生したことが響きました。一方、2024年3月期は2,300億円で前期の約2.5倍と大幅増益の見通しとなっています。

 一過性要因の剥落に加えて、海外保険事業における保険引き受け利益や運用収益の増加、国内損保事業における収益構造改革効果などを見込んでいます。年間配当金は前期比40円増の300円を計画、10期連続での増配となります。 

 金利上昇局面では銀行株とともに保険株は買われやすい傾向にあるほか、連続増配を実施中であるため、NISAによる長期投資には合致する銘柄と捉えられます。

 また、介護事業では業界第2位の水準に位置しており、今後の高齢化社会を迎える中、収益基盤の安定性が強固だと意識されます。今般、政策株式削減に関する方針を策定しており、年間700億円水準の売却を計画しています。株主還元への原資になっていくことなども期待できるでしょう。

5 三井住友フィナンシャルグループ(8316・東証プライム)

 3大金融グループの一角で、傘下に三井住友銀行、SMBC日興証券、SMBC信託銀行などがあります。メガバンクの中では高水準のROE(自己資本利益率)など収益性の高さ、経営スピードの速さなどに定評があります。

 他社と比較して、カードや消費者金融などノンバンク事業の構成比が高いことも特徴になります。自社株買いは総還元性向50%台半ばの水準を維持する形で行っていく方針のようです。海外事業を強化中です。

 2023年3月期純利益は前期比14.0%増の8,058億円となりました。法人貸出の増加や決済ビジネスなどの好調、為替相場のプラス影響などで、粗利益が大きく増加しました。加えて、与信関係費用の減少なども押し上げ要因につながりました。年間配当金は前期比30円増の240円でした。

 2024年3月期は1.8%増の8,200億円の見通しとしています。顧客部門の収益拡大が継続するほか、証券子会社の黒字回復なども寄与しそうです。会社計画はやや保守的とも捉えられています。年間配当金は前期比10円増の250円を計画しています。

 銀行株にとっては、短期的に日銀の金融政策の変更が注目点になります。YCCの修正や撤廃などがアナウンスされれば、長期金利の上昇に直結するとみられ、貸出金利の上昇に伴う利ザヤの改善が想定されます。

 仮に、7月の日銀決定会合でYCC修正が見送られても、早晩政策変更は実施される可能性が高く、失望売りに押される余地は限定的と考えられるでしょう。さらにその後は、国内政策金利の引き上げも大きなポジティブ材料として控えているため、長期的な観点で銀行株投資には大きな妙味があると言えます。