米CPIは27カ月ぶりの低水準に低下

 米労働省が12日発表した6月の米CPI(消費者物価指数)は前年同月比の上昇率が3.0%と12カ月連続で鈍化し、市場予想の3.1%を下回った。米CPIは27カ月ぶりの低水準に低下し、過去最大の減少幅を記録した。CPIを受けて、株式市場は好感し、ドルは下落した。

ドル/円(日足)

メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ユーロ/ドル(日足)

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出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ポンド/ドル(日足)

メガトレンドフォローVer2.0の売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米国と日本のCPIは逆転してしまったが、インフレ維持のための日本銀行の「金融抑圧」は、必然的に投機をあおることになる。Charles Hugh Smithが指摘しているように、【低金利時代におけるインフレの絶え間ない垂れ流し】は、誰もがリスクを負うことを余儀なくされる。

 インフレは庶民を二つの意味で罰する。彼らの主な収入源である労働の価値を低下させ、超富裕層が価値の高いカードを全て握っている投機的バブルでギャンブルをさせるのだ。

 このため、多くの人々を犠牲にして少数の人々に利益をもたらす現状維持のシステムを担当する人々には、大失敗するまで失敗したことをさらに続ける以外に、持続可能な選択肢がないのだ。

世界各国のインフレ率

なんと米国と日本のCPIが逆転!
出所:クリエーティブプランニング

 米国の昨年との価格変化(6月CPIレポート)は以下のようになっている。

交通機関: +8.2%
シェルター: +7.8%
自宅以外での食事: +7.7%
電力: +5.4%
家庭での食事: +4.7%
新車: +4.1%
全体の CPI: +3.0%
医療: ▲0.8%
中古車: ▲5.2%
ガス事業: ▲18.6%
ガソリン: ▲26.5%
燃料油: ▲36.6%

 CPIの発表前に、「6月の総合CPIは前年比4.0%から3.1%に低下する予定だが、その時点で再び上昇に転じる。そして、中国が景気を刺激し(北京ではデフレや若年失業率が記録的になるはずがない)、コモディティが高騰すれば、すべての賭けは外れます」とゼロヘッジがツイートしていたが、インフレの減速はかなりピークに近いのかもしれない。

米国のインフレターゲットとインフレ前提

出所:ゼロヘッジ

52年に一度の金融危機!?

 8月22日から24日にかけて開催されるBRICS+の年次首脳会議では、加盟国が米ドルに対抗するために、ゴールドを裏付けとした新しい通貨を導入する予定だ。BRICSのゴールドにリンクされた通貨は8月22日にプレビューされ、段階的に実装される予定だという。

 BRICSが「金本位制」を復活させるというのだ。BRICS+の拡大したグループは40カ国以上で構成され、世界人口の約2/3、世界GDP(国内総生産)の約1/3を占めている。

 BRICSの今回の発表は、米ドルを世界の基軸通貨から脱却させるという、より大きな地図における重要な中継点である。

「ゴールドは本物の代替通貨である」という私たちがすでに知っていることを確固たるものにするだけでなく、最近の記憶の中で、世界的な舞台で米ドルに対する最も顕著な公的挑戦でもある。借金ベースの西から商品ベースの東と南へという大変革は起こるのだろうか?

 数十年にわたる西側先進国の「質の低い成長」は、持続不可能な経済システムへと転移してきた。その結果、不平等が社会をむしばんでいる。お金を持って引退しても、幸せで健康で気ままな生活が保証されるわけではない。

米国は経済成長1ドルあたり4.82ドルの債務が必要

出所:リアルインベストメントアドバイス

 BRICSの新通貨についてはまだ詳細が明らかになっていないが、キッシンジャーが作ったペトロダラーシステム(ドル=石油本位制)の崩壊による世界貿易の脱ドル化とBRICS+の台頭と相まって、乗り越えられない債務負担により、米ドルはじり貧の道をたどっていく可能性がある。

 今後、世界の国々で「金融」への関心が薄れ、「モノ」への関心が高まっていくことが予想される。私たちの生活を支えるには、金融よりも、モノの方がはるかに重要であることがわかったからである。

 負債が成長を上回るペースで増加し、成長が投機的な信用資産バブルに依存しているが、これはいずれ持続不可能になる。結局のところ、どの国でも不換紙幣制度の最終段階は「インフレ」であることが証明されている。

米国債務の膨張とゴールド価格の歴史

 世界の主要金鉱山会社40社がメンバーとなって1987年に設立された非営利組織、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)がまとめた最新のデータによると、5月に多くの中央銀行がゴールドを買い越したことがわかった。

 最大の買い越しとなった中央銀行はポーランドで、次いで中国、シンガポール、ロシア、インド、チェコ共和国、イラク、キルギス共和国の八つの中央銀行だった。

 ポーランドは5月に19トンのゴールドを新たに追加したが、これは、ポーランドがゴールドの購入を再開した4月(15トン)に続くものとなった。ポーランドの中央銀行は現在263トンのゴールドを保有している。

 中国人民銀行は、7カ月連続でゴールドの購入量を増やしている。中国は公式にはゴールドを2,092トン保有しているとしているが、国家外為管理局(SAFE)と呼ばれる組織に数千トンのゴールドを「簿外」で保管しているとされており、公表しているよりもはるかに多くのゴールドを保有しているとされている。

 昨年から各国の中央銀行によるゴールドの購入量が増加している。2022年の中央銀行によるゴールド購入総量は1,136トンとなったが、これは、1971年にドルからゴールドへの兌換(だかん)が停止されて以降を含め、記録をさかのぼることができる1950年以来、最も高い水準だった。中央銀行によるゴールドの買い越しは13年連続だとのことである。

7割の中央銀行が今後12カ月の間にゴールドの保有を増やすとしている

出所:ワールド・ゴールド・カウンシル

 この流れは今年に入っても継続している。世界の中央銀行が保有するゴールド準備高は、2023年の最初の3カ月を通して228トン増加した。これは2013年に記録した第1四半期の記録を38%上回るものとなった。

 また、WGCが5月30日に発表した「2023 Central Bank Gold Reserves Survey(2023年中央銀行ゴールド準備サーベイ)」によると、調査対象となった中央銀行10行のうち7行が、今後12カ月間にゴールド準備高が増加すると考えている。これは昨年から10ポイントの増加だ。準備高を減らすとしたのはわずか1%だった。

 この背景にあるのがドルに対する信任の低下だ。ビジュアルキャピタリストの記事「Visualizing Gold Price and U.S. Debt (1970-2023)金価格と米国債を可視化する(1970~2023年)」によると、過去50年にわたり、ゴールドの価格は米国の公的債務の増加をめぐる懸念と密接に絡み合ってきた。

 ゴールドは長い間、価値の保存と経済の不確実性に対するヘッジと考えられてきた。

ゴールド価格の推移と米国の公的債務の推移(1970年から2023年)

出所:ビジュアルキャピタリスト

 米国の公的債務は、力強い経済成長を背景に財政黒字を達成した2000年に約2%減少したのを除き、1970年以降、一貫して年々増加している。米国の借金は1970年の約3億700万ドルから、2023年には史上最高の31兆4,000億ドルにまで膨れ上がり、ここ数年は債務上限を引き上げる議論が議会で毎年繰り広げられている。

 多額の政府債務の裏には政府が紙幣を増刷したり、政府支出を増やしたりするが、これらはいずれもインフレ圧力となる。こうした状況下においては、インフレに対するヘッジとしてゴールドに対して目を向ける投資家が増える。また、連邦政府の債務残高が増えるにつれ、投資家は金融市場の安定性に対する警戒感を高めるため、ゴールドのような安全資産を求めるようになる。

ゴールド価格の推移と米国の公的債務の推移(1970年から2023年)

出所:ビジュアルキャピタリストのデータより石原順作成

 では莫大(ばくだい)な政府債務が積み上がった現在を踏まえ、今後のゴールド価格はどのように推移するのか。WGCが7月6日に公表した「2023Gold Mid-year Outlook 2023: Between a soft and a hard place(2023年ゴールド・ミッドイヤー・アウトルック: ソフトとハードのはざまで)」から確認してみよう。

ソフトランディングとハードランディングのはざまで輝く金

 WGCの「ゴールド・ミッドイヤー・アウトルック」では、経済全般の行方に関する市場コンセンサスとして、2023年後半には米国が穏やかな景気縮小に転じ、先進国市場も低成長になると指摘している。しかし、金融政策と経済パフォーマンスの間に歴史的なタイムラグがあることから、投資家はハードランディングがまだ続くのではないかと警戒している。

 このような背景を踏まえ、上半期にゴールドがプラスリターンであったことを考慮すると、ゴールドは引き続きサポートされると予想している。ただし、経済情勢が悪化すれば、ゴールドは投資需要が強まるはずだ。逆に、ソフトランディングや大幅な金融引き締めが実現すれば、投資意欲が減退する可能性があるとしている。

 今年上半期、ゴールドは米ドル建てで5.4%上昇し、6月の終値は1オンスあたり1,912.25ドルとなり、ゴールドは先進国の株式以外、他の全ての主要資産を上回る結果となった。ゴールドは投資家のポートフォリオにプラスのリターンをもたらしただけでなく、上半期を通じて、特に3月に起きた地方銀行の破綻騒ぎの際、資産ボラティリティの低下にも貢献した。

2023年前半、ゴールドはトップクラスのパフォーマンスを示した

出所:ワールド・ゴールド・カウンシル

ゴールドCFD(日足)

マーケットナビゲーターの売買シグナル(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 ゴールドが好パフォーマンスを果たした背景には、いくつかの要因が重なったと指摘している。一つは米ドルと金利が比較的安定していたこと、二つ目はイベント・リスクに対するヘッジとなったこと、三つ目は世界各国の中央銀行による継続的な需要があったことだとしている。

 ECB(欧州中央銀行)とBOE(イングランド銀行)はともに6月に利上げを実施したが、米FRB(連邦準備制度理事会)は引き締めサイクルの効果を実体経済に浸透させるため、目標金利を据え置いた。市場参加者は、FRBによる年内の追加利上げを予想しており、その可能性は7月が最も高く、その後は持続的な「ホールド」期間が続くとみている。

 このようなシナリオが実現した場合、特に上半期の堅調なパフォーマンスを考えると、2023年もゴールド価格は年間を通じてサポートされる可能性が高いが、これまでのレンジから大きく抜け出すことはないかもしれないと述べている。

 ただし、インフレが落ち着きを見せる兆しがあるものの、株式市場のボラティリティと地政学的リスクや金融危機などの「イベント・リスク」を考慮すると、ゴールドを含むヘッジ戦略を維持する投資家は多いと考えられる。

PMIが低下する局面ではゴールドは株式市場をアウトパフォームする

出所:ワールド・ゴールド・カウンシル

 一方で、多くの投資家はISM(サプライマネジメント協会)のPMI(購買担当者景気指数)も将来の弱さのシグナルとして注目している。実際、先進国市場のPMI(製造業とサービス業の両方)はここ数カ月悪化している。

 製造業PMIが50を下回り、低下している場合、ゴールドは株式をアウトパフォームする傾向がある。さらに、PMIが45を下回る場合、ゴールドのアウトパフォームはさらに顕著になる可能性があることを歴史は示唆している。

 景気後退リスクが高まれば、ゴールド投資の上昇幅は大きくなる可能性がある。景気悪化は、信用状況の引き締めに伴うデフォルトの大幅な増加や、高金利環境のその他の予期せぬ結果によって引き起こされることが想定される。

 歴史的に、このような時期にはボラティリティが上昇し、株式市場が大きく後退し、ゴールドのような高品質で流動性の高い資産への全体的な投資意欲が高まる。

 ゴールドは歴史的に景気後退期に良好なパフォーマンスを示してきた半面、ソフトランディングへの期待は、ゴールドにとって逆風となり、投資家離れを招く可能性がある。例えば、ゴールドETF(上場投資信託)は6月に大幅な資金流出を記録した。

ゴールドは歴史的にリセッション期間中に良いパフォーマンスを示してきた

出所:ワールド・ゴールド・カウンシル

 投資家は、金融政策の影響や景気後退の可能性を評価する際、資産配分においてディフェンシブ戦略を強化することが多い。予想される米景気の縮小が穏やかなものとなった場合、下半期はより中立的なものになる可能性が高い。

 ただし、世界のマクロ経済の結果を予測することが本質的に不確実であることを考えると、ゴールドのポジティブなパフォーマンスは、投資家の資産配分のツールとして重要な要素になりうると考えて良いだろう。

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 7月12日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、紙田智弘さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部)をゲストにお招きして、「海外勢主導のこの日本株高の行方は?米大統領選挙までの道のり・・」・「楽天証券の売買ランキングに、米国債のETFがトップ10入り」・「暴落のトリガーである日本の利上げと米国の利下げはいつ?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

7月12日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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(石原順)