日銀の金融政策変更の思惑で、円高進行・日経平均下落

 12日の日経平均株価は、前日比259円安の3万1,943円でした。日銀(日本銀行)が、長期(10年)金利の上限を0.5%とするイールドカーブコントロール(YCC)政策を近く変更し、長期金利の上昇を容認するという思惑が広がり、為替市場で一時139円台まで円高が進んだことが嫌気されました。

日経平均とドル/円為替レートの動き:2023年1月4日~7月12日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 6月まで、日銀はYCC政策をなんとしても堅持し、長期金利の上昇は許さないと見られていました。FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げ継続方針を強調する中、日銀が大規模緩和堅持を強調していたため、為替市場では、円安(ドル高)が止まりませんでした。円安を好感して、日経平均の上昇も続いていました。

 ところが、7月に入り、日銀が長期金利上昇を容認する思惑が出たことで、為替のトレンドが変わりました。FRBはタカ派姿勢を変えていませんが、日銀の金融政策が変わる思惑が広がったことで、7月は円高(ドル安)が進み、日経平均が売られる流れが出ています。

三菱UFJが逆行高、既視感

 12日は、日本のインフレ率上昇を受けて、日銀が長期金利上昇を容認する思惑が広がりました。円高が進み、日経平均が下落する中、三菱UFJフィナンシャル・グループ(三菱UFJ:8306)が前日比1.7%高となるなど、銀行株が一斉に上昇しました。

 金利上昇は日本の株式市場全体にとってマイナス材料ですが、銀行株にとっては大きなプラス材料なので、日経平均が下落する中で、銀行株は上昇しました。

 銀行株は、長年にわたり日銀のゼロ金利政策に苦しめられてきました。短期金利だけでなく、長期(10年)金利までゼロ近辺に固定されていたため、国内商業銀行業務の収益が大きなダメージを受けてきました。今やっと日本の長期金利に上昇余地が出てきていることは、銀行業にとっては「干天の慈雨」です。

「日経平均が下落する中で、銀行株上昇」、これには既視感を覚えます。昨年12月20日に同じ現象を見ているからです。

2022年12月の日経平均と三菱UFJフィナンシャル・グループ株の動き:2022年12月1日~30日

出所:QUICKより作成

 昨年12月20日、日経平均が2.5%安と売り込まれる中、三菱UFJは6%高と急騰しました。この日の正午に日銀がビック・サプライズ(大いなる驚き)を発表したことに反応した動きです。

 12月20日正午、日銀は「長期(10年)金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げる」と発表しました。当時日銀総裁だった黒田東彦氏は、かたくなに大規模金融緩和の維持、長期金利の上昇拒否を唱えていたため、マーケット関係者は「金融政策の変更はないだろう」と予想していました。

 ところが、昨年12月20日正午にいきなり長期金利の上昇容認を発表したことが、株式市場にとってビック・サプライズとなりました。この発表を受けて、20日午後には金融市場に波乱が起こりました。日経平均が急落、メガ銀行など金融株が急騰、円高が急伸、債券が下落(長期金利が上昇)しました。

 三菱UFJ株について、強い買い推奨を継続します。このまま一本調子の上昇は考えていませんが、乱高下しつつ上昇トレンドが続くと判断しています。

 割安な株価、安定的に高収益を上げるビジネスモデル、国内で金利上昇圧力が続くと予想していることが、株価に追い風になります。投資判断の詳細は、このレポートの末尾に添付している「著者おすすめのバックナンバー」を参照してください。

ローソンがストップ高

 12日、日経平均が下落する中、ローソン(2651)株が、前日比1,000円(16%)高の7,261円(ストップ高買い気配)と急騰しました。

ローソン株価月次推移:2016年1月~2023年7月(12日)

出所:QUICKより作成

 前日に発表した2023年3-5月期(2024年2月期の第1四半期)決算が、市場予想を大幅に上回るビッグ・サプライズだったためです。3-5月の事業利益は前年同期比64%増の262億円、純利益は同94%増の161億円でした。

 これまでの構造改革とリオープン(経済再開)の効果で、業績好調が予想されていましたが、ここまで急激に利益が回復するとは予想されていませんでした。

 予想以上の利益を出したのは、国内および海外のコンビニエンス事業、エンタテインメント事業です。同社の3-5月期セグメント別利益を見ると、国内コンビニエンス事業のセグメント利益は、前年同期比52%増の199億円となりました。

 エンタテインメント事業は同47%増の19億円でした。海外事業のセグメント利益は2億円の黒字に転換しました(前年同期は28億円の赤字)。

 外出する人が増えて、ファストフード・飲料・店内調理品・化粧品などの売上が増加しました。また、コンサートやスポーツ、レジャーなどのチケット取扱高も伸びました。

 これが、ローソン復活の号砲となると考えます。これまで取り組んできた構造改革の成果がなかなか出ませんでしたが、リオープンによる売上増加と同時に構造改革の成果が出てくることで、今期(2024年2月期)は、年間を通して高水準の利益を稼ぐと予想されます。

 ローソンは、通期の純利益見通しを前期比2.4%減の290億円に据え置きましたが、同85%増の550億円に上振れすると予想します。株価は、同予想に基づきPER(株価収益率)16倍で評価されるとして8,900円まで上昇すると予想します。

 ローソン株は2016年2月に1万280円の史上最高値をつけてから、7年間にわたり下落トレンドが続き、2022年6月には一時4,210円をつけていました。国内コンビニ業界が飽和に達し、新規出店で成長する余地がなくなってから、国内のコンビニには悪材料が続きました。

 人件費上昇、人手不足に対応した省人化投資負担の拡大、深夜営業の減少、コロナ禍、電力料金上昇などで業績低迷が続き、株価の下落が続きました。

 その間、同業のセブン&アイ・ホールディングス(3382)は、セブン-イレブンの米国事業拡大を続けて、利益を成長させていましたが、海外事業の収益化が遅れていたローソンは、国内コンビニ事業の不振を補うすべがありませんでした。

 ただし、その間に取り組んできた省人化投資や商品ラインアップの魅力向上、親会社(三菱商事)との連携強化の成果が、やっと見通せるようになりました。コロナ禍からの回復とともに、利益・株価の回復を生む原動力となると考えます。

リオープン・消費関連株の利益回復期待が高まる

 これから、4-6月決算の発表が本格化します。リオープンで恩恵を受ける内需株の利益回復期待が高まりました。リオープンで業績好調がある程度予想されていますが、ローソンのように想定以上に好調な企業が出てくる可能性もあります。

 外需株については、中国景気の不振や米国景気減速の影響を受けて不振の企業もあると考えられますが、リオープン消費関連株への回復期待は高まりました。

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 今の株価上昇の背景に、インフレ上昇・名目GDP(国内総生産)の伸び加速など日本経済の構造変化があると私は見ています。ただし、それを経済指標で確認できるのは、かなり先です。

 構造変化によって株価が転換点を迎える時、ファンダメンタルズ分析だけでなくテクニカル分析も駆使して、マーケットの流れについていく必要があります。

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 私が25年の日本株ファンドマネジャー時代に得たテクニカル分析のノウハウを初心者にもわかりやすく解説しています。クイズ60問を解いて、トレーニングする形式です。株価チャートの見方がわからなくて困っている方にぜひお読みいただきたい内容です。

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