円安から円高へ、地合いが変わった7月の為替相場          

 7月に入ってこれまでの株高、円安の地合いが変わってきました。日経平均株価(225種)は3日におよそ33年ぶりの高値を更新しましたが(終値3万3,753円33銭)、その後5日間続落などがあり、12 日の水曜日(3万1,943円93銭)までに1,800円超下落しました。

 日本株の下落に呼応するかのようにドル相場も3日の1ドル=144円台後半から、7日に米雇用統計が発表された後には142円台前半まで下落しました。12日時点では139円台半ばまで下げています。

6月の米雇用者数伸び鈍化で、ドル下落

 米6月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比20.9万人の増加と市場予想(22.5万人増加)を下回ったものの、失業率は3.6%と前月の3.7%から改善しました。

 また、平均時給は前年同月比で4.4%増と横ばい(前月5月は4.3%から改定され、4.4%に上方修正)となり、予想(4.2%増)も上回りました。このように失業率の改善と平均時給の堅調維持によって、市場では、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が7月に利上げする路線は変更なしとの見方となったようです。

 しかし、為替相場は非農業部門雇用者数の伸びが低下したことを気にしたようです。6月の20.9万人増は、コロナ禍前の2015~2019年の平均19万人程度に近い水準まで伸びが鈍化している状況です。また、過去2カ月分も計11万人の下方修正(改定値で4月に7.7万人、5月に3.3万人それぞれ下方修正)となりました。

 この修正によって、2~4月の3カ月平均は22.7万人増、3~5月は24.7万人増、4~6月は24.4万人増となり、20万人台前半の増加が続いています。1~3月の30万人台前半からかなり低下しました。このような状況をみて労働市場の減速が懸念され、ドルは下落しました。

投機筋による円の売り越しどれだけ縮小するか今後の鍵に!

 日本株は、33年ぶりの高値を付けるほど過熱していたところに、世界景気の先行き不透明感から欧米株式が下落し、東京株式市場でも利食いやポジション調整の売りが出たようです。

 ドル相場が円高ドル安に振れた背景には、1ドル=145円前後の円安水準に達したことで、日本の通貨当局からのけん制発言もあったと思われます。また、それよりも、海外投資家の株買いとセットの円売りヘッジを株下落によって外す動き(円買い)がみられたことや、利食いやポジション調整の動きが大きかったかもしれません。

 CFTC(米商品先物取引委員会)によると、ヘッジファンドなど投機筋の米ドルに対する円のネットポジションは7月3日時点では、売り越しで11万7,920枚(約1兆4,700億円)となり、2018年1月以来およそ5年半ぶりの高水準になりました。

 CFTCのデータは、投機筋の動向を知るために為替市場では注目されています。データ発表時から円高が進んだことで、今後、この売り越し額がどの程度縮小されるか、相場を占う鍵となります。

 これまでの円売りポジションは、日米の金利差拡大を意識して積み上がったものですが、今後、あまり縮小されることがなければ、投機筋は今後も日米金利差は拡大するとの見方を維持するかもしれません。

 逆に、今後も円売りポジションの縮小が続くのならば、日米の金利差拡大が限定的になるというシナリオに投機筋は傾いてきているのかもしれません。つまり、投機筋は、米国の利上げが年内あと2回あるとはみておらず、日本銀行による政策修正への期待が高まることを想定しているかもしれません。

 7月7日付の日本経済新聞に、日銀の内田真一副総裁へのインタビュー記事が掲載されていました。

 それによると、内田氏は「YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)を続けていく」と強調しながらも、YCC修正については、「金融仲介や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」と述べました。

 今後のYCC見直しの可能性を否定しなかったことから、市場では、次回7月27、28日の金融政策決定会合でYCCの長期金利変動幅の上限を引き上げるのではないかと思惑が広がったことも円高の一因となったようです。

1ドル139円の円高ドル安に、米消費者物価伸び鈍化なら一層のドル安も

 先週末にドル相場は久々の1ドル=142円台という円高ドル安水準となりました。10日の東京外国為替市場では実需のドル買いもあって、143円近辺までドルは買われました。

 しかし、ドルの上値は重たくじりじりと下がりました。10日に発表されたニューヨーク連邦準備銀行の6月消費者調査も金利低下やドル売りに影響したようです。

 この中で、1年インフレ期待率が3.83%と5月時点の4.07%から低下しました。3カ月連続の下落で約2年ぶりの低水準となりました。これを受け、米10年債利回りは4%を割れ、ドルは141円台前半まで下落しました。

 この指標も後押しとなって、為替市場は米国の6月CPI(消費者物価指数)の上昇鈍化をかなり織り込み、ポジション調整が進みました。12日の東京市場ではCPIの発表前に140円を割れ、139円台半ばで推移しています。ここまで短期間で円高が進むと、逆にCPIが強い数字となった場合にはドルの反発も予想されるため、注意する必要があります。

 米6月雇用統計では失業率の改善と平均時給の横ばいによって、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の7月会合で利上げがあるとの見方は強まりました。

 しかし、景気悪化局面でみられる黒人労働者の失業率が上昇していることや平均時給は先行き低下するとの見方もあることから、7月会合で利上げした後は次の利上げは様子見となるシナリオも浮上してきています。

 さらに12日の米6月CPIの前年同月からの上昇率は鈍化するとの予想ですが、予想を上振れても前月の上昇率(4.0%)を下回る範囲にとどまれば、インフレが減速していく期待が一層強まることが予想されます。その場合は、7月利上げ観測が後退することも予想されます。そうなれば、ドル安がさらに進むと見込まれます。

 一方で、CPIの伸びは鈍化しても食品とエネルギーを除いたコアCPIが依然高水準となった場合は、7月利上げ観測は後退しないことも想定されます。その場合は、年内9月以降にあと1回の利上げ観測が維持されるのかどうかという点が焦点になります。そうなったら、円売りの巻き戻しによる現在のポジション調整もいったん小休止となりそうです。

 そして9月のFOMC前には、8月下旬に米ジャクソンホールで開かれる経済政策シンポジウムでFRBのパウエル議長の講演が予定されています。年後半の金融方針を講演で示唆することもあるため毎年注目されていますが、今年はますます目が離せません。