日銀の金融緩和姿勢際立ち、1ドル145円の円安に

 6月は、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が昨年3月に始まった利上げ局面で初めて政策金利を据え置きましたが、年内あと2回の利上げを示唆するタカ派見通しとなりました。一方、日本銀行は予想通りの現状維持(金融緩和継続)となったため、日米金融政策の方向の違いを材料にドル買い円売りが進みました。金融引き締めの通貨(ドル)は買われ、金融緩和の通貨(円)は売られるという構図です。

 クロス円(米ドル以外の外国通貨と円の組み合わせ通貨ペア)でも、BOE(英中央銀行イングランド銀行)が3会合振ぶりに利上げ幅を0.50%に引き上げたことや、カナダの中央銀行がいったん停止した利上げを再開し、オーストラリア4月に利上げを一時停止した後、5,6 月に利上げをしました。いずれも予想外の利上げだったことからクロス円の円安が進み、対ドルでの円安を後押しした形となりました。

 先週、ECB(欧州中央銀行)が主催した国際会議ECBフォーラムでは、28日のパネル討論会で、欧米英の中銀はインフレを警戒し、今後も金融引き締めを続ける方針を表明しました。一方で、日銀の植田和男総裁は基調インフレが目標の2%を下回っているため金融緩和を正当化できるとして緩和継続姿勢を示しています。

 日米欧英の4総裁が一同に集まった討論会で、米欧英が金融引き締めを続ける中で日銀の金融政策が際立つ結果となり、円売りに弾みがつき、30日に1ドル=145円台に乗せることになったのかもしれません。

米景気後退示す指標相次ぎ、FRBのタカ派姿勢揺らぐ可能性

 日銀以外の中銀が予想外の利上げやタカ派姿勢を鮮明にしているのは、インフレは鈍化しているものの、労働市場が堅調なためインフレリスクがくすぶっていると判断しているからです。

 しかし、各国中銀は同時にインフレに警戒しながらも、利上げによる景気への悪影響を懸念していることは間違いありません。7月に入ってからもタカ派姿勢を表明していますが、今後の金融政策はデータ次第で変わる可能性があることに留意する必要があります。

 というのも、ここにきて景気後退を示す指標が相次いで発表されているからです。7月3日に公表された米6月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数は8カ月連続で拡大・縮小の分岐点となる50を割れ(46.0)、かつ生産や雇用指数も悪化したことからドル売りとなりました。

 この水準は2020年にコロナ禍に入った時期を除き、リーマン・ショック後となる2009年5月以来、14年ぶりの低水準ということです。製造業よりは強いといわれる6日発表予定のISM非製造業景況指数がどのような結果になるのか注目です。

 さらにFRBが7月25、26日に開くFOMC(連邦公開市場委員会)までに米雇用統計(7日)や米6月CPI(消費者物価指数、12日)の公表が控えています。そうした経済指標の内容次第で、FRBのタカ派姿勢が揺らぐ可能性もあるかもしれません。揺らぐたびに為替相場も振らされそうです。

ユーロ圏でも景気後退で利上げ継続は難しい判断に

 ユーロ圏でも景気指数が悪化しています。6月23日に発表された6月のユーロ圏PMI(製造業購買担当者景気指数)は総合で50.3と前月より2.5ポイント下がり、5カ月ぶりの低水準となりました。製造業の悪化に加えて全体をけん引してきたサービス業が失速したようです。製造業は43.6と1.2ポイント下落し、3年1カ月ぶりの低水準になりました。

 サービス業も52.4と2.7ポイント低下し、5カ月ぶりの水準まで下がりました。さらに7月3日に発表された6月製造業PMI改定値は43.4と速報値の43.6を下回りました。5日には6月サービス部門PMIの改定値が発表されますが、注目したいと思います。

 ECBのラガルド総裁はECBフォーラムではPMIの悪化を受けて発言していますが、その後の改定値の悪化や、今後発表される経済指標によってタカ派姿勢が緩むのかどうか焦点です。

 ユーロ圏GDP(国内総生産)は2022年10-12月期(前期比0.1%減)、1-3月期(0.1%減)となり、マイナス成長となっています。既に2四半期連続のマイナス成長(テクニカル・リセッション)になっている中での利上げ継続はかなり難しい判断となりそうです。次回のECB理事会は7月27日開催の予定です。

日本の円買い介入是非、米財務長官「根拠よりよく理解しようとしている」

 7月は、ドル相場は1ドル=145円に一時乗せたことから、日本政府や通貨当局者からのけん制発言も一層強まることも予想されるため、6月のような一本調子の円安ペースは期待できないかもしれません。

 日本の円買いドル売りの為替介入に対する米国の反応はどうでしょうか。2022年9月の円買い介入の時は、米財務省は「日本の行動を理解している」と介入を容認するコメントを出しました。

 今の円安局面について、イエレン財務長官は6月30日、昨年9月の介入水準である1ドル=145円の円安水準となったことを踏まえ、日本政府による介入に懸念があるか問われると「私たちのチームは介入の根拠をよりよく理解しようとしており、日本の当局者とも連絡を取り合っている」と答えています。

 現時点では介入に容認を示さなかったものの日本政府と調整に入っていることを認めています。日米からのけん制発言によって、ドルが一時的に下落する押し目は買いとのパターンが続いても、利食いの回転が速くなるかもしれません。

日銀、今月会合で政策修正期待高まる!現状維持なら為替介入警戒を

 7月の材料としては、日銀の政策変更期待が再び高まりつつある今、27、28日の金融政策決定会合が鍵になります。

 植田総裁は6月の政策決定会合後の記者会見で、「(物価の)下がり方が思っていたよりもやや遅い」と述べ、従来の物価見通しと異なる動きになっていることを認めています。

 さらに会見では、物価情勢の変化を捉えた政策修正は「ある程度、サプライズとなることもやむを得ない」と発言しています。7月会合後に発表する展望リポートで物価見通しをどの程度上方修正するのかしっかり確認したいと思います。(今年4月時点での物価見通しは、2023年度は前年度比1.8%上昇、2024年度は2.0%上昇)。 

 また、植田総裁は「(2024年にインフレが再加速する)確信が持てれば、政策変更の理由になる」とECBフォーラムのパネル討論会で述べました。

 日銀は2024年度に2%の物価上昇率を見込んでいますが、見通しの「確度」が高まれば、2024年度を待たずとも金融政策の正常化に向かうとの見方を示しています。このことも今月の決定会合で政策修正があるとの期待を高めている背景のようです。

 一方で、今月の会合で現状維持となった場合は円売り加速にも警戒する必要があります。通貨当局である財務省もその場合に備え、口先ではなく実弾による為替介入を温存しておくこともシナリオとして想定されます。