注目された5月の経済主要統計

 本連載は「中国経済がどれだけ回復しているか」に焦点を当て、景気動向を細かく、丁寧にフォローしてきました。中国の経済活動が、新型コロナの感染拡大を徹底的に封じ込めようとする「ゼロコロナ」策、特にロックダウン(都市封鎖)による打撃を受けた昨年4~6月期のGDP(国内総生産)実質成長率は、0.4%増と伸び悩みました。

 これを受け、今年の4~6月期、経済がどこまで回復するかに注目です。第2四半期の動向は、通年の成長率目標である「5.0%前後」を達成できるかどうかを、大きく左右すると私はみています。

 4月の主要経済統計は、国内や海外の需要不足が影響し、軒並み市場予想を下回り、市場関係者の多くが、中国経済への期待値を下げる結果となりました。

 5月はどうだったでしょうか。6月15日、国家統計局が統計結果を発表しました。

2023年5月の主要経済統計

  2023年
5月
2023年
4月
工業生産 3.5% 5.6%
小売売上高 12.7% 18.4%
固定資産投資(1~5月) 4.0% 4.7%(1~4月)
不動産開発投資(1~5月) ▲7.2% ▲6.2%(1~4月)
調査失業率(除く農村部) 5.2% 5.2%
同25~59歳 4.1% 4.2%
同16~24歳 20.8% 20.4%
中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同月比。▲はマイナス

 

 

 

 

 

 

 5月になってもあらゆる指標が回復しているどころか、低迷している現状が浮き彫りになっています。工業生産、小売売上高、固定資産投資、不動産開発投資のいずれにおいても、4月に比べて5月は悪化しています。工業生産、小売売上高、固定資産投資に関しては、市場予想(それぞれ3.6%増、13.6%増、4.4%増)を下回りました。

 調査ベースの失業率に関しては、昨年の同時期よりは回復していますが、若年層の失業率は20.8%と過去最高を記録しています。これに関して、国家統計局は次のように「弁明」しています。

「5月、16~24歳の都市部における若者は大体9,600万人いる。16~24歳の若者の多くは在校生であり、いまだ労働市場には入っていない。そして、労働市場に入るべく仕事を探している若者は実際に3,300万人いる。このうち、2,600万人は現時点で既に仕事が見つかっている。大体600万人強がまだ仕事を探している状態である。言い換えれば、若年層における失業総人数は600万人強いるということになる。経済が改善するに伴い、若年層の雇用動向も改善することが期待される」

 実際には、経済が改善するかどうかは不透明ですし、現実問題として、6月以降、1,100万人以上、過去最多の大学卒業生が市場に流れ込んでくることを考えると、6月、7月の若年層失業率はさらに悪化する可能性が大いにあり、経済の持続的成長にとっても潜在的リスクとなるでしょう。

国家統計局の現状認識

 上記の数値を、当事者である国家統計局はどう認識しているのでしょうか。中国経済に限ったことではありませんが、現状や統計そのものよりも、当事者の「認識」こそがより重要であり、そこから今後の情勢を見極めるべきと思います。

 6月15日、同局の付凌晖(フー・リンフイ)報道官が記者会見を開き、統計結果が反映する経済情勢に対する当局の認識を述べました。

 付報道官は次のように足元の経済動向を描写します。

「5月の経済運営は全体的に回復の態勢を継続している。生産や需要を巡る主要指数が前年同月比でいくらか低下している理由として、昨年のこの時期の数値が高くなった経緯が影響している。昨年4月、国内経済はコロナの感染拡大で比較的大きな影響を受けた。昨年5月以降の経済は明らかに回復の態勢を示したため、関連数値も明らかに上がっていた」

 確かに、昨年の統計をみると、4月の工業生産、小売売上高、調査失業率は、上海市におけるロックダウンなどの影響を受け軒並み悪化し、5月になると、いずれも回復している経緯が見て取れます。故に、今年の5月は、4月に比べると、前年同月比で数値が思ったほど伸びていない、というのが統計局の弁明ということなのでしょう。

2022年の主要経済統計

  2022年
5月
2022年
4月
工業生産 0.7% ▲2.9%
小売売上高 ▲6.7% ▲11.1%
固定資産投資(1~5月) 6.2% 6.8%(1~4月)
不動産開発投資(1~5月) ▲4.0% ▲2.7%(1~4月)
調査失業率(除く農村部) 5.9% 6.1%
同25~59歳 4.5% 5.3%
同16~24歳 18.4% 18.2%
中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同月比。▲はマイナス

 付報道官は、足元の経済に関して、(1)生産供給が持続的に増加、(2)消費、投資は徐々に回復、(3)対外貿易の強靭(きょうじん)性は健在、(4)雇用と物価全体的に安定、(5)質の高い発展が着実に推進、という5点を挙げた上で、次のように見通しを語っています。

「国際環境は依然複雑、深刻であり、世界経済は成長の原動力に乏しい。国内経済は回復、好転してはいるものの、市場における需要は依然明らかに不足しており、一部構造的問題も比較的突出している。質の高い経済成長を促すには一層の努力が求められる」

 外需の低迷に加え、国内需要もまだまだ不足していて、しかも構造的問題が経済回復にとっての弊害になっているという現状認識は、中国経済が持続的、安定的に回復、改善していくためには、まだまだ多くの壁を乗り越えていかなければならないという、「前途多難」の道のりを予言していると言えるでしょう。

李強首相、景気対策に危機感にじむ

 中国経済を統括する李強(リー・チャン)首相が6月16日、国務院常務会議を主催し、「経済の持続的回復を推進するための、一連の政策措置を巡る研究」を最初の議題として取り上げました。李氏がこのテーマを国務院常務会議という、政府(内閣)にとって最も重要な定例会議で取り上げること自体、中国経済の現状がいかに深刻であるかを物語っています。

 李強首相は次のように語りました。

「昨今、中国経済は全体的に回復基調にある。これまでに打ち出した政策措置が実施されるに伴い、市場の需要も徐々に回復してきている。生産供給も持続的に増加し、物価や雇用も全体的には安定している。質の高い発展も着実に推進されている」

 ここまでは、前述の付報道官が提起した5点と全く同じ内容であり、目新しさはありません。李首相は続けます。

「と同時に、外部環境はより一層複雑且つ深刻化しており、低迷する国際貿易、投資などは、中国経済の回復プロセスに直接的に影響する」

 李氏が言及した「直接的に」というのは重い言葉です。それだけ、中国政府として、世界経済の伸び鈍化を、中国経済の回復にとってのリスク要因と見なしている現状が見て取れます。

 李氏は、中央政府として(1)マクロコントロールを強化、(2)有効な需要を拡大、(3)実体経済を強大化、最適化、(4)重点分野のリスク回避、予防、という4点に焦点を当て、対策を指示しました。その上で、「すでに条件がそろった政策は迅速に打ち出し、着実に実施すべきだ。政策の蓄えを増やし、政策の総合的効果を最大限に発揮すべきだ」と部下たちに指示を出しています。

 景気を回復させるための危機感がにじみ出る指示だと解釈しました。4点は、3月に発足した「李強施政」を踏襲するものですが、これまで以上に、「中央政府としてやれることは全て、すぐにやれ」ということなのでしょう。それらが6月の統計結果にどう反映されるか、引き続き、中国経済の動向を密に観察し、適宜検証していきたいと思います。