グローバルサウスの声サミットに125カ国が参加

 今回は「グローバルサウス」を起点に、コモディティ(国際商品)価格の長期的な動向を考察します。日本政府は、最近の公式な文章の中で「グローバルサウスには明確な定義はない」、としています。とはいえ、これまでの諸事情を踏まえれば、南半球を中心とした、発展途上国のグループだと言えるでしょう。

図:グローバルサウスの声サミット(2023年1月12・13日)参加国(125カ国)

出所:インド外務省の資料をもとにMap Chartで筆者作成

 上の図は、今年1月にインドが主導して行われたオンラインイベント「グローバルサウスの声サミット(Voice of Global South Summit)」の参加国です。120カ国以上が招待され、中南米29カ国、アフリカ47カ国、欧州7カ国、アジア31カ国、オセアニア11カ国、合計125カ国が参加したとされています。

 1964年に77の発展途上国が参加して誕生した「G77(グループ77)」は、現在130を超えるまで、大きくなりました。今年60周年を迎えた同組織に属する国の多くが、「グローバルサウスの声サミット」参加国です。

「グローバルサウス」。一体どのようなグループなのでしょうか。以下より、人口、GDP(国内総生産:経済規模)、自由民主主義指数(思想・考え方)、主要コモディティの生産シェア・輸入シェアなど、さまざまな点から、観察します。

人口シェアは50%、GDPは先進国に遠くおよばず

 以下は、グローバルサウスの声サミットに参加した国々の人口のシェア(125カ国合計)です。世界の二人に一人が、同サミット参加国に住んでいることがわかります。

図:グローバルサウスの声サミット参加国の人口シェア

出所:世界銀行のデータおよびインド外務省の資料をもとに筆者作成

 同サミットに参加した国々の中で人口が多い国は、インド(14億人)、ナイジェリア(2億1,000万人)、バングラディシュ(1億6,000万人)、エチオピア(1億2,000万人)、フィリピン(1億1,000万人)、エジプト(1億人)です(2021年、いずれも概数)。

 インドを除いても、同サミット参加国の人口シェアはおよそ30%です。先進国のグループであるG7(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本)の10%をはるかに凌ぐ(しのぐ)水準です。

 しかし、経済力の点で言えば、G7に遠く及びません。以下は、グローバルサウスの声サミット参加国のGDPシェアです。足元、インドを含めても10%強です。

図:グローバルサウスの声サミット参加国のGDPシェア

出所:世界銀行のデータおよびインド外務省の資料をもとに筆者作成

 同サミットに参加した国々の中でGDP(国内総生産 その国が生み出したモノやサービスの価値)の額が大きい国は、インド(31億ドル)、タイ(5億ドル)、ナイジェリア(4億4,000万ドル)、バングラディシュ(4億1,000万ドル)、アラブ首長国連邦(UAE 4億1,000万ドル)、エジプト(4億ドル)、フィリピン(3億9,000万ドル)です(2021年 いずれも概算)。

 同サミット参加国は、ある意味イメージ通り、発展途上ではあるものの、「数」が圧倒的です。G7を含む西側諸国は、民主的であることを「よし」としています。SDGs(持続可能な開発目標)でも、「誰一人取り残さない」ことを前提にしています。

 このため、西側は、「数」を有するグローバルサウスを、無視することはできません。西側は彼らと「うまく付き合うこと」が求められています。

 同サミットはインドが主導して行われました。また、先述のG77は目下、中国と急接近しています(G78という言葉が生まれつつある)。インドと中国という、二つの非西側の大国が120カ国におよぶ国々を率い、ウクライナ危機で混乱する世界を「数」の利を生かしながら西側と渡り合っている。それが今なのだと考えられます。

ロシアや戦争を否定しない国が多数存在

 ここからは、同サミットに参加した国々の考え方(思想)について、考察します。以下は、昨年3月以降、国際連合の総会で行われたウクライナ危機関連の決議において、同サミット参加国がどのような回答をしたのかを示しています。

図:グローバルサウスの声サミット参加国のウクライナ危機関連の国連決議の動向

出所:国際連合およびインド外務省の資料をもとに筆者作成

「賛成」がロシアを否定する回答です。それ以外の「反対」「棄権」「未投票」は、いずれもロシアを否定しない回答です。図のとおり、いずれの決議においても、同サミット参加国による非賛成(反対+棄権+未投票)は、非賛成全体の80%前後です(オレンジ線)。同サミット参加国が、非賛成の温床になっていると言えそうです。

 また、同サミット参加国の少なくとも30%、多い場合は60%が、非賛成の姿勢を示しています。恒常的に非賛成を選択する国は少なくありません。

 例えば、7回の決議で一度も賛成しなかった(反対、棄権、未投票のいずれかを選択し続けた)国は、全体(125カ国)の20%にあたる25カ国あります。

 イラン、キューバ、ベネズエラなど米国の制裁を受けている国々や、ベラルーシ、シリアなどロシアと政治的な関わりが深い国々、コンゴ、アゼルバイジャン、赤道ギニア、スーダンなど産油国(OPECプラスの国々)です。

 こうした国々のロシアを否定しない行動に、西側を否定する意図が含まれているように見えてきます。実際、近年の同サミット参加国の自由民主主義指数※(平均)は低下傾向にあります。

図:グローバルサウスの声サミット参加国の自由民主主義指数(平均)

※自由民主主義指数:ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所が公表。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由度や民主度をはかる複数の観点から計算され、0と1の間で決定。0に近ければ近いほど、非民主的な傾向が強く、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示す。

 近年の同サミット参加国の思想は、西側が「よし」とする自由で民主的な思想と正反対の方向に進んでいます(同指数が低下傾向)。こうした流れがロシアを否定しない回答に導いていると、考えられます。

第三国ではなく、非西側と分類すべし

「グローバルサウス」は、西側勢力にも西側と対立する勢力にも属しない、「第三国」といわれることがありますが、筆者はやや異なる考えを持っています。

 先述のとおり、同サミット参加国の多くがロシアを否定しない回答を続けていることや、同サミット参加国全体の自由民主主義指数が低下していることを考えれば、彼らは「非西側」に分類できるでしょう。

図:リーマンショックを起点に考える、西側・非西側間の「分断」とコモディティ相場への影響

出所:筆者作成

 上の図のとおり、リーマンショック後、西側と非西側の分断が深化してきました。先ほどの図「グローバルサウスの声サミット参加国の自由民主主義指数(平均)」が、2010年ごろから低下し始めたことと、一致します。

 リーマンショック後、西側は経済力や政治力を回復させるべく、「環境問題」「人権問題」を提起しました。非西側への配慮を欠いた状態で解消に向けて進み始めたことで、西側と非西側の分断は深まりはじめ、その延長線上でウクライナ危機が勃発したと、筆者は考えています。そして同危機が勃発したことで、分断解消が困難になっています。

 同サミット参加国においても、「脱西側」のムードが強まりはじめ、彼らによる、分断起因の「資源の出し渋り(武器利用)リスク」が高まっていると考えられます。非西側に含まれる彼らの動向に、注意が必要です。

銅と小麦は、グローバルサウス起因で価格上昇も

 以下の図は、同サミット参加国の銅の鉱山生産シェアの推移です。世界全体の60%強です(2021年時点)。世界の銅生産において、彼らは驚異的なシェアを有しています。

図:グローバルサウスの声サミット参加国の銅の鉱山生産シェア

出所:USGSのデータおよびインド外務省の資料をもとに筆者作成

 同サミット参加国の主要生産国は、チリ(28% 世界1位)、ペルー(12% 同2位)、コンゴ(6% 同4位)、ザンビア(4% 同7位)などです。

 西側が電化で「環境問題」への策である「脱炭素」を進めている中にあって、同サミット参加国(≒グローバルサウス)が、西側との思想の相違を盾に、出し渋り(資源の武器利用)を強める可能性は、否定できません。

 西側と非西側の「分断」は長期化の様相を呈しているため、出し渋り長期化→需給ひっ迫懸念長期化→銅などの非鉄価格長期上昇、というシナリオは否定できません。

 また、「出し渋り」のほか、「大量購入」の懸念もあります。以下は、同サミット参加国の小麦輸入シェアです。輸入に回る小麦の半分以上を、彼らが購入しています。

図:グローバルサウスの声サミット参加国の小麦の輸入シェア

出所:USDAのデータおよびインド外務省の資料をもとに筆者作成

 しばしばニュースで目にする、「食料の安全保障」というキーワードは、買い占めの動機になり得ます。異常気象により、バッタが大量発生したり干ばつが起きたりして、しばしば飢饉(ききん)に見舞われるアフリカ諸国の多くは、同サミット参加国です。同サミット参加国の「大量購入」にも警戒が必要です。

 同サミット参加国(≒)グローバルサウスによる、「出し渋り」や「大量購入」は、コモディティ(国際商品)価格を、全体的に押し上げる要因になり得ます。銅価格の上昇は、その他の非鉄金属(アルミニウムや亜鉛、鉛など)の価格を上向かせる、小麦価格の上昇は、その他の穀物(トウモロコシや大豆など)の価格を上向かせる場合があります。

 西側と非西側の分断が深まれば深まるほど、非西側に属する「グローバルサウス」の存在感が強まることが予想されます。引き続き、グローバルサウス各種データ(人口、GDP、自由民主主義指数、国連決議の回答動向、銅の生産量、小麦の輸入量など)、それらに呼応して動く可能性があるコモディティ価格の動向に、注目していきたいと思います。

[参考]コモディティ関連の具体的な銘柄

投資信託

iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティ インデックス
SMTAMコモディティ・オープン

ETF

iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティETN (BCM)
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド (DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN (DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト (GSG)