はじめに
今回のアンケート調査は、2023年5月29日(月)~5月31日(水)の期間で行われました。
5月末の日経平均株価は3万887円で取引を終え、節目の3万円台を超えただけでなく、前月末終値(2万8,856円)からも2,000円を超える大幅上昇だったほか、月足ベースでも5カ月連続の上昇となりました。
あらためて5月の値動きを振り返ると、海外勢を中心とする前月からの日本株の再評価による買いが続き、国内の大型連休を挟んだ前半の日経平均は、2万9,000円水準で値固めから3万円の大台をうかがう展開となりました。
その後も、米国から吹いてきたAI投資ブームの追い風の影響もあって、半導体関連銘柄などが物色されて上昇の勢いに弾みがつき、3万1,000円台に乗せる場面も見られました。
月末にかけては、3万1,000円台を挟んだもみ合いとなりましたが、同時期の米国株市場が債務上限問題や、次回のFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けた思惑などでさえない動きだったことを踏まえると、日本株の強さが目立つ印象となりました。
このような中で行われた今回のアンケートですが、2,300名を超える個人投資家からの回答を頂きました。見通しDIの結果については、目先(1カ月先)の日経平均が株高、為替市場も円安への見方を強めるものとなっています。
次回もぜひ、本アンケートにご協力をお願いいたします。
日経平均の見通し
「株価の上昇基調を受けてDIが大幅改善」
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之
今回調査における日経平均の見通しDIは、1カ月先がプラス32.62、3カ月先はマイナス3.27となりました。
前回調査の結果がそれぞれ、プラス8.08、プラス1.44でしたので、1カ月先が大幅に改善する一方、3カ月先がマイナスに転じた格好ですが、とりわけ目立っていたのが、1カ月先DIの改善幅です。実際に回答の内訳グラフを見ると、1カ月先の強気派が45.65%を占めていることが分かります。
1カ月先DIの強気派の割合が40%を超えるのは、2018年9月調査以来です。
当時は、米中摩擦への懸念がいったん峠を越えたことや、米金融政策が引き締め局面で、日米金利差拡大による為替の円安傾向、そして、国内政治では自由民主党総裁選挙を経て、安倍晋三第4次内閣の改造人事が行われました。また、米国株市場もダウ工業株30種平均が史上最高値をうかがっていたタイミングでもありました。
また、3カ月先DIについては、マイナスに沈んでしまったわけですが、回答の内訳グラフを見てもわかるように、強気派の割合が弱気派と比べて大きく劣後しているような印象ではないため、直近の相場の強さを認めつつも、「急ピッチな株価上昇は続かず、ある程度の時間が経ったところで調整の場面が訪れるだろう」という見方が反映されたものなのかもしれません。
足元の株式市場は6月相場に入りましたが、引き続き日本株の強さが際立つ展開でスタートしています。日経平均は約33年ぶりの高値を更新する日が増え、6月5日の取引では3万2,000円台に乗せてきました。こうした日本株の強さを受けて、いわゆる「大相場」に発展するのではといった見方も増えてきている印象です。
テクニカル分析の面では、2020年3月の新型コロナ・ショック時の安値(1万6,358円)から2021年2月の高値(3万714円)にかけての上昇幅(1万4,356円)、その後につけた2022年3月安値(2万4,681円)の下げ幅(6,033円)、そして、先ほどの2020年3月安値から2022年3月安値の下値の切り上げ幅(8,323円)をベースに目標値計算を行うと、VT計算値で3万3,004円、V計算値で3万6,747円、N計算値で3万9,037円となり、大相場につながった場合には、これらの計算値が目標として意識されることになりそうです。
N計算値が達成できれば、日経平均の市場最高値(1989年12月29日の3万8,957円)を超えることになります。
もっとも、今回調査のDIの結果が示すように、このままの勢いで上昇を続けるのは難しく、いったんは株価の調整局面の訪れを想定しておく必要があるのかもしれません。
足元の日経平均の上昇は、4月半ばからほぼ一本調子での右肩上がりを描いてきましたが、5月上旬までの上昇は、米著名投資家のバフェット氏による発言効果や、東京証券取引所が旗振り役となっている低PBR(株価純資産倍率)改善要請期待など、国内要因が主導する格好で、3万円台を目指していましたが、以降の上昇は、AIブームや米国株市場などの国外要因に引っ張られる格好で3万1,000円台や3万2,000円台に乗せてきたと思われ、株価の上昇自体は連続性があっても、その原動力が微妙に変化している点には注意が必要です。
そのため、もうしばらくは上値を追う展開が続くかもしれませんが、仮に今後の株価が調整局面入りとなった場合には、国内要因を中心に押し上げてきた日経平均3万円までの範囲内で下げ止まれるかどうかが注目されることになりそうです。
今月の質問
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
ここからは、テーマを決めて行っている「今月の質問」について、書きます。今回のテーマは「G7広島サミット終了。世界は平和になると思いますか?」でした。
質問は合計三つあり、質問1は、「G7広島サミットが終了しました。今後、世界は平和になると思いますか?」、質問2は「G7広島サミットで何が印象に残りましたか?(複数選択可)」、質問3は「どうすればウクライナ戦争は終わると思いますか?(複数記入可)」でした。
図:質問1と2の結果
・質問1
回答者の半数超(57%)が、G7広島サミットを経たものの、世界は平和に「ならないと思う」と回答しました。同サミットではウクライナ戦争や核兵器などについて、多くの時間をつかって話し合われました。しかしアンケートの結果から、今のところまだ、平和になるイメージを思い浮かべることが難しい様子が、うかがえます(平和に「なると思う」は10%程度と低水準)。
・質問2
同サミットで印象に残ったことを尋ねました(複数回答可)。やはり「ゼレンスキー大統領が緊急来日したこと」が印象に残ったと回答した方が多くなりました(43%)。各種メディアが特番を組み、大々的に報じたことが大きな話題を呼びました。
ゼレンスキー大統領が、フランスの軍用機で広島空港(米軍と関わりが深い岩国基地ではなく)に降り立ち、ドイツの自動車メーカーの防弾装甲が施された車に乗り、広島の平和記念公園に向かう様子が、臨時で中継されました。
同大統領は、G7のメンバーやサミットに参加したその他の国々の要人らと話をしたりして、ウクライナ戦争で危機にひんしている自国への支援を改めて求めました。こうした様子を目の当たりにし、日本でも、今世界で戦争が起きていることを、改めて意識した方は多かったと考えられます(同大統領が被爆地としての日本に理解を示したことも印象的だった)。
次いで、「被爆地である広島市で開催されたこと」(25%)、「無事、G7の首脳がそろったこと」(18%)が続きました。
・質問3
どうすれば、ウクライナ戦争が終わると思うか? という質問でした。回答者の皆さんに、自由記述で書いていただきました(複数記入可)。以下の資料は、入力いただいたテキストデータを、テキストマイニングで集計したものです(出現頻度が高い単語ほど文字が大きくなる)。
図:質問3の結果
「ロシア」「プーチン大統領」の文字が大きくなりました。多くの回答でこのキーワードが用いられたことがわかります。戦争を終わらせるためには、攻め込まれた国や周辺国ではなく、まずは戦争のきっかけをつくったロシアが変わること(ロシアに変化がみられること)が必要であると、多くの人が考えているようです。
質問1で「ならないと思う」とされた方の回答を見ると、例えば「ロシアが撤退しなければ終わらないと思う」「ロシアが考え直さないと終わらない」などがありました。ロシアが撤退しないため、考えを直さないため、戦争は終わらない可能性がある、とのお考えです。
質問1で「なると思う」とされた方の回答を見ると、例えば「難しいと思うがプーチン大統領とゼレンスキー大統領の対話の機会を作る」、「ロシア大統領が交代すること」、などがありました。
ウクライナと対話をする機会をつくる、大統領が交代するなど、ロシアで一定の変化が生じれば、戦争が終わる可能性がある、とのお考えです。また、「お互いが相手を許す」という、ロシアとウクライナ双方に変化が生じることで戦争が終わる可能性があるとの回答もありました。
ロシアが変わること(ロシアに変化がみられること)以外の回答では、「80億人が戦争を止めるように一斉に声を上げたとき」、「新聞、テレビでフェイクニュースを流さないこと」、などがありました。
今回は、「G7広島サミット終了。世界は平和になると思いますか?」というテーマで行った三つの質問の回答結果をまとめました。今後もさまざまなテーマを用意し、個人投資家の皆さまのお考えを伝えていきます。
為替DI:6月のドル/円、個人投資家の予想は?
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスのときは「円安」見通し、マイナスのときは「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示します。
DIは「強さ」ではなく、「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。
「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」
楽天証券がドル/円相場の先行きについて個人投資家にアンケート調査を実施したところ、6月は「円安/ドル高」との見方が大幅に増え、全体の71%を占めました。前回5月は60%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から22ポイント増加して+42になりました。
利上げやめようとしたのをやめるのをやっぱりやめたわ
日本銀行は、早ければ7月の会合でYCC(イールドカーブ・コントロール)政策を修正して円金利上昇を容認するとの予想がでています。しかし円相場はまったく反応していません。4月にデビューした植田和男総裁は新政策を打ち出すことに慎重で、失望したマーケットは日銀を監視対象から外したままにしています。
マーケットの注目は、FOMCが、利上げを終了するのか、それとも続けるのかということです。今月6月の利上げは五分五分といわれていましたが、最近は「6月見送り、7月再利上げ」の予想が勢力を増しています。
6月か7月か、あるいはその両方するにしても、米利上げサイクルが夏前に終了することはほぼ確実です。これからは「長期間にわたる高金利」がどれだけ続くのか、すなわち「高さ」ではなく「長さ」が主題になります。
FOMC参加者は、少なくとも今年いっぱいは高金利を維持する考えを持っています。FF(フェデラルファンド)金利予想(ドットチャート)によると、2023年末の中心値は5.125%です。現在のFF金利の中心値も、5月の0.25%利上げで同じく5.125%まで引き上げられました。
ドットチャートに従えば、利上げサイクルはすでに5月で終了していて、6月は利上げ「見送り」というよりも「休止」と考えるべきかもしれません。再利上げというカードをちらつかせながらも、できれば使わずにすませたいというのがFRB(米連邦準備制度理事会)の考えでしょう。
次にFRBが動くときは、利上げではなく「利下げ」の可能性が高いのではないでしょうか。最後の利上げから次の最初の利下げまでの期間は平均約6カ月間というのが過去のパターンです。年末まで金利を据え置いたあと、来年1月から利下げサイクルに入るというのは、ドットチャートの予想にも合致します。
利上げは、米金利上昇、他国との金利差拡大という意味では「ドル高」であり、利下げはその反対で「ドル安」要因といわれます。しかし、利下げで米国のリセッションが回避される可能性が高まるという意味では、利下げは「ドル高」と考えることができます。
ユーロ/円
楽天証券がユーロ/円相場の先行きについて個人投資家にアンケート調査を実施したところ、6月は「円安/ユーロ高」との見方が全体の71%を占めました。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から24ポイント増加して+42になりました。
豪ドル/円
豪ドル/円相場の6月は「円安/豪ドル高」との見方が全体の69%を占めました。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から20ポイント増加して+38になりました。
今後、投資してみたい金融商品・国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している質問「今後投資してみたい国(地域)」で「日本」と「アメリカ」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、13個です(複数選択可)。
図:「日本」「アメリカ」を選択した人の割合の推移
2023年5月の調査では、「日本」を選択した人の割合は78.27%(前月比+4.02%)、「アメリカ」は59.08%(同▲0.35%)でした。「日本」は、統計史上最高となりました(「日本」が当質問の選択肢に組み込まれたのは2016年5月)。
急上昇が始まったのは2023年4月でした。その前の月の3月(46.83%)から急上昇し、74.25%に達しました(このときの上昇率「+27.43%」は統計史上最高)。そして5月は、上述のとおり、さらに上昇しました。
なぜ「日本」は、このような急上昇劇を演じているのでしょうか。日本株市場が記録的な高値圏に達し、大きな話題を呼んでいるためだと考えられます。日本株が記録的な高値圏にある背景には、以下が挙げられます。
- 新型コロナの5類移行により、(待機期間短縮など)経済活性化が期待されていること
- 外国人観光客が増加し、消費回復が期待されていること
- 日銀の新総裁が決まり、しばらく、緩和的な策が継続するとの見方があること
- また、利上げが取り沙汰される米国と対照的であること
- これを主因として目立っている円安が日本株市場にプラスに働くと解釈されていること
- 著名投資家であるバフェット氏が日本株の積み増しを行って大きな話題を呼んだこと
- G7サミットで議長国となった日本が一定のリーダーシップを発揮したこと
(2023年4月に、楽天DIのアンケート実施に用いるシステムを変更しました。このタイミングで、他の質問で回答が急変した例がないことから、システム変更と「日本」を選択した人の割合が急上昇したことに関連はないと考えています)
記録的な高値圏で推移する日本株の動きを、メディアは「33年ぶり高値」「バブル崩壊後の高値」などのキーワードを用いて報じています。
足元の日経平均の水準(3万2,000円近辺。原稿執筆時点)は、バブル崩壊直前の高値(1989年の3万8,957円)に比べれば、まだまだ安いですが、それでも、「バブル」や「高値」などのキーワードが踊ると、バブル期の高揚感を想起する方もいらっしゃると思います。こうした高揚感もまた、株価を支える一因になっているのかもしれません。
目先、「日本」を選択する人の割合がさらに上昇するかは、やはり、日本株の動向にかかっているのかもしれません。今後も「日本」の動向に注目していきます。
表:今後、投資してみたい金融商品 2023年5月調査時点 (複数回答可)
表:今後、投資してみたい国(地域) 2023年5月調査時点 (複数回答可)
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