トウシルはこのほど、読者の皆さまから山崎元に聞きたいテーマを募集しました。たくさんの投票をいただき、ありがとうございました。自由回答でいただいた疑問・質問は、全て本人に届けております。この記事では、いくつかの質問に回答します。(トウシル編集チーム)
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【質問】インデックス積立投資について、山崎さんはオールカントリー(全世界株式)を推奨されていると思いますが、過去の検証ではリターンだけではなく、実はリスクの低さもS&P500(米国株式)の方が優れているという報告があります。これについては、どのようにお考えでしょうか。
【回答】データの前で立ち止まるのは「愚図な人間」
先ず、ご質問にコンパクトにお答えしましょう。
ある銘柄の集合の部分集合を取った時に、ある期間においてリターンが優れていることはよくあります。部分集合は銘柄数が減るので、リスクは低くならない場合が多かろうと思われますが、ある期間(例えば過去30年)を取った時に、リターンが高くて同時にリスクが低い部分集合が見つかることは十分あり得ます。世界株に対して、米国の大型株を代表するS&P500が過去にそのような部分集合であった可能性は十分あり得ます。
500銘柄もあれば分散投資は十分だし、一般に大型株は小型株よりもリターン変動がマイルドなので、米国の時価総額の大きな企業が好調だった過去30年間に、S&P500がそのような「好調な部分集合」だった可能性はデータ上大いにあり得ます。
データの解釈としては、それだけのことです。
さて、質問者に対して、私は何の悪意も意地悪な感情も持っていませんが、このご質問の潜在的な意図にある問題点は、根拠にも証明にもならないデータを取り出して立ち止まり、思考停止していることです。
運用は20年、30年の単位で考えているのだから、過去30年のデータなどせいぜい1個分の(N≒1)データに過ぎません。
私は、心の中でこっそりとですが、金融的な問題へのアプローチの仕方で人間を3種類に分類しています。
・特定の人や書籍などを「信じる」のは「クズな人間」
・データの前で立ち止まるのは「愚図な人間」
・論理で考えるのが「普通の人間」
実際、投資の上で重要な原則はほとんどが論理で考えて結論が出るものです。
講演やセミナーのパネル・ディスカッションのようなものに私が参加している場合、他のスピーカーが話している時に退屈そうな顔やイライラした様子を見せてしまうことがあるのですが、理由の多くは無駄なデータについて語る「愚図な人間」の存在です。
例えば、ドルコスト平均法が「有利だ」と言えるものでないことは、機会費用とサンクコストの概念を知っていれば、秒殺と言わないまでも、分殺くらいで分かる話です。
なのに、例えば、リーマンショックを挟む期間のデータを持ってきて「ドルコスト平均法は安心です」と言ってみたり、ひどい場合には「平均買いコストが下がる」という話をいかにも優れた性質であるかのようにくどくど語る人がいたりします。「無駄な話に時間を使っている」と思って苛立ちます。
もう一つ例を挙げましょう。多分、「20年以上投資すると絶対損にならない」と言いたいのでしょうが、例えば過去60年の株価データから20年ずつ41個のデータを切り出して、「過去60年のデータでは41勝0敗です。20年の運用ならマイナスになることはないのではないか」などと言う人がいます。データの計算はご苦労なことですが、運用期間20年に対して、データ期間60年には独立な20年間は3つしかありません。N=3です。このデータは何の証明にもなりません。
それに、「20年後には投資元本を割らない」という条件が「絶対」なら、株式の期待リターンは20年国債の最終利回りと大きくちがうものにはならないはずです(現時点の株価がより高く形成されて期待リターンが下がります)。「損をする可能性」がどうしても付きまとうがゆえに、株式にはそれなりのリスクプレミアムが期待できるのだと考えるべきでしょう。これも、少し頭を使って考えたら分かりそうな話です。株式に「絶対」を求めるのは間違っています。
また、一般化できない個人の体験談(N=1、ですね)を長々語るのを聞いていて飽きるのもよくあることです。
投資家に言いたい。「たいていの問題はデータで結論など出ません。はじめから頭を使いましょう。脳ミソはその為にあります」と。
因みに、「○○さんを信じます」とか「××という本を信じます」といった「信じる」というアプローチは、特に投資の世界では禁物です。私も含めて個人は時に間違えるし、例えば「ウォール街のランダムウォーカー」のような有名な書籍にも間違いはあります。そもそも、自分が理解していないのに、また、自分の判断以外の何かを理由に、お金を動かしてはいけません。
「私は、山崎さんの意見を信じます」と声を掛けられたりすると、私も人の子なので内心少々嬉しいのですが、ここは心を鬼にして正しいことを述べなくてはなりません。
「私を信じてお金を動かすのは止めて下さい!迷惑です。私の意見を理解して、賛成して下さるならそれは歓迎します。投資はご自分で決めて下さいね」。
最初の問いに戻ります。
投資対象が閉じた中での運用競争では、「平均」のポートフォリオを持ってじっとしていることが有利な「平均投資有利の原則」が存在します。
ここで、グローバルな投資家による世界の株式による運用競争を想定すると、米国株のみというアクティブ運用よりも、オルカンのような世界株に平均的に投資する「平均投資」に近いポートフォリオがいいのではないでしょうか。素朴に考えても、異なる国々を含む多様なビジネスに広く分散投資することが魅力的です。
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