新入社員もベテラン社員もほとんどが知らない「1,000万円超の積立枠」

 あなたの資産運用、「全体で把握する」重要性が高まっています。アセット・ロケーション(資産の置き所。効率的な資産配分を意味するアセット・アロケーションではない)の重要性が指摘されるようになり、私たちは税制優遇のあるiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を有効活用するように意識しています。

 しかし、それ以前に「もう一つの積立枠」があることを知らずに見過ごしている場合があります。中小企業であれば500~1,000万円、大企業だと2,000万円前後になる可能性のある大きな積立枠です。

 それは「退職金・企業年金制度」です。

 先日友人が、企業型の確定拠出年金の運用報告書を見せてくれて、意見を求められたのですが、「で、あなたの会社の退職金制度のうち、この確定拠出年金は何割くらいを占めているの?」と聞いたら、答えが出てきませんでした。

 例えば、企業型の確定拠出年金のレポートに「300万円」とあって、シミュレーターでこのまま60歳まで推移すれば「500万円は期待できる」とあったとします。しかしこれだけではあまり意味がありません。会社の退職金・企業年金制度が

  1. 「確定拠出年金30%+確定給付企業年金70%」
  2. 「確定拠出年金50%+退職一時金50%」
  3. 「確定拠出年金100%」

 のどれかで話はまったく違ってきます。

 1なら、自分で運用する額の約2倍を別途会社がだしてくれることになり、それは会社が積立・運用をしている枠になります。

 2の場合、自分で運用する額と同額くらいを会社が退職時に一括で払ってくれることになります。

 ところが3の場合、別途会社からもらえる枠がないので、確定拠出年金のレポートがそのまま、会社が用意する退職時資金準備ということになります。

 会社が「退職金・企業年金制度を採用するかしないか」「どの制度をいくつ採用し、割合を何割ずつとするか」は法律上の定めはありません。とにかく会社次第ですから自分でチェックしなければなりません。

 また、そもそも全体としての会社のモデル給付水準はいくらかも会社次第です。先ほど中小企業と大企業の違いをあげましたが、これも統計的な目安にすぎません。中小企業でも1,000万円を超えてくる会社もあれば、大企業でも1,000万円程度ということもあります。

 さて、あなたの会社はどうでしょうか。

会社の制度は何らかの説明がある?

 会社の退職金・企業年金制度というのは、ある意味「会社が代わってお金を出してくれる積立制度」の側面があります。あなたの労働力に起因する原資を、本人に給与として直接渡すのではなく、各制度でプールし退職時に支払う仕組みであるからです。

 また、確定給付企業年金制度の場合は長期分散投資を実行しますので、個人に求められる長期積立分散投資を入社時点から代わりにやってくれているともいえます。

 こうした制度については入社時に何らかの説明がある(はず)です。「はず」というのは会社は説明したつもりになっていても、社員のほうはほとんど認識していないという問題があるからです。

「老後に2,000万円」レポートには退職金額を知った時点をたずねるアンケート調査が紹介されていますが、圧倒的に多いのは59歳以降になってから、というものです。

 つまり、30歳代あるいは40歳代に働き盛りを迎えた社員のほとんどは、自分が定年退職時にいくらもらえるのか、500万円なのか1,000万円なのかはたまた2,000万円超なのかを知らないでいる、ということです。

 新入社員は、いろんな社内制度の説明があったばかりでしょうが、仕事に少し慣れてきたら「退職金・企業年金制度」の有無と、モデル給付水準についてもチェックしてみましょう。社内の諸制度の説明、福利厚生制度の説明などの資料がまとまっているところに説明があったりします。

 労働組合が情報発信に積極的な場合、社内制度の解説やモデル退職金水準の開示をしていることもあります。

 いずれにせよ、「制度の有無」は必ずチェックしておきましょう。何もないならないで、自分で蓄えておく覚悟を持つ必要があるからです。

 あなたがもし、何年も働いているのなら、社内の情報が集まっている場所は分かるはずです(イントラネットなど)。あるいは同期入社組で人事・総務部に配属されている人がいるなら聞いてみるのもいいでしょう。

 企業年金の事務局がある場合、遠慮なく質問してみてもいいのです(質問したら「あいつ、退職を検討しているかも?」と人事に勘ぐられる心配は必要ありません)。

見える化される制度、見える化されていない制度

 退職金・企業年金制度は会社の制度とはいえ、あなたの財産ですから、本来なら「見える化」されてしかるべきです。知る権利があるといってもいいでしょう。

 しかし採用している制度によって「見える化」の状況は異なります。

見える化されている制度

  • 企業型の確定拠出年金
  • キャッシュバランスプラン型の確定給付企業年金
  • ポイント制退職金

 確定拠出年金制度はiDeCoと同等のシステムを採用していますが、当初から毎日時価残高を更新し開示することを前提としたシステムになっています。投資信託の時価変動もきちんと反映されて更新されています。

 また、運用レポートが定期的に配布されます(データベース管理をしている会社により年1回もしくは2回)。これにより現状の把握がしやすいようになっています。

 二つ目の制度は確定給付企業年金という企業年金を採用している場合において、キャッシュバランスプランという制度設計を採用しているケースです。

 これは一人一人の持ち分を仮想的に算出できる仕組みとなっており、年に一度程度、掛金とそれに応じた運用益の合計がどれくらいになっているか開示されるようになっています。受給権が完全に確定したわけではありませんが、ほぼ確実な目安額となります。

 三つ目、会社の退職金がポイント制退職金という仕組みを採用している場合です。これは勤続年数や職階級によってポイントを付与し、「累積ポイント×ポイント単価」で退職金額を最終決定するというものです。例えば定年退職までに1,000ポイント貯まるような会社で単価が1万円であれば退職金は1,000万円ということです。

 こういう会社の場合、毎年度末に累積ポイント数の情報開示をするのが通常です。あるいはイントラネットなどで自分のポイント数が確認できたりします。これにより今いくらくらい貯まっているのかが分かります。

見える化されにくい制度

  • 一般的な確定給付企業年金制度
  • 中小企業退職金共済制度
  • 普通の退職金制度

 上記は、「見える化」されていない制度です。キャッシュバランスプラン以外の制度設計による確定給付企業年金、中小企業退職金共済制度、一般的な退職金制度は、定期的に金額を開示する仕組みがないのが通常で、この場合は規定を読むなどして自分で試算してみるしかありません。

あなたの「老後に2,000万円」計画にこれを加え、2,000万円超えを確実にしよう

 かつて「老後に2,000万円」と大騒ぎしたとき、あまりにも多くの人がミスリードをしていましたが、最大のミスリードは「退職金・企業年金制度がある会社員のほとんどは、一定のメドがたっている」という事実が知らされていなかったことです。

 私はときどき、会社の人事・企業年金担当者向けの研修で講師を務めますが、「あなたの会社の社員が老後に2,000万円問題で愚痴っていたとしたら、それはあなたたちが担当している退職金・企業年金制度のことを社員は知らない、ということです」と言います。

 社員のやる気を生み出すはずの人事制度の一角たる退職金・企業年金制度が社員のモチベーションアップにつながっていないのは、会社のコミュニケーション不足の問題でもありますが、社員自身の無関心のせいでもあります。

 iDeCoの上限やNISAの上限、そして資産額については気にしている人が、「会社が見えないところで積み立てているXXXX万円」のことを知らないで過ごしているのはおかしな話です。

 常に不安のつきまとう老後の資産形成問題、実はすでにその解決の道筋が立っているかもしれません。若い人もベテラン社員もみな、一度は自分の会社の退職金・企業年金制度をチェックしてみてください。