資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
投資の知識や経験に不安があるので運用はプロにおまかせしたい
岩本辰巳さん(仮名)会社員・30歳(既婚、共働き)
岩本さんは昨年結婚するまであまり将来のお金について考えてきませんでしたが、メディアでお金や投資の話題を頻繁に聞くうちに、何か始めてみようかと思い始めました。
とはいえ平日は仕事が忙しく、土日も働くことがあるのでなかなかゆっくりと考える時間がありません。少ない時間を利用して、株式投資の勉強もしてみましたが思った以上に覚えることが多く、うまくいくイメージが湧きませんでした。
自分で運用するには限界があると感じてきたので、プロが代わりに運用をしてくれるという投資信託で投資を始めることにしました。よくおすすめされているインデックス運用の投資信託で積立投資をしてもいいと思う半面、それだけではつまらないと感じて何かもっといい成果を狙える投資信託にも投資したいと考えています。
自分でもいろいろと投資のやり方を調べてみましたが、岩本さんが投資信託で運用を任せるときに気をつけておくべきことは何でしょうか?
投資信託でおまかせ運用のポイント
「投資をしたいけど自分で運用するのは不安もあるし時間もない。」という方は多くいます。そうしたニーズを満たす金融商品が投資信託ですが、「プロに運用をおまかせできる」という表現が使われていることがよくあります。しかし、アドバイザーとしてお客さまとお話をしていると、この「おまかせ」という表現が少し誤解を招いていると感じることがあります。
「まかせっきりでいい」というのはとても楽です。とくに投資やお金の話は普段使い慣れない言葉も多くて面倒と感じることも多いでしょう。ただしおまかせ運用といっても終始一貫して運用をまかせられるということではありません。
こうした誤解を招く表現はよくありませんし、実際に商品を提案する人(金融機関の販売員や窓口の方)が投資家に誤った判断をさせてしまうような説明は、「誤認勧誘」として法令等違反行為とみなされます。
ただ、実際に世の中にある情報を見てみると、「間違ってはいないけど情報が不足していること」や「ある側面だけを強調している」といったことも散見されます。
そこで、今回は投資信託のおまかせ運用に関するよくある話をお伝えします。
投資信託でおまかせのホント!:運用中はプロが代わりに売買をしてくれる
投資先の資産を分散投資することは時間をかければ個人でも可能です。しかし日々価格を見ながら売買して、利益が出るようにリバランス(資源の再分配)することは、投資の知識や経験不足というだけではなく、時間的にもかなり負担がかかる作業です。
投資信託では、運用している商品内にさまざまな投資先がありますが、商品内の投資先のリバランスをプロにおまかせできる金融商品です。
とはいえ投資信託は、プロが好き勝手に運用するわけではなく、交付目論見書(単に目論見書とよばれることもあります)に記載された一定のルールに沿って運用をします。いうなれば交付目論見書は投資信託の特徴や投資目的・特色・リスク・運用実績や費用についてまとめられています。
例えば、投資で「何を目指すのか?(安定した運用、成長期待、市場に連動した成果など)」「どんな資産に投資するのか?(株式、債券、REIT(リート:不動産投資信託)など)」「どこに投資するのか?(日本国内、海外、グローバルなど)」といった基本的な特徴。
それらに投資することによって想定されるリスク(価格変動する要因)。購入時や換金時の手続きや手数料などが記載されています。
すでに運用中の投資信託であれば月次レポートの方がより具体的な情報が記載されていますが、目論見書の確認が投資信託の購入には必須となっています。
投資信託を利用することで個人では困難な運用を実現するだけでなく、運用にかかる時間的な負担の軽減や、足りない投資知識や経験のフォローをプロにまかせることができます。ただし、その分の費用が発生することになります。
金融機関の担当者や窓口で購入するなら販売手数料がかかることもありますし、運用中はそのための費用が発生します。人によって費用対効果の良しあしはかわりますが、必ずいくら負担がかかるのかを把握しておく必要があります。
投資信託でおまかせのウソ!:投資信託の売買は自分で判断しないといけない
投資信託は目論見書の設計通りに運用できるように、プロが必要な投資先資産の売買を代わりに行なってくれます。ただし、その投資信託を「いつ」「どのくらい」「どのように」購入するのか、売却(解約)するのかは自分で判断する必要があります。
当たり前だと思いがちですが、どのタイミングでいくら購入するのか、売却するのかを判断するのは意外と難しく、特に昔から「買い」よりも「売り」が難しいとよくいわれています。
資産形成でよくおすすめされるインデックス投資での積立投資は買いのタイミングを一定周期に、また一定の金額で積立をすることで、こうした問題を初心者が「購入時」には考えなくてすむようになっていますが、それでもいつかは売却をしなければいけません。
では金融機関の担当者がいる場合はどうでしょうか? 富裕層だけではなく、退職金運用を目的に金融機関に相談する方などに担当者がついていることは珍しくありません。その担当者に相談をすることで商品の選定や売買のタイミングなども教えてくれると思いがちですが、実際には会社の意向に大きく影響されますし、担当者次第で提案もかわります。
「おまかせ」しすぎるといいようにされてしまうリスクもあります。担当者が転勤のある職種であれば定期的にかわることによって、提案やフォローの継続性がなくなることも懸念されます。
それに投資信託は長期運用を前提として提案されます。そのため金融機関では、少なくとも1年以内での売却は短期売買とみなされてしまうので、担当者も気軽には提案できません。また、損切りなどは担当者だけでは手続きができず、管理職の決裁や確認が必要になるケースもあるため、気軽に一部だけでも売却しておこうという提案もできません。
また投資信託のような運用中に費用が発生する商品は、金融機関にとっては保有してもらえる分だけ安定した収益が入る商品といえます。そのため、担当者にはこうした商品の残高を増やすノルマが与えられていることがほとんどで、売却を提案しづらいという問題や、売却と買付がセットになった乗り換え提案がされやすいという問題もあります。
投資信託に限らず投資で商品売買をするときに一番良いタイミングで売買しようと考えたくなることは当然ですが、それに囚われすぎてはいけません。投資の格言で「たい焼きの頭と尻尾はくれてやれ」というように「欲張りすぎない」ということが大切です。
むしろ購入時に高値づかみをしないように、売却時に安値売りにならないように売買するタイミングの分散などを取り入れることが重要です。
投資は自己責任、最終判断は自分でするもの
まかせられるところはまかせる、自分でするべきところは自分でする
当然のことですが、投資の結果は利益も損失も全て自分に返ってきます。だからこそ、自分で投資の知識や経験を得て判断力を磨くことが求められますが、投資にそこまで時間や労力をかけられないし、それよりも人生を楽しみたいという人の方が多いのではないでしょうか?
投資は人それぞれの人生の目的を経済的な側面から支えるための手段です。そのため、自分以外の人やツールをうまく使うことで大切な資産を増やしたり、生かしたりして収入を得ることによって日々の時間を生み出すことができます。
ただし最も重要な投資の最終判断、つまり売買の決定は必ず自分でできるようにしなければいけません。自分だけで考えるのではなく、誰かのアドバイスを聞いてでもいいですが、そこは間違えないようにしましょう。
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