日経平均は上昇ピッチ速まり、バブル崩壊後の最高値更新

 直近1カ月(4月17日~5月22日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで9.0%の上昇となりました。期間中前半は3月高値近辺でのもみ合いとなりましたが、5月に入って上昇トレンドへの動きが強まりました。

 5月12日以降は7日連続で上げ幅が200円を超える大幅高の展開が続いています。17日には3万円の大台をあっさりと突破して、19日には終値ベースで2021年9月14日につけたバブル経済崩壊後の高値を上回りました。22 日は3万1,086円となりました。

 なお、この期間(4月17日~5月22日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は2.1%の下落でした。

 期間中前半は2023年1-3月期の決算発表本格化や大型連休入りを控えて様子見ムードが強まりました。とりわけ、世界景気の減速懸念を映した業績見通しの悪化が警戒されたもようです。

 ただ、4月27、28日の日本銀行の金融政策決定会合では金融政策の現状維持を決定して買い安心感が強まり、5月に入ってすぐに2万9,000円台に突入しました。その後、米国のCPI(消費者物価指数)や生産者物価指数(PPI)が市場予想を下振れたことで米国の金融引き締め懸念が後退しました。

 さらに、決算発表が一巡してガイダンスリスク(企業が発表する今期の業績予想が市場予想を下回るリスク)も通過したことで、日本株は上昇基調が強まる状況となっています。期間中後半にかけては、為替相場でのドル高・円安進行も支援材料となりました。

 4月以降は海外投資家の日本株買いが活発化しており、これが日本株独歩高の要因ともされています。PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する東京証券取引所の改善要請、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏の5大商社株買い増し宣言などが、日本株の評価向上につながっているようです。

 この期間の物色ですが、半導体製造装置関連のディスコ(6146)や、アドバンテスト(6857)SCREENホールディングス(7735)東京エレクトロン(8035)などが20%以上の上昇率となっています。

 米国の利上げ停止期待でグロース株に資金が向かう中で、米SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)の上昇、米半導体大手マイクロンテクノロジーの広島工場(広島県東広島市)への投資計画などが買い材料につながったようです。

 本格化する決算発表も手掛かり材料とされました。各社の業績見通しは好悪まちまちでしたが、増配や自社株買いの発表などは多く見られました。

 牛丼チェーン「すき家」などを展開するゼンショーホールディングス(7550)、「ウルトラマン」などの知的財産関連の事業を手掛ける円谷フィールズホールディングス(2767)、大手フリマアプリのメルカリ(4385)、データセンター向けの半導体の電子基板などを製造するイビデン(4062)NEC(6701)富士フイルムホールディングス(4901)などは決算が好感されて、それぞれ20%以上の株価上昇となりました。

 半面、商船三井(9104)日本郵船(9101)など海運株は低調推移となりました。2024年3月期の減配見通しを受けて利回り妙味が後退したようです。

 再生可能エネルギー開発のレノバ(9519)住友金属鉱山(5713)シャープ(6753)三菱自動車(7211)などは決算が嫌気されて大幅安となりました。楽天グループ(4755)は増資の発表による株式価値の希薄化がマイナス視されました。

割安株に投資マネー移行?米利下げ期待後退や東証改善要請で

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は5月19日の講演で、次回6月の金融政策決定会合における利上げ停止の可能性を示唆しています。金融引き締めの姿勢を軟化させていることは、日米株式市場にとってもちろん支援材料となります。

 当面はグロース(成長)株を中心とした堅調な相場展開が望めそうです。とりわけ、最大のリスク要因であった決算発表を通過したことで、半導体関連には目先の悪材料も一巡している状況と捉えられます。

 ただ、米国での利上げ停止は確実視されつつありますが、早期の利下げ転換に対する市場の期待はやや高過ぎる印象もあります。早期の利下げ転換には、米景気悪化の深刻化などが条件になると考えます。過度な期待感が後退するに伴い、徐々にグロース株からバリュー(割安)株への資金シフトの流れが強まっていくことも想定しておくべきでしょう。

 PBR1倍割れ銘柄に対する東京証券取引所の改善要請ですが、2023年3月期決算では具体的な改善策を示していない企業も多かったとみられます。今後、6月の株主総会や2024年3月期第1四半期決算発表に向けて、具体的な改善策を示す企業が増加すると考えられ、こうした動きもバリュー株への物色シフトを促す材料となってきそうです。

 増配や自社株買い実施などの株主還元策拡充はもちろん、親子上場の解消にもつながるグループ再編の動きが進む可能性などにも期待しておきたいところです。

 動きのない企業に対しては、アクティビストファンド(物言う株主)からの圧力が高まる余地もあるでしょう。東証の要請を盾に取ることで、ファンド側の提案が優位の状況となっていく可能性は高いと判断できます。

 一方、注意したいのはプライム市場からスタンダード市場に移行する銘柄が増加する可能性です。東証では、上場維持基準の未達企業に対して暫定的に上場を認めている経過措置を2025年3月以降、順次終了することを決定し、2023年4月1日~9月29日までは審査なしでスタンダード市場に移行できる機会を設けています。

 基準値までの乖離(かいり)が大きい銘柄などは、この期間での移行を決断する公算も大きいと考えられます。

 足元での日本株の上昇ピッチは速まってきており、バブル後の高値を更新したタイミングでは短期的な達成感が広がる可能性もあるでしょう。

 一方、政府の経済財政運営の指針である2023年度の「骨太の方針」が6月16日をめどに閣議決定される見通しです。株高材料は引き続き残されており、早い段階での押し目買い活発化などが見込めます。

 今年の骨太方針には、少子化対策の具体策と財源を含む「こども未来戦略方針」のほか、国内外の企業の賃金格差を縮小するためのリスキリング(学び直し)強化、AI(人工知能)の活用のあり方などが盛り込まれると伝わっています。また、半導体産業への支援なども盛り込む方針を岸田文雄首相が示しています。今一度、関連銘柄の物色が強まる局面も訪れそうです。

足元で収益成長強まる高配当利回り銘柄5選(日本特殊陶業、いすゞ自動車、蝶理、ジャックス、愛三工業)

 決算発表が一巡したばかりのタイミングであり、当面は足元の業績動向への関心が強まりやすいとみられることから、今回は、収益の成長性が高まっている高配当利回り銘柄をスクリーニングしています。

 過去5年間での成長率が高い銘柄の中で、今期が増益予想かつ、過去最高益更新見通しの銘柄をピックアップしています。グロース要素もある高配当利回り銘柄と位置付けられるでしょう。最近は配当計画に配当性向を基準とする企業が多くなっており、収益成長が高いということはその分、増配余地が大きいと期待できます。妙味が強い配当利回り株投資と判断できます。

(表)利益成長率高く過去最高益の高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
5月19日終値
(円)
時価総額
(億円)
成長率
(%)
5334 日本特殊陶業 5.07 2,623.0 5,355 10.46
7202 いすゞ自動車 4.69 1,706.0 13,263 8.02
8014 蝶理 4.37 2,657.0 672 12.03
8584 ジャックス 4.31 4,645.0 1,629 8.40
7283 愛三工業 4.04 990.0 624 11.22
(注)成長率は営業利益の過去5年間年平均増加率(今期予想含む)

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(5月19日終値)
  2. 時価総額が500億円以上
  3. 過去5年間の営業利益平均年成長率が8%以上
  4. 2023年3月期、2024年3月期見通しともに営業増益
  5. 過去最高益更新見込み
  6. 3月期本決算

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 日本特殊陶業(5334・東証プライム)

 世界最大級のセラミックス企業グループと位置付けられる森村グループの一員。自動車部品では、スパークプラグで世界シェア45%、センサで同40%のシェアを占めています。ほか、半導体用のセラミック製品なども手掛けていますが、自動車部品が利益の大半を占めます。

 海外売上高比率が8割超ありますが、相対的に中国依存度は低く、北米や欧州構成比が高くなっています。スパークプラグは補修用のウエートが高いため、比較的収益水準は安定しています。

 2023年3月期営業利益は892億円で前期比18.2%増となりました。半導体不足解消に伴い、プラグやセンサなど主力の自動車関連事業が伸長したほか、半導体製造装置用部品としてセラミックの収益増加も貢献しました。年間配当金は前期比64円増の166円としています。

 また、2024年3月期営業利益は965億円で8.2%増の見通しとしています。自動車生産の回復による新車組付け用製品の売上増加、製品価格改定効果などを見込んでいるようです。配当性向40%の基本方針に沿って、年間配当金は133円を計画しています。

 2022年3月期営業利益が前期比59.3%増、2023年3月期が18.2%増と、ここ2年間で収益が大きく拡大する形になっています。半導体製造装置向けセラミックの収益拡大が背景となります。

 2024年3月期は半導体市況悪化の影響が想定されますが、一方で、主力の自動車関連分野の市場環境が一段と好転するため、利益の拡大傾向は継続する見通しです。PBR水準も1倍を割り込んでおり、自社株買いや増配などの株主還元強化も期待できるでしょう。

2 いすゞ自動車(7202・東証プライム)

 国内トラック大手の一角で、普通トラックのシェアは3割強の水準とみられています。タイを中心とした新興国の構成比が高く、タイや中東、アフリカにおいても高いシェアを誇っています。また、ピックアップトラックも手掛け、タイで集中生産を行っています。

 150カ国以上で事業展開を行っており、年間販売台数は77万台に上ります。2020年10月に、ボルボ・グループと戦略的提携を締結し、2021年にはボルボ傘下のUDトラックスを連結子会社化しています。

 2023年3月期営業利益は2,535億円で前期比35.4%増となっています。国内ではトラックの販売シェア上昇がみられました。海外でも主力のタイが、部品不足の改善などによって販売を拡大させています。為替の円安効果も寄与しました。

 年間配当金は前期比13円増の79円となります。2024年3月期営業利益は2,600億円で2.6%増の見通しです。インフレの影響によるアジアでの販売減少を見込む一方、半導体不足の改善によって国内および北米向けの増加を見込んでいます。年間配当金は前期比1円増の80円を計画しています。

 新型コロナウイルス禍で一時業績は低迷しましたが、2022年3月期営業利益は前期比95.5%増と急回復、2023年3月期も同35.4%増と高い利益成長が継続しています。海外販売の拡大が大きく貢献する形となっています。

 カーボンニュートラルと物流DXを加速するため、2030年までに総額1兆円規模のイノベーション投資を実行し、企業価値の向上につなげる方針です。また、ROE(自己資本利益率)12.5%の達成に向けて、自社株買い実施などの期待も持てます。

3 蝶理(8014・東証プライム)

 創業160余年の老舗の繊維商社で、現在は東レの子会社となっています。繊維素材などの川上から車両資材やアパレルなどの川下にまで幅広く展開する繊維事業、ウレタンなどの基礎化学品、ディスプレイ用ガラス基板原料などの化学品事業が二本柱となります。

 リチウムイオン電池向け材料では、チリ・リチウム化合物製造プロジェクトに参画しています。1961年に日中友好商社第1号の指定を受けるなど中国事業に強み、強力なサプライチェーン(供給網)を構築しています。

 2023年3月期営業利益は126億円で前期比35.7%増となっています。原材料上昇に対する価格転嫁が進んだほか、国内衣料品市場の需要回復で繊維事業が大幅増益となり、貿易取引の拡大で化学品事業も伸長しています。

 年間配当金は前期比21円増の105円です。2024年3月期営業利益は142億円で12.2%増の見通しです。売上の着実な増加を見込むほか、機械事業における貸倒引当金計上の一巡なども想定されます。年間配当金は前期比11円増の116円を計画しています。

 2022年3月期に営業利益は前期の約2.5倍となり急回復しました。貸倒引当金計上が一巡したほか、化学品市況の回復、ならびに、繊維事業のM&A(合併と買収)効果なども寄与しました。今回発表した新中期経営計画では、2026年3月期経常利益160億円(2023年3月期は124億円)を計画しています。

 海外現地法人の収益水準拡大、さらなるM&A効果などが主なけん引役になるとみているようです。なお、上場企業の東レの子会社となっていることで、今後も親子上場解消への思惑は続くとみられます。

4 ジャックス(8584・東証プライム)

 三菱UFJフィナンシャル・グループの大手信販会社です。いち早くキャッシングの上限金利を利息制限法内の18%以下に引き下げるなど堅実経営。

 ショッピングクレジットやオートローンなどのクレジット事業、クレジットカードや決済・家賃保証サービスなどのカード・ペイメント事業、住宅ローンなどのファイナンス事業、東南アジア4カ国で展開する海外事業を行っています。投資用マンション向け住宅ローン保証が成長、業界トップシェアとなっています。

 2023年3月期営業利益は316億円で前期比18.5%増となっています。オートローン、住宅ローン、海外事業などがけん引して営業収益が増加し、貸倒関連費用の減少も寄与しました。年間配当金は前期比30円増の190円としています。

 2024年3月期営業利益は335億円で5.7%増の見通しです。主にオートローン事業の利益拡大を想定しているようです。また、海外事業もインドネシア中心に順調な拡大を見込んでいます。年間配当金は前期比10円増の200円を計画しています。

 2022年3月期にかけて収益は大きく拡大、同期の営業増益率は63.8%増となっています。住宅ローン事業やファイナンス事業の売上成長、海外事業における貸倒引当金の減少が主因です。足元では経済活動が一段と正常化の方向に向かっており、カードショッピングやキャッシング、決済需要の増加が見込まれます。

 2022年には、中国の電気自動車メーカー日本法人BYD Auto Japanと業務提携契約締結で合意しており、BYD社の国内EV販売の展開力なども今後の注目材料となります。

5 愛三工業(7283・東証プライム)

 トヨタ自動車系の自動車部品メーカーで、トヨタグループ向けが6割強を占めています。燃料ポンプモジュールが主力で、吸排気系製品や排出ガス制御系製品なども手掛けています。所在地別業績では、中国や東南アジア向けが収益源となっています。

 2022年9月、デンソーから燃料ポンプなどのフューエルポンプモジュール事業を譲受しています。クリーンエネルギー向け製品としては、水素供給ユニット、FCV(燃料電池自動車)用エアバルブ、電動ウォーターポンプなどを手掛けています。

 2023年3月期営業利益は136億円で前期比39.0%増となっています。自動車生産回復による販売数量増加、為替の円安効果などが寄与しました。年間配当金は前期比6円増の35円としています。2024年3月期営業利益は140億円で2.7%増の見通しです。

 燃料ポンプモジュールの事業譲受が通期寄与するほか、原価低減努力や生産性の向上など収益改善策の効果を見込んでいます。年間配当金は前期比5円増の40円を計画しています。

 営業利益は2022年3月期が前期の約2倍、2023年3月期が39.0%増と、急速に高まってきています。固定費の圧縮を進めた中での需要回復による増収効果が強く反映される状況となっています。

 足元0.5倍台にとどまるPBR水準の是正に向けて、今後は、電池ケースやカバー、DC-DCコンバータ(電圧変換器)など電動化製品への取り組みの加速化が必要となります。トヨタグループとの連携などによる取り組みの進捗(しんちょく)が期待材料となってくるでしょう。