ハンセン指数は調整局面、上海総合指数は上昇トレンドには至らず

 3月20日をボトムに切り返した香港ハンセン指数ですが上値は重く、4月17日に高値を付けた後は、調整局面となっています。一方、上海総合指数は4月18日、5月8日に、昨年7月以来の高値(終値ベース)を更新しているのですが、その都度押し戻されており、上昇トレンドの形成には至っておりません。

グラフ1. 2022年1月以降の主要株価指数の推移

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2023年5月19日)

 香港ハンセン指数とTOPIX(東証株価指数)の値動きはとても対照的です。それぞれについて、ダウ工業株30種平均に対する比率を計算、それを昨年末時点を100として指数化させたグラフを作ってみました。

 いわゆる相対株価グラフですが、それをみると香港ハンセン指数は年初に急上昇(NYダウを大きく上回るパフォーマンス)していますが、春節休暇直後にピークを打っています。

 ゼロコロナ政策の解除による景気の急回復期待で大きく買われたのですが、その後、その期待は修正され、バイデン政権による半導体の対中輸出規制政策の影響もあり、下落トレンドとなっています。ただ、足元では下げ止まった感もあり、また、5月19日現在、NYダウと比べ、わずかなアンダーパフォームにとどまっています。

 ちなみに、TOPIXは年初から上げ下げを繰り返していましたが、4月7日をボトムにそれ以降は、強い上昇トレンドを形成しています。4月9日に植田和男氏が日本銀行の新総裁に就任、早々に従来からの金融政策を維持すると明言しました。

 4月11日にはバフェット氏が来日、日本経済新聞社による単独インタビューに応じ、「日本株の追加投資を検討したい」と強気な見方を披露しました。これらが好材料となったとみられます。

グラフ2.ハンセン、TOPIXの相対株価(対NYダウ)の推移

注1:相対株価は前日のNYダウとの比較。
注2:2022年末の相対株価を100として指数化した。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2023年5月19日)

中国株市場は景気動向が最大の焦点!

 今後の中国株市場についてですが、引き続き景気動向が最大の焦点です。

 月次の経済統計をみると、生産、消費は回復基調にあるのですが、投資、特に不動産投資と輸入、物価などは戻りが遅れています。

表1.今年に入ってからの月次経済統計の推移

注1:鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資、不動産投資については1月の統計は発表されず、2月に累計データが発表される。
注2:固定資産投資、不動産投資については、金額、累計の伸び率だけしか発表されないため、毎月のそれらのデータから当月の月次伸び率を推計した。

 この現状について、4月28日に開催された政治局会議では、「足もとの景気回復は主にリバウンドによるもので、内生する経済をけん引する動力はまだ強くなく、需要は依然として不足しており、経済のレベルアップを進める上で新たな障害に直面している」、「質の高い発展を推し進めるには多くの困難・チャレンジを克服しなければならない」と分析しています。

 需要が不足しています。今後、国、地方政府は債券発行枠を広げ、インフラ投資を拡大させたり、利下げにより民間投資を引き出させるとともに、オートローン、消費者ローンを活発化させ、新エネルギー自動車や、耐久消費財需要を刺激したり、積極的な財政金融政策を打ち出すことになるでしょう。

 ただ、最も経済への波及効果の高い不動産については、業者向けの融資金利、消費者向けの不動産ローン金利の引き下げ、不動産購入における制約条件の緩和とか、賃貸向け住宅建設の加速といった政策が打ち出されているのですが、なかなか効果が現れてきません。不動産市場の底打ち、回復が待たれるところです。

急拡大を続ける新エネルギー自動車関連銘柄をピックアップ!

 今回の注目セクターは、新エネルギー自動車関連です。このセクターでは、今、大きな技術革新による産業構造の変化が起きています。当局はそれを後押しし、加速させることで、質の高い経済発展につなげようとしています。

 もっとも、ただ自動車の生産を加速させればよいというものではありません。生産を拡大させると同時に、充電スタンドを整備し、新エネルギーによる電力供給を増やし、電力ネットワークの効率化を推し進めなければなりません。今回はこうした業界内の変化で恩恵を受ける企業を含め、幅広く関連銘柄をピックアップしました。

注目株1:江西カン鋒リチウム(01772)

 リチウム金属を生産する江西省新余市の郷鎮企業が前身です。創業直後の1998年に経営陣の一角であった李良彬会長がその郷鎮企業を買収し民営化、2000年に株式会社として正式に設立させています。

 リチウムの採掘、リチウム化合物の精製、金属リチウム製造、リチウム電池製造、リチウムの回収、二次利用まで、垂直統合型のビジネスを展開しています。

 原材となるリチウム鉱は地元のほか、国内では青海省、海外ではオーストラリア、アルゼンチン、アイルランドなど多方面から調達しています。

 部門別売上高(2022年12月期)では金属リチウム・リチウム化合物が83%、リチウム電池が16%、電池の半製品、フッ化リチウム、リン酸二フッ化リチウムなどが1%を占めています。輸出比率は34%です。

 2022年12月期は275%増収、292%増益となりました。中国国内の新エネルギー自動車向け需要が大きく拡大したことで2022年春、リチウム化合物の価格が暴騰、その後も高止まりしたこと、生産能力を増強したことなどが好業績の要因です。

 2023年12月期業績の市場コンセンサスは7%増収、▲32%減益、2024年12月期は4%増収、3%増益です。2022年にリチウム金属、リチウム化合物価格が急騰した反動で業績は伸び悩む見通しです。

 価格急騰を織り込む形で株価は急騰しましたが、株価のピークは2021年9月です。その後は下げトレンドを形成していたのですが、足元では値固めが進み、日足ベースでは底打ちの兆しもみられます。

 化石燃料自動車から新エネルギー自動車への転換は今後、グローバルで進むとみられ、リチウム電池需要の拡大はしばらく続く見通しです。

 アルゼンチンでは炭酸リチウム、メキシコでは水酸化リチウムのプロジェクトが進むなど、国内の増産を含め、積極的な生産能力拡大を進めており、業績は上方修正含みと予想します。

江西カン鋒リチウムの月足

期間:過去5年(2018年5月19日~2023年5月19日)
出所:楽天証券HP

注目株2:理想汽車(02015)

 2015年創業の電気自動車メーカーです。李想会長は2004年末に創業した自動車関連情報をネットで提供する汽車之家を2013年12月にニューヨーク証券取引所に上場させています。

 同社はテスラのモデルSを意識したとみられるSUV、理想ONEを開発、 2019年12月から納車を開始、2020年7月にNASDAQ市場に上場、2021年8月には香港市場に上場しています。

 2023年4月に納車した台数は前年同月比516.3%増の2万5,681台。BYD(01211)、広州埃安、テスラ(TSLA)、上海通用五菱、吉利汽車(00175)に次ぐ販売台数を記録しています。

 4月末時点で302カ所の販売センターを持っており、123の都市を網羅しています。また、222の都市で、318カ所のアフターサービスセンター、同社公認の塗装スプレーセンターがあります。

 自動運転に関しては、2023年4-6月期中に独自の自動運転システム(AD Max3.0)のベータ版(テスト段階)を開放、2023年末までに100都市でこのシステムを導入する計画です。このほか、10分間の充電で400kmの走行が可能となる「800ボルトによる急速充電システム」を開発。

 2023年末までに高速道路充電ステーションを300カ所以上建設する計画で、2025年にはこれを3,000カ所まで増やす意向です。ちなみに、前者は全国の高速道路の約40%、後者は約90%を網羅する規模です。

 2022年12月期は68%増収、20億1,222万元の赤字(前期は3億2,146万元の赤字)となりました。車種を絞り込んだ上で量産を進めており、売上を大きく伸ばす一方で他社との競争に打ち勝つために、巨額の研究開発費を投じており、赤字幅は拡大しています。

 2023年1-3月期は96%増収、黒字転換(9億2,967万元)しており、2023年12月期業績の市場コンセンサスは120%増収、28億1,127万元の黒字、2024年12月期は55%増収、164%増益です。新エネルギー自動車市場は現在、拡大期を迎えていますが、この好環境の中で同社は勝ち組企業の一角として、高成長すると予想します。

理想汽車の月足

期間:過去3年(2021年5月19日~2023年5月19日)
出所:楽天証券HP

注目株3:BYD(01211)

 中国を代表する新エネルギー自動車メーカーです。王伝福会長が1995年に設立した二次充電池メーカーが前身ですが、その後リチウム電池の製造に着手、2003年には買収により自動車産業に参入しました。王伝福会長の電気自動車の将来性に対する強い信念が実を結び、10年連続で本土新エネルギー自動車生産台数トップ(2022年時点)の座を維持しています。

 2022年3月には化石燃料自動車の生産を停止し、新エネルギー自動車専業メーカーに転身、2023年4月現在、本土市場における月間販売台数は19万3,902台、新エネルギー自動車シェアは36.8%です。ちなみに第2位は広州埃安で7.8%、第3位はテスラ中国で7.6%でした(データは汽車之家)。

 事業内容についてですが、新エネルギー自動車の製造のほか、従来からの事業であるスマホ部品の製造・アセンブリがあります。部門別売上高(2022年12月期)をみると、新エネルギー自動車は77%で、スマホ関連事業は23%を占めています。

 2022年12月期は96%増収、446%増益となりました。新エネルギー自動車産業に対する国家の積極的な支援策を背景に生産能力を大幅に拡大、業績は急拡大しています。2023年4月時点で、月間販売台数は85.1%増。2023年12月期業績の市場コンセンサスは43%増収、35%増益、2024年12月期は24%増収、34%増益です。

 2008年にバフェット氏の率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが同社H株を買い入れており、2022年6月末時点の持ち株比率は20.49%(H株発行済み株式総数に対する割合)でした。しかし、8月から段階的に株式を売却、5月2日の売却を経て保有比率は9.87%まで下がっています。

 保有株数が減ることで売却によるインパクトは小さくなってきました。新エネルギー自動車はこれから本格的な発展段階を迎えることを考えると、トップシェアの同社は今後も成長余地は十分大きいと予想します。

BYDの月足

期間:過去5年(2018年5月19日~2023年5月19日)
出所:楽天証券HP

注目株4:国電南瑞科技  (600406)

 国家エネルギー行政をつかさどる国家電網有限公司直属の機関であり、電力事業に関連する技術開発を手掛けています。スマートグリッドを中核として電力ネットワーク全般のソリューションを提供しています。

 部門別売上高(2022年12月期)をみると、電力ネットワーク全体の自動化、工業システム制御が55%、電力ネットワークの補修、フレキシブル送電システムが14%、送電自動化・情報通信システムなどが18%、発電、水利、環境保護などが9%、その他が4%です。主要顧客は、送電、発電、都市交通(地下鉄など)、鉱工業関連企業や、公共事業を行う政府などです。

 2022年12月期は10%増収、14%増益となりました。政策主導で電力システムへの投資が拡大しています。2023年12月期業績の市場コンセンサスは13%増収、15%増益、2024年12月期は15%増収、16%増益です。

 電気自動車の普及には、充電ステーションの拡充とともに電力ネットワークの効率化、充実が欠かせません。中国は2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成させる(双炭)政策を進めており、同社への需要は長期的に拡大すると予想します。

国電南瑞科技の月足

期間:過去5年(2018年5月19日~2023年5月19日)
出所:楽天証券HP

注目株5:特変電工(600089)

 中国最大の変圧器メーカーです。1988年、倒産寸前であった新疆ウイグル自治区昌吉市の特殊変圧器工場を張新会長が立て直したことが、同社発展の出発点となりました。1997年に上海市場に上場。調達した資金で買収を絡めながら事業を拡大、多角化を進めています。

 部門別粗利益(2022年12月期)をみると、太陽光パネルに使われる多結晶シリコン、直流を交流に変換するインバーターモジュール、風力発電所、太陽光発電所の建設、運営など、新エネルギー関連業務が全体の55%を占めています。

 次にウエートの大きな事業は石炭開発で23%を占めています。以下、火力発電、熱水供給などが7%、変圧器が6%、電線・電纜(でんらん)が3%、アルミ電子材料が3%、送電変圧設備が2%、その他が1%です。

 2022年12月期は39%増収、119%増益となりました。多結晶シリコン、石炭などの生産量増加、販売価格の上昇などにより、大幅増収増益を達成しました。

 2023年12月期業績の市場コンセンサスは4%増収、▲6%減益、2024年12月期は5%増収、▲9%減益です。

 多くのアナリストたちは多結晶シリコン、石炭価格の反動などにより減益を予想しているようですが、政策により、特殊高圧変圧器の需要が拡大、業績見通しは上方修正含みとみています。

特変電工の月足

期間:過去5年(2018年5月19日~2023年5月19日)
出所:楽天証券HP