今日は、J-REIT(ジェイ・リート:国内の不動産投資信託)への投資について解説します。
不動産への小口投資を可能にしたREIT
REIT(リート)とは何かご存じない方もいらっしゃると思いますので、基礎的なことから説明します。REITは、不動産への小口投資を可能にした「上場投資信託」です。
個人投資家が不動産に投資する場合、ワンルームマンションからアパート1棟までさまざまな投資対象がありますが、かなり大きな金額が必要です。資金規模の制約から、個人投資家が直接投資できる対象は限られます。
REITを通じて投資すれば、都心一等地の大型ビルに投資することもできます(図A)。
<図A>REITを通じて大型物件に投資
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一等地の大型ビルにテナントが集中し、競争力のないビルからテナントが流出する「不動産の二極化」が顕著に見られる時代になりました。投資するならば、一等地の大型ビルに投資したいと考えます。
ところが、REITが普及するまでは、一等地の大型ビルに投資するには何百億円という規模の資金が必要でした。個人投資家の不動産投資では、小口で投資できるマンションなどが中心になり、大型ビルへの投資は困難でした。REITの普及によって、状況が変わりました。今では、小口資金でも、REITを通じて、大型ビルに投資することもできるようになりました。
REITは証券取引所に上場されていて、一般の株式と同じように売り買いすることができます。最低売買単位での投資額は、10万円以下から100万円超までいろいろあります。REITは日本にも海外にもあります。東京証券取引所に上場しているREITをJ-REITと呼んでいます。
REITには、さまざまな種類がある。代表銘柄を紹介
REITには、さまざまな種類があります。もともとは、オフィスビルや住宅・マンションに投資するファンドがほとんどでしたが、近年は、利回りが稼げるさまざまなものに投資されています。純粋な不動産投資と言えないものも増えています。代表的な銘柄は、以下です。
<REIT代表銘柄(投資の参考銘柄):分配金利回りは4月24日時点予想>
コード | 銘柄名 | 主な 投資対象 |
分配金 利回り 年率 :予想 |
最低 投資額 :円 |
---|---|---|---|---|
8951 | 日本ビルファンド投資法人 | オフィスビル | 4.2% | 551,000 |
8952 | ジャパンリアルエステイト投資法人 | オフィスビル | 4.3% | 530,000 |
3234 | 森ヒルズリート投資法人 | オフィスビル | 4.0% | 153,400 |
3269 | アドバンス・レジデンス投資法人 | 住宅・マンション | 3.4% | 342,500 |
3281 | GLP投資法人 | 物流施設 | 3.7% | 149,900 |
3283 | 日本プロロジスリート投資法人 | 物流施設 | 3.3% | 302,500 |
3292 | イオンリート投資法人 | 商業施設 | 4.4% | 153,000 |
9284 | カナディアン・ソーラー・インフラ 投資法人 | インフラ・ファンド | 6.2% | 121,900 |
出所:分配金利回りは4月24日時点の1口当たり分配金(会社予想)を同日のREIT価格で割り、年率換算して計算 |
上記に挙げたように、REITには、オフィス・レジデンシャル(住居)・物流・リテール(商業施設)、インフラなどに投資する種類があります。
上記の他に、ホテル・リゾート施設に投資する、ホテルREITもあります。ただし、私は現時点で投資すべきと考えるホテルREITはないので上の表に出しませんでした。
リオープンで観光業に復活期待があり、ホテルREITに投資したいと思う人も多いと思いますが、私は賛成しません。ホテルREITには財務が悪化しているものが多く、短期的な業績回復期待だけで投資すべきでないと思います。
J-REITに投資したいと思うものの、どの銘柄を選んで良いか分からない方は、最初は、投資信託で「東証REIT指数インデックスファンド」に投資したら良いと思います。小口資金で、さまざまなREITに分散投資することができます。東証REIT市場全体の平均値に投資できます。
REITは、「株」と「債券」の中間的性格を持つ
J-REITは、円建てで、平均分配金利回りが4%前後と、利回り投資商品として魅力的です。長期(10年)国債の利回りが0.5%程度しかない時代に、魅力的な利回りです。国内債券の代替として、投資したいと思う人もいるでしょう。
ただし、注意が必要です。REITは確定利回り商品ではありません。業績が悪化すれば分配金が引き下げられ、利回りが下がるだけでなく価格も下がるリスクもあります。その意味では「株」に近い商品です。
リスク管理上、J-REITは、「日本株」と「国内債券」の中間的運用商品として扱ったら良いと、私は考えています。
資産形成のためのアセット・アロケーションを、「国内株式25%、国内債券25%、外国株式25%、外国債券25%」としている投資家が、J-REITに10%投資するとしたら、国内株式のポジション5%、国内債券のポジション5%を使って、合わせて10%投資すると良いと思います。
<J-REITを組み入れる前後のアセット・アロケーション>
【投資前】国内株式25%、国内債券25%、外国株式25%、外国債券25%
【投資後】国内株式20%、国内債券20%、J-REIT10%、外国株式25%、外国債券25%
運用には「攻め」と「守り」が必要
私はかつて25年間日本株のファンドマネージャーとして、年金などの運用に携わってきました。アセットアロケーション(資産配分)を考える際に悩むのは、「攻めと守りのバランス」です。
「攻め」だけ考えるならば、米国・日本を含む世界中の株に分散投資すれば、それでOKです。債券に投資しても、長期的に株を上回るリターンは期待できません。特に、長期金利が0.5%に抑えられている国内債券は、ほとんど投資する価値がありません。
ただし、年金投資において、現実には株だけというわけにはいきません。株はボラティリティが極めて高いからです。リーマン・ショックや新型コロナウイルス・ショックのようなことがあったとき、株だけで運用していたら、一時的に巨額の損失をこうむります。国民の老後資金を預かって運用する年金基金は、たとえ一時的でも大きな損失を出すわけにはいきません。
日本最大の年金基金で191兆円の運用資産を保有するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオは、その意味で参考となります。現在、外国株式25%、日本株式25%、外国債券25%、国内債券25%を、運用の基本方針としています。株が半分、債券が半分で、まずまずバランスのとれた運用と言えます。
ただし、明らかに違和感を覚えるのが、国内債券に25%も資金配分していることです。10年国債利回りが0.5%しかない今、国内債券に投資するのは非効率だと思います。国内債券で無理にリターンを狙いにいくと、ジャンクボンド(低信用債)や超長期債(30年国債など)を買うことになります。信用リスクや金利上昇リスクを負うのは適切とは思えません。
それでは、国内債券の代わりに、円建ての利回り商品で何に投資したら良いでしょう? しばしば話題になるのが、J-REITです。株のポートフォリオに、J-REITを入れれば、長期的に運用の安定化に一定の寄与はあります。
ただし、J-REITが有効なのはあくまでも長期的なリターンの安定化にとってです。短期的には、J-REITはまったく債券代替となりません。リーマン・ショックやコロナショックで株が暴落する時、J-REITも同じように暴落してきたからです。
コロナショックでREITが日経平均よりも大きく下落
J-REITの平均分配金利回りは今、約4.1%です。長期投資するのに、魅力的な水準です。ただし、J-REITに分散投資する際に、一つ知っておかなければならない「不都合な真実」があります。
コロナショックでは、J-REITに投資していても、リスク分散効果はありませんでした。以下のグラフをご覧いただくと分かる通り、コロナショックが起こった時、東証REIT指数も日経平均株価も急落しました。しかも、東証REIT指数の下げは、日経平均よりも大きかったのです。
<東証REIT指数と日経平均比較:2019年末~2023年4月24日>
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利回り商品であるはずのREITがなぜ、こんなに大きく下がってしまったのでしょう。コロナ禍では確かにホテルREITや流通(小売り)REITが大きなダメージを受けました。
ただし、REITの大半を占めるオフィスREITが受けたダメージは軽微でした。レジデンシャルREITはほとんどダメージがありませんでした。物流REITはコロナ禍による無店舗販売拡大で、業績がますます好調に推移しました。
つまり、コロナ禍でREIT全体が受けたダメージは、日本株全体が受けたダメージよりも軽微だったのです。にもかかわらず、東証REIT指数の方が、下げが一時的に大きかったのはなぜでしょう。
コロナショックが起こると同時に、REITを一斉に売ったのは、主に国内の金融機関でした。金融危機が起こりそうになると、金融機関はリスク資産を減らして流動性を確保しようとします。ただし、流動性の低い不動産を急に売ることはできません。
そこで、売ろうと思えば売ることができるJ-REITを、不動産を売る代わりに一斉に売ってきたと考えられます。結果として、J-REITはコロナショックで株以上に下落し、債券代替としての役割をまったく果たしませんでした。
東証REIT指数は、2008年のリーマンショックでも、一時、日経平均よりも大きく下げました。これまでの歴史を見ると、株とREITに分散投資しても、株の暴落局面でリターンを安定させる効果は、あまり得られていません。
J-REITの活用方法
株が暴落する時にいっしょに暴落してきた過去を見ると、J-REITを国内債券の代替にはできません。ポートフォリオでは、国内株式の一部としてリスク管理していくことが必要でしょう。
ただし、普通の金融環境の2014~2018年のように、株と逆の動きをすることもあります。一般の株とは明らかに異なる値動きです。債券のように動くこともあるし、株のように動くこともある資産としての特徴があります。
成長性はないが利回りの高い「高配当利回り株」と近い存在と位置付けて、ポートフォリオに組み込んでいくことで、長期的な利回りの安定化に寄与すると思います。
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