グリーン水素の生産規模は2年ごとに2倍に増えており、新たな生産施設の計画も同様に増えている。一方で年間8,000万トンを越える既存のグレー水素(化石燃料を利用して生産される水素)需要は、燃料電池の利用が増える中で、グリーン水素にとっても安定した市場ともなっている。我々は、2030年代後半までに水素関連のプラチナ需要は、年間のプラチナ需要の3分の1にまでに増えると予測している。

 1975年以降、水素の需要は石油精製と肥料製造のアンモニア生産に支えられて毎年3%以上増えているが、そのほとんどはグレー水素だ。Energy Transitions Commissionは、水素市場は2030年代を通じて年間9%以上の成長を続けるとしている。現在グレー水素は主に天然ガスの水蒸気改質法によって生産されているが、この方法は水素1キロにつき9キロから10キロの炭素を排出する。脱炭素化を目指す水素市場にとって、炭素排出ゼロのグリーン水素こそが理想的な解決策だ。既存の水素市場の脱炭素化に加え、グリーン水素は暖房で天然ガスの代わりとして、また燃料電池自動車を含む燃料電池発電および蓄電に使われる。

 潜在的な需要の成長はグリーン水素の開発への投資の後押しとなる。それぞれの開発プロジェクトの目的は新たな用途かもしれないが、その結果はグレー水素の代替としての役割も果たす。安定した需要のあるグレー水素市場の存在は、広範にインフラが普及していないまでも、既に水素を扱う技術と方法が確立されていることを意味している。

既存のグレー水素市場は既に年間8,000万トン以上で、2030年代を通じて毎年9%伸びる予測  

資料: IEA,WPIC リサーチ

新たなグリーン水素プロジェクトの生産能力は2021年10月から2022年10月の間に64%増加

資料: IEA,WPIC リサーチ

 グリーン水素は、再生可能エネルギーを使い固体高分子型水電解あるいはアルカリ電解によって得られる。固体高分子型水電解装置はプラチナを触媒として使うが、アルカリ電解装置は少量の研究開発以外にはプラチナを使わない。固体高分子型水電解装置の方が再生可能エネルギー特有の変動に対応しやすく、故にグリーン水素生産に適しており、一方でアルカリ電解装置は水力発電など安定した電力源での利用に適している。水素産業の発展に伴い、グリーン水素生産能力は2021年10月から2022年10月の間に58%増え、新規グリーン水素生産プロジェクトは64%増えた。新規グリーン水素プロジェクトの全てが固体高分子型水電解装置を使うと仮定すると、2030年までの累積プラチナ需要は84トンを超え、さらに燃料電池のプラチナ需要を含めると、水素関連のプラチナ需要は2030年代後半までに年間需要の3分の1を占めるまでになるだろう。

 既存の水素市場は年間8,000万トン、2030年を通じて毎年9%の成長予測はグリーン水素開発を大きく後押し

 水素関連のプラチナ需要は2030年代後半には年間プラチナ需要の3分の1になるだろう 

投資資産としてのプラチナの魅力

- 南アフリカの電力不足と対ロシア制裁で供給が大幅に制限
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い  
- 自動車のPGM需要は、ガソリンエンジンにおける代替の動きにより今後も成長
- パラジウムとプラチナのマーケットバランスと価格のミスマッチが代替の動きを加速
- 投資需要は2年間のネガティブ需要を経てポジティブに転じる見通し

図1: 2021年10月から2022年10月の間にグリーン水素生産能力は58%増加

資料: IEA,WPIC リサーチ

図2: 同時期、新規グリーン水素プロジェクトは64%増加

資料: IEA,WPIC リサーチ

図3: グレー水素市場は年間8,000万トン以上。1975年以降、毎年3%以上増え、2030年代は9%以上の成長見込み

資料: IEA,WPIC リサーチ

図4: グリーン水素生産率は水電解装置の開発に依存し、我々のベースケース予測は全体の33%がプラチナを使う固体高分子型水電解装置で、残りがアルカリ電解装置

資料: WPIC リサーチ

図5: 新規グリーン水素プロジェクトの稼働時期は変動的だがこの10年間で早まるとされる

資料: IEA,WPIC リサーチ

図6: 水素関連のプラチナ需要は2030年代後半までにプラチナ需要全体の3分の1になる予測

資料: メタルズフォーカス(2022〜2023年)WPIC リサーチ

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