運用は株式や投資信託だけではない

 4月ということもあり、今回は新社会人となった世代、あるいは投資初心者向けのテーマを取り上げてみたいと思います。

 私たちはなんとなく「運用=株式」(投資といえば株でしょう!)とか、「運用=投資信託」(商品名に投資とついているし!)というイメージを持っていると思います。

 しかし、あなたのお金を管理し、これを増やしていく手段として「運用」を考え直してみると、もっと幅広くお金の流れを考えるべきだと思います。

 例えば「節約も運用の一部」「キャリアアップも運用の一部」「銀行預金も運用の一部」なんて言われてどう思うでしょうか。

 もし、一つでも「え、そうなの?」と思ったら、あなたはこの記事を読む価値あり、ということです。

 新社会人の一歩目を踏み出した人たち、あるいは資産運用の世界に足を踏み入れた人たちはちょっと立ち止まって読んでみてください。

その1:「節約」という運用に意味を見つけよう

 最初に強く訴えたいのは「節約」は資産運用なのだ、ということです。このテーマ、いろんなところで執筆あるいは講演で取り上げるのですが、「自由に使えるお金を多くする」という意味では、節約ほど確実な運用はありません。

 不要な支出を減らし、欠かせない支出についてはコストダウンを図ることで、同じ年収であっても手元に残るお金を増やすことができるからです。

 株式投資は毎月確実に収益を生み出すわけではありませんし、むしろ使う時期はできるだけ遅らせたいお金です(そもそも将来の資金ニーズのための資産形成であることが多い)。

 日常生活の費用について、限られた給与所得を効率的に使い、その「収支差」を多くすることを確実にするのは「運用の第一ステップ」なのです。

  • 不要な支出を削る
  • ロス(廃棄)を減らす
  • 必要な支出は割安なものとする

 この三つを意識してみましょう。高額出費をしてもかまいませんが、「年間収支ではプラスに調整できるようにする」ことと「高い出費をする以上は満足度も高いものとすること」は強く意識してください。

 もちろん、節約によって生み出せた収支差額は積立投資の原資ともなります。その意味でも節約は投資を生み出す卵でもあるわけです。

その2:「キャリア」という運用で生涯獲得賃金を増やす

 二つ目の運用は、自分自身のキャリアアップです。人生において「使えるお金をたくさん得ること」を広義の運用とみなした場合、株式投資より効率的かつ確実なのは、節約ともう一つ、自身の人的資本価値を高めることがあげられます。

 人的資本価値、なんて難しく言う必要はありません。要するに、定期的に獲得できる給与収入や賞与を増やすことができれば、積立投資の原資も増やせますし、そもそもの生活水準を高めることもできます。

 つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)に年40万円をしっかり積み立てるとき、年収400万円の人より年収600万円の人のほうがラクなのは当然です。むしろ年60万円積み立てられるかもしれません。

 年収を増やすアプローチをシンプルにいえば

  • 労働時間を増やす
  • 時間あたりの賃金を高める

 この二つですが、前者を突き詰めても限界があります。アルバイトならそれでもいいですが、会社員の残業には限界がありますし、ブラックな会社の場合はきちんと支払われないこともあります。

 それよりも、あなたの能力を高め、あなたの時給を上げるほうが効果的です。同じ時間働いて、より多くの給与をもらうのです。

 自分の価値を高めることは、何により成立するのか、考えてみましょう。欠けているビジネススキルの習得なのか、今持っている長所をさらに高めることなのか、有資格者となることか、単純に実務経験を増やすことなのか、自覚的にならなくてはいけません。

 単純に、社内の昇格・昇給ルールを把握することを怠っている人もいます。自己評価シートがある人事評価制度でありながら、手抜き記入をして「上司はオレのことを何も分かっていない」と低評価に憤るのはばかげたことです。

 ちなみにキャリアアップは納税額や社会保険料負担も増やしますが、年収増を上回る負担増は基本的にありません。また年金保険料負担は将来の年金給付増に反映されますので、これまたムダにはなりません。

 なお、あなたが結婚している場合は「ふたりで稼ぐキャリアアップ」という発想も組み入れてください。ひとりで1,000万円超を稼ぐのが大変であっても、正社員夫婦が合計で1,000万円を稼いでいくことは不可能ではないからです。

その3:「預金」という運用でリスクをコントロールする

 銀行預金も運用だよ、といわれると多くの人が首をかしげます。「貯蓄から投資へ」という言葉がありますが、貯蓄の代表が銀行預金で、資産運用の代表が投資ではないのか、と思うからです。

 しかし、運用とはお金をどう増やしていくかの取り組みの全てを指す、というのがここまで考えてきたことです。だとすれば銀行預金も運用だといえます。

 もちろん、銀行預金は「安全・確実・低利回り」の金融商品です。これはあなたのポートフォリオにおけるリスクを抑える効果を持つ資産だと考えてみるといいでしょう。

 例えば個別株式を同一年内に売り買いを行うような投資スタイルで保有する場合、高いリスクを取っているわけですから、一定割合の預金保有が全体としてのリスクを下げてくれます。

 バランス型の投資信託をメインに据えて長期積立分散投資をしている場合も、当座の生活コストに困らないくらい(つまり投資信託を中途解約せずにすむ程度)の預金を保有しておくことで、長期保有がしやすくなります。

 リスクを抑えられる、ということはつまり、預金保有が「あなたの投資における意味がある」ということになります。そこに目を向けてみましょう。

 ただし、銀行預金には今逆風が吹いています。インフレの傾向です。2022年の消費者物価指数はプラス2.5%でしたが、銀行預金の金利は残念ながらこれを下回ってます。中長期的には銀行預金の金利上昇が、物価上昇率に追いつくと思いますが、これもマイナス金利政策の見直し以降となり、しばらくは「実質マイナス」であることには留意したいところです。

お金の流れの最後に「投資」が待っている

 さて、三つの意外な運用方法を考えてきましたが、「節約」でお金を多く残し、「キャリアアップ」でお金を多く稼ぎ、「預金」でリスクをコントロールしながら向き合っていくのが、リスク資産運用ということになります。

 特に若い世代はキャリアアップと節約の組み合わせによる投資資金増を心がけてみてください。株式投資で確実に毎月1万円増やせるかどうかは不確かであっても、キャリアアップで年収を増やせば確実に給与を1万円増やすことはできますし、節約により確実に月1万円を残すこともできます。

 自分自身のお金の流れを意識し、三つの運用に取り組む余地を考えてみましょう。そこに結果として株式投資や投資信託が収まってくればいいのです。

 リスク資産の投資は、三つの運用の最後に待っていて、あなたのお金をさらに増やす力となってくれることでしょう。