配当金の受け取り方は4種類

 株式投資の楽しみの一つと言えば配当金。3月30日に3月期決算企業の配当権利落ちがありましたが、株主還元の強化から、配当金を増額する企業が多くなっています。

 さて、配当金の受け取り方が4種類あることは、これまでも何度かお伝えしてきましたが、改めてここでおさらいしておきたいと思います。

(1)配当金領収書方式

 配当金領収書が自宅へ郵送されてくるので、それを郵便局などへ持参して配当金を受け取る方式。

(2)個別銘柄指定方式

 配当金振込指定書を保有する銘柄ごとに提出して、銀行口座に配当金を振り込んでもらう方式。

(3)株式数比例配分方式

 保有する全ての銘柄の配当金を、証券会社の口座で受け取る方法。同一の銘柄を複数の証券会社で保有している場合、それぞれの保有株式数に応じて配当金が各証券会社の口座に振り分けて入金される。

(4)登録配当金受領口座方式

 保有する全ての銘柄の配当金を、指定した銀行口座に振り込んでもらう方式。(2)の個別銘柄指定方式と異なり、銘柄ごとに銀行振込の申し込みをする手間が省ける。

 株式数比例配分方式および登録配当金受領口座方式を選択する場合には、証券会社へ申し込みが必要となります。ただし、複数の証券会社の口座に株式を保管している場合でも、どこか一つの証券会社で申し込めば他の証券会社保管分も含めて適用を受けられます。

 なお、株式数比例配分方式、登録配当金受領口座方式を選択した場合、保有する全ての株式につき同一の方式が適用されます。

株式数比例配分方式が「有利」とされる理由

 専門家の多くは、このうち株式数比例配分方式が有利なので、それを選択しましょうとアドバイスしています。筆者も基本的には同様の考え方です。

 なぜ株式数比例配分方式が有利なのか、それは以下の理由があります。

〇NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で保有している株式や投資信託の配当金、分配金につき、株式数比例配分方式にしないと非課税とならない

〇源泉徴収ありの特定口座、かつ株式数比例配分方式を選択していれば、同じ年の株式等の譲渡損(売却損)と配当金を証券会社の方で自動的に相殺してくれる
(通常は売却損と配当金の相殺は自分自身で確定申告しないとできない)

 しかし、この「有利」とされる点が当てはまらず、逆に損をしてしまうケースがあるのです。

源泉徴収あり・株式数比例配分方式が税務上損をするのはどんなケース?

 例えば以下のようなケースです。

〇自営業者・専業主婦など
〇証券口座は1社のみ
〇2021年から繰り越してきた上場株式等の譲渡損失:年間30万円
〇2022年の配当金(源泉徴収ありの特定口座・株式数比例配分方式):年間200万円

 この状況で、2021年から繰り越してきた上場株式等の譲渡損失30万円と、2022年の配当金200万円を損益通算すれば、2022年の配当金に課せられている源泉徴収額の一部を還付してもらうことができます。

 しかしその一方、配当金200万円を申告することで、扶養から外れてしまったり、国民健康保険料や介護保険料が大きく増えてしまい、結果として配当金の源泉徴収額の還付以上に持ち出しが増えてしまう可能性があります。

 同様に、上記の例で譲渡損失がなく、単に多額の配当金が生じている場合も、総合課税で確定申告することで配当金の源泉徴収額が戻り、配当控除も使えますが、扶養から外れたり、国民健康保険料が増額することで逆にマイナスの効果が生じる可能性もあるのです。

源泉徴収あり・株式数比例配分方式で受けとった配当金のみに適用されるルールとは

 では、なぜこのようになってしまうのでしょうか?

 これは税務上の規定により、「源泉徴収ありの特定口座かつ株式数比例配分方式」で受け取った配当金は、口座ごとに「全額を申告する」か「全額を申告しない」かのどちらかを選ぶことになっているからです。

 つまり、200万円の配当金につき全て確定申告するか、全て確定申告しないかの二者択一しかできないのです。

 実は、上場株式等の配当金を確定申告するかどうかの判断は、配当金をもらった銘柄ごと、かつもらった都度(同じ銘柄で中間配当と期末配当をもらった場合はそれぞれ別個に)行ってよいというのが原則です。

 ところが、源泉徴収ありの特定口座かつ株式数比例配分方式で受け取った配当金については、口座内で受け取った配当金を「すべて申告する」か「すべて申告しない」かのいずれかしか選択できないのです。

解決策は「源泉徴収なし」・「株式数比例配分方式以外」

 これらを解決するために、まず「源泉徴収なしの特定口座」にすることが考えられます。

 こうすれば、原則通り配当金につき銘柄ごと、1回に受け取るごとに確定申告するかどうか選択できます。

 上記の例でいえば、配当金のうち、繰り越してきた譲渡損失と同額の30万円を少し超えるくらいの額(実際受け取った配当金を組み合わせて最も有利となる額を計算します)だけ、申告分離課税で申告することで、追加的な税負担や保険料負担を回避することができます。 

 また、シミュレーションをしてみて、あえて譲渡損失と相殺をせず、総合課税で確定申告した方が有利ならそちらを選択することもできます。この時も、受け取った配当金の全額ではなく、一部だけを申告した方が有利であれば、それを選択することができます。

 ただし、源泉徴収なしの特定口座の場合は、株式等の譲渡益(売却益)が生じた場合、原則として確定申告が必要となります。多額の売却益が出た場合、源泉徴収ありであれば申告しなくて良いですが、源泉徴収なしだと申告しないといけないので、その結果配偶者控除や国民健康保険料などに影響が生じてしまう可能性があります。

 そこでもう一つ考えられるのが、源泉徴収ありの特定口座のまま、配当金の受け取り方法を株式数比例配分方式以外の方法にするというものです。そうすれば特定口座内に配当金を受け入れない形になりますので、原則通り銘柄ごと、1回に受け取るごとに配当金を確定申告するかどうか選択できます。 

 このように、配当金の受け取り方一つとっても、有利な方法が全ての人に共通とはなりませんし、シチュエーションによって有利な方法が変わることもあります。ここが証券税制の奥深く、難しいところでもあります。

 株式数比例配分方式を選択しておかないとNISA口座の配当金が非課税にならないというデメリットも考慮した上で、最善の方法を模索していく必要があります。

 それでも、所得が増えると国民健康保険料が増額され、かつ配当金の受け取り額が多額な方は、あえて「源泉徴収ありの特定口座+株式数比例配分方式」以外の方法で配当金を受け取ることで、取りうる選択肢が増えて有利になることがありえますから、検討の余地があるでしょう。

注)証券税制は非常に複雑で、個々人により、またその時々の状況により取り得る選択肢が大きく異なります。また、筆者は本コラムの記述内容につき正確性を保証することはできません。
本コラムの記述内容をもとに実行したことにより生じた結果につき、筆者および楽天証券は責任を負いませんので、事前に税理士・税務署などとよく相談した上で実行するかどうかご判断ください。