「高リスク時代」に社会人になられた

 4月に入り、新しい年度を迎えました。会社に入るなどして、新しく社会人になられた皆さまは、今後数十年間、さまざまなところでご活躍になることと、想像しております。

 今、社会はどのような状況なのでしょうか。インフレ(物価高)や戦争が終わらず、安心や平穏、という言葉は当てはまらないように思えます。このため筆者は、今の社会が置かれている時代を「高リスク時代」だと考えています。

図:「人類最後の日」までの残り時間(公表年のみ記載) 単位:分

 上の図は、米国の科学雑誌「Bulletin of the Atomic Scientists」(1945年にマンハッタン計画(第二次大戦中の米国の原爆開発・製造計画)に貢献したシカゴ大学の科学者によって作られた)が、1947年から公表している、「人類最後の日」までの残り時間を示唆する「終末時計」です。

 もっとも新しい「終末時計」は2023年1月に公表されました。「人類最後の日」の午前0時00分まで残り90秒、つまり今が「前日の23時58分30秒」である、としています。これは、「終末時計」スタート以降、最も「人類最後の日」に近い時刻です。

 この時計は、核のリスク(核兵器の使用)、気候変動(気温上昇による災害発生)、生物学的脅威(各種感染症の拡大)、破壊的な技術による大惨事(情報操作からドローンなどが有する潜在的な脅威)に対する世界の脆弱(ぜいじゃく)性を示す指標として、世界的に認知されるようになりました。

 今、わたしたちは、さまざまなリスクにさらされているわけです(こうした環境の中、新社会人の皆さまは、第一歩を踏み出したのです)。

「コモディティ価格」に秘められた意味

「高リスク時代」に生きるわたしたちに、何ができるのでしょうか。リスクに対してどのような策であらがうことができるのか、という問いです。

 以下は、現在の「高リスク時代」における主要なリスク(五つ)と、それらから想起される、「高リスク」時代を乗り切るために必要なことです。リスクは確かにあります。しかし、対策もあるのです。

「インフレ(物価高)」やさまざまな「争い」がなぜ起きているのかを、正しく知ることができれば、どうなればそれらが終わるのか(原因の消滅=事象の消滅)を、イメージできるようになります。

「上流」や「分断」のイメージを持つことで、「インフレ」や「争い」起因の不安を低減することができると、考えます(いたずらに不安がらずにすむようになる)。

 また、「AI台頭」の時代にあって、真実が見えにくくなるリスクが増大していますが、この点は、「疑う」ことを習慣にすることで、このリスクを低減できます。「気候変動」により地球が住みにくくなるリスクについては、単に化石燃料の消費を減らすばかりではなく、「矛盾」を認め、世界全体を、鳥が上空から物事を幅広く見渡すように俯瞰(ふかん)することが有効です。

図:「高リスク」時代を乗り切るために必要なことコモディティ投資

出所:筆者作成

 こうした「対策」を講じれば、「高リスク時代」を生き抜く力を養うことができると、筆者は考えています。そして具体策は、「超長期視点でコモディティ(国際商品)価格に触れ続けること」です。

 後述しますが、「コモディティ価格」は、多くの事象の「川上」に位置します。また、「分断」の象徴でもあり、同時に、常識が通じない値動きをしたり(「疑う心」が必要)、ホンネとタテマエのはざまで浮かび上がったりします(「矛盾」の存在を示唆する)。

 つまり、「コモディティ価格」に触れていれば、「高リスク時代」を生き抜く力を、獲得したり大きくしたりするきっかけを得られるわけです。

川はほぼ逆流せず。「上流」への意識は重要

「コモディティ価格」には、三つの意味があります。(1)社会的事象に影響を与える「原因」(原油などのエネルギー価格が上昇し、各国の景気を冷やすなど)、(2)社会的事象から影響を受けた「結果」(経済が活発化して需要が増加し、エネルギーや金属、食料などの価格が上昇するなど)、そして(3)投資対象としての「機会」(関連する投資対象へのアクセス)です。

 以下は、コモディティ価格が「原因」であるときのイメージです。コモディティ価格が「川上」にあり、「川中」に関係性を変化させる要素、そして「川下」に社会的事象があります。

 コモディティ価格の変動が、各国の景気動向を動かしたり、各国の中央銀行の政策に影響を与えたり、生産国と消費国の政治的な関係に変化をもたらしたりします。

 まさに今、わたしたちが直面しているリスクの一つ「インフレ」がこれに当てはまります。景気悪化が叫ばれる中でインフレが目立っているのは、コモディティ価格が上昇・高止まりしているためです(コストプッシュ型のインフレ。対義語はデマンドプル)。

図:コモディティ価格が「原因」であるときのイメージ

出所:筆者作成

「わたしたちを悩ませているインフレの元凶は、コモディティ価格が高いことだ」「コモディティ価格が下がれば、インフレは終わる」。「インフレ」めぐる思考は、非常にシンプルです。

「分断」はある。きれいな事ばかりではない

 ヨーテボリ大学(スウェーデン)のV-Dem研究所は、「自由民主主義指数」の最新版(2022年版)を公表しました。この指数は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義をはかる複数の側面から計算されています。

 0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、民主的な傾向が弱い(民主的ではない)、1に近ければ近いほど、民主的な傾向が強いことを示します。

 以下は、同指数が0.8以上ある民主的な傾向が強い国と、0.2以下の非民主的な傾向が強い国の数の推移です。

 ベルリンの壁崩壊(1989年)や、EU(欧州連合)発足(1993年)前後の、民主的であることが正義、とすら言われた時代は、非民主国家の減少と民主国家の増加が同時進行しました。しかし、2020年以降。逆の傾向が鮮明になっています。世界は再び「分断」に向かいつつあるのです。

図:自由民主主義指数0.2以下および0.8以上の国の数(1947~2022年)

出所:V-Dem研究所などのデータをもとに筆者作成

 西側諸国が「環境問題」を強力に推進しはじめ、産油国・産ガス国とのあつれきが大きくなったこと、欧米が「人権問題」を強く主張したため、独裁国家からの反発が強くなったこと、などが「分断」の背景にあると考えられます。つまり、「西側」と「非西側」の間にある溝が、年々深まっているのです。

 日本で暮らしていると、こうした意識は生じにくいですが、世界全体を俯瞰すると「分断」は、存在するのです。

 また、「分断」をきっかけに起きている「争い」は、(1)物理的争い(戦争、紛争)、(2)政治的争い(枠組、関税)、(3)思想的(人権、環境)などに分類できます。「分断」は、目に見える・見えないに関わらず、「争い」のきっかけになるのです。

「分断」の解消が、同危機や「インフレ」の沈静化に最も有効な手段です。制裁(不買い、ビジネス撤退、関税引き上げなど)は、直接的な沈静化策ではありません。

「インフレ」の沈静化のために、ウクライナ危機を終わらせなければならないのです(今の日本では、この議論が欠けている。インフレとウクライナ危機が別物として語られている)。

「疑う」ことが、もはや常識に

 足元、生成AIは驚きや称賛を集めていますが、同時に、批判や警戒の対象になっています。以下は、話題の生成AIに「原油相場はなぜ下がらないのですか?」と尋ねたときに生成された回答です。

 一見、流暢に答えている生成AIですが、よく見ると「軽薄」感が否めません。具体的な言及が少なく、回答から事象の全体像を把握することができない、一部に誤解を招きかねない「言い過ぎ」が散見される、羅列された回答に「時間軸」「影響度」がない、各事象がこれまでどのように影響を与えてきたのかわからない(今後の展開のイメージが湧きにくい)、などの問題があるためです。

 特に、市場分析で重要な「時間軸」への考慮がない点は、重大な欠点であると、筆者は感じています。「代替エネルギー」という長期の時間軸のテーマと、「投資家の期待」という超短期の時間軸になり得るテーマが「並列」に扱われている点は、読み手に大きな(大きな)誤解を与えかねません。

図:生成AIの問題点(現時点)

出所:各種情報源より筆者作成

「わかった気になる」「それっぽい」は、人間が持つ特技である「深い思考」を奪います。人間から深い思考を奪ったら何が起きるでしょうか。このようなことは断じてあってはなりません(「深い思考」があるから、夢を描いたり、誰かを想ったり、心に豊かさをはぐくんだりできるのです)。

 生成AIが台頭しつつある世の中で、わたしたちがすべきことは、「正しく疑う」ことです。簡単に言えば、うのみにしないことです。こうした思考が、人間の正常な思考を維持するのです。

「コモディティ」投資は人生を豊かにし得る

 実は、世の中は「矛盾(つじつまが合っていない様子)」が多数存在します。特にこのおよそ10年間、西側諸国で目立っています。西側は「環境問題と人権問題」を解決しようとして、産油国や独裁色が強い国家(いずれも非西側)の反発心をあおってきました。西側が良いと考えていることを、非西側は良くないと考えているわけです。

図:「環境・人権問題」の提起が与えた影響(一例)

出所:筆者作成

「世界全体の矛盾」は、西側と非西側の間の溝を深く、大きくし、それが一因となり、ウクライナ危機が勃発したと、筆者は考えています(環境問題を推し進める上で「脱炭素」をビジネス利用していることは、非西側の強い反感を買っている)。

「矛盾」は、居心地が悪いものですが、それでも、そこに「矛盾」があり、話し合う相手が向こう側にいることを、認識しなければなりません。世界の矛盾は、西側だけで解消できません。

 先述の通り、「コモディティ価格」は、多くの事象の「川上」に位置します。また、「分断」の象徴でもあり、同時に、常識が通じない値動きをしたり(「疑う心」が必要)、ホンネとタテマエのはざまで浮かび上がったりします(「矛盾」の存在を示唆する)。

「コモディティ価格」に触れていれば、「高リスク時代」を生き抜く力を、獲得したり大きくしたりするきっかけを得られるわけです。

 筆者は個人的には、「コモディティ投資(コモディティそのもの、あるいはコモディティ価格に連動する仕組みの金融商品への投資)」についての知識を深めることは、「リスキリング(学び直し)」の対象になり得るとも考えています。

 新社会人の皆さま。「川上」「分断」「疑う心」「矛盾」といったテーマは、今の世の中で、自分が自分らしく生きるために、欠かせません。こうしたテーマを常に身近に感じるためにも、超長期視点でコモディティ価格に触れ続けることが重要であると、筆者は考えています。

図:「高リスク」時代を乗り切るために必要なことコモディティ投資

出所:筆者作成

[参考]コモディティ(全般)関連の銘柄

投資信託

iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティ インデックス
SMTAMコモディティ・オープン