香港ハンセン指数は押し目を形成!上海総合指数は上値の重い状態が継続

 香港ハンセン指数は1月27日をピークとして押し目を形成しています。2月上旬に発生した気球事件による米中関係の悪化に加え、3月中旬からはSVB銀行の破綻、クレディ・スイスの信用不安などに端を発する国際金融市場の混乱が市場低迷の要因となっています。

 上海総合指数は春節休暇明け(1月30日)以降、上値の重い状態が続いています。3月前半に開催された全国政治協商会議、全人代において、政府活動報告や、当局幹部、両会代表企業のトップなどによるマスコミへの発言などを聞く限り、事前に期待されたほど、景気回復、経済成長に対する当局の意気込み、企業家の事業意欲の高まりなどを感じ取ることができませんでした。

「ゼロコロナ政策の廃止に伴う全面的な景気回復に対する期待が萎んだ」というほどではありませんが、多くの投資家が足元の景気回復状況をにらみつつの冷静な投資スタンスを取り始めています。

グラフ1. 2022年1月以降の主要株価指数の推移

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2023年3月17日)

グローバル金融危機は回避される?中国は最も耐性の強い国家

 今後の見通しについてですが、香港市場に関しては、まず、グローバル金融危機が回避されるかどうかが最も気掛かりな点です。ただ、万が一金融危機が発生してしまった場合、中国の金融市場は部分的にしか開放されておらず、その上、国家が金融をはじめ重要産業を実質的に直接管理できるシステムを採る中国は最も耐性の強い国家といえます。

 それは、2008年秋に発生したリーマンショックにおいて、中国はその直接的な影響が軽微であったばかりか、いち早く4兆元規模の景気対策を実施し、総需要の創出を通じてグローバル経済を救う働きをしたといった歴史的事実が危機に対する耐性の強さを物語っています。

 もちろん、グローバル機関投資家が主体の香港市場は彼らのリスク回避行動と無縁ではありません。いったん危機が発生すれば他の市場と同様に急落してしまう可能性を否定できません。

 しかし、機関投資家がグローバルアセットアロケーションを冷静に考えられるような状態になれば、香港株を含めた中国株は相対的に有利な立場にあることが強く意識されることになるだろうと考えます。

 本土市場に関しては、景気回復の足取りや、具体的な政策の発動が、引き続き相場見通しのポイントとなるでしょう。

 新型コロナの流行、ゼロコロナ政策の徹底によって、需要面からも、供給面からも大きな制約を受け、2022年の経済成長率は目標とした5.5%前後を大きく下回る3.0%にまで落ち込んでしまった中国経済です。

 新型コロナの弱毒化、ゼロコロナ政策の廃止で中国経済はV字回復するといった大前提は変わりません。何があっても、この点から目をそらさないようにしたいところです。

 足元の中国経済の回復状況をいくつかの指標で確認しておきます。

グラフ2. 2018年以降の鉱工業生産の伸び率推移(直近は2023年1、2月)

(出所:国家統計局)
注1.1月のデータは統計が発表されないため、2月に発表される1、2月合計値をそのまま記入
注2.破線は2018年、2019年のデータをもとに最小二乗法(自然対数ベース)を用いて計算した

グラフ3. 2018年以降の小売売上高の伸び率推移(直近は2023年1、2月)

(出所:国家統計局)
注1.1月のデータは統計が発表されないため、2月に発表される1、2月合計値をそのまま記入
注2.破線は2018年、2019年のデータをもとに最小二乗法(自然対数ベース)を用いて計算した

グラフ4. 2018年以降の全国不動産開発投資の伸び率推移(直近は2023年1、2月)

(出所:国家統計局)
注1.1月のデータは統計が発表されないため、2月に発表される1、2月合計値をそのまま記入
注2.不動産統計については月次の伸び率は発表されないため、累計値、伸び率から推計
注3.破線は2018年、2019年のデータをもとに最小二乗法(自然対数ベース)を用いて計算した

 グラフ2~4は、鉱工業生産、小売売上高、全国不動産開発投資に関する月次データおよび、2018年、2019年のデータに基づいたトレンドを示したグラフです。鉱工業生産に比べ、小売売上高、全国不動産開発投資の回復が遅れています。

グラフ5.最終消費、資本形成、純輸出比率などの推移

(出所:2022年国家統計年鑑)

 グラフ5は中国経済の需要項目別対名目GDP(国内総生産)比率を示しています。中国の投資比率(資本形成比率)は依然として4割を超える高さをキープしています。

グラフ6.固定資産投資に占める不動産開発投資の比率

(出所:2022年国家統計年鑑)

 グラフ6は固定資産投資に占める不動産開発投資の比率を示したもので、不動産開発投資は全体の投資の3割弱ほどの高さです。

 これらのグラフを見る限り、不動産開発投資の動向が全体の成長率にいかに大きな影響を与えるかがよくわかります。成長率を効率よく高めるためには、消費の回復に加え、不動産投資の拡大が不可欠だということです。

 経済成長率目標についてですが、必ずしもイコールというわけではありませんが、政策立案を担当する役人、研究者たちは中国の潜在成長率を意識して設定しているとみられます。2022年の成長率目標は5.5%前後でしたが実際には3.0%にとどまっており、前代未聞の未達となりました。

 今年は5.0%前後を成長率目標としていますが、月次統計をみる限りでは第4四半期に底打ちした可能性が高く、ならば第1四半期の成長率が昨年第4四半期の成長率(2.9%)を超えて3%以上となる可能性は高いとみられます。

 潜在成長率、回復のモーメントを考慮すれば、第2四半期は5.0%程度の達成は十分可能で、下期は前年の成長率の低さなどもあって高い成長が期待できそうです。通年として5.0%を超える成長は決して困難な目標ではないと考えます。

急回復で恩恵を受ける不動産関連銘柄に注目!

 今回の注目銘柄は、今後、不動産開発、インフラ投資が急回復するとの見通しから、恩恵を受けるだろう銘柄を選びました。

注.市場コンセンサスは3月17日現在、楽天証券HPより

注目株1:三一重工(600031)

 梁安根会長が1989年に湖南省で創業した中国最大の建設機械メーカーです。主営業務収入(2022年6月中間期)の内、掘削機が43%、コンクリートミキサー車が22%、起重機が18%、杭打機が4%、路面舗装設備が3%、その他が10%を占めています。この内、コンクリートミキサー関連設備は世界最大、掘削機、大型起重機、杭打機、路面舗装設備は国内最大規模です。

 主営業務収入の43%が輸出です。1-9月期のデータによれば、掘削機の海外市場におけるシェアは8%を突破しており、米国、イギリス、イタリア、ブラジル、カナダなど海外大手メーカーが強い市場においても、販売額は60%以上の伸びとなっています。

 2022年12月期業績について、同社は1月31日、▲61.77~▲66.76%の範囲の減益になると公告しています。国内の建設機械販売のサイクルが調整局面にあったことに加え、経済成長率の低迷、度重なる新型コロナ流行による建設工事の遅れなどが大幅減益の要因だと会社側は説明しています。

 掘削機に関して業界全体の販売状況(中国エンジニアリング機械工業協会データ)をみると、2月の国内販売は▲32.6%減、輸出は34%増でした。3月の全人代を経て、建設工事需要が増えるとともに、建設機械需要も底打ち反転すると予想します。

三一重工の月足

期間:過去5年(2018年3月17日~2023年3月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株2:中聯重科(01157)

 湖南省政府系の大手建機メーカーです。部門別売上高(2022年6月中間期)では、起重機が45%、コンクリートミキサーが22%、その他のエンジニアリング機械が26%、農業機械が5%、リース料、金融サービスなどが2%です。起重機では業界トップクラス、コンクリートミキサーに関しては三一重工に次ぐ技術力、生産能力があります。

 2022年12月期業績について同社は▲60.92~▲64.11%の範囲の減益(中国企業会計原則ベース)になると公告しています。新型コロナが各地で再流行したことなどによる不動産開発プロジェクトの不振が建機需要を圧迫したこと、鋼材、原材料価格の高騰、競争の激化などが大幅減益の要因だと会社側は説明しています。

 不動産、インフラ投資の急激な立ち上がりが建機需要をけん引すると予想します。

中聯重科の月足

期間:過去5年(2018年3月17日~2023年3月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株3:中国建材(03323)

 世界最大の総合建材メーカーである中央系国有企業「中国建材集団」の中核プラットフォーム企業で、傘下に7社のA株上場企業を有しています。セメント、クリンカー、石膏ボード、ガラス繊維、風力発電用プロペラなどでは世界最大クラスの生産規模です。

 部門別売上高(2022年6月中間期)ではセメントが49%、クリンカーが16%、ガラス繊維、複合材料、軽質建材、建築材料などの新材料が20%、ガラス、セメントメーカー向けに提供するエンジニアリングサービスが13%、卸売りなどその他が2%です。

 2022年12月期業績について同社は▲50%程度の減益になると公告しています。セメント、クリンカー、石膏ボード、ガラス繊維などの主要商品の販売量が減少、価格が下落したこと、石炭価格の上昇に伴いセメントの単位当たり生産コストが上昇したこと、金融資産の評価損が発生したことなどが大幅減益の要因だと会社側は説明しています。

 不動産、インフラ投資の急回復により、業績は底打ち反転すると予想します。

中国建材の月足

期間:過去5年(2018年3月17日~2023年3月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株4:中鉄(00390)

 中国鉄道部インフラ建設総局を前身とする中国を代表する国策建設会社です。総距離にして本土全体の3分の2以上の鉄道建設、約8分の1の高速道路建設に携わるなど、鉄道、道路、政府建造物、都市交通、水利水力発電、空港、港湾などのインフラ建設分野に強みを持つ企業です。

 2022年の新規契約ベースの内訳では、鉄道が17%、道路が11%、市政府建造物の建設などが59%で、インフラ建設が全体の9割弱を占めます。そのほか、資源探査・調査、プラント建設、不動産開発などが1割強を占めます。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは11%増収、12%増益です。積極財政政策の効果で鉄道、道路を中心に主力のインフラ建設の新規契約が10%増加するなど、堅調な需要に支えられ、業績は好調です。2023年12月期予想は10%増収、10%増益です。

 政策により保障性住宅、賃貸向け専用住宅の建設が増えるとみており、業績好調が続くと予想します。

中鉄の月足

期間:過去5年(2018年3月17日~2023年3月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株5:中国冶金科工(01618)

 世界最大規模の冶金系プラントエンジニアリング会社です。1948年創業以来、鞍鋼、武鋼、包鋼をはじめ、中国の鉄工所建設を手掛けてきた冶金工業部の組織が前身ですが、現在は中央直轄の中国五鉱業集団の傘下企業となっています。

 ただ、売上構成(2022年6月中間期)をみると、冶金関連のプラントエンジニアリングは19%で、不動産建設が48%、交通インフラが18%、その他建設請負が9%といった内訳になっています。その他、不動産開発、設備製造、資源開発などが6%を占めています。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは18%増収、14%増益です。2022年の新規契約は11.7%増と安定した需要があり、好業績が続く見通しです。2023年12月期予想は17%増収、14%増益です。

 海外事業では、ベトナムの鉄工所建設、パプアニューギニア、パキスタンでの鉱山開発などがありますが、業績への寄与は小さく、売上高比率(2022年6月中間期)は3%程度です。しかし、長期的には一帯一路戦略の加速によって、海外事業の拡大も期待されます。

中国冶金科工の月足

期間:過去5年(2018年3月17日~2023年3月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト