米長期金利上昇一服で、3月初旬の株価は切り返す展開に
直近1カ月(2月17日~3月10日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで2.3%の上昇となりました。期間中前半は上値の重い動きとなり、2月22日の取引時間中には2万7,046円まで下落しました。
その後、3月に入って切り返し、3月9日には一時2万8,734円まで上昇、昨年11月24日の戻り高値(2万8,502円)を突破して、昨年8月以来の高値水準にまで達しました。ただ、3月10日の終値は前日比479円安の2万8,143円と大幅安、昨年12月20日以来の下げ幅となりました。
ここ1カ月の日経平均ですが、米国景気指標の改善に伴い、米国の10年債利回りは一時4.06%と昨年11月の水準にまで上昇し、3月前半にかけては上値の重さにつながりました。
ただ、アトランタ地区連邦準備銀行のボスティック総裁が米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の3月会合では0.25%の利上げが望ましいと発言し、0.5%の利上げ観測が後退したことから、その後米長期金利は低下に向かい、日経平均にも買い安心感が強まりました。
また、中国の2月のPMI(製造業購買担当者景気指数)が市場予想を上回ったことで、中国景気の回復期待なども相場を支える要因となりました。
3月9日にかけて日経平均は一段高となりましたが、10日のメジャーSQ(株価指数先物とオプションそれぞれの清算価格算出日が3カ月に1度重なる日で、売買が膨らみやすくなる)を控えて、ポジション整理の買い戻しの動きなども強まったもようです。
一方、10日の大幅反落に関しては、新興企業向け商業銀行事業を提供する米SVBファイナンシャル・グループ(FG)の株価が経営不安で急落し、信用リスクが高まったことが要因です。東京市場でも、金融関連株を中心に影響が波及する形となりました。その後、SVBFG傘下のシリコンバレー銀行は10日に経営破綻しました。
個別物色の動きとして、大きな特徴は見られませんでしたが、材料の出た銘柄が個別で物色されるような展開になりました。決算発表を受けたアナリストの投資判断変更の動きが材料視される銘柄も多く、サンケン電気(6707)、神戸製鋼所(5406)、オークマ(6103)、ダイセル(4202)などが大きく上昇しました。
大阪チタニウムテクノロジーズ(5726)や東邦チタニウム(5727)は航空機やエンジン部品に使われるスポンジチタンの値上げ交渉の進展が好感されました。
中国景気の回復期待から中国で産業機器事業を手掛けるTHK(6481)なども上昇しました。米エヌビディアの好決算も手掛かりにして、アドバンテスト(6857)やSCREENホールディングス(7735)など半導体関連の一角も強い動きになりました。ソフトウエア開発のサイボウズ(4776)は著名個人投資家の井村俊哉氏が大株主に登場したことが話題になりました。
半面、3月10日の金融株安の影響が響いたことで、金融関連株は下落率で上位となりました。T&Dホールディングス(8795)、第一生命ホールディングス(8750)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)などは大幅に下落しました。
米SVBFGの経営不安が米新興企業に影響を与えるとの見方で、ソフトバンクグループ(9984)も軟調でした。塗料大手の関西ペイント(4613)は株主5社が同社株の大規模な売出を実施すると発表し、需給懸念が強まりました。
米シリコンバレー銀破綻で米利上げ早期終了も
米シリコンバレー銀行の経営破綻の影響ですが、同社がシリコンバレーの新興企業融資に特化していること、金融当局が早期に破綻を認定して金融システムから切り離したことなどから、直接的なマーケットへのインパクトは限定的と考えられます。
短期的には影響の広がりを見極めたいとする動きが広がりそうですが、中長期的には、今回の事象がFOMC(米連邦公開市場委員会)の金融政策の転換につながる可能性もあるため、市況は早晩、下げ止まりから切り返しへと転じていくことになりそうです。
なお、米国の金融政策につながる材料として、3月10日に発表された米雇用統計も挙げられます。失業率が悪化して平均時給も市場想定を下回り、0.5%への利上げ幅拡大懸念を後退させるものだった印象があります。3月21~22日のFOMCに向けては期待感が高まっていく可能性も高いと考えられます。
日本では、3月9~10日の日本銀行の金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の変更も一部では想定されていましたが、今回は政策変更がなされませんでした。歴代最長の10年にわたった黒田東彦現総裁の任期が終わり、日銀の金融政策は4月から植田和男新総裁をはじめとする新執行部に委ねられることになります。
この点では、3月15日に集中回答日を迎える春闘の結果も注目されます。期待通りに賃上げが広まれば、植田新体制で初めての金融政策決定会合となる4月27~28日に向けて、イールドカーブ・コントロール政策に関しての思惑が高まっていくことになるでしょう。
金融引き締めにつながる政策変更は、米国の利上げステージが継続しているうちになるべく行いたいところであると考えられます。基本的には、米国の利上げ終了局面が早まったとみられるため、為替相場は円高ドル安方向に向かうものと判断されます。
日本株にとって円高はデメリットとなりますが、緩やかな円高基調であれば、利上げ一巡後の米国株上昇がより強い支援材料として機能するものとみられます。
米国の長期金利が低下局面に入るとみれば、金融関連株は目先手掛けにくい状況が予想されます。日銀のイールドカーブ・コントロール政策の変更が買い材料視される余地はありますが、政策金利の変更にはまだ時間を要するとみられます。出尽くし感につながりやすい材料となる可能性が高いでしょう。
一段の円安期待が後退することで、輸出関連銘柄の自動車株の上値が重くなることも想定されますが、こちらは新型コロナウイルス禍が落ち着き、本格的な生産正常化への移行がプラス材料としてまだ残されています。
全般的には、配当権利落ちのタイミングを迎えることも加わり、バリュー(割安)株からグロース(成長)株への資金シフトが強まっていくものとみられます。高配当利回り銘柄に関しては、ここからは、2023年度に減配の恐れが少ないものや、増配の可能性が高いものを重要視していくべきでしょう。
その他では、マスク着用の緩和を受けて、口紅など化粧品関連の需要の高まりが見込まれるほか、春闘で賃金上昇の動きが大きくなれば個人消費関連銘柄の一段の刺激材料につながっていく可能性にも注目です。
ここからの高配当利回り銘柄物色は業績の安定性重視で!
3月決算の権利付き最終売買日は3月29日となります。権利落ち後の高配当利回り銘柄の動きが注目されますが、高配当利回りの代表格である海運株は新年度の減配の可能性が高いとみられるため、早期の強い反転は望みにくいでしょう。
それ以外でも、業績リスクが高い銘柄は、配当予想を含めガイダンスが示されるまで買い安心感は強まりにくいとみられます。こうした中、保有しておくべき高配当利回り銘柄、あるいは、権利落ち後に買うべき高配当利回り銘柄としては、新年度の減配リスクが少ない、むしろ増配が期待できる銘柄であると考えます。
減配リスクが少ないものとしては、安定した利益成長が続いている銘柄がまずは挙げられます。最近では目標配当性向を掲げている銘柄も多いため、利益成長がそのまま増配という形となりやすいです。なお、現在の配当性向が極端に高い水準にあると、利益成長がそのまま増配にはつながらない可能性があるので注意すべきです。
(表)連続増益が続く高配当利回り銘柄
コード | 銘柄名 | 配当利回り(%) | 3月10日終値(円) | 時価総額 (億円) | 配当性向(%) |
---|---|---|---|---|---|
4041 | 日本曹達 | 4.54 | 4,850.0 | 1,394 | 39.6 |
9069 | センコーグループHD | 3.48 | 977.0 | 1,534 | 31.7 |
8424 | 芙蓉総合リース | 3.30 | 9,590.0 | 2,904 | 26.3 |
9433 | KDDI | 3.28 | 4,113.0 | 94,710 | 42.9 |
5384 | フジミインコーポ | 3.22 | 6,840.0 | 1,826 | 47.3 |
銘柄選定の要件
- 予想配当利回りが3.0%以上(3月10日終値)
- 時価総額が1,000億円以上
- 2023年3月期今期予想を含めて5期以上連続で営業増益
- 配当性向が50%以下
- 3月期本決算
厳選・高配当5銘柄(日本曹達、センコーグループHD、芙蓉総合リース、KDDI、フジミインコーポレーテッド)
1 日本曹達(4041・東証プライム)
工業薬品や化成品、機能材料などの化学品事業、殺菌剤や殺虫剤などの農業化学品事業が二本柱となっています。化学品事業では、カセイソーダ、塩素・塩酸などの基礎化学品を扱っているほか、供給メーカーが少ない特徴的な機能性化学品を手掛けています。医薬品添加剤のHPCでは世界シェアを二分する状況です。
一方、農業化学品事業では、畑作用除草剤「ナブ」が多くの国々で登録されているほか、殺菌剤「トップジンM」も1971年の発売以来のロングセラー商品となっています。
2023年3月期第3四半期累計営業利益は147億円で前年同期の2.3倍となっています。旺盛な海外需要を背景に農業化学品事業が大きく拡大したほか、化学品事業でも、医薬品添加剤や半導体・二次電池材料などが伸長しています。
通期計画は161億円で前期比34.9%増の見通しですが、第3四半期までの進捗(しんちょく)率は91.8%にまで達しています。なお、第3四半期決算発表時に、年間配当金は従来計画の180円から220円に引き上げています。
営業利益は2023年3月期で6期連続での増益見通しとなっています。年間配当金も2023年3月期は実質4期連続での増配となります。会社側では配当性向40%を株主還元の目安としており、業績成長はストレートに配当水準の切り上がりにつながります。
2月には、半導体フォトレジスト材料である「VPポリマー」の生産能力増強を発表、生産能力は現在の2倍に増強される見通しで、今後の業績成長のけん引役として期待されます。
2 センコーグループHD(9069・東証プライム)
物流業界大手の一角です。総合スーパー・ドラッグストア・ホームセンター・アパレルなどの流通業界に強みを持っているほか、住宅・建材業界、化学製品などケミカル業界の顧客を中心に物流事業を展開しています。
全国規模で低温物流のネットワークを構築していることも特徴になります。石油販売、商事販売、貿易などの商事事業、情報システムや人材派遣などビジネスサポート事業も行っています。2月には警備事業会社をグループ化、ビジネスサポート事業の領域拡大を図っています。
2023年3月期第3四半期累計営業利益は217億円で前年同期比7.1%増となっています。主力の物流事業では、拡販や料金改定の効果によって、電気料金や燃料価格の上昇をカバーしました。
また、経済活動正常化に伴う利用者数の回復などライフサポート事業の収益も改善しています。M&A(合併・買収)効果なども業績拡大に寄与しています。通期予想は期初計画である267億円、前期比7.8%増を据え置いており、年間配当金計画は前期比横ばいの34円としています。
2023年3月期は6期連続での営業増益となる見通しです。年間配当金は前期比据え置き見込みですが、前期までは2期連続で増配を行っています。
樹脂製食品容器を手掛ける中央化学(7895)を完全子会社化、2024年3月期の売上・利益に貢献する見込みで、連続増益継続を後押しするものとなりそうです。2027年3月期までの中期計画では、売上高1兆円、営業利益450億円を目指すとしています。
3 芙蓉総合リース(8424・東証プライム)
リース業界大手の一角でみずほ系です。昨年12月末の営業資産残高は2兆6,315億円で、そのうち6割強がリース資産残高となっています。物件別リース契約実行高では、建物等、情報・事務用機器、輸送用機器、医療機器などのセグメントが上位となっています。
エネルギー環境やモビリティなどの領域を成長ドライバーと位置付けています。再生エネルギー発電容量は、2022年9月の374MW(メガワット)から2027年3月期には1,000MWに伸ばすことを目指しています。
2023年3月期第3四半期累計営業利益は413億円で前年同期比19.9%増となりました。エネルギー環境や不動産などの成長ドライバーとなる事業領域がけん引して、契約実行高が順調に拡大し、事業参画型ビジネスの伸長が寄与してファイナンス事業も増益に寄与しています。
2023年3月期通期では、営業利益は515億円で前期比11.9%増を計画しています。ここまでの順調な進捗状況から超過達成となる公算が大きいです。年間配当金は前期比31円増配となる316円を計画しています。
2023年3月期営業利益は7期連続増益となる見通しです。また、年間配当金は18期連続での増配となり、連続増配記録の上位銘柄として位置付けられています。会社側では、2027年3月期に配当性向30%以上を目指すとしており、当面は増配基調が継続される見通しです。
また、3月末の100株以上の株主を対象に株主優待も実施しています。3,000円相当の「カタログギフト」または「図書カード」が選択できます。保有期間が2年以上となれば、5,000円相当のものとなります。
4 KDDI(9433・東証プライム)
通信大手の一角で「au」ブランドが主力です。沖縄セルラーやUQコミュニケーションズなどをグループ会社に抱えます。携帯キャリア会社の契約者数シェアは、グループで30%程度とみられ、第2位の位置付けとなっています。
子会社のJCOMはケーブルテレビ業界最大手でもあります。DX・金融・エネルギーを注力事業とし、金融事業では、auじぶん銀行の預金口座数が2022年12月で500万口座を突破し、キャッシュレス決済の「au PAY」会員数も3,990万人にまで達しています。
2023年3月期第3四半期累計営業利益は8,434億円で前年同期比3.6%減となっています。マルチブランド通信ARPU(1ユーザー当たりの平均的な売上)収入が順調に推移し、DXや金融などの注力領域も伸長していますが、燃料高騰の影響や通信障害の影響がマイナス要因となりました。
注力領域の推進とコスト効率化などで、通期では1兆1,000億円、前期比3.7%増を見込んでいます。年間配当金は前期比10円増の135円を計画しています。
2023年3月期営業利益は22期連続での増益見通しとなっているほか、21期連続での増配計画にもなっています。現在、5月31日までを取得期間とした自社株買いを実施中ですが、今後も機動的な自己株式取得が実施される公算は大きいとみられます。
また、3月末の株主に対しては、総合通販サイト「au PAY マーケット」から好きな商品を選べるカタログギフトを株主優待として贈呈しています。保有株式数が1,000株未満で、保有期間が5年未満の場合は3,000円相当、5年以上は5,000円相当となります。
5 フジミインコーポレーテッド(5384・東証プライム)
半導体基板であるシリコンウェハーの超平坦加工に使用される研磨材で世界トップ企業となります。シェアは8割以上と推定されています。
また、半導体製造工程に使われる研磨材(CMP)も、半導体受託生産の世界最大手である台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が主要顧客におり、1割程度のシェアを占めています。ほか、ハードディスク用なども手掛けています。アジアを中心とする海外売上高が8割近くを占めています。
2023年3月期第3四半期累計営業利益は112億円で前年同期比18.7%増となりました。CMPが高い伸びとなっているほか、シリコンウェハー向けも2ケタの成長となっています。ただ、第3四半期に入って、半導体市況の悪化に伴い伸びが鈍化しているようです。
2023年3月期通期予想は148億円で前期比22.7%増の見通しとしています。原材料価格高騰に伴う売価アップの効果なども見込んでいるようです。年間配当金は前期比35円増の220円を計画しています。
2023年3月期営業利益は7期連続での増益見通しとなっています。また、年間配当金は3期連続での増配計画です。配当性向は50%以上とすることを目標としています。事業環境が厳しくなっている半導体関連銘柄ですが、CMPやシリコンウェハー向けは採⽤領域が拡⼤しており、在庫調整の影響は相対的に小さいとの見方もされているようです。
今後はTSMCの 回路線幅3 ナノメートル(ナノは10億分の1)型の高性能半導体量産も期待され、2024年3月期も営業増益を見込むアナリストは多くなっています。
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